パーキンソン病で職場に病気を伝えるか迷う|原因と対策・自宅でできる工夫
話すか、話さないか、迷っていいんです。
パーキンソン病だとわかってから、職場に伝えるべきか、ずっと迷っている——そう感じる方は少なくありません。迷いには理由があり、その理由を分けて考えると、進め方が見えてきます。症状面の原因、伝え方の整え方、そして自宅でできる準備を、順番に見ていきましょう。

「言うべきか」、迷っている。
会議中に手が震えるのを見られるのが怖くて、両手をひざの下に隠すようになった。字が小さくなり、書類が読みにくいと言われた。まだ誰にも病名を伝えていないのに、まわりから「疲れているの?」「やる気がないの?」と聞かれることが増えた——。そんな悩みを、私たちは何度も聞いてきました。
伝えるべきかどうかの答えは、一つではありません。でも、迷いの正体を分けて考えると、今できる準備が見えてきます。
パーキンソン病では、震えや動きの遅さ、疲れやすさなど、さまざまな症状が仕事に影響することがあります。その一方で、こうした症状は周囲に誤解されやすく、「伝えるとどう思われるか」という不安につながりがちです。この記事では、迷いの背景にある症状面の原因、伝える前に整えられる準備、そして自宅でできる工夫の順に整理していきます。パーキンソン病そのもののリハビリの全体像はリハビリ完全ガイドを、伝え方の具体的な進め方は開示の判断と配慮の求め方もあわせてご覧ください。

なぜ迷うのか、原因を整理する。
迷いには、大きく3つの原因が重なっています。①差別や評価への不安、②症状が予測しにくいこと、③症状そのものが誤解されやすいことです。とくに③は見落とされがちですが、対処しやすい部分でもあります。
パーキンソン病の症状は、知らない人が見ると、まったく違う意味に映ることがあります。まずは、どんな症状が、どう誤解されやすいかを見てみましょう。

| 症状 | 職場で誤解されやすい点 |
|---|---|
| 安静時の震え | 緊張している、体調が悪いのでは、と誤解されることがある |
| 動作緩慢・小字症 | 仕事が遅い、やる気がない、と誤解されることがある |
| 仮面様顔貌 | 無愛想、不機嫌、興味がない、と誤解されることがある |
| すくみ足・小声 | 不注意、コミュニケーションを避けている、と誤解されることがある |
| 疲労感・気分の変化 | 怠けている、意欲がない、と目に見えないぶん誤解されやすい |
さらに、薬の効き目には波があり、よく動ける時間帯(オン)と動きにくい時間帯(オフ)が同じ一日の中に混在することもあります。「昨日はできたのに今日はできない」という変動そのものが、周囲には伝わりにくく、それも迷いを深める原因の一つです。こうした症状面の背景を知っておくだけでも、「自分の性格や努力の問題ではない」と捉え直すきっかけになります。
厚生労働省がまとめた難病患者の就業支援に関する資料では、適切な環境整備によって、難病がある人の職業生活上の問題は劇的に解消・軽減できると予測されるとされ、28疾患について効果的な配慮の優先順位を示すガイドラインが作成されています。症状そのものは変わらなくても、伝え方と職場の受け止め方次第で、働きやすさは大きく変わるということです。
限界:効果の大きさは職種や業務内容によって異なります。合理的配慮の内容は、企業の過重な負担にならない範囲で検討されるものであり、希望がすべてそのまま実現するとは限りません。
STROKE LABの視点:伝える前に整える3ステップ。
「伝えるか、伝えないか」をいきなり決めようとすると、気持ちが重くなります。私たちがお伝えしているのは、決断の前に、準備を整えるという考え方です。次の3ステップは、決断そのものを急がせるものではなく、迷いながらでも少しずつ前に進むための土台です。

ステップ1:困りごとと体調のパターンを記録する。いつ、どんな場面で困るか(会議での書類記入、長時間の立ち仕事、細かい手作業など)と、症状が出やすい時間帯を、簡単なメモやカレンダーに残しておきます。感覚より記録のほうが、後で話すときの説得力になります。
ステップ2:伝える相手の順番を決める。一般的には、守秘義務のある産業医や保健師に相談し、そこから直属の上司、必要に応じて人事へと進めると、心理的なハードルが下がりやすくなります。同僚には、必要最小限にとどめる選択も十分に成り立ちます。
ステップ3:「病名」「困りごと」「欲しい配慮」をセットにしておく。病名だけでは、相手はどう対応すればよいか分かりません。ステップ1の記録をもとに、この3点を簡単な文章やメモにしておくと、当日緊張していても要点を伝えやすくなります。
このステップは、一度で完成させる必要はありません。記録を少しずつ増やし、伝える範囲を少しずつ広げていく——そのくらいのペースで十分です。合う伝え方や順番は職場によって異なるので、産業医や次章で紹介する相談窓口と一緒に調整すると、より現実的な形になります。
自宅でできる、体調管理の工夫。
伝えるかどうかを考える土台は、実は自宅での過ごし方にもあります。体調が整うほど、困りごとの記録もしやすく、伝える気持ちの余裕も生まれます。ここでは、明日から取り組める工夫を挙げます。
服薬と生活リズムの記録をつける。薬の調整そのものは主治医の領域ですが、「何時に飲んで、何時ごろから動きにくくなるか」を記録し、次の診察に持っていくことは自宅でできます。仕事のスケジュールと薬の効き目のタイミングをすり合わせる相談材料になります。
疲れをためないリズムをつくる。負担の大きい作業は、体が動きやすい時間帯にまとめる、こまめに小休止を入れる、といった配分の工夫は自宅の生活でも練習できます。休日の過ごし方から疲労のたまり方のパターンを知っておくと、平日の働き方にも応用しやすくなります。
運動習慣で機能を保つ。体を大きく動かす運動を続けることは、動作の質や生活の質を保つうえで役立つとされています。仕事のパフォーマンスを支える土台として、体操・自主トレ大全も参考にしてください。
話す練習をしておく。家族や信頼できる友人の前で、ステップ3で作った説明メモを声に出して伝えてみます。一度声に出しておくだけで、本番での緊張がやわらぐ方は多くいます。

2024年に更新されたコクランレビューでは、理学療法やダンスなどの身体運動が、パーキンソン病の動作や生活の質の向上に役立つ可能性があるとまとめられています。一方で、どの種類の運動がもっとも効果的かは、まだ十分に分かっていないとも指摘されています。
限界:多くの研究が短期間の効果しか調べておらず、種目間の優劣を断定できる段階ではありません。効果には個人差があり、進行度によっても変わります。運動は薬や専門的な治療の代わりではなく、組み合わせて使うものです。
自宅での準備が記録と練習だとすれば、専門施設で目指すのは、その記録を、実際の業務動作の工夫や、伝えるための具体的な言葉に落とし込むことです。私たちが取り組むのは、主に次の3つです。
1. 動作の評価と工夫の提案。書字、細かい手作業、立ち座り、歩行など、業務で必要な動作を評価し、時間帯や道具を含めた具体的な工夫を一緒に探します。
2. 疲労とオン・オフの見える化。一日の中での体調の波を整理し、業務のどの部分をどの時間帯に配置すると負担が少ないかを、記録をもとに一緒に検討します。
3. 伝える練習の伴走。ステップ3で作ったメモを、実際に声に出して伝える練習に付き合い、表現をより伝わりやすい形に整えます。
私たちは労務や法律の専門家ではないため、就業規則や制度の詳細は産業医・社会保険労務士・難病相談支援センターと連携しながら進めます。STROKE LABが担うのは、身体面・生活面から「働き続けるための土台」を一緒に整えることです。
脳リハ.comのYouTubeでは、自宅でできる体操を配信しています。仕事の疲労管理の土台として、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門家のサポートと、相談先。
一人で抱え込まず、使える窓口を知っておくことも大切な準備です。職場に伝える前に、外部の相談窓口へ先に相談するという順番も十分に成り立ちます。
産業医・保健師。会社に在籍している場合、まず相談する先として心理的な負担が少ない窓口です。守秘義務があり、本人の同意なく詳細が上司や人事に伝わることは基本的にありません。
難病相談支援センター・ハローワークの専門窓口。都道府県ごとに設置されている難病相談支援センターや、難病患者向けの就労支援窓口では、制度や伝え方について、会社を通さずに相談できます。パーキンソン病は国の指定難病で、一定の条件を満たすと医療費助成の対象になり、症状の程度によっては障害者手帳の取得や、障害者雇用における合理的配慮の対象となる場合もあります。
主治医・医療ソーシャルワーカー。診断や治療の相談だけでなく、利用できる制度や地域の相談先について、通院先の医療ソーシャルワーカーが窓口になってくれることもあります。困ったときは主治医に「相談できる窓口はありますか」と聞いてみるのも一つの方法です。
受診や相談の目安は、症状で生活や仕事に支障が出てきたと感じたとき、または一人で抱えるには不安が大きいと感じたときです。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 職場に病気を伝えなければいけない決まりはありますか?
Q. 伝えると解雇されるのではないかと心配です。
Q. いつ伝えるのがよいタイミングですか?
Q. 誰に、どの順番で伝えればいいですか?
Q. 症状をどう説明すればいいかわかりません。
Q. 自宅でできることはありますか?
働き続けるための相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。困っている業務動作を一緒に確認し、疲労のパターンを整理し、伝えるための言葉を一緒に練習します。労務や制度の判断は産業医・社会保険労務士など専門家の領域を尊重し、私たちは身体面・生活面から働き続ける土台を支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
前に進む準備はできます。

「職場に伝えるべきか」というご相談を受けるたびに感じるのは、多くの方が症状そのものより、誤解されることへの不安と闘っているということです。震えを見られたくない、字が読みにくいと言われたくない——その気持ちは、決して弱さではありません。
決断を急ぐ必要はありません。ですが、準備は今日から始められます。記録をつける、体調を整える、伝える言葉を用意しておく。その積み重ねが、いざ伝えるときの力になります。
働き続けることでお悩みなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている動作や生活の場面から、一緒に整えていきます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的資料と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。就業・制度に関する最終判断は、産業医・社会保険労務士・難病相談支援センター等の専門家にご相談ください(最終確認日:2026年9月3日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- 厚生労働省:難病のある人の雇用管理・就業支援ガイドライン関連資料(今後の難病対策の在り方に関する検討会)(環境整備による職業生活上の問題軽減に関する記載の出典)
- Ernst M, et al. Physical exercise for people with Parkinson’s disease: a systematic review and network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2024.(運動と動作・生活の質に関するエビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)