パーキンソン病で気分が落ち込む|原因と対策・自宅でできる工夫
気分の波は、性格ではありません。
何もやる気が起きない、理由もなく気持ちが沈む——。それは弱さでも甘えでもなく、パーキンソン病そのものが関わって起こる症状のひとつであることがあります。原因の考え方と、今日から自宅でできる工夫を整理します。

それは、甘えではない。
好きだった趣味に誘っても反応が薄い、会話も減った、朝から気分が沈んで一日中ふさぎ込んでいる——。ご家族からは「頑張ってほしいのに、本人にやる気が見えない」という声を、私たちはよく耳にします。
ですが、知ってほしいのです。それは怠けではなく、パーキンソン病に伴って起こりうる症状のひとつだということを。
パーキンソン病というと、震えや動きにくさといった運動の症状が知られています。しかし実際には、気分の落ち込みや意欲の低下といった非運動症状も、決して珍しいものではありません。むしろ、これらは運動症状よりも早い段階から現れることがあり、生活の質に大きく関わることがわかってきています。まずは、その原因を整理してみましょう。全体のリハビリの考え方はリハビリ完全ガイドにまとめています。
気分が落ち込む、いくつもの原因。
気分の落ち込みは、一つの原因だけで起こるものではありません。パーキンソン病では、いくつもの要因が重なり合って気分に影響します。代表的なものを整理してみましょう。
| 原因の種類 | どういうことか |
|---|---|
| 脳内物質の変化 | ドパミンだけでなく、気分に関わるセロトニンやノルアドレナリンも減りやすい |
| 薬の効き目の波 | 薬の効果が切れてくる時間帯に、気分が沈みやすくなることがある(オフ症状) |
| 体の症状 | 睡眠の質の低下、痛み、便秘などの体の不調が、気分に影響することがある |
| 生活の変化 | 動きにくさから外出や交流が減り、孤立感や焦りにつながることがある |
| 心理的な反応 | 診断や将来への不安、これまでできたことができなくなる喪失感 |
つまり、気分の落ち込みは「心の弱さ」ではなく「脳と体と生活が重なり合って生まれる症状」です。原因が一つではないからこそ、対策も一つに絞らず、いくつかの側面から整えていくことが大切になります。
また、気分の落ち込みとよく似たものに「アパシー」と呼ばれる意欲の低下があります。悲しさや自己否定的な気持ちを伴わずに、何にも興味が湧かない、始めるまでに時間がかかる、という状態です。落ち込みとアパシーは、見た目は似ていても対処の考え方が異なるため、区別して捉えることが役立ちます。

STROKE LABの視点:「光・動き・つながり」を整える。
原因が重なり合っているからこそ、対策もシンプルな軸で考えることをおすすめしています。私たちが大切にしているのは「光・動き・つながり」の3つを、1日の中に意識して組み込むという考え方です。どれも特別な道具はいらず、今日から始められます。
光:朝、カーテンを開けて光を浴びる。体内時計が整いやすくなり、日中の気分や夜の眠りにも良い影響が期待できます。天気がよければ、短時間でもベランダや庭に出るのがおすすめです。
動き:無理のない範囲で、体を動かす時間をつくる。散歩やストレッチ、椅子に座ってできる体操など、続けられる強度で構いません。動くこと自体が、気分を支える助けになります。
つながり:短くても、人と話す機会をつくる。家族との会話、電話、デイサービスでの交流など、形はさまざまで構いません。孤立を防ぐことが、気分の落ち込みを和らげる土台になります。
この3つは、それぞれ単独でも効果がありますが、組み合わせるとさらに支えになります。例えば、朝の光を浴びながら散歩をし、その途中でご近所の方と挨拶を交わす——というように、生活の中で自然に重ねていくのが理想です。完璧にこなす必要はなく、できる日にできる分だけで十分です。

今日からできる、生活の工夫。
「光・動き・つながり」を土台に、さらに気分を支えるための具体的な工夫を紹介します。小さくてもできたことに目を向けることが、続けるコツです。
まず、気分の波と薬の効き目の時間を、簡単でよいので記録してみましょう。「何時ごろ、どんな気分だったか」をメモしておくと、オフの時間帯と落ち込みが関係しているかどうかが見えてきます。これは診察のときに主治医へ伝える、貴重な情報になります。自己判断で薬の量やタイミングを変えることは避けてください。
次に、一日の中に「小さな楽しみ」を意識して組み込むことです。好きな音楽を聴く、お茶を飲む、育てている植物を眺める——大きな目標である必要はありません。できたことを、ご本人もご家族も、言葉にして認め合うことが、気分の支えになります。ご家族が「頑張って」と励ますよりも、「今日は散歩に出られたね」とできたことに目を向ける声かけのほうが、多くの場合、本人の支えになります。
睡眠のリズムを整えることも重要です。夜更かしや昼の長すぎる睡眠は、体内時計を乱し、気分にも影響します。運動の習慣は、気分だけでなく体力や動きやすさの維持にもつながるので、体操・自主トレ大全もあわせてご覧ください。

世界各地の研究をまとめた系統的レビューでは、パーキンソン病の方のうち、抑うつ症状がみられる割合はおよそ3割から4割にのぼると報告されています。決して珍しい症状ではなく、多くの方が経験しうるものだということが、この報告からうかがえます。
限界:研究によって評価方法や対象が異なり、割合には幅があります。この報告は頻度を示すものであり、個々の診断を意味するものではありません。気になる症状は、必ず専門家に相談してください。
[図解挿入エリア:今日からできる生活の工夫チェックリスト]
自宅での工夫が生活の土台を整えるものだとすれば、専門施設で目指すのは、その人の薬の効き目の波や生活パターンに合わせて、運動と関わり方を個別に設計することです。気分への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. オンオフに合わせた運動タイミングの調整。薬の効果が出ている時間帯を活かして運動を行い、達成感や成功体験を積みやすい設計にします。
2. 有酸素運動を含む運動療法。ウォーキングやリズム運動など、気分の指標にも良い影響が報告されている運動を、無理のない強度で取り入れます。
3. アパシーとの見極めを踏まえた関わり方。意欲の低下が中心なのか、気分の落ち込みが中心なのかを評価し、声かけの仕方や課題の出し方を調整します。
STROKE LABが軸足を置くのは、「頑張らせる」のではなく、その人が動きやすい時間・方法を見極め、小さな成功体験を積み重ねていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整や精神的なケアが必要な場合は、主治医・専門医と連携します。
パーキンソン病の方を対象に、マインドフルネスを取り入れたヨガと、ストレッチ・筋力トレーニングを比較した無作為化比較試験では、どちらの群でも不安や抑うつの指標が改善し、マインドフルネスヨガの群でより大きな改善がみられたと報告されています。体を動かす習慣そのものが、気分を支える一助になりうることを示す結果です。
限界:8週間の介入を対象とした研究で、長期的な効果は今後の検証が必要です。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。運動は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。持病や体調に応じて、始める前に主治医に相談してください。
脳リハ.comのYouTubeでは、座ったままできる体操や有酸素運動を配信しています。「動き」の習慣づくりとして、無理のない範囲で活用してください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、気分の波と運動症状・薬のタイミングの関係を一緒に確認しながら、その人に合った運動と生活の組み立てを行います。ご本人の「できた」という感覚を積み重ねることを大切にし、ご家族への関わり方の助言も行います。薬の調整や精神面のケアは主治医・専門医の役割で、私たちは生活と運動の側から支えます。
受診の目安は、気分が沈んだ状態が2週間以上続く、何をしても楽しく感じられない、食欲や睡眠に大きな変化があるといったときです。ご本人が「消えてしまいたい」といった言葉を口にしたときは、様子を見ずに、できるだけ早く医療機関や地域の相談窓口につないでください。ご家族だけで抱え込む必要はありません。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. パーキンソン病になると、なぜ気分が落ち込みやすくなるのですか?
Q. 薬の効き目と気分の波は関係がありますか?

Q. やる気が出ないのは、うつと同じことですか?
Q. 自宅でできる気分への対策はありますか?
Q. 運動は気分の落ち込みに効果がありますか?
Q. 落ち込みが強いとき、誰に相談すればよいですか?
気分のご相談も、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。気分の落ち込みや意欲の低下についても、運動と生活の側から一緒に向き合います。薬の効き目の波を踏まえた運動のタイミング、ご家族への関わり方の工夫まで、その人に合わせて組み立てます。薬の調整や精神面のケアが必要な場合は、主治医・専門医と連携しながら進めます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
できたね、を。

気分が沈んでいるご本人に、ご家族が「頑張って」と伝えたくなる気持ちは、よくわかります。ですが、その言葉が、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。私たちが臨床の中で感じてきたのは、頑張れという言葉より、できたねという言葉のほうが、多くの場合、力になるということです。
気分の落ち込みは、脳の変化を含む、病気に伴って起こりうる症状のひとつです。ご本人の意志の弱さでも、ご家族の関わり方が悪かったからでもありません。だからこそ、一人で、あるいは家族だけで抱え込まず、専門家と一緒に向き合ってほしいと思います。
気分のことでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。運動と生活の側から、できることを一緒に見つけていきます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。本記事は一般的な情報提供であり、診断や治療の代わりにはなりません。気分の落ち込みが強く続くとき、または「消えてしまいたい」といった気持ちがあるときは、一人で抱えず、必ず神経内科・精神科などの専門家、または地域の相談窓口にご相談ください(最終確認日:2026年8月28日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Reijnders JS, et al. A systematic review of prevalence studies of depression in Parkinson’s disease. Mov Disord. 2008;23(2):183-189.(抑うつ症状の有病率に関する系統的レビュー。第1動線・エビデンスボックスの出典)
- Kwok JYY, et al. Effects of Mindfulness Yoga vs Stretching and Resistance Training Exercises on Anxiety and Depression for People With Parkinson Disease: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2019;76(7):755-763.(運動を含む介入による不安・抑うつ指標の改善を報告した無作為化比較試験。第2動線・エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)