vol.363:表情筋は感情にどう働きかけるのか?身体と精神の関係性 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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カテゴリー
脳科学
タイトル
表情筋の感情に対するフィードバックについて
The link between facial feedback and neural activity within central circuitries of emotion–new insights from botulinum toxin-induced denervation of frown muscles.PubMed Florian Castrop et. al.Cerebral Cortex March 2009;19:537-542
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・身体と精神の関係について書かれた論文を探し、興味があったため読むこととした。
方法
・38人の女性を均等に2群に分け、対象群は課題とfMRI後にボツリヌス毒素(以下BTX)を注射し、BTX群は注射の2週間後(一般的にBTXの効果が最も高まる時期)に課題を行った。
・BTXは皺眉筋に注射して完全な麻痺を作った。
課題中、怒りもしくは悲しみの表情の写真(全8種)を提示するか、写真を提示しないことをランダムな順番で行い、被験者は写真の表情を模倣もしくは観察を課される。課題の前後にfMRIを行い、表情はビデオテープに録画し、FACSで評価した。
結果
・BTXにより怒りと悲しみの表情の模倣で眉を下げる動作が有意に障害された(Fig1)。
・眉を下げる動き悲しみより怒りの表情の模倣で有意に強かった(Fig1)。
・対照群・BTX群の両方で怒り・悲しみの模倣いずれでも写真の提示がないときより両側の扁桃体が活性化した。表情の観察だけでは対照群とBTX群の両方で扁桃体の活性化しなかった。
・BTX群では怒りの表情の模倣で左の扁桃体の活動が対照群より有意に減少した。
・悲しみの表情の模倣と観察では扁桃体には群間で扁桃体の活動に違いは認められなかったが、BTX群では左外側眼窩前頭皮質を含む他の幾つかの領域で活動が減少した。
・怒りの表情で見られる眉の引き下げの強さと左扁桃体の活動の大きさは有意な相関があった(Fig3)。一方で悲しみの表情の模倣と扁桃体、右扁桃体と怒り・悲しみの表情の関連は認められなかった。
考察
・今回の研究では表情の模倣の際に顔の筋からのフィードバックが感情に関わる神経回路の活動を変化させる証拠を示した。
・現在のデータでは顔からのフィードバックが減ることで被験者が感じる感情になんらかの効果があると結論付けることは出来ない。
・しかし今回の研究結果は社会の他人との触れ合いの中で相手の感情を感じる生理学的な根拠になりうる
私見・明日への臨床アイデア
・この論文ではBTXによる末梢の麻痺であったが筋からのフィードバックが感情に影響を及ぼすのであれば中枢の麻痺でも同様のことが起こる可能性が考えられる。臨床でも患者によっては麻痺の治療が精神面の直接的なアプローチになる可能性があることを念頭に評価し、治療計画を立てる必要があると考える。
職種 理学療法士
塾講師陣が個別に合わせたリハビリでサポートします
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)