PHQ-9日本語版とは?採点・カットオフ・項目9への対応と臨床活用【PDF評価付き】
「最近、楽しめない」
その声を、次の支援へ。
Patient Health Questionnaire-9 日本語版
9つの回答から、気持ち・生活・必要な支援をつなぐ。

01|PHQ-9とは|抑うつ症状を、次の支援につなぐ
Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)は、過去2週間の抑うつ症状の頻度を本人が回答する9項目の質問紙です。うつ病が疑われる人を見つけるスクリーニングと、症状の程度・経過を整理するために使います。点数をつけた時点で診断が確定するわけではありません。[1][3]
リハビリ場面では、「参加しない」「意欲がない」と見える背景に、気分の落ち込みや楽しめなさ、睡眠・食欲の変化がないかを確かめるきっかけになります。身体機能と気持ちの両面を見て、必要な診察や支援へつなぐことが目的です。
02|日本語版の選び方|同じ版で継続して評価する
日本不安症学会ではPHQ-9日本語版を公開しています。本記事は、日本語版2018とMuramatsuらの検証研究を主な参照資料とし、原版の方法・国際的な研究も併記します。再評価では使用版、回答方法、補助内容をそろえます。[1][2][4]
日本語版2018には転載・改変・電子媒体への使用に関する制限があります。そのため、質問文を独自に整形した質問紙は配布せず、正式版へ直接リンクします。STROKE LABのPDFは、正式質問紙の結果と臨床対応を記録する補助用紙です。研究利用については学会の案内を確認してください。[1][2]
03|準備・実施時間|回答後の確認まで時間を確保する
必要なものは正式質問紙、筆記具、静かで話しやすい場所です。実施前に、陽性の回答や安全上の懸念があったときの連絡先・担当者を決めておきます。回収後に確認できない運用で、質問紙だけを配布しないようにします。
記入は通常数分で、実務上は5分程度を確保すると進めやすくなります。ただし、これは予定を組むための目安で、制限時間や日本語版の検証済み所要時間ではありません。読み上げの補助、症状の聞き取り、項目9の確認には別の時間を確保します。
「最近の体調と気持ちを整理し、支援を考えるための質問です。正解・不正解はありません」と説明します。本人が安心して答えられるよう、必要に応じて家族と離れて回答する機会を設けます。
04|実施の流れ|本人の回答をそのまま受け止める

- 対象期間を共有する。当日だけでなく、過去2週間全体を振り返ってもらいます。
- 正式な質問文・選択肢で回答する。各症状がどのくらいの頻度であったかを本人が選びます。説明者の印象で答えを決めません。
- 必要な補助を記録する。視力や書字の問題には読み上げ・代筆を検討しますが、回答は本人に確認します。
- 未回答と項目9をその場で確認する。空欄を0点で埋めず、総得点が低くても気になる回答を見落としません。
- 生活上の困難を聞く。家事、仕事、人との関わり、リハビリへの参加などにどう影響しているかを確認します。
- 次の対応を共有する。診察への連携、生活上の調整、再確認日を決めます。
家族が代わりに回答した点数は、本人回答のPHQ-9と同じようには扱いません。本人の回答と家族から得た観察情報は分けて記録してください。失語症や認知機能の問題で質問理解が難しい場合は、無理に合計点を作らず、面接・観察を含む別の評価方法を検討します。
05|何を確認する?|9項目と生活機能
9項目は、興味・楽しみ、気分、睡眠、疲労・活力、食欲、自己評価、集中、動き・話し方の変化、死や自傷に関する考えを扱います。これは内容の概説で、質問文の代わりではありません。回答には正式用紙を使います。[2][3]
身体疾患がある人では、疲労や睡眠の問題が病気・薬・環境の影響を受けることもあります。身体由来と思われるからと、その項目を独自に0点へ変更しません。本人の回答を記録したうえで、原因や重なりを診察・臨床情報で検討します。
末尾の生活機能に関する質問は、症状によって暮らしがどれほど難しくなっているかを確かめるものです。これは9項目の合計には加えず、対応の優先度を考える情報として使います。[2][3]
06|採点と重症度|合計点と診断を分ける
各項目を頻度の少ない順に0・1・2・3点とし、9項目を合計します。逆転項目はありません。項目9も合計には含めますが、安全上の確認は合計点とは別に行います。[3]
| 合計点 | 抑うつ症状の程度の目安 | 臨床で確認すること |
|---|---|---|
| 0〜4 | 最小限 | 低得点でも本人の困りごとや項目9を確認。 |
| 5〜9 | 軽度 | 生活への影響、持続期間、支援の必要性。 |
| 10〜14 | 中等度 | うつ病を含めた追加評価・診察への連携。 |
| 15〜19 | 中等度から重度 | 症状と生活機能を詳しく評価し、対応を具体化。 |
| 20〜27 | 重度 | 速やかに診察へつなぎ、安全性・生活維持も確認。 |
これらは原著で用いられる症状レベルの区分です。表の点数だけで薬物療法の開始や入院の要否を決めるものではありません。躁・軽躁の既往、身体疾患、薬の影響なども診察で確認します。[2][3]
0〜27点 / 生活機能の追加質問は合計しない
計算例:2+2+1+2+1+1+1+0+0=10点。これは追加評価を考える例であり、10点という数字だけでうつ病と断定しません。
07|10点以上の根拠|対象集団によって性能は変わる
| 研究・対象 | 10点以上での結果 | 読み方 |
|---|---|---|
| 原著:Kroenkeら,2001 | 感度88%・特異度88% | 構造化面接を受けた580人で大うつ病に対して検討。 |
| 日本語版:Muramatsuら,2018 | 感度90.5%・特異度76.6% | 284人の日本のプライマリ・ケア患者で検討。 |
| 脳卒中:Williamsら,2005 | 感度91%・特異度89% | 大うつ病に対する結果。日本語版の脳卒中検証ではない。 |
| 個人データ統合:Negeriら,2021 | 感度85%・特異度85% | 半構造化診断面接を基準にした研究群での統合値。 |
それぞれの数値は、同じ患者集団から得られたものではありません。日本語版研究では93人が大うつ病性障害と診断されました。陽性の人のうち実際に診断に至る割合は、その場の有病率や対象者によって変わります。[3][4][5][6]
脳卒中研究では、10点以上の性能は「大うつ病」に対して感度91%・特異度89%でしたが、「その他を含む抑うつ障害」では感度78%・特異度96%でした。何を見つけたいかが違えば、同じ閾値でも読み方が変わります。[5]
総得点の閾値による判定と、症状の数・中核症状を組み合わせる診断アルゴリズムは別の方法です。この記事は総得点でのスクリーニングと経過観察を中心に説明します。診断アルゴリズムを自己流で追加せず、正式指示と診察につなげます。
08|項目9への対応|点数で終わらせない

項目9が1点以上なら、その場で追加の確認につなぎます。ただし、この項目は受動的な死への思いと自傷に関する考えを含むため、陽性だけで「差し迫った自殺の危険がある」とは決まりません。逆に0点でも、言動や経過に懸念があれば確認が必要です。[7][8]
- 話してくれたことを受け止め、現在もその考えがあるかを、落ち着いて直接尋ねる。
- 対応可能な専門職が、意図、具体的な計画、最近の行動、支援者などを含めて評価する。
- 切迫した危険が疑われる場合は一人にせず、施設の緊急対応手順に沿って医師・救急の評価につなぐ。
- 切迫性が高くない場合も、必要な診察、支援計画、連絡方法、次の確認日を決めて記録する。
Naらの841人を対象とした研究では、項目9はC-SSRSに基づく自殺リスクの判定と十分には一致せず、単独でのリスク評価には不十分と結論しています。PHQ-9の点数を、自殺の予測値や安全の保証として使わないことが重要です。[7]
質問紙を配るスタッフが、詳細なリスク評価まで一人で担う必要はありません。誰に、いつ、どの情報を伝えるかをあらかじめ決め、連携が完了したことまで確認します。これは一般的な実務の整理で、施設の専門的な対応手順を置き換えるものではありません。
09|再評価|「5点」と「6点」の意味を区別する
治療や支援を始めた後は、総得点に加え、どの項目が変化したか、生活上の困難が減ったかを追います。NICEは治療開始後2〜4週間で効果を確認し、PHQ-9などによる経過観察を検討するよう示しています。安全上の懸念や悪化があれば、その日程を待たずに対応します。[11]
| 変化の目安 | 根拠と使い方 |
|---|---|
| 5点の変化 | 2004年の治療経過研究では、測定の標準誤差の2倍を用いて個人の最小重要差を5点と推定。すべての集団に共通する治癒基準ではない。 |
| 約6点の変化 | 2026年の個人データメタ解析では、PHQ-9のMDC95は5.72点。測定誤差を超えた変化を考える目安で、本人にとって意味のある改善と同義ではない。 |
2026年の研究は94研究・42,548人を統合したもので、一般診療では6点差がMDCの目安になり得る一方、対象集団により値は変わるとしています。日本語版の脳卒中患者に一律に適用できる専用基準ではありません。[9][10]
例えば16点から10点へ下がっても、抑うつ症状が残っている可能性があります。「6点下がったから終了」ではなく、睡眠、家事、対人交流、項目9の回答を合わせて確認します。小さな点数変化でも、本人が話せるようになったことや生活の変化は記録する価値があります。
10|AES・CAS・PHQ-2との違い
| 評価 | 主な目的 | 使い分け |
|---|---|---|
| PHQ-9 | 抑うつ症状の頻度と程度 | 気分・興味だけでなく身体症状や自己評価などを確認。 |
| PHQ-2 | PHQ-9の最初の2項目による短い確認 | 必要に応じてPHQ-9や診察へ。2項目だけでは安全性の確認は完結しない。 |
| AES/CAS | アパシー・自発性の低下 | 活動が始まらない背景を見る。抑うつと併存する場合もある。 |
「活動しないからアパシー」「悲しそうでないからうつではない」と短絡しません。本人が何を感じているか、どんな活動が止まっているか、睡眠・痛み・疲労はどうかを組み合わせて評価します。失語症や認知機能低下がある場合は、得点の解釈以前に、回答方法が本人の状態に合っているかを確認します。
11|臨床ストーリー|低下した参加を「意欲」で片付けない

架空事例:リハビリの回数を減らしたくなったAさん
脳卒中後のAさんは「疲れるから休みたい」と話します。療法士は筋力だけでなく、睡眠・痛み・薬・気持ちの変化を確認しました。正式質問紙では合計13点、項目9は0点でした。
面接では、夜間の不眠に加え、好きだった花を見ても楽しめず、家族への申し訳なさが続いていることが分かりました。主治医へ症状と生活への影響を共有し、診察につなぎました。
リハビリでは負荷と休憩を調整し、本人が希望した「朝、窓辺の鉢植えを見る」という小さな活動を設定しました。2週間後に気分、睡眠、生活機能、PHQ-9を再確認する予定を共有します。悪化した場合は予定を待たずに連絡できるようにしました。
これは支援の進め方を示す例で、特定の活動でうつ病が治るという意味ではありません。NICEでは構造化された行動活性化や認知行動療法などが治療選択肢に含まれます。日常活動を整えるリハビリ支援と、専門的な心理療法・医療は役割を分けて連携します。[11]
12|PDFを使う|評価・確認・連携を残す
臨床記録PDFはA4・3ページです。1ページ目に9つの症状領域の日本語解説、得点の読み方、項目9への対応を掲載しています。2〜3ページ目で得点、生活への影響、当日の対応、背景、連携・支援計画、再評価を記録できます。正式な質問文・選択肢は日本語版の原票をご確認ください。
質問・実施は原版をご確認ください。本PDFは採点結果と臨床対応を整理する補助記録です。
参考文献・公式資料
- 日本不安症学会.マニュアル・資料:PHQ-9日本語版の公開・利用案内.
- 日本不安症学会公開.PHQ-9日本語版(2018)・使用方法.
- Kroenke K, Spitzer RL, Williams JBW. The PHQ-9: Validity of a Brief Depression Severity Measure. J Gen Intern Med. 2001;16:606–613.
- Muramatsu K, et al. Performance of the Japanese version of the Patient Health Questionnaire-9 (J-PHQ-9) for depression in primary care. Gen Hosp Psychiatry. 2018;52:64–69.
- Williams LS, et al. Performance of the PHQ-9 as a screening tool for depression after stroke. Stroke. 2005;36:635–638.
- Negeri ZF, et al. Accuracy of the Patient Health Questionnaire-9 for screening to detect major depression: updated systematic review and individual participant data meta-analysis. BMJ. 2021;375:n2183.
- Na PJ, et al. The PHQ-9 Item 9 based screening for suicide risk: a validation study … with the Columbia Suicide Severity Rating Scale (C-SSRS). J Affect Disord. 2018;232:34–40.
- NIMH. A Clinical Pathway for Suicide Risk Screening in Adult Primary Care. 2022.
- Löwe B, et al. Monitoring depression treatment outcomes with the patient health questionnaire-9. Med Care. 2004;42:1194–1201.
- Wang Y, et al. Minimal detectable change of the Patient Health Questionnaire-9, Patient Health Questionnaire-8, and Patient Health Questionnaire-2: individual patient data meta-analysis. BMJ. 2026;394:e100119.
- NICE. Depression in adults: treatment and management. NG222:Recommendations.
資料確認:2026年11月3日。事例・イラストは説明用です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)