運動の苦手さから不登校に向かわせないために|早めの一手
運動の苦手さから不登校に向かわせないために|早めの一手
体育がある朝だけお腹が痛くなる。休み時間の遊びに入れない。着替えや書字が遅くて、学校で恥ずかしい思いをする——。運動の苦手さは、体だけの問題ではなく、自信・参加・友人関係・学校への安心感に影響することがあります。早めにできる一手を整理します。

運動の苦手さは、体育だけの問題ではありません。
運動会の練習が始まってから、朝の支度が遅くなった。体育がある日は「お腹が痛い」と言う。休み時間も友だちの鬼ごっこに入らず、教室で一人で過ごすことが増えた。
最初は「運動が苦手なだけ」と思っていたけれど、少しずつ学校そのものへの不安が大きくなっている——。こうした変化は、早めに気づきたいサインです。
学校生活には、思っている以上に多くの運動要素があります。体育や運動会だけでなく、階段、廊下の移動、着替え、書字、給食当番、掃除、休み時間の遊び、図工、音楽のリコーダー、ランドセルや荷物の管理まで、体を使う場面が連続しています。
運動が苦手な子どもは、単に「走るのが遅い」「ボールが取れない」というだけでなく、集団の中で失敗が見えやすい、友だちにからかわれやすい、先生から急かされやすい、時間内に終われないといった経験を重ねることがあります。その結果、学校が“安心できる場所”から“失敗を見られる場所”に変わってしまうことがあるのです。

不登校に直結させず、でも見逃さない。
まず大切なのは、運動の苦手さだけが不登校の原因になる、と決めつけないことです。不登校には、学校環境、友人関係、家庭状況、心身の体調、発達特性、学習の困難、いじめ、先生との関係など、多くの要因が重なります。
一方で、運動の苦手さが「見えにくい原因」として関係していることはあります。たとえば、本人は「体育が嫌だ」とは言わずに、「お腹が痛い」「忘れ物をした」「今日は行きたくない」と表現することがあります。背景には、過去の失敗、恥ずかしさ、からかい、身体の疲れ、できない自分を見られたくない気持ちが隠れていることがあります。
不登校への支援は、欠席が増えてから始めるものだけではありません。体育、休み時間、着替え、書字、行事などで参加しづらさが見えた時点で、小さな調整を入れることが大切です。
| 表に出る言葉 | 背景にあるかもしれないこと | 最初の関わり |
|---|---|---|
| 体育が嫌だ | 失敗を見られる不安、競争への苦手意識 | どの種目が嫌か、何ならできるかを分けて聞く |
| 朝だけお腹が痛い | 学校行事、体育、着替え、発表前の不安 | 曜日・時間割・行事との関係を見てみる |
| 忘れ物が増えた | 嫌な活動を避けたい、準備の手順が難しい | 持ち物表を見える化し、準備を一緒に分解する |
| 休み時間に一人でいる | 鬼ごっこや球技に入れない、誘われても不安 | 運動以外の役割や小人数の遊びを作る |
DCDと学校参加のつながり。
発達性協調運動症、いわゆるDCDは、年齢や経験に比べて運動の学習や協調が難しく、日常生活や学校生活に支障が出る状態です。走る、跳ぶ、ボールを扱う、はさみを使う、字を書く、着替える、箸を使う、靴ひもを結ぶなど、さまざまな場面で困りごとが出ます。
DCDの子どもは、努力していないわけではありません。むしろ、同じ動作をするために周囲の子より多くの集中とエネルギーを使っていることがあります。それでもうまくいかない経験が続くと、「どうせできない」「また笑われる」「やりたくない」と感じやすくなります。
回避の悪循環をほどく。
運動の苦手さが学校への行き渋りにつながるとき、多くの場合、いきなり不登校になるわけではありません。小さな失敗体験、恥ずかしさ、避ける行動、さらに苦手になるという流れが、少しずつ積み重なります。

この悪循環を断ち切るためには、「できるまで頑張る」よりも前に、「失敗しても大丈夫」「自分にもできる方法がある」と感じられる経験を作ることが重要です。つまり、早めの一手は厳しい訓練ではなく、安心と成功体験を設計することです。
早めに気づきたいサイン。
不登校の前には、「学校に行かない」という大きな変化ではなく、小さな変化が先に出ることがあります。特に運動の苦手さが関係している場合、曜日、時間割、行事、体育の単元と関連していることがあります。
こうしたサインがあるとき、まず必要なのは問い詰めることではありません。「何が嫌なの?」「なぜできないの?」ではなく、「どの時間が一番しんどい?」「何があると少し楽?」「見られるのが嫌?それとも動き方が分からない?」と、具体的に分けて聞くことが大切です。
早めの一手:5つの支援。
早めの一手は、本人を無理に学校へ押し戻すことではありません。学校で「できない自分」をさらされ続ける状態を減らし、安心して参加できる条件を作ることです。

「体育が嫌」ではなく、走るのが嫌、ボールが嫌、見られるのが嫌、着替えが嫌、先生の声かけがつらい、などに分けます。
低い高さ、短い距離、軽いボール、個別練習、見本を近くで見るなど、できる条件を作ります。難易度を下げることは甘やかしではありません。
全員と同じ形で参加することだけが参加ではありません。記録係、見本を近くで見る係、準備係、短時間参加など、参加の形を増やします。
「苦手です」だけでなく、「見本を近くで見るとできます」「高さが低いと参加できます」「競争形式だと固まります」のように具体的に共有します。
「全部できた」ではなく、「今日は見本を見て1回できた」「最後までその場にいられた」など、小さな成功を言葉にして残します。

— できない理由ではなく、できる条件を一緒に探します
STROKE LABでは、運動の苦手さを体幹・バランス・感覚・運動計画・心理面に分けて確認します。学校で困りやすい場面を整理し、ご家庭や学校で続けられる具体的な支援を一緒に考えます。
家庭でできる関わり。
家庭では、学校での失敗を掘り返して責めるよりも、「何がしんどかったのか」を安全に話せる関係を作ることが大切です。運動が苦手な子どもは、失敗の理由を自分でも説明できないことがあります。だからこそ、大人が先に分解して聞く必要があります。

「体育どうだった?」より、「今日は走る日だった?」「見られるのが嫌だった?」「何の動きが難しかった?」と、場面を具体的にして聞きます。
家で練習するときは、学校と同じ難しさにしないことが大切です。低い高さ、短い時間、柔らかい道具、誰にも見られない環境で、安心して成功できる条件を作ります。
「またできなかった」ではなく、「今日はここまでできた」「前より少し楽だった」という記録を残します。子ども自身が、できる条件を知ることが自信につながります。
| 家庭での声かけ | 避けたい言い方 | 支援につながる言い方 |
|---|---|---|
| 体育の後 | 「なんでできないの?」 | 「どの動きが一番難しかった?」 |
| 行き渋り | 「行けば大丈夫」 | 「今日しんどそうな時間割はどこ?」 |
| 練習 | 「できるまでやるよ」 | 「今日は1つだけ楽にできる方法を探そう」 |
| 結果 | 「また失敗したね」 | 「低い高さならできたね」 |
学校に伝えるポイント。
学校への共有では、「運動が苦手です」だけでは支援につながりにくいことがあります。先生が動けるようにするには、困りごと、できる条件、避けたい対応、家庭で見えているサインを具体的に伝えることが重要です。

| 共有すること | 具体例 | 目的 |
|---|---|---|
| 困る場面 | 縄跳び、跳び箱、マット運動、着替え、書字、休み時間の球技 | 困りごとの見える化 |
| できる条件 | 低い高さ、近い見本、個別練習、短い距離、静かな場所 | 参加しやすい条件作り |
| 避けたい対応 | 大勢の前で何度もやり直す、急かす、競争だけで評価する | 羞恥・不安の軽減 |
| 参加方法 | 記録係、準備係、見本確認、短時間参加、別課題から開始 | 孤立を防ぎ、参加を守る |
支援の目的は、苦手な活動をすべて避けることではありません。安心できる条件で参加し、少しずつ成功体験を積むことです。完全参加か完全見学かではなく、段階的な参加の形を作ることが大切です。
相談先と受診の目安。
運動の苦手さが学校生活に影響していると感じる場合、家庭だけで抱え込む必要はありません。学校の先生、スクールカウンセラー、特別支援教育コーディネーター、かかりつけの小児科、発達相談、作業療法士・理学療法士など、複数の窓口があります。
相談時には、「何ができないか」だけでなく、「どの条件ならできるか」を伝えると支援につながりやすくなります。たとえば、低い段差ならできる、個別ならできる、見本を近くで見るとできる、競争でなければ参加できる、などです。
STROKE LABの小児リハ。
STROKE LABでは、運動の苦手さを「練習不足」として見ません。体幹、バランス、足部、視覚、前庭感覚、固有感覚、運動計画、注意、心理面を含めて、なぜその動きが難しいのかを分解して評価します。

よくある質問。
運動が苦手なことだけで不登校になるわけではありません。ただし、体育、休み時間、書字、着替えなどで失敗体験が積み重なると、学校への不安や回避につながることがあります。早めに環境調整と成功体験を作ることが大切です。
体調や不安が強い時に見学が必要なことはあります。ただし、見学だけが続くと、参加への不安が大きくなることもあります。短時間参加、別課題、低い難易度、記録係など、参加の形を増やすことが大切です。
配慮は甘やかしではなく、参加するための足場です。低い高さから始める、見本を近くで見る、競争ではなく個別に練習するなどは、本人が学ぶための条件調整です。
家庭だけでDCDと判断することはできません。視力、神経、筋肉、関節、注意、経験量なども関わるため、医師や専門職による評価が必要です。家庭では、どの場面で困るか、どの条件ならできるかを記録しておくと相談しやすくなります。
体幹、バランス、足部、視覚、感覚、運動計画、手先の不器用さ、学校で困る生活動作を含めて確認します。運動を上手にするだけでなく、学校で参加しやすくなる方法をご家庭と一緒に整理します。
“できる条件”を一緒に探しましょう。

運動の苦手さは、本人の努力不足ではありません。体の使い方、感覚、姿勢、運動計画、心理面が複雑に関係しています。
大切なのは、苦手を責めることではなく、学校で安心して参加できる条件を、早めに見つけることです。
お子さんの体育、運動、学校への行き渋りで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。不登校には複数の要因が関わるため、運動の苦手さだけで判断しないことが大切です。強い不安、抑うつ、いじめ、けが、痛み、急な歩行変化、神経症状がある場合は、学校・医療機関・専門職へ早めにご相談ください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)