何度教えても運動が覚えられない子|運動学習の視点で支える
何度教えても運動が覚えられない子|運動学習の視点で支える
「昨日はできたのに、今日はまたできない」「家ではできるのに、園や学校だと崩れる」――そんなときは、能力がないと決めつける前に、その動きが、どこまで学習として残っているかを見ていくことが大切です。この記事では、できた回数ではなく、獲得・保持・転移・自己修正の流れから、「運動を覚える」ことを整理します。

その場でできることと、覚えることは違います
子どもが大人のまねをして1回できたとしても、それだけで「覚えた」とは言えません。運動学習では、練習の場でうまくいくことだけでなく、少し時間が空いても再現できるか、条件が変わっても使えるかまで見ていきます。
保護者の方が「何度教えても覚えられない」と感じる背景には、単なる不注意ややる気の問題ではなく、その子に合った学び方がまだ見つかっていないことも少なくありません。できない回数を数えるより、どの段階で学習が止まっているかを整理する方が、関わり方は具体的になります。

運動学習は、獲得・保持・転移・自己修正で見ます
運動を覚える流れは、大きく4つに分けると整理しやすくなります。
| 見る視点 | 意味 | 保護者から見えるサイン |
|---|---|---|
| 獲得 | 練習の場で少しずつできるようになること | 見本があるとできる、1回だけ成功する |
| 保持 | 時間が空いても同じ動きを再現できること | 昨日はできたのに今日は戻る |
| 転移 | 道具・場所・相手が変わっても使えること | 家ではできるのに園・学校で崩れる |
| 自己修正 | 失敗したときに自分で直していくこと | 毎回同じ声かけがないと動き直せない |
この4つを分けて考えると、「何度も教えているのに覚えない」の中身が見えてきます。問題は回数そのものではなく、どの段階に合った練習になっているかです。
STROKE LABでは、「どこで学習が止まっているか」を見ます
私たちがまず大切にしているのは、「この子は覚えられない」という言い方で止まらないことです。同じように見える困りごとでも、実際には次のように背景が違います。
- 見本があるとできるが、見本が消えると難しい
- その日はできるが、次の日には戻る
- 家ではできるが、園や学校では崩れる
- 繰り返すうちに疲れて精度が下がる
- 失敗した後に、自分で修正する手がかりが持てない
ここを分けずに「もっと練習しよう」とだけ進むと、うまくいかない体験ばかりが増え、本人の自信も下がりやすくなります。逆に、どの段階に課題があるかが分かれば、声かけ、課題の難しさ、道具、順番の組み立て方が変えられます。

研究でわかっていること
家庭でできる支え方
家庭では、教える量を増やすことより、学びやすい形に整えることが大切です。
| やってみたい工夫 | 意図 |
|---|---|
| 1回に伝えるポイントを1つに絞る | 情報が多すぎると、何を意識すればよいか分かりにくくなるためです |
| 成功しやすい条件から始める | 難しすぎると、練習が失敗体験ばかりになりやすいためです |
| すぐ正解を言いすぎず、試す時間を作る | 自分で調整する感覚が育ちやすくなります |
| 少し条件を変えてみる | 家だけの成功で終わらず、転移のきっかけを作れます |
| 翌日や数日後にも短く試す | その場の成功ではなく、保持できているかを見られます |
大切なのは、「親が先生になり続ける」ことではありません。親子関係を保ちながら、短く、続けやすく、失敗が増えすぎない形にすることが、家庭での支え方の基本です。
相談の目安
次のような場合は、家庭だけで抱え込まず、園・学校や専門家へ相談してみる価値があります。
- 複数の遊びや体育で、覚えにくさが続いている
- 本人が「どうせできない」と自信をなくしている
- 着替え、食事、道具操作など生活動作にも影響している
- 家ではできるが、園や学校では難しいなど環境差が大きい
- 大人の助けがないと毎回止まってしまう
一方で、急にできていたことができなくなった、痛みが強い、急な左右差やふらつきがあるといった場合は、運動学習だけの問題として扱わず、まず医療機関での評価を優先してください。
専門施設では、困りごとの仕組みを分け、育てたい機能と生活参加の両方へ働きかけます。診断・投薬・手術などの医学的判断は主治医が担い、私たちは評価にもとづく運動学習の設計と、家庭・学校へのつなぎ方を支えます。
専門施設で、さらに期待できること
専門施設での支援は、「もっと練習する」ことを強めるだけではありません。大切なのは、何が学習の妨げになっているかを分け、それに合わせて課題、フィードバック、環境、難易度を設計することです。
家庭では代償的な工夫で困りごとを減らすことが中心になりますが、専門施設では、回復的・発達的・適応的な関わりを組み合わせます。正常化だけを目標にせず、子ども本人が達成したい遊び、体育、生活動作、学校場面を起点に、運動学習の設計を行います。
1. 困りごとを分ける評価
| 評価領域 | 何を見るか | 介入選択にどうつながるか |
|---|---|---|
| 獲得と保持 | 見本あり・なし、直後・時間後・次回での再現性 | フィードバックの量を減らすべきか、保持を意識した練習を増やすべきかが変わります |
| 転移 | 道具、場所、相手、速さ、ルールが変わったときの崩れ方 | 条件を1つずつ変える段階づけが必要か、学校場面への橋渡しを先にするかが分かります |
| 注意・疲労・自律調整 | 反復後の精度低下、午前と午後の差、待ち時間の影響 | 練習量、休憩、課題時間、環境設定の組み方が変わります |
| 自己修正と方略 | 失敗後にどこを見直せるか、自分で言葉にできるか | 見本中心がよいのか、言葉やイメージを使った認知方略が合うのかを判断します |
| 家庭・学校環境 | 家庭ではできるが学校で崩れる場面、課題説明の受け取り方、周囲の人数 | 般化のために、先生への伝え方や環境調整をどう入れるかが見えてきます |
2. 回復・発達支援の介入体系
| 介入系統 | 対象となるボトルネック | なぜ選ぶか | 生活で期待する変化 |
|---|---|---|---|
| 目標志向の課題練習 | やりたい運動そのものがまとまりにくい | 実課題の中で、必要な要素を保ちながら学習できるためです | 体育や遊びで「やってみよう」が増える |
| フィードバック設計 | 声かけがないと止まる、見本依存が強い | 手がかりを徐々に減らし、自分で直す力へつなげるためです | 少ない指示でも動き出しや修正ができる |
| 条件変化と転移設計 | 家ではできるが他場面へ移りにくい | 近い条件から少しずつ変えることで、般化しやすくするためです | 園・学校・外遊びでも使える場面が広がる |
| 自己方略と環境調整 | 失敗後に立て直しにくい、注意や疲労の影響が大きい | 本人が使える言葉・手順・見通しを持ち、崩れにくい条件を作るためです | 失敗してもやり直しやすく、参加を続けやすくなる |
私たちがよく見るのは、「できた瞬間」ではなく、手がかりを減らした後にどうなるかです。療法士が横で声をかけていると成功しても、見本を消した途端に止まるなら、運動能力だけでなく、フィードバックへの依存や自己修正の弱さが関係していると考えます。
もう1つ重視するのは、条件を1つ変えたときの崩れ方です。ボールの大きさだけ変える、距離だけ変える、相手だけ変える。ここで成功率が大きく落ちるなら、「覚えていない」のではなく、「特定の条件にだけ学習が結びついている」可能性があります。
そのため介入では、評価所見→仮説→課題設定→その場の反応確認→次回までの保持確認、という因果の流れを大切にします。例えば、見本依存が強い子には、目標動作そのものを練習しながら、見本の提示時間を短くし、声かけの頻度を落とし、本人が「うまくいったポイント」を言葉にできるよう支えます。
最終的には、訓練室での成功をそのまま評価せず、家庭や学校で再現できる課題へ変換します。一定期間後に同じ目標動作で再評価し、必要なら難易度、量、環境を再設計していきます。
3. 量・難易度・学習設計
「たくさんやる」より、質を保てる量で、成功しすぎず失敗しすぎない難しさを探ることが重要です。注意が切れやすい、疲れで崩れやすい子には、短い反復を複数回に分ける方が合うことがあります。反対に、すぐ手助けが入ると学習が浅くなりやすい子には、試す時間を意図的に作る必要があります。
また、子どもが自分で「今日は何をよくしたいか」を選べる余地を入れると、学習への主体性が上がりやすくなります。楽しく、続けられ、生活で繰り返せる形にすることも、専門施設で大切にしている設計です。
4. 家庭・学校への般化
専門施設での目標は、訓練室の中だけで上手になることではありません。家庭や学校で実際にどう変わるかを、具体的なアウトカムで見ていきます。
- 翌日に、少ない声かけで同じ動きが再現できるか
- 体育や遊びで、自分から取り組む回数が増えるか
- 着替えや道具操作で、止まる回数や手伝いの量が減るか
- 学校の場面で、先生の指示1回で動き始めやすくなるか
このように、訓練室での能力と、生活での実行を分けて見ることが、専門施設で支援する意味です。
発達性協調運動症のガイドラインやレビューでは、目標志向の課題練習、家庭や生活場面とのつながり、学習の進み方に応じた調整が重視されています。一方で、どの方法がどの子に最も合うかは、診断名だけでは決まりません。
だからこそ臨床では、「何ができるか」より一歩進んで、「何が残るか」「何が場面を変えると崩れるか」「どの支援を減らしたときに自立性が上がるか」を見ます。研究で支持される介入原理を、その子の反応に合わせて組み立て、生活の目標へ接続していくことが重要です。
これは単なる運動の指導ではなく、学習の設計です。専門施設の価値は、評価にもとづく介入設計と、家庭・学校への般化の道筋を描けることにあります。

よくある質問
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。小児分野では、運動を「うまい・下手」で捉えるのではなく、機能解剖、動作分析、運動学習の視点から、生活の「したい」へつながる支援を組み立てています。診断・投薬・手術などの医学的判断は主治医を尊重し、私たちは生活と動きの側から併走します。医療機関でのリハビリとの併用も歓迎です。
「残る・使える」へ。

「何度教えても覚えられない」という悩みの中には、単なる練習不足では説明できないことが多く含まれています。私たちは、子どもが今どのように学び、どこで止まり、どの支援で次へ進めるかを丁寧に見ていきます。
大切なのは、うまくいった瞬間だけに注目しないことです。時間が空いても残るか、場面が変わっても使えるか、自分で修正できるかを見ながら、家庭・学校につながる支援を一緒に組み立てます。
お子さんの運動の困りごとを、ただの苦手で終わらせず、成長のチャンスとして支えたい方は、どうぞ一度ご相談ください。
代表取締役 金子 唯史

運動を「できる・できない」で終わらせず、姿勢、感覚、運動、学習の連鎖として見る視点をまとめた専門書です。子どもの運動学習を考えるうえでも、何がボトルネックになっているかを分けて考える土台になります。
- 小児リハビリについて詳しく見る
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- ボールをキャッチできない子|目と手の協調・予測の育て方
- スキップができない子|左右交互運動とリズムの育て方
- リズム運動が苦手な子|拍に合わせる力と運動制御の発達
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- Miyahara M, Hillier S, Pridham L, Nakagawa S. Task-oriented interventions for children with developmental co-ordination disorder. Cochrane Database Syst Rev. 2017;7:CD010914.
- 医学書院. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)