発達が気になる子の運動を、家庭・園・専門家でどう連携するか
発達が気になる子の運動を、家庭・園・専門家でどう連携するか
「家ではできるのに、園ではできない」「リハビリでは上手くいくのに、生活では続かない」——子どもの運動は、場所や人、時間の流れによって大きく変わります。大切なのは、家庭・園・専門家が同じ目標を共有し、生活の中で使える動きへ育てていくことです。

なぜ、家庭・園・専門家の連携が必要なのか。
専門家の前では、片足立ちやジャンプ、鉛筆の持ち方が少し良くなる。でも家ではすぐ座り崩れ、園では運動遊びに入れず、友達の中で自信をなくしてしまう。
保護者は「練習不足かな」と悩み、園は「どこまで手伝えばよいか分からない」と迷い、専門家は「生活の中でどう困っているか」が見えにくい。このズレを埋めるのが、家庭・園・専門家の連携です。
発達が気になる子の運動は、単に筋力やバランスだけで決まるものではありません。姿勢、感覚、注意、見通し、周囲の音や人の多さ、疲労、成功体験の有無などが重なって、その日の動きが変わります。だからこそ、専門家の評価だけでも、家庭の努力だけでも、園の配慮だけでも十分ではないことがあります。
連携の目的は、関係者全員が同じことを同じ量だけ行うことではありません。家庭は生活の中で経験を積む、園は集団活動の中で参加を支える、専門家は動きの背景を分析して方法を整理する。それぞれの役割を分けたうえで、同じ方向を向くことが大切です。

運動の困りごとは、場面で変わります。
同じ子どもでも、家庭、園、専門家の場面では見える姿が違います。家庭では甘えが出て動かない、園では周囲の刺激が多くて参加しにくい、専門家の場面では一対一で集中できるため動きやすい。この違いを「どれが本当の姿か」と考えるより、場面ごとの条件を整理することが重要です。
| 場面 | 見えやすい困りごと | 共有したい情報 |
|---|---|---|
| 家庭 | 着替え、食事、階段、片付け、宿題姿勢、外出前の切り替え | 何に時間がかかるか、どんな声かけで動きやすいか、疲れやすい時間帯 |
| 園・学校 | 集団遊び、体育、はさみ、制作、移動、着替え、友達とのペース差 | 参加できる条件、苦手な活動、友達の中での様子、安全上の配慮 |
| 専門家 | 姿勢制御、感覚処理、運動計画、筋緊張、左右差、課題の難易度 | 家庭・園で再現できる方法、避けたい練習、段階づけの基準 |
家庭・園・専門家の役割を分ける。
連携がうまくいかないときは、誰が何を担うのかが曖昧になっていることがあります。家庭が専門的な評価まで抱え込む、園が治療的な練習まで背負う、専門家が生活場面を見ないまま練習メニューだけを出す。この状態では、子どもも大人も疲れてしまいます。
理学療法士・作業療法士などの専門家は、姿勢、筋緊張、感覚、運動計画、視覚、注意、生活環境を見ながら、なぜその動作が難しいのかを整理します。そのうえで、家庭や園で再現できる形に難易度を下げ、次の一歩を提案する役割があります。
家庭で見るポイント。
家庭で大切なのは、専門的な検査をすることではありません。生活の中で「どこで困るか」「どんな条件ならできるか」「どの時間帯に崩れやすいか」を見つけることです。家庭は、子どもの本音と疲れが出やすい場所でもあります。

「できなかった」だけでなく、「どこまでならできたか」を見ます。たとえば、ズボンを履くときに片足を入れるところまではできた、立ったままだと難しいが座るとできた、などです。
時間帯も大切です。朝は難しいが夕方はできる、園から帰った後は崩れやすい、眠いと転びやすいなど、疲労や見通しの影響を記録します。
動画を撮る場合は、長く撮る必要はありません。10〜20秒でも、姿勢や動作の特徴が専門家に伝わりやすくなります。
座るとできる、手すりがあるとできる、見本があるとできるなど、成功しやすい条件を探します。
夕方に転びやすい、帰宅後に座り崩れるなど、疲労によって変わる動きを記録します。
全部を練習するのではなく、今一番生活を妨げている動作から優先します。
園で見るポイント。
園や学校では、家庭では見えにくい姿が見えます。友達と同じペースで動く、順番を待つ、先生の一斉指示を聞く、道具を使う、集団の中で体を動かす。こうした場面では、姿勢や運動の問題だけでなく、注意、見通し、感覚、対人面の影響も重なります。

| 園での場面 | 観察ポイント | 専門家へ伝えたいこと |
|---|---|---|
| 運動遊び | 走る、止まる、ジャンプ、ボール、平均台、友達との距離 | 怖がる動作、避ける遊び、転びやすい場面、成功する条件 |
| 制作・机上活動 | 姿勢、鉛筆、はさみ、のり、紙を押さえる手、疲れやすさ | どの道具で難しいか、姿勢が崩れる時間、補助具の効果 |
| 身支度 | 靴、靴下、ボタン、ファスナー、荷物整理、時間の見通し | 手伝いが必要な工程、声かけ、時間設定、環境調整 |
| 集団移動 | 列に並ぶ、階段、段差、急な停止、ぶつかりやすさ | どの環境で危ないか、先生の位置、友達との距離 |
専門家が整理するポイント。
専門家が見るのは、「その動作ができるか」だけではありません。なぜ難しいのか、どの条件ならできるのか、どの順番で難易度を上げると生活に結びつくのかを整理します。特に、発達が気になる子の運動では、姿勢・感覚・運動計画・注意・環境の影響を一緒に見ていく必要があります。

情報共有シートの作り方。
連携では、情報をたくさん共有すればよいわけではありません。長い報告書よりも、関係者がすぐに見られる1枚の共有シートの方が役立つことがあります。特に園では、先生が毎日多くの子どもを見ているため、短く、具体的で、実行しやすい内容にすることが大切です。

診断名だけでは、日々の関わりは変わりにくいものです。「平均台は手をつなぐと渡れる」「大きな音の後は活動に入りにくい」「先に見本を見せると参加しやすい」など、明日から使える情報を共有しましょう。
| 項目 | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| 困る場面 | 生活や集団活動で困る具体的な場面 | 靴を履く、階段、制作、ボール遊び |
| できる条件 | 成功しやすい環境・声かけ・道具 | 座る、見本を見る、手すりを使う、短く区切る |
| 避けたい対応 | 不安や失敗を増やしやすい対応 | 急かす、みんなの前で注意する、長く反復する |
| 今月の目標 | 家庭・園・専門家で同じ方向を向く短期目標 | 靴を片方だけ自分で履く、平均台を先生の手つなぎで渡る |

— 家庭・園で再現できる形に落とし込みます
STROKE LABでは、運動評価だけでなく、家庭や園で使いやすい声かけ、環境調整、練習の段階づけまで一緒に整理します。
目標設定の考え方。
運動支援の目標は、「片足立ちが何秒できるか」「ジャンプが何回できるか」だけでは不十分です。もちろん運動能力の変化は大切ですが、最終的には生活の中で何が楽になるか、園でどんな活動に参加しやすくなるかを目標に含める必要があります。
たとえば「体幹を安定させる」は専門家の目標です。それを家庭では「椅子に座って食事を最後まで食べる」、園では「制作の時間に5分座って参加する」という生活目標に翻訳します。
| 専門家の目標 | 家庭での目標 | 園での目標 |
|---|---|---|
| 体幹・骨盤の安定 | 食事中に椅子から崩れにくくなる | 制作で机上課題に参加しやすくなる |
| バランス反応 | 玄関の段差で転びにくくなる | 園庭遊びや平均台に参加しやすくなる |
| 両手協調 | 服のボタンや袋の開閉がしやすくなる | 制作や給食準備で自分の役割を持ちやすくなる |
連携の頻度と振り返り。
連携は、一度情報共有して終わりではありません。子どもの発達は変化しますし、園の活動内容も季節や行事で変わります。大切なのは、短い周期で「今の方法が生活に合っているか」を振り返ることです。

園や家庭で、困る場面が少し減ったか、参加しやすい条件が見つかったかを確認します。
できる条件が増えたら、少しだけ難易度を上げます。難しすぎる場合は、目標を小さく戻します。
運動会、遠足、発表会などは負荷が高くなります。事前に動線や休憩方法を共有します。
早めに相談したいサイン。
運動の不器用さや参加しづらさは、個人差として見守れるものもあります。一方で、転倒や痛み、発達の後退、左右差などが見られる場合は、早めに相談した方がよいことがあります。家庭・園で気になるサインが重なっている場合は、専門家につながることで支援の方向性が見えやすくなります。
よくある質問と、STROKE LABの支援。
甘えだけとは限りません。園では音、人の多さ、順番、時間の制約、一斉指示など家庭とは違う負荷があります。家庭でできる条件を園と共有し、園で必要な環境調整を考えることが大切です。
診断名よりも、困る場面、できる条件、避けたい声かけ、落ち着きやすい方法を具体的に伝えると役立ちます。「平均台は手をつなぐとできる」「急かすと固まりやすい」など、実際に使える情報が大切です。
長時間の反復よりも、生活の中で短く成功しやすい形にすることが大切です。たとえば、着替えの一工程だけ、階段の最後の数段だけ、ボール遊びを3分だけなど、続けやすい形にしましょう。
はい。短い動画は、姿勢や動作の特徴、家庭や園での実際の困りごとを伝えるのに役立ちます。撮影は無理のない範囲で行い、本人の安心とプライバシーに配慮してください。
はい。お子さんの姿勢・運動・感覚・生活動作を評価し、家庭や園で再現しやすい方法に整理します。共有シートや声かけ、環境調整、段階づけについてもご相談いただけます。
STROKE LABでは、脳卒中をはじめとする神経リハビリで培った運動分析の視点をもとに、小児の姿勢・運動・感覚・生活動作を評価します。発達が気になる子の運動支援では、専門家の場面だけで上手くなることではなく、家庭や園で少しでも参加しやすくなることを大切にしています。

生活の中で育っていきます。

発達が気になるお子さんの運動支援では、リハビリ室でできることだけを増やすのではなく、家庭や園の中で使える動きにしていくことが大切です。
そのためには、保護者、園の先生、専門家がそれぞれの視点を持ち寄り、子どもが参加しやすい条件を一緒に探すことが必要です。
「どこまで園に伝えればよいか」「家庭で何をすればよいか」「専門家の評価を生活にどう活かせばよいか」迷うときは、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ずかかりつけの小児科医、発達相談、作業療法士・理学療法士などの専門職にご相談ください。家庭・園・専門家の連携内容は、お子さんの年齢、発達段階、診断、生活環境によって異なります。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)