パーキンソン病で体が右(左)に傾く|原因と対策・自宅でできる工夫
傾きは、直す前に気づくことから。
気づいたら体が右や左に傾いている。写真を見て初めて気づいた、というご家族も少なくありません。パーキンソン病では、体幹側屈(体幹の傾き)という姿勢の変化がみられることがあります。自分では傾きに気づきにくいからこそ、外からの手がかりが助けになります。しくみと、今日から自宅でできる工夫を整理します。

写真を見て、気づいた。
椅子に座っているとき、いつのまにか体が右や左に傾いている。声をかけると一瞬まっすぐに戻るけれど、しばらくするとまた傾いてしまう。本人には「傾いている」という自覚があまりなく、指摘されて初めて驚くことも少なくありません。
でも、知ってほしいのです。これは体幹側屈という姿勢の変化で、しくみを知り、外からの手がかりを使うことで、向き合い方が変わってくるということを。
パーキンソン病では、座っているときや立っているときに、体が左右どちらかに傾いてしまう体幹側屈(海外ではピサ症候群と呼ばれることもあります)がみられることがあります。姿勢を保つ動作は無意識に行われているぶん、その乱れにも本人が気づきにくいという特徴があります。まずはしくみを知り、そのうえで具体的な向き合い方を見ていきましょう。リハビリの全体像はリハビリ完全ガイドにまとめています。
体幹側屈の、しくみと特徴。
体幹側屈は、骨や関節そのものが変形して起こる一般的な側弯とは区別されています。国際的な報告では、脳の中で体の傾きを感じ取り、まっすぐを保とうとするしくみ(感覚と運動の統合)の乱れが関わっていると考えられており、加えて左右の体幹の筋肉の緊張に差が出ることも関係すると考えられています。原因ははっきりと一つに定まっているわけではなく、いくつかの要因が重なって起こると理解されています。特徴を整理しておきましょう。
| 特徴 | どういうことか |
|---|---|
| 座位・立位で強く出る | 重力に逆らって姿勢を保つ場面で傾きが目立ちやすい |
| 横になると軽くなる | 重力の影響が減ると、傾きが軽くなったり消えたりしやすい |
| 自覚しにくい | 本人の「まっすぐ」の感覚自体がずれていることがある |
| 薬の影響が関わることも | 一部の薬剤が関与すると報告されており、自己判断で中止・変更はしない |
ここに、向き合い方のヒントが隠れています。自分の「まっすぐ」の感覚がずれているなら、外の基準を貸せばよい。横になると軽くなるなら、その姿勢で緊張した筋肉をゆるめる時間をつくればよい。次の章から、この考え方を具体的な手順にしていきます。なお、体が前に折れ曲がる前かがみの症状(腰曲がり)は、これとは別の現象として扱われます。両方が気になる場合は、まとめて専門家に相談してください。

STROKE LABの視点:「まっすぐ」を教え直す3つの手がかり。
体幹側屈への対処でいちばん手早く効くのが、自分の感覚だけに頼らず、外からの基準(キュー)を借りることです。目・耳・皮膚感覚のいずれかから「まっすぐ」の手がかりを与えると、姿勢が整いやすくなります。特別な道具がなくても、自宅で次の3ステップから始められます。
手がかり1:壁を使って「垂直」を体に通す。後頭部・肩甲骨・お尻を壁につけて立つ、または壁際に椅子を置いて背中を軽く触れさせて座ります。壁というまっすぐな面が、体に垂直の基準を教えてくれます。
手がかり2:鏡で「見て」確認する。全身が映る鏡の前で座ったり立ったりし、自分の目で傾きを確認します。感覚だけでなく視覚を使うことで、ずれに気づきやすくなります。慣れないうちは、家族に「今どれくらい傾いているか」を教えてもらうのも有効です。
手がかり3:傾いている側と反対の手や物に触れる。傾く側と反対の手すりやテーブルに軽く手を添える、反対側の肩に家族がそっと触れる、といった皮膚の感覚も、姿勢を立て直す手がかりになります。触れる強さは「軽く添える」程度で十分です。
大切なのは、力ずくで体をひねって戻すのではなく、外の手がかりを借りて、まっすぐな姿勢をゆっくり体に思い出させることです。1日に何度も、短い時間でよいので繰り返すことが、力任せに一度だけ戻すより効果的です。合う手がかりの種類や強さは人それぞれなので、作業療法士や理学療法士と一緒に調整すると近道です。
ストレッチ・座り方・歩行の工夫。
手がかりを使う練習に加えて、体そのものの準備も整えておくと、姿勢が保ちやすくなります。合言葉は「縮んでいる側を伸ばし、支えを整える」です。
傾いている側の脇腹は縮み、反対側は伸ばされた状態が続きやすいため、入浴後など体が温まっているときに、傾く側の脇腹を伸ばす軽いストレッチを取り入れてみてください。椅子に座るときは、傾く側のお尻や太ももの下にクッションを薄く挟むと、支えが増えて姿勢が保ちやすくなることがあります。歩くときに使う杖や歩行器は、傾き方によって適した種類や持つ位置が変わるため、自己判断で選ばず理学療法士に相談するのが安全です。運動で体幹を大きく動かす習慣も土台づくりに役立つので、体操・自主トレ大全もあわせて活用してください。
体幹側屈のあるパーキンソン病の方20名を対象にした予備的な研究では、視覚や触覚の手がかりを用いたリハビリを行ったところ、筋肉の緊張パターンによっては、体の傾きが半分程度まで小さくなったグループがあったと報告されています。
限界:対象人数の少ない予備的研究で、専門施設での機器を使ったリハビリの結果です。効果には個人差があり、筋肉の緊張パターンによって改善の度合いに差がありました。自宅でのセルフケアだけの効果を示したものではありません。
同じ「体が右に傾く」でも、傾いている側の筋肉が過剰に働いているのか、反対側の筋肉がうまく働いていないのかで、有効な手がかりや練習の組み立ては変わってきます。専門施設では、筋肉の働き方や傾きの角度を確認したうえで、その人に合った方向性を選びます。働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 個別のキューイング。視覚(壁・鏡・ライン)、聴覚(一定のリズムやかけ声)、体性感覚(触れる・支える)の中から、その人にいちばん反応の良い手がかりを見極めて組み合わせます。
2. 左右差を整える運動療法。縮んでいる側のストレッチと、働きにくくなっている側の筋活動を引き出す運動を組み合わせ、左右のバランスを整えていきます。
3. 生活場面での定着。座る・立つ・歩くといった実際の生活動作の中で、整った姿勢を繰り返し経験できるよう練習を組み立て、日常でも保てるようにしていきます。
STROKE LABが軸足を置くのは、評価でその人の傾きの背景を見極め、外の手がかりで整った姿勢を繰り返し経験させ、生活の中に定着させていくという流れです。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。薬の調整は主治医の役割です。
体幹側屈のあるパーキンソン病の方28名を対象にした無作為化比較試験では、4週間の集中的な神経リハビリテーションを行い、体幹の傾きに改善がみられたと報告されています。この研究では、リハビリに脳への非侵襲的な刺激を組み合わせる方法も検証されました。
限界:体幹側屈は薬による改善が乏しいことが知られており、この研究でも、リハビリによる改善は継続しないと数か月でゆるやかに戻りやすいと述べられています。効果には個人差があり、進行に伴って変動します。集中的な訓練には専門的な評価と指導が前提です。
脳リハ.comのYouTubeでは、体幹や姿勢に働きかける体操を配信しています。姿勢の土台づくりとして、無理のない範囲で習慣にしてみてください。
専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、まず座位・立位・臥位でどのくらい傾きが変化するか、どの筋肉が緊張しているかを確認したうえで、その人に合う手がかりの種類やストレッチ、練習の頻度を組み立てます。「食事のとき」「テレビを見ているとき」など生活の中で傾きやすい場面を題材にすると、練習の効果が生活にそのまま活きます。薬の調整は主治医の役割で、私たちは姿勢と生活の側から支えます。
受診の目安は、傾きが急に強くなった、痛みや息苦しさを伴う、横になっても傾きが戻らない、転倒が増えた、といったときです。体の傾きの原因は体幹側屈だけとは限りません。自己判断せず、神経内科で原因を確かめてください。専門的な費用や施設の選び方は自費リハビリの費用・施設の選び方にまとめています。

よくある質問。
Q. 体が右(左)に傾いてきたのは、パーキンソン病のせいですか?
Q. 前かがみになる症状(腰曲がり)と、体が横に傾く症状は同じですか?
Q. 横になると傾きが軽くなるのですが、これはどういうことですか?
Q. 自宅でできる対策はありますか?

Q. 体幹側屈はリハビリで改善しますか?
Q. 転倒が心配です。何に注意すればよいですか?
姿勢の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中とパーキンソン病を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。傾きの背景にある筋肉の働き方や生活場面を一緒に確認し、手がかりの種類・ストレッチ・座り方や歩行の工夫を、その人に合わせて組み立てます。食事や着替えなど、実際の生活場面を題材にするので、練習がそのまま生活に活きます。薬の調整は主治医を尊重し、姿勢と生活の側から支えます。保険リハとの併用も歓迎です。

動作分析から自主トレーニングまで
運動を通じて心身の状態を整える考え方を、動作分析の視点から体系化。本文と連動するYouTube動画62本で、実際の動きも確認できます。
姿勢は変わります。

「本人は真っすぐのつもりなのに」というご家族の戸惑いに、何度も出会ってきました。体の傾きは、本人の努力が足りないからでも、我慢が足りないからでもありません。姿勢を保つしくみそのものが乱れているのです。
お伝えしたいのは、壁や鏡といった、身の回りにあるものが、体に「まっすぐ」を教え直す手がかりになるということです。力ずくで戻そうとせず、外の基準を借りて、少しずつ体に思い出させてあげてください。
姿勢の傾きでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。生活の中で困っている場面そのものを題材に、その方に合う手がかりを一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の診療ガイドライン・公的情報と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。体の傾きには他の原因もあります。気になるときは、必ず神経内科・主治医にご相談ください(最終確認日:2026年8月18日)。
- 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
- 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
- Tinazzi M, et al. Pisa syndrome in Parkinson’s disease and parkinsonism: clinical features, pathophysiology, and treatment. Lancet Neurol. 2016;15(13):1063-1074.(体幹側屈の定義・central/peripheral仮説・薬剤誘発性についての総説。第2節のしくみ解説の出典)
- Pisa Syndrome in Parkinson’s Disease: A Novel Rehabilitation Approach in a Microgravitary Environment. Open J Complement Altern Med. Iris Publishers. 2020.(視覚・触覚キューを用いたリハビリで体幹側屈が軽減したと報告。第4節・エビデンスボックスの出典)
- De Icco R, et al. Non-Invasive Neuromodulation in the Rehabilitation of Pisa Syndrome in Parkinson’s Disease: A Randomized Controlled Trial. Front Neurol. 2022;13:849820.(集中的神経リハビリで体幹側屈が改善し、リハビリ単独の効果は数か月で薄れやすいと報告。第4節・専門リハエビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:パーキンソン病の機能促進(動作分析から自主トレーニングまで).医学書院.2025.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)