タオルで体を拭けない子|腕の届き方と身体イメージを育てる
タオルで体を拭けない子|腕の届き方と身体イメージを育てる
その「できる条件」と「難しくなる条件」の差を見ていきます。
お風呂から上がったあと、「自分で拭いてみよう」とタオルを渡しても、お腹や腕だけで終わってしまう。背中や脇、脚に水滴が残る。何度声をかけても同じところを拭いている。こうした様子には、単なる「やる気」だけではなく、腕の届き方、姿勢、身体の位置の捉え方、タオル操作、両手の協力、手順などが重なっていることがあります。この記事では、家庭で確認しやすいポイントと、専門施設で動作をどう分けて考えるのかを整理します。

「どこを拭き残すか」は、大切な手がかりです。
体を拭く様子を見るとき、最初に「全部できたか」を確認する必要はありません。まず見てほしいのは、どこから動作が難しくなるのかです。
胸やお腹など、目で見える場所は拭けるのに、背中や肩の後ろになると急に手が止まる。腕は拭けても足先になると姿勢が崩れる。タオルを一度持ったまま、持ち替えられない。こうした違いを見ると、「苦手」という一言では見えなかった動作の特徴が整理しやすくなります。
体を拭く動作には、6つの働きが重なっています。
一見すると単純な「タオルで拭く」という動作も、実際には多くの働きを同時に使っています。腕だけを評価すると、なぜ生活ではうまくいかないのかを見落とすことがあります。
| 動作を支える働き | 体を拭くときに必要なこと | 家庭で見えやすい様子 |
|---|---|---|
| 腕の届き方 | 肩・肘だけでなく、肩甲帯や体幹も使って背中、脇、脚へ手を運ぶ | 前は拭けるが、背中や反対側の肩になると届かない |
| 身体図式・位置感覚 | 見えにくい背中や後頭部などの場所を捉え、手をそこへ運ぶ | 背中を探すように何度も手の位置を変える |
| タオル操作 | 握る、広げる、持ち替える、滑らせる、適切な力で押さえる | 手では触れるのに、タオルを持つと届かなくなる |
| 両手の協力 | 左右の手でタオルを扱い、必要に応じて張ったり持ち替えたりする | 片手だけで無理に背中へ届こうとする |
| 姿勢・バランス | 手を動かしながら座位や立位を保ち、必要な方向へ体を傾ける | 座るとできるが、立つと急に動作が雑になる |
| 手順・注意 | どこを拭いたか覚えながら次の身体部位へ移る | 同じ場所を繰り返し、脇や背中を毎回忘れる |
一般的な「身体イメージ」は、自分の身体について意識的に感じたり捉えたりする側面を含みます。一方、身体図式は、動いている身体の位置を感覚情報から更新し、見なくても手足を動かすために使われる内部的な「身体の地図」に近い概念です。背中など目で直接確認しにくい場所を拭くときには、このような身体位置の捉え方も関係します。

家庭では、条件を1つだけ変えて比べてみましょう。
一度にたくさん練習するよりも、同じ動作で条件を1つだけ変えると、何が難しさに関係しているのか見えやすくなります。診断をするためではなく、「どんな条件なら自分でできるのか」を見つけるための比較です。
| 比べる条件 | 確認したいこと | 変化から考えられること |
|---|---|---|
| 手だけ / タオルあり | 手なら背中や肩へ正確に触れられるか | タオルを持ったときだけ難しくなるなら、道具操作や両手協調なども確認する |
| 鏡あり / 鏡なし | 鏡を見ることで、手の位置や拭く場所が安定するか | 視覚情報が動作をどの程度助けているかを考える手がかりになる |
| 座位 / 立位 | 姿勢を安定させると、腕やタオル操作が変わるか | 立位で姿勢を保つ負荷が加わることで動作が難しくなっている可能性を考える |
この場合、単純に「肩が硬いから」と考えるだけでは説明できません。タオルの長さを予測する、握ったまま手を移動する、左右の手を協力させる、身体と道具の位置関係を更新するといった課題が増えるからです。反対に、手だけでも同じ場所へ届きにくければ、姿勢や到達そのものを別に確認する必要があります。
最初から全部任せず、「できる形」をつくります。
自立を目指すからといって、最初から大きなバスタオルを渡し、「全部自分で」とする必要はありません。動作が難しい状態で失敗を繰り返すよりも、まず成功しやすい条件で流れを経験し、少しずつ手がかりを減らします。
| 家庭で試しやすい工夫 | ねらい |
|---|---|
| 小さめのタオルから始める | 布の重さや余った部分を減らし、握る・持ち替える操作を簡単にする |
| 座って拭く | バランスを保つ負荷を減らし、手の動作へ注意を向けやすくする |
| 鏡を使う | 手の位置や拭いている場所を視覚的に確認しやすくする |
| 拭く順番を毎回そろえる | 「次はどこ?」を考える負担を減らし、動作の流れを学びやすくする |
| 最後だけ大人が確認する | 子どもが自分で行う部分を残しながら、拭き残しを安全に補う |

「体を拭く」以外にも困りごとが続くかを見ます。
体を拭くことだけが少し苦手でも、練習や成長とともにできることが増える場合があります。一方、着替え、食事、洗身、道具操作など、複数の生活場面で同じような困りごとが続いている場合は、一度専門職へ相談して整理することも選択肢になります。
| まず家庭で見守りやすい様子 | 相談を検討したい様子 |
|---|---|
| 少し時間はかかるが、自分なりの方法で徐々にできる範囲が増えている | 体を拭く以外にも、着替え・洗身・食事など複数のセルフケアで大きな介助が続いている |
| 小さいタオルや座位など、条件を変えると自分でできる | 条件を簡単にしても、動作の組み立てが著しく難しい状態が続く |
| 本人が嫌がらず、練習そのものを続けられている | 毎日の入浴後に強い負担となり、本人・家族双方のストレスが大きい |
痛みがある、片側の腕だけ急に動かしにくくなった、転倒やけがのあとから届かなくなった、以前できていた生活動作が急にできなくなったなど、明らかな変化がある場合は、セラピー施設で判断するのではなく、まず医療機関へご相談ください。
研究では、「実際にしたい生活動作」を練習する視点が重視されています。
発達性協調運動症(DCD)の子どもを対象とした研究では、定型発達の子どもと比べ、着替え・個人衛生・食事などの日常生活動作に難しさが多く、姿勢制御や細かな手の操作などが生活動作へ影響していることが報告されています。
この研究から言える範囲:体を拭けないお子さんにDCDがあると判断する研究ではありません。「セルフケアは複数の運動要素から成り立つ」という理解の参考として扱います。
DCDの国際臨床推奨では、実際の活動や参加を目標にした課題志向型の介入が推奨されています。本人に意味のある目標を設定し、その課題と実際の環境に近い条件で練習し、家庭や学校などへつなげていくことが重視されています。
この研究から言える範囲:DCDを対象とした推奨であり、「体を拭く」動作そのものを比較した試験ではありません。そのため本記事では、タオル動作への直接的な効果を断定せず、介入を組み立てる原理として扱います。
家庭で大切なのは、座る、小さいタオルを使う、順番を見えるようにするなど、生活の負担を減らすことです。専門施設ではさらに、条件を変えたときの動作を比較し、どの要素がボトルネックになっているのかを仮説化します。診断、投薬、画像検査などの医学的判断は医療機関が担い、私たちは生活動作と発達の側から併走します。
専門施設では、動作の「止まる場所」まで分けて考えます。
専門施設で最初から「身体イメージを高める練習」を始めるわけではありません。まず実際のタオル動作を見て、どの条件で成功し、どの条件を加えると動作が崩れるのかを確認します。
例えば、手だけなら背中の同じ場所へ何度でも正確に触れられるのに、タオルを持った瞬間から位置がずれる場合があります。このとき、肩の柔らかさだけを繰り返し練習しても、生活動作の中心課題には届かない可能性があります。反対に、手だけでも背中への到達が難しければ、姿勢、体幹の回旋、肩甲帯を含む到達戦略などを先に確認します。
私たちが重視するのは、同じ子どもの中で条件を変え、その場で起きる変化を比較することです。タオルの有無、大きさ、視覚情報、姿勢、届く方向、速度などを1つずつ変えます。
その結果から、「身体位置の推定が難しいのか」「姿勢保持と腕操作を同時に行うことで崩れるのか」「タオルという道具を加えた瞬間に運動計画が複雑になるのか」「順番を覚えておく部分で止まるのか」といった仮説を組み立てます。
セラピーでは、その仮説に合う条件から課題を組み、成功の再現性を確認します。そして最後は同じ「体を拭く」動作へ戻します。訓練室で腕が動くようになったことと、お風呂上がりに自分で拭けるようになったことは、同じではないからです。
そこまで見るのか①:タオルを「持つ前」と「持った後」を比べる
背中へ手を伸ばす動作を、まずタオルなしで確認します。次に小さいタオル、さらに普段のタオルへ変えます。身体への到達位置は同じなのに、道具を加えた瞬間に誤差が増えるのであれば、単純な関節可動域とは違う課題が見えてきます。
そこまで見るのか②:最初はできても、後半になると拭き残しが増えないか
1回だけ成功したかではなく、動作を続けたときに質がどう変わるかも見ます。最初の腕や胸は丁寧に拭けても、後半になると姿勢が崩れる、手順が飛ぶ、持ち替えが減る場合があります。実生活では、複数の身体部位を続けて拭く必要があるため、動作後半の変化も生活能力の一部として捉えます。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 確認する評価・観察 | 選択するセラピー | 難易度の調整 | 生活で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 前面は拭けるが、背中を大きく残す | 身体位置の捉え方、後方への到達、視覚への依存 | 手だけで背中へ触れる、鏡あり・なし、左右の到達差 | 目標部位への到達を実際のタオル動作へつなげる | 鏡→目印→視覚手がかりを少しずつ減らす | 背中を自分から拭く回数、声かけ回数 |
| 手なら届くが、タオルを持つと届かない | 把持、持ち替え、両手協調、道具を含む運動計画 | 手のみ、小タオル、普段のタオルで成功率を比較 | 小タオルから実課題を練習し、両手操作へ広げる | タオルの大きさ、長さ、持つ位置を変える | 自分で持ち替えられるか、必要な介助量 |
| 立つと雑になるが、座るとできる | 姿勢制御と上肢操作の同時処理 | 座位と立位で同じ部位を拭き、動作精度を比較 | 安定した姿勢で課題を習得し、必要に応じて姿勢条件を広げる | 足部支持、座面、届く距離を調整する | 安全を保ちながら最後まで行えるか |
| 毎回同じ場所を忘れる | 手順、注意、作業記憶、終了判断 | 自由条件と絵カード条件で声かけ回数を比較 | Goal-Plan-Do-Checkなど、課題を自分で整理する方法を使う | 手がかりを段階的に減らす | 声かけなしで進められる部位数、拭き残し |
| 特定のタオルだけ強く嫌がる | 触覚、素材、圧、温度などの感覚的な負担 | 複数素材を比較し、拒否・回避・力加減を観察 | 本人が受け入れやすい素材・圧からセルフケアを成立させる | 本人が選べる範囲で素材や刺激を調整する | 入浴後の拒否、親子双方の負担 |
介入は、苦手な機能ではなく「生活目標」から逆算します。
| 介入系統 | 対象となる課題 | なぜ選ぶか | 生活で目指す変化 |
|---|---|---|---|
| 実際のタオル課題 | タオルを持つと動作が崩れる | 学びたい活動そのものを、成功しやすい条件で練習するため | 家庭のタオルでも自分で操作できる |
| 到達・姿勢の調整 | 特定部位へ手が届かない、姿勢が崩れる | 腕だけでなく、体幹や支持面を含めて到達方法を再構成するため | 脇、背中、脚など拭ける範囲が広がる |
| 視覚・身体位置の手がかり | 見えない身体部位で迷いやすい | 必要な情報を補いながら、手がかりを段階的に減らすため | 鏡がなくても目的部位へ手を運びやすくなる |
| 認知的な問題解決 | 順番や方法が分からず動作が止まる | 大人が答えを毎回教えるのではなく、自分で方法を考える力を支えるため | 自分で次の部位や方法を選べる |
セラピーでは、回数だけを増やせばよいわけではありません。タオルの大きさ、姿勢、視覚的な手がかり、拭く部位の数などを調整し、本人が能動的に試せる状態をつくります。
成功が安定してきたら、一度に一つの条件を難しくします。逆に失敗が続く場合は、能力不足と決めつけず、課題設定そのものを見直します。子ども自身が「こうしたらできた」と気づけることも、生活へ広げるための重要な学習です。
CO-OPは、本人が目標を選び、「Goal-Plan-Do-Check」のような問題解決の枠組みを使いながら、実際の生活課題を学ぶ方法です。2023年の系統的レビューでは、神経発達症のある子どもの活動・参加領域に良い変化が報告されています。
限界:含まれた研究には小規模研究やエビデンスレベルの低い研究も多く、すべての子ども、すべての生活動作に同じ効果があるとは言えません。体を拭く動作だけを検証したレビューでもありません。そのため、評価にもとづき個別に選択します。

「訓練室でできる」を、「お風呂上がりにできる」へ。
セラピーの中でタオル操作が上手になっても、それだけで生活上の自立とは判断しません。実際のお風呂上がりには、疲れている、時間が限られている、身体が濡れている、いつものタオルを使うなど、訓練室とは違う条件があります。
そのためSTROKE LABでは、機能の変化だけでなく、「声かけが何回必要だったか」「自分から背中へ手を回したか」「拭き残す部位が減ったか」「家族が最後に手伝う量が減ったか」といった生活上の変化も大切にします。
STROKE LABでは、実際の生活動作を確認しながら、姿勢、腕の届き方、身体位置の捉え方、両手操作、注意や手順、環境条件まで含めて整理します。ご家庭での関わり方も、その子に合わせて一緒に考えていきます。
保護者の方から多い疑問を整理します。
Q. 何歳くらいから、自分で体を拭けるようになりますか?
Q. 背中だけ拭けないのは、体が硬いからでしょうか?
Q. 鏡を見ながら体を拭かせてもよいですか?
Q. 大きなバスタオルより、小さいタオルの方がよいですか?
Q. 何度言っても同じ場所を拭き忘れるのは、やる気の問題でしょうか?
Q. どのような場合に専門家へ相談した方がよいですか?
生活の「できない」を、動作の中から丁寧にほどきます。
STROKE LAB(東京・大阪)では、子どもの生活動作を、単純な筋力や柔軟性だけで捉えません。実際の課題を観察し、姿勢、感覚、身体位置、道具操作、注意、環境のどこで動作が変わるのかを整理します。
「体を拭けるようにする」ことが目標なら、最後に確認するのも体を拭く動作です。専門施設の中だけで上手になるのではなく、家庭で使える方法へ変換するところまでを大切にしています。
その子の動きから読み解く。

子どもの生活動作には、成長の途中だからこその難しさがあります。同じ「拭けない」という様子でも、腕が届きにくい子、タオル操作で迷う子、姿勢を保つだけで精一杯になる子では、必要な関わりは変わります。
私たちは、機能解剖と動作分析を土台に、「何を変えると、その場で動作が変わるか」を丁寧に見ます。そして、そこで得られた変化を生活の「自分でやりたい」につなげていきます。
お子さんに練習を押しつけるのではなく、ご家庭で続けられる方法まで含めて一緒に整理します。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。生活動作を「できない」で終わらせず、姿勢・感覚・運動のつながりから読み解く視点は、小児の動作を見る際にも大切な臨床的土台となります。
- 身体イメージが育ちにくい子|自分の体を感じる運動支援
- 着替えが苦手な子|両手操作と体の使い方を考える
- 手洗いが雑になる子|手順理解・両手協調・感覚の見方
- STROKE LABの小児セラピーについて
本記事は、子どものセルフケア・協調運動・身体図式・活動志向型介入に関する研究、国内外の公的資料、およびSTROKE LABの臨床経験をもとに構成しています。「タオルで体を拭く」動作そのものを対象とした質の高い比較試験は限られるため、近接する研究から言える範囲と臨床上の仮説を分けて記載しています。診断・医学的治療に代わるものではありません。
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- Summers J, Larkin D, Dewey D. Activities of daily living in children with developmental coordination disorder: dressing, personal hygiene, and eating skills. Hum Mov Sci. 2008;27(2):215-229.
- Madieu E, Gagné-Trudel S, Therriault PY, Cantin N. Effectiveness of CO-OP Approach for Children With Neurodevelopmental Disorders: A Systematic Review. Arch Rehabil Res Clin Transl. 2023;5(2):100260.
- Assaiante C, Barlaam F, Cignetti F, Vaugoyeau M. Body schema building during childhood and adolescence: a neurosensory approach. Neurophysiol Clin. 2014;44(1):3-12.
- 厚生労働省 令和4年度障害者総合福祉推進事業「協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査」DCD支援マニュアル.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)