転ぶよりもよくぶつかる子|身体イメージと空間認知の見方
見えているのに避けきれないとき、体と空間の「合わせ方」を見る
机の角に肩をぶつける、ドア枠で腕を擦る、廊下で友だちに接触してしまう。そんな子どもたちは、ただ前を見ていないのではなく、見えた情報を使って減速し、進路を決め、体幅を空間に合わせるところでつまずいていることがあります。ここでは、家庭で見たいポイントと、専門施設でできる評価・介入の考え方を整理します。

ぶつかるとき、子どもの体の中で何が起きているか。
ぶつかるという出来事は、単に不注意だった、前を見ていなかった、で片づけられません。物や人をよけて通るには、見つける→進路を選ぶ→減速する→体幅を合わせる→通りながら修正するという、連続した調整が必要です。転倒が少ないのに衝突だけが目立つ子では、この流れのどこかにズレがあることが少なくありません。
たとえば、ドア枠で肩を擦る子は、見えていないのではなく、体を少し斜めにするタイミングが遅いのかもしれません。廊下で友だちによくぶつかる子は、人の動きに気づいたあと、どちらによけるか決めるのが遅れているのかもしれません。荷物を持つと増える子は、持ち物まで含めた通るために必要な幅を見積もるのが難しいことがあります。

STROKE LABの視点|回数ではなく、修正の始まりを見る。
STROKE LABの視点
私たちは、ぶつかった瞬間だけではなく、何歩前から調整が始まったかを見ます。視線が向いたのはいつか。歩幅は変わったか。速度を落としたか。肩や骨盤は少し回ったか。ここを見ると、「見えていない」のか、「見えているが体の調整へつながりにくい」のかが見えやすくなります。
もう一つ大切なのは、どこにぶつかるかです。右肩ばかりなのか、左腰なのか、手に持った物なのか。ぶつかる部位と場面を合わせて見ることで、体幅の見積もり、方向転換、体幹回旋、荷物を含めた身体イメージの更新など、考えるべきボトルネックが絞られてきます。

家庭で見たいポイント。
家庭では、ぶつかった回数を数えるだけでなく、次のような観点で見ておくと相談時の手がかりになります。
| 見るポイント | 見方の例 |
|---|---|
| ぶつかる部位 | 右肩、左腰、頭、持ち物など、どこが当たりやすいかを見ます。片側に偏る場合は特に記録が役立ちます。 |
| 場面の違い | 静かな廊下では少ないのに、集団移動や会話中に増えるか。家では少なく、園や学校で増えるかを見ます。 |
| 減速の始まり | 障害物の何歩前からゆっくりになるか。直前まで同じ速度で入っていないかを見ます。 |
| 荷物の影響 | バッグ、給食トレー、制作物などを持つと増えるか。持ち物まで含めた体幅の見積もりが必要になります。 |
| 時間帯・疲れ | 午前より午後、活動後や急いでいるときに増えるかを確認します。疲労や注意の配分も関わります。 |
様子を見られる場合と、相談したいサイン。
| 様子を見ながら工夫できること | 相談が安心なサイン |
|---|---|
| たまにぶつかるが大きなけがはなく、環境を整えると減る | ぶつかる頻度が高く、生活や遊び、園・学校活動に影響している |
| 静かな環境では少なく、急いだときだけ増える | 静かな場面でも多く、本人が怖がる・避ける・自信をなくしている |
| 声かけや通路幅の調整で少し改善する | 片側ばかりにぶつかる、急に増えた、視線の偏りや見えにくさ、動かしにくさがある |
| 動画で記録し、園や学校と共有できる | 急な左右差、意識の変化、けいれん、頭痛、嘔吐などがあり、まず医療機関を優先したい |
- どこでぶつかるか(家・園・学校・公園)
- 何にぶつかるか(机・ドア枠・人・持ち物)
- どの部位が当たりやすいか
- 急いだとき・疲れたときで変わるか
- 荷物を持つと増えるか
- 本人が困っていることや避けていること
- 可能なら短い動画を撮っておく
家庭でできる関わり。
家庭での工夫は、原因を断定することではなく、失敗を減らし、成功しやすい通り方を増やすことが中心です。まずは通路を片づけ、角の多い場所や急いで通る場所を整えます。そのうえで、「前を見て」ではなく、「ドアの前で少しゆっくり」「人が通ってから行こう」「肩を少し斜めにしてみよう」のように、動きへ変えやすい短い言葉で伝えます。
また、狭い場所を通る練習は、いきなり難しくせず、最初は余裕のある幅から始めて、少しずつ幅や速度を変えます。バッグや箱など、生活で実際に持つ物を使って練習することも役立ちます。親が療法士になる必要はありません。短く、続けやすく、親子関係を崩さない形で行うことが大切です。
- 「ちゃんと見て」「気をつけて」だけで終える
- 毎回すぐ手を引いてしまい、自分で調整する機会がなくなる
- 失敗が続く難しすぎる狭さや速さで練習する
- ぶつかったことだけを叱り、うまく避けられた場面を拾わない
- 急な左右差や見えにくさのサインを、性格や不注意だけで説明する
研究でわかっていること。
発達性協調運動症の子どもでは、狭い通路を通るときに、自分の体の幅に合わせて肩を回す判断が定型発達児と異なることが報告されています。つまり、ぶつかることは「見えているか」だけでなく、空間と自分の体をどう結びつけるかを見る必要があります。
DCDの国際推奨では、本人が困っている活動や参加に基づいて評価し、課題そのものを練習へつなげる考え方が重視されています。抽象的に「感覚を入れる」「体幹を鍛える」で終えず、何にぶつかるか、どこで困るかとつなげて考えることが大切です。
運動ベースの介入は運動技能や活動にプラスとなる一方で、学校や生活での参加にどこまでつながるかは、別に確かめる必要があります。だからこそ、家庭や学校でぶつからずに通れた回数や声かけの減少まで確認することが重要です。
研究の対象年齢、診断、重症度、介入量には幅があります。ここでの内容は医療機関での診断や治療の代わりではなく、見方と支援の考え方を整理するものです。個人差が大きいため、実際の支援では評価にもとづく調整が必要です。
専門施設で、さらに期待できること。
診断、視機能の医学的評価、薬、手術などは主治医の領域です。私たちは、生活の中でぶつかる困りごとを、動き・感覚・注意・環境の側から整理し、家庭や学校で使える形へつなぎます。
専門施設で目指すのは、「ぶつからないように気をつける」ことではなく、体と環境の適合を再設計することです。正常さだけを目標にするのではなく、本人や家族が困っている場面、たとえば教室の出入り、廊下移動、友だちとの遊び、給食トレーの運搬などに戻すことを中心に据えます。
評価では、身体・運動、感覚・知覚、認知・注意、疲労、環境の少なくとも5領域を切り分けて見ます。たとえば、机の角に肩を擦る子なら、肩幅に対する通路幅の見積もりだけでなく、何歩前から減速するか、肩と骨盤をどのタイミングで回せるか、荷物を持つと必要幅が広がることを更新できるかまで確認します。友だちにぶつかる子なら、静止物ではなく動く相手に対する予測と回避方向の選択が課題かもしれません。
| 困りごと | 考えられるボトルネック | 確認する評価・観察 | 選ぶ介入系統 | 難易度・量 | 生活で見る変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| ドア枠や机の角に肩を擦る | 体幅の見積もり、体幹回旋の開始時期 | 接触側、減速位置、肩と骨盤の向き | 開口部通過の課題練習、視覚目印、体幹回旋を使う実課題 | 通路幅、速度、回数を段階化 | 教室の出入りで接触が減る |
| 友だちとの集団移動でぶつかる | 他者の動きの予測、回避方向の選択、制動の遅れ | 静止物との違い、会話中の変化、停止時間 | 止まる・見る・選ぶの練習、動く相手を含む課題 | 人数、速さ、音、二重課題を調整 | 廊下移動で声かけが減る |
| 荷物を持つと増える | 持ち物を含めた有効身体幅の更新 | 荷物なし/あり、保持位置、視線、接触部位 | トレーやバッグを使った実課題、経路練習 | 重さ、幅、距離、速度を調整 | 給食や制作物の運搬がしやすい |
私たちは、「ぶつかるのは注意力の問題」「体幹が弱いから」といった単純化を避けます。なぜなら、同じぶつかる子でも、静かな通路では通れるが、集団になると難しい子と、荷物を持つ時だけ難しい子では、選ぶべき介入が違うからです。
臨床では、まず実際の困りごとを動画や実課題で確認し、どの局面で調整が止まるかを見ます。肩を回すのが遅いなら、通路幅に対する身体の向きの変え方を練習します。友だちとの接触が多いなら、止まる・見る・進路を決める流れを動く相手の中で作ります。荷物で増えるなら、持ち物を含めた身体幅の更新を課題へ組み込みます。
ここで大切なのは、難易度と量の設計です。失敗が続きすぎる狭さや速さでは学びにくいため、最初は成功しやすい幅と速度から始め、質を保てる回数で行います。成功率が保てたら、通路幅、人の動き、会話、荷物などを加えていきます。午前と午後で差が出るか、急いだ時だけ代償が出るかなども、難易度調整の重要なヒントです。
最後は、訓練室の成功を生活へ移します。教室の出入り、廊下移動、給食準備、遊び場での移動などで、ぶつからずに通れたか、必要な声かけが減ったかを一定期間後に再評価します。家庭では生活を守る工夫を。専門施設では、評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、できる力を生活で使える力へつなぎます。

よくある質問。
Q. 子どもが物によくぶつかるのは、発達障害だからですか?
Q. 視力がよくても、物にぶつかることはありますか?
Q. 転ばないのに、ぶつかることだけ多いのはなぜですか?
Q. 『前を見て』『気をつけて』と言っても変わらないのはなぜですか?
Q. どのような場合に小児科や眼科へ相談すべきですか?
Q. 専門施設では、どのような評価や練習を行いますか?
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LABでは、姿勢・感覚・注意・左右差・通り方の工夫まで含めて、お子さんの動きを丁寧に確認します。医療機関での診断や治療を尊重しながら、生活の中でぶつかる困りごとを、家庭・学校で実行しやすい形へ整理します。
育ちに寄り添う関わりへ。

子どもがよくぶつかると、保護者は「見えていないのか」「不注意なのか」と不安になります。私たちは、その不安を、観察できる事実へ翻訳することから始めます。
お伝えしたいのは、ぶつかる子には、ぶつかるなりの理由があり、それは適切に分けて見れば支え方が見えてくるということです。身体イメージ、空間認知、速度調整、環境の工夫を、生活の「できた」につなげていきます。
家庭や学校での関わりを整理したい方は、どうぞ一度ご相談ください。お子さんの育ちと参加の両方に寄り添いながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。動きの困りごとを「できない」で終わらせず、姿勢・感覚・認知・運動の連鎖として見る視点は、お子さんの生活場面を支えるうえでも土台になります。
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 方向転換で転びやすい子|止まる・曲がる・視線の使い方
- 平均台を怖がる子|狭い支持面でのバランスと視線の使い方
- 公園遊びが苦手な子|遊具・感覚・姿勢のどこでつまずくか
本記事は、国内外の公的情報・研究論文と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ず主治医・小児科医・眼科医等にご相談ください(最終確認日:2026年8月7日)。
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- Wilmut K, Du W, Barnett AL. Navigating through apertures in adults and children with developmental coordination disorder. Dev Sci. 2017;20(6):e12462.
- Gao J, et al. Effects of motor-based interventions on physical, motor, activity and participation outcomes in children with developmental coordination disorder: a systematic review and meta-analysis. Sports Med Open. 2025;11:59.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)