【2024年版】前頭前野のリハビリ:損傷後の認知機能を改善する効果的なアプローチ
はじめに
本日は前頭前野について解説したいと思います。この動画は「リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ」となります。
内容は、STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
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前頭前野とは?
前頭前野 (PFC) の役割と機能
前頭前野 (PFC) は脳の前頭葉に位置し、実行機能、意思決定、感情制御、人格形成において中心的な役割を担う領域です。PFCは複数のサブリージョンから構成され、それぞれが異なる機能的役割を持っています。
部位
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背外側前頭前皮質 (DLPFC)
- 作業記憶、意思決定、認知的柔軟性など、実行機能の中枢。運動計画や推論、問題解決などの高次認知機能においても重要です。
- 作業記憶、意思決定、認知的柔軟性など、実行機能の中枢。運動計画や推論、問題解決などの高次認知機能においても重要です。
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腹内側前頭前皮質 (VMPFC)
- 感情の制御、意思決定、リスク評価に関与し、報酬や罰の処理を行います。特に社会的意思決定における感情的な要素の統合が重要です。
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眼窩前頭皮質 (OFC)
- 報酬と罰に基づく意思決定や適応学習において重要で、感覚情報の統合、特に嗅覚と味覚の処理に関連します。
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前帯状皮質 (ACC)
- 感情処理、自律神経制御、注意、認知制御に関連し、エラー検出と競合モニタリングにおいて重要な役割を果たします。これにより、適応的な行動調整が可能となります。
- 感情処理、自律神経制御、注意、認知制御に関連し、エラー検出と競合モニタリングにおいて重要な役割を果たします。これにより、適応的な行動調整が可能となります。
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前頭極
- 複雑な問題解決、抽象的思考、概念化、社会的認知において中心的な役割を果たし、目標管理や計画、マルチタスク処理にも関与します。
血液供給
- 中大脳動脈 (MCA) と 前大脳動脈 (ACA) の枝から供給される。
- MCA: DLPFCを含むPFCの外側領域に血液を供給。
- ACA: VMPFCとACCの一部を含む内側領域に血液を供給。
- OFC: ACAとMCAの両方から供給を受ける。
- 前頭極: ACAの枝から供給される。
接続性
PFCは、脳の他の領域と多層的に接続されており、高度な統合を可能にしています。
- 皮質経路: 他の皮質領域と連携し、感覚情報と認知情報の統合を行います。
- 皮質下経路: 大脳基底核や視床との接続を通じて、運動制御や認知処理に寄与します。
- 大脳辺縁系の接続: 扁桃体や海馬との相互作用を通じて、感情の処理や記憶の形成に関与します。
病態像
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前頭葉症候群
- PFCの損傷による性格の変化、衝動性、計画性の欠如、抽象的思考の困難。影響を受けた部位により無関心や脱抑制が見られる。
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非行症候群 (Delinquent Syndrome)
- 計画立案、行動制御、認知の柔軟性の困難。DLPFCの病変に関連することが多い。
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フィニアス・ゲージ症候群
- VMPFCの損傷により発生する衝動的な行動と不十分な意思決定。歴史的なフィニアス・ゲージのケースに由来する。
- VMPFCの損傷により発生する衝動的な行動と不十分な意思決定。歴史的なフィニアス・ゲージのケースに由来する。
MRIのポイント
前頭葉の特定
MRIの軸方向の視点で、前頭葉は中心溝よりも前方(前方)に位置します。
中心溝は前頭葉と頭頂葉を分ける顕著なランドマークであり、前頭葉の特定には重要です。
前頭前野 (PFC) の輪郭を描く
前頭葉内では、前頭前野 (PFC) は前頭葉の前方に位置し、前頭極から中心前溝の前岸まで広がっています。矢状面を用いて、この領域を確認することができます。中心前溝は前頭前野の後方の境界であり、PFCはその直前に存在します。MRIでPFCを視覚化するためには、以下の前頭葉の溝(sulci)と脳回(gyri)を特定することが有用です。上前頭回、中前頭回、下前頭回はすべてPFCに属し、これらの回と溝がPFCの構造的なランドマークとなります。
PFC サブ領域の識別
PFCは一様な領域ではなく、異なる位置と機能を持つ複数のサブ領域に分かれています。主なサブ領域は、背外側前頭前皮質 (DLPFC)、腹内側前頭前皮質 (VMPFC)、眼窩前頭皮質 (OFC)、前帯状皮質 (ACC)、および前頭極です。以下にそれぞれの解剖学的位置とランドマークを示します。
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背外側前頭前皮質 (DLPFC)
- 位置: 前頭葉の外側部分に位置し、主に中前頭回と上前頭回を取り囲んでいます。
- ランドマーク:
- 中前頭回: 前頭葉の側面にあり、DLPFCの主要部分。
- 上前頭回: 特に後部がDLPFCに寄与。
- ブロードマン領域 9および46: 機能マッピングにおいてDLPFCに関連付けられます。
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腹内側前頭前皮質 (VMPFC)
- 位置: 前頭葉の内側の下部に位置。
- ランドマーク:
- 内側眼窩回: 直回と内側眼窩前頭回の一部を含む。
- 膝下部: 脳梁のすぐ下の領域。
- ブロードマン領域 10、11、および25: VMPFCと機能的にリンクされています。
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眼窩前頭皮質 (OFC)
- 位置: 前頭葉の腹側(下側)表面、眼窩のすぐ上に位置。
- ランドマーク:
- 眼窩回: 直回と外側および内側の眼窩回が主要構成要素。
- 眼窩溝: 前頭葉の腹側表面にある小さな溝で、OFCの境界を定義。
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前帯状皮質 (ACC)
- 位置: 前頭葉の内側表面、脳梁のすぐ上。
- ランドマーク:
- 帯状溝: ACCの側方境界を定義。
- 帯状回: ACCはこの回の一部であり、特に脳梁の曲がり(膝部)の前の領域。
- ブロードマン領域 24、32、および33: 多くの場合、ACCに関連付けられます。
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前頭極
- 位置: 脳の最前部である前頭極に位置。
- ランドマーク:
- ブロードマン領域 10: 前頭極に対応。
- 前頭溝によって境界される: 外側は上前頭溝、内側は帯状溝で境界。
- 眼窩前頭皮質の上: 前頭極は眼窩前頭領域の上に位置し、脳の上面の最前部まで広がる。
前頭前野(PFC)機能の観察ポイント
① 遂行機能
前頭前野(PFC)は、行動のトップダウン制御において中心的な役割を果たします。合理的な決定、問題解決、計画作成、社会的行動の調整などの遂行機能は、PFCが脳全体から情報を集めて処理する能力に依存しています。
【Miller EK, Cohen JD. An integrative theory of prefrontal cortex function. Annu Rev Neurosci. 2001;24:167-202】
遂行機能の評価には、以下のポイントを観察します。
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問題解決能力:日々のケアで発生する問題(例:歩行が不安定な場合に移動補助具を利用するなど)を解決する能力を観察します。
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意思決定:処方された薬を適切に服用するなど、自身のケアに関する適切な意思決定ができるかを観察します。また、治療法を遵守しない場合の結果を理解しているかも評価します。
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社会的行動の調整:患者がスタッフ、他の患者、訪問者と適切に接することができるか、衝動を抑えられるか、不適切な行動(攻撃的など)がないかを観察します。
② ワーキングメモリ
ワーキングメモリは短期的な情報の管理と操作において重要な役割を果たし、前頭前皮質(PFC)がこの機能を担っています【Goldman-Rakic PS. Cellular basis of working memory. Neuron. 1995 Mar;14(3):477-85.】。長期記憶とは異なり、ワーキングメモリは短期間しか維持されません。評価には以下のポイントを観察します。
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情報の保持:スタッフの名前など、与えられた情報をどれだけ正確に保持できるかを評価します。
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タスクにおける情報の使用:指示された作業(例:決まった時間に薬を服用する、一連の体操を行うなど)を正しく実行できるかを観察します。
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情報の操作:患者が自身の思考内で情報を操作できるか(例:100から7ずつ逆算、曜日を逆順に暗唱)を確認します。
③ 注意制御
注意制御は、特定の課題に焦点を合わせ、無関係な情報を抑制する能力で、前頭前野と頭頂葉が関与するトップダウン調整のプロセスに依存しています【Gazzaley A, Nobre AC. Top-down modulation: bridging selective attention and working memory. Trends Cogn Sci. 2012 Feb;16(2):129-35.】。以下の観察ポイントに基づいて評価します。
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注意力の集中:作業や会話にどの程度集中できるかを確認します。長時間の集中力維持や指示に従う能力を観察します。
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注意力散漫の抑制:雑音や他の活動がある環境で、指示に従って課題を完了できるかを確認します。
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目標関連情報への注意:関連する情報と無関係な情報を区別し、課題を完了させる能力を評価します。
④ 感情調整
前頭前野は感情調整においても重要な役割を果たし、感情的な反応を制御し、適切な反応を導きます。感情制御には注意制御や認知の変化が含まれ、感情のバランスを保つために重要です【Ochsner KN, Gross JJ. The cognitive control of emotion. Trends Cogn Sci. 2005 May;9(5):242-9.】。評価には以下の観察ポイントを使用します。
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感情の処理:幸福、悲しみ、怒り、恐怖を引き起こす出来事に対して適切に反応できるかを観察します。
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感情の調節:健康的な方法で感情を管理できているか、または頻繁に気分の落ち込みや感情の爆発を経験していないかを確認します。
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感情的な刺激への理解:他人の感情的な合図を理解し、適切に反応できるかを観察します(例:言葉や口調、表情から他人の感情を理解する能力)。
臨床アイデア
①遂行機能に対する介入
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段階的解決のアプローチ
問題解決に困難を抱える患者には、解決策を段階的に教える方法が有効です。たとえば、自立歩行が困難な場合、補助具を使った移動方法をステップごとに指導し、反復してトレーニングを行います。これにより、段階的に問題解決能力を高めることが期待されます。 -
シンプルな指示と視覚的ツールの活用
意思決定が苦手な患者には、より構造化された日常生活を提供し、明確でシンプルな指示を出すことが効果的です。カレンダーやフローチャートなどの視覚的ツールを使用して、服薬やリハビリスケジュールを管理することで、患者が計画的に行動しやすくなります。
関連論文:
2011年のブライアンらの研究では、前頭葉脳損傷患者に対する目標管理トレーニング(GMT)の効果が検証されています。GMTは、注意力の持続と問題解決能力の向上に有効であり、持続的な注意力と視空間問題解決を必要とするタスクのパフォーマンスを改善することが示されています。
【Rehabilitation of executive functioning in patients with frontal lobe brain damage with goal management training】
②ワーキングメモリに対する介入
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リマインダーの活用
ワーキングメモリのサポートには、記憶補助具の利用が有効です。患者の部屋の各所にポスターやメモなどの視覚的リマインダーを配置し、必要な指示や情報を提供することで、短期的な記憶のサポートが可能になります。 -
情報の繰り返しと見直し
課題を小さなステップに分解し、患者の記憶力の向上に合わせて段階的にステップを増やしていくことで、情報の定着を助けます。繰り返し行うことで、記憶の強化が期待できます。 -
習慣化の促進
記憶の強化には習慣化も有効です。たとえば、毎回食事の後に薬を飲む習慣をつけることで、行動が記憶に定着します。また、脳トレや認知療法もワーキングメモリの改善に役立ちます。
関連論文:
2020年のマリアらの研究では、デジタルカレンダー「RemindMe」と携帯電話リマインダーを活用した介入が認知障害患者の自立性をサポートすることが示されました。この研究は、日常活動におけるリマインダーとデジタル支援の有用性を強調しています。
【Feasibility of an Intervention for Patients with Cognitive Impairment Using an Interactive Digital Calendar with Mobile Phone Reminders (RemindMe) to Improve the Performance of Activities in Everyday Life】
③注意制御に対する介入
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注意力を高めるトレーニング
より長時間の集中が必要な作業を段階的に取り入れることで、注意力を高めることができます。簡単で短い作業から始め、患者の注意力が向上するにつれて、作業の複雑さや時間を増やしていきます。定期的な休憩を導入し、疲労を防ぎつつ集中力を維持することも重要です。 -
気が散る環境の管理
最初は静かで気が散らない環境を提供し、徐々に注意が散りやすい環境に切り替えていくことで、患者が様々な環境下で注意を維持する能力を養います。
関連論文:
2006年のドナルドらの研究では、前頭葉が注意制御において果たす役割が明らかにされました。この研究は、前頭葉の適応性が、タスクに応じて異なる脳内プロセスの柔軟な統合に関わっていることを示しています。
【Frontal lobes and attention: Processes and networks, fractionation and integration】
④感情調整に対する介入
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感情の表現を促進する活動
アートセラピーや音楽療法、簡単な会話など、患者が感情を自由に表現できる安全な空間を提供することが、感情処理の改善に役立ちます。 -
リラクゼーション技法の導入
深呼吸や瞑想などのリラクゼーション技法を用いることで、患者が感情をコントロールする力を身につけられるようにします。感情コントロールに難しさを感じる患者には、心理的サポートやカウンセリングも有効です。 -
ロールプレイと状況訓練
患者が他者の感情を理解しやすくするために、さまざまな状況でのロールプレイや話し合いを行います。これにより、感情の手がかりをどう読み取るかの練習ができ、表情やトーンを通じて感情を識別する能力を高めることが期待されます。
関連論文:
2016年のミリアムの研究では、前頭側頭葉変性症(FTLD)患者の感情処理について調査されています。この研究は、芸術を介した感情表現と調整の治療的介入の可能性を強調しており、感情調節障害に対する創造的アプローチの有用性を示唆しています。
【Processing emotion from abstract art in frontotemporal lobar degeneration】
新人セラピストが陥りやすいミス
① ワーキングメモリーへの過負荷
新人セラピストは、ワーキングメモリーの限界を超えて患者に情報やタスクを一度に与えすぎる傾向があります。これにより、患者の注意力が低下し、タスクの遂行能力が損なわれる可能性があります。
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例: 理学療法のセッションで、多くの新しいエクササイズを一度に導入しようとすることがあります。また、ADL(Activities of Daily Living)トレーニングにおいて、食事作りのような複雑なタスクの全工程を一度に習得することを期待するケースもあります。これらのアプローチは、患者の能力を超えた負荷となり、逆に注意力や記憶力の低下を引き起こすことがあります。
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改善策: タスクを分解し、少量ずつ段階的に導入することで、患者が新しい情報を適切に処理し、学習・記憶の負荷を最小限に抑えることが重要です。各ステップを丁寧に教え、患者の反応を観察しながら進行度を調整することが求められます。
② 感情調整の対応不足
新人セラピストの中には、患者の感情的な反応に対する適切な対応ができず、治療の進行を妨げるケースがあります。感情の爆発や気分の変動は治療の一部として想定されるものであり、それに対するセラピストの反応は非常に重要です。
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例: 患者が難しい練習に直面した際に、フラストレーションを感じて感情的になることがあります。このような場合、セラピストが否定的な反応を示したり、状況を避けたりすると、患者の治療への意欲を損なう可能性があります。
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改善策: 患者の感情的反応を理解し、共感的に対応することで、信頼関係を築き、治療の効果を高めることが可能です。適切なリラクゼーション技法を導入したり、感情調整のトレーニングを取り入れることも、有効な手段となります。セラピスト自身も、感情のコントロール技術を磨き、冷静でプロフェッショナルな態度を維持することが求められます。
①解剖学と機能: 前頭前皮質の主要な解剖学的領域と、認知および感情処理におけるそれぞれの機能について説明できますか?
②血液供給: 主に前頭前皮質に血液を供給する動脈はどれですか?また、この供給はそのサブ領域間でどのように異なりますか?
③接続性: 前頭前皮質は他の脳領域とどのように接続されており、これらの接続はその機能においてどのような役割を果たしていますか?
④病理学的状態: 前頭前皮質の損傷に関連する一般的な症候群や障害は何ですか?また、それらは通常どのような症状を示しますか?
⑤前頭葉の特定: 脳の画像処理で前頭葉の位置を特定するにはどうすればよいですか?また、その中の前頭前野を特定するための重要なランドマークは何ですか?
⑥臨床観察: 臨床現場での前頭前野の機能、特に実行機能、作業記憶、注意制御、感情制御に関連した機能を評価するための重要な観察ポイントは何ですか?
⑦臨床介入: 実行機能や感情調節など、前頭前野の機能の欠陥に対処するための効果的な臨床実践や介入にはどのようなものがありますか?
⑧新人によるよくある間違い: この分野の新人が、前頭前皮質に障害のある患者を扱う際に、特に作業記憶と感情の調節に関して犯す可能性のあるよくある間違いにはどのようなものがありますか?
⑨研究と文献: 実行制御、作業記憶、感情制御などの機能における前頭前野の役割の理解に大きく貢献した重要な研究や論文をいくつか挙げていただけますか?
⑩事例の応用: この知識を実際の事例シナリオ、たとえば前頭前皮質障害のある脳卒中患者のリハビリテーションにどのように応用しますか?
①解剖学的構造と機能: 前頭前野 (PFC) には、背外側 PFC (実行機能と認知の柔軟性に関与)、腹内側 PFC (感情制御と意思決定の鍵)、眼窩前頭皮質 (適応学習と報酬に基づく意思決定に重要) などの領域が含まれます。 -作成)、および前帯状皮質(感情の処理と注意に関与)。
②血液供給: PFC は主に中大脳動脈と前大脳動脈の枝によって供給されます。 中大脳動脈は背外側領域を含む PFC の側面を灌流し、前大脳動脈は内側と前頭極に血液を供給します。
③接続性:PFCは、感覚および認知統合のための皮質経路、運動制御および認知処理のための皮質下経路、感情処理および記憶のための辺縁系接続を含む、さまざまな脳領域と広範な接続を持っています。
④病理学的状態: PFC の損傷は、前頭葉症候群 (性格の変化と認知障害を特徴とする)、非行症候群 (計画性と認知の柔軟性の困難)、フィニアス ゲージ症候群 (衝動的な行動と意思決定の低下) などの状態を引き起こす可能性があります。
⑤前頭葉の特定: 前頭葉は、脳画像では中心溝の前に位置します。 前頭前皮質は前頭葉内で確認され、前頭極から中心前溝の前岸まで広がっています。
⑥臨床観察: 臨床的には、PFC の機能は、特定の行動の手がかりや患者との相互作用を通じて、実行機能、作業記憶、注意制御、感情制御を観察することによって評価されます。
⑦臨床介入:PFC 欠損に対する効果的な臨床実践には、段階的な問題解決、実行機能障害に対する簡単な指示を伴う構造化されたルーチン、作業記憶の問題に対するリマインダーの使用や習慣形成、感情の調整に対する芸術療法のような活動の組み込みなどが含まれます。
⑧新人にありがちな間違い: 新人は患者に多すぎる情報やタスクを課して過負荷になり、作業記憶能力を圧倒してしまう可能性があります。また、患者の感情の爆発を効果的に管理するのに苦労し、治療プロセスに影響を与える可能性があります。
⑨研究と文献: この分野の主な研究には、前頭前野の機能に関するミラーとコーエン、作業記憶の細胞基盤に関するゴールドマン-ラキック、感情の認知制御に関するオクスナーとグロスの研究などが含まれます。
⑩事例応用: 脳卒中リハビリテーションなどの実際の事例では、特定の欠損に対処するために介入を調整し、患者の進行状況を監視し、患者の機能回復と個人のニーズに基づいて戦略を適応させることによって、PFC の知識を応用できます。
前頭前野(PFC)を意識したリハビリテーション展開例
登場人物
- 療法士:金子先生
- 患者:丸山さん
ストーリー
初回セッション:評価と課題設定
金子先生は、前頭前野(PFC)の機能障害がある丸山さんのリハビリを担当しています。丸山さんは脳卒中の後遺症で、遂行機能、作業記憶、注意制御、感情調整に課題を抱えています。今日は初回のセッションです。
金子先生:「丸山さん、今日は少しお話ししながら、どんなリハビリが必要か考えていきましょう。」
丸山さん:「よろしくお願いします。自分でも何かできることがあれば、頑張りたいと思います。」
総合評価とリハビリ目標の設定
金子先生は丸山さんの日常生活での課題を総合的に評価した上で、具体的な目標として「お茶を沸かして淹れる動作」を設定しました。これは、遂行機能、作業記憶、注意力、感情調整の全てを活用する複合的なタスクです。
金子先生:「まず、簡単な目標から始めましょう。例えば、お茶を沸かして淹れる動作をスムーズに行えるように練習するのはどうでしょうか?」
丸山さん:「そうですね。それなら家でもできるし、少しずつ慣れていけそうです。」
金子先生:「そうですね。ステップごとに分けて進めていきますので、一緒にやっていきましょう。」
リハビリの計画と実施
リハビリ計画では以下の3つの実施項目を行います:
- 段階的なタスク指導:お茶を淹れる動作を小さなステップに分解。
- 視覚的サポートとリマインダーの使用:記憶と手順をサポートするツールの使用。
- 注意力と感情調整の訓練:注意を集中させ、感情のコントロールを維持。
詳細:
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段階的なタスク指導
お茶を淹れる動作を複数のステップに分解します。まず、やかんに水を入れて沸かす、次にティーバッグをカップに入れる、最後にお湯を注いで待つ、といった基本的な手順を一つ一つ指導します。金子先生は、「お湯が沸いたら教えてくださいね」と声をかけ、丸山さんが自分で各ステップを確認しながら進めるようサポートします。 -
視覚的サポートとリマインダーの使用
手順ごとに写真や図を使ったリマインダーを用意し、丸山さんが進行を確認できるようにします。デジタルタイマーも使用し、お湯を沸かす時間を設定しておくことで、時間管理もサポートします。 -
注意力と感情調整の訓練
注意力の向上のために、静かな環境での訓練を重視します。リハビリの際にはパーテーションで仕切りを作り、周囲の音や視覚的な刺激を減らして集中できる環境を整えます。お茶を淹れる間、金子先生は丸山さんに注意を集中させるようにアドバイスします。「今はお湯を注ぐことに集中してみましょう」と声をかけ、集中が途切れた場合は深呼吸を促します。また、結果に焦らず、失敗しても次の機会に改善するという前向きな姿勢を持たせるよう努めます。
金子先生:「焦らず、丸山さんのペースでやっていきましょう。うまくいかなくても大丈夫です。」
丸山さん:「ありがとうございます。少しずつ頑張ってみます。」
結果と進展
数週間の練習の結果、丸山さんには以下の進展が見られました:
- 実行機能:お茶を淹れる手順を一つ一つ順番に実行できるようになり、自信を持って行動できるようになりました。
- ワーキングメモリ:視覚的サポートとリマインダーの使用により、各ステップをしっかりと記憶し、次の手順に進むことができるようになりました。
- 注意力:静かな環境での訓練により、タスクに集中する時間が徐々に延び、他の刺激に対しても注意を向けすぎずに済むようになりました。
- 感情調整:リラックス法を使うことで、タスクがうまくいかない時も落ち着いて取り組むことができるようになり、リハビリへのモチベーションが向上しました。
次のステップ
金子先生:「丸山さん、次は少しずつステップを減らしながら自分で全ての手順をスムーズにできるようにしていきましょう。例えば、最初の2つのステップを一緒に確認したら、あとは自分でやってみるという形です。」
丸山さん:「分かりました。もっと練習して、自然にできるようにしたいです!」
金子先生:「その意気です。次も一緒に頑張りましょう!」
今回のYouTube動画はこちら
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください。
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)