立ち上がり方がぎこちない子|床から立つ動作を分解する
床から立つ一瞬を分けて見ると、「どこで難しくなるか」が見えてきます。
「立てるけれど、なぜかぎこちない」「必ず手をつく」「いつも同じ足から立つ」。床から立つ動作には、子どもなりのいくつもの方法があります。大切なのは、一つの“きれいな形”へ直すことではなく、床から足へ支持を移し、重心を運び、立位を安定させる過程を分けて見ることです。家庭で見られるポイントと、相談したい変化を整理します。

「立てるけれど、なぜかぎこちない」を、結果だけで見ない。
床からは立てる。でも、両手を長くつく、お尻が先に上がる、何度か勢いをつける、毎回同じ足を前にする。こうした違いに気づくと、「筋力が弱いのかな」「発達が遅れているのかな」と不安になることがあります。
けれど、立ち上がりは一つの筋肉で決まる動作ではありません。床に接している身体を、足で支える立位へ組み替える全身運動です。
床から立つためには、身体を起こす、手や膝で支える、足を身体の下へ置く、重心を足の上へ移す、股関節・膝・足首を連動させて伸びる、そして立った後にふらつきを収める、といった複数の仕事が短時間に重なります。どれか一つに時間がかかると、全体が「ぎこちない」と見えます。
だから、「手をついた=筋力不足」「片膝立ち=未熟」と一対一で原因を決めるのは早すぎます。この記事では、動作のどの局面で時間がかかるか、条件を変えるとどう変わるかという視点で整理します。
床からの立ち方には、ひとつの「正解」があるわけではありません。
子どもの背臥位から立位までの動作を調べた研究では、上肢・体幹・下肢に複数の運動パターンがみられ、年齢とともに使われ方が変化することが報告されています。つまり、発達とは一つの完成形へ一直線に進むというより、その時の身体能力や経験に合わせて、使える方法の組み合わせが変わっていく過程として見る方が自然です。
片膝立ち、四つ這いに近い姿勢、手で床を押す方法などは、それ自体が悪いわけではありません。普段の生活で困らず、別の姿勢からも立て、遊びや床の条件が変わったときに方法を調整できるなら、その子が持つ一つの運動戦略と考えられます。
WHOの粗大運動マイルストーンは、座位、つかまり立ち、四つ這い、つたい歩き、独立立位、独歩などを扱いますが、「床から何歳までにこの型で立つ」という基準ではありません。床から立つ方法だけを年齢表に当てはめて、正常・異常を決めないことが大切です。
STROKE LABは、床から立つ動作を5つの局面に分けて見ます。
以下は病気を診断するための尺度ではなく、「どこで難しさが起きているか」を保護者と専門職で共有するための臨床観察フレームです。一連の動作を細かく分けることで、「脚力」だけでは説明できない違いが見えてきます。

臨床では、床から立位まで到達できても、その直後に大きく一歩出る、手を広げて揺れを止める、次の動作へすぐ移れないことがあります。この場合、身体を上へ運ぶ力だけでなく、立位へ移った後の姿勢制御まで分けて観察します。
よく見る立ち方を、「原因」ではなく観察の入口にする。
一つの見た目から、一つの原因を決めることはできません。同じ「両手をつく」動作でも、開始姿勢、床との摩擦、足を身体の下へ入れる能力、安心感、経験などで意味が変わります。下の表は診断表ではなく、次に何を観察するかを整理するためのものです。
| 観察される動き | 確認すること | 条件を変える | 考えること |
|---|---|---|---|
| 両手を長く床につき、お尻が先に上がる | 足を身体へ近づけられるか。手から足へ体重が移るタイミング。 | 少し高い座面や、膝立ちから立つとどう変わるか。 | 脚力だけでなく、支持面の切り替えや重心移動が負担になっていないか。 |
| いつも同じ脚を前にして片膝立ちになる | 反対脚を前にした時の安定。階段・片足立ち・蹴る動作でも左右差があるか。 | 玩具や立ち上がる方向を左右へ変える。 | 単なる好みか、複数の課題に共通する左右差か。 |
| 何度か反動をつけてから立つ | ゆっくり行うと難しくなるか。足の位置を変えるとどうか。 | 床、低い台、少し高い台で開始高さを変える。 | 必要な力、重心移動、タイミングのどこに難しさの境目があるか。 |
| 手で膝や太ももを押しながら身体を起こす | 走る、跳ぶ、階段、つま先立ち、転びやすさ、以前との変化。 | 家庭で無理に条件変更せず、他の運動場面を記録する。 | 単なる立ち方の癖か、より広い筋力低下のサインを伴うか。後者なら医療相談を優先。 |
| 立てるが、直後に大きくよろける | 立つまでの時間と、立った後に安定するまでの時間を分ける。 | 立った直後に玩具へ手を伸ばす、1歩出るなど次の課題を見る。 | 上へ身体を運ぶ能力と、立位で姿勢を安定させる能力を分けて考える。 |
研究から見ても、立ち上がりは「一つの型」で発達するわけではありません。
4〜7歳の子ども120名を調べたVanSantの研究では、背臥位から立位までの上肢・体幹・下肢の運動パターンに年齢差が報告されました。重要なのは、立ち上がりを一つの全身パターンだけでなく、身体部位ごとの組み合わせとして捉えている点です。
この研究から言える範囲:年齢に伴う傾向はありますが、特定の立ち方一つを「正常の唯一の型」とする根拠ではありません。
日本の6年間縦断研究では、健常児の背臥位から立位までの動作パターンと所要時間が発達に伴ってどのように変わるかが追跡されました。単回の観察だけでなく、時間の中で変化を捉えることが重要だと考える根拠になります。
この研究から言える範囲:一度の立ち方を固定的に評価するより、成長に伴う変化を見る意義を支持します。個々の子の診断や予後を決める研究ではありません。
軽度〜中等度の発達遅滞がある子どもの床からの立ち上がりを調べた研究では、年齢や運動能力に関連して使われる動作パターンが異なりました。動作の見た目だけでなく、子どもの身体能力と合わせて個別に考える必要があります。
この研究から言える範囲:発達遅滞のある集団の結果を、診断のないすべての子へそのまま当てはめることはできません。
研究から共通して読み取れるのは、立ち上がり方を一つの理想型へ合わせるより、年齢・身体能力・環境とともに「どの方法を使えるか」を見る必要があるということです。一方、これらの研究だけで、家庭で特定の練習法を行えば改善すると断定することはできません。
家庭では、「直す」前に3回だけ自然な立ち方を観察する。
「右足を前にして」「手を使わないで」と形を教える前に、まず普段どおりの動きを見てください。子どもは指示を受けると、いつもの立ち方とは違う方法を選ぶことがあります。評価に役立つのは、自然な条件で何を選んでいるかです。
「ぎこちなさ」の観察より、医療相談を優先したい変化があります。
床から立つときに手や膝を使うことだけでは、病気を意味しません。一方で、以前よりできなくなる、徐々に難しくなる、他の粗大運動にも同じ変化が広がる場合は、単なる立ち方の個性として様子を見続けないことが大切です。
- 手をつくが、生活では困っていない
- 片膝立ちを好むが、反対側も使える
- 開始姿勢や遊びによって立ち方が変わる
- 以前より立ち方の選択肢が増えている
- 一度できていた運動ができなくなった
- 立つ・走る・跳ぶ・階段が徐々に難しくなる
- 急に片側を使わなくなった、左右差が急に強くなった
- 痛み、腫れ、発熱、足へ体重をかけたがらない
- 膝・太ももへ手をつき身体をよじ登るように立ち、転びやすさ等も重なる

国立精神・神経医療研究センターの神経筋疾患ポータルでは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーで保護者が気づく症状として、床から立つ際に手や膝、太ももを使って身体を起こす動きに加え、走れない、ジャンプが難しい、転びやすいなどが挙げられています。ただし、この立ち方だけでDMDと判断することはできません。複数の変化が重なる、進行する場合に医療へつなぐためのサインとして扱います。
専門評価では、「どの条件で動きが変わるか」まで見ます。
専門性は、筋力検査を増やすことだけではありません。大切なのは、観察→仮説→安全な条件変更→その場の反応→生活場面での再現→再評価という循環を作ることです。
| 観察される動き | 確認すること | 条件を変える | 考えること |
|---|---|---|---|
| 床では両手支持が長い | 体幹の起こし方、足の位置、股関節・膝・足首の可動性、足底への荷重 | 開始高さを少し上げる/膝立ちから開始する | 高さで急に変わるなら、必要トルクだけでなく重心移動や支持の組み替えが難しさを作っていないか |
| 右脚前の片膝立ちに固定される | 反対側の片膝立ち、片脚支持、階段、方向転換 | 玩具の位置・身体の向き・開始姿勢を左右で変える | 一動作の好みか、複数課題に共通する左右差か |
| 速いと立てるが、ゆっくりだと止まる | 反動の使用、重心が足の上へ来る位置、伸展開始のタイミング | 速度を変える/途中姿勢で一度止まる | 勢いが不足を補っているのか、ゆっくりした姿勢制御で難しさが表れるのか |
| 1回目は良いが、遊びの後に崩れる | 反復後の時間、左右差、手支持、呼吸、注意の変化 | 短い休憩前後で同じ動作を再評価 | 最大能力だけでなく、生活で必要な持続性・疲労耐性が影響していないか |
たとえば床では手を多く使う子が、数cm高い開始位置では急に滑らかになる場合があります。これは「高くすれば治る」という意味ではありません。どの負荷条件を越えると代償が増えるのかを知ることで、立ち上がりを制限している要素の仮説が絞れます。
もう一つ見るのが、立つまでの成功と、その後の参加が一致しているかです。訓練室で一度きれいに立てても、園で床遊びから集団移動へ切り替えるたびに遅れるなら、生活上の課題は残っています。そこで、立ち上がり後にすぐ歩けるか、玩具を持った状態でも立てるか、疲れた時間帯でも再現できるかまで見ます。
介入を考える場合も、形をそろえることをゴールにせず、子どもが安全に選べる方法を増やし、実際の遊び・着替え・園生活で使えるかを同じ目標動作で再評価します。
床からの立ち上がり研究は、動作パターンを上肢・体幹・下肢へ分けて分析してきました。また、2026年のAPTA PediatricsによるDCDガイドラインも、診断だけでなく検査・評価、管理計画、ケア計画を含む包括的な評価を扱っています。したがって、単一の「立ち方の形」だけで子どもの運動全体を判断しないことが重要です。
限界:床からの立ち上がりに対する特定の介入法を、診断のない幼児全般に推奨できる高品質研究は限られます。本記事の5局面と条件変更は臨床観察の枠組みであり、診断尺度や治療効果を保証する方法ではありません。医学的評価・治療の代替にはなりません。

診断をつけるのではなく、床から立つ数秒を分け、家庭で見えている困りごとを観察可能な情報へ整理します。医療評価が先に必要なサインがあれば、その線引きも含めてお伝えします。
よくある質問。
Q. 床から立つときに手をつくのは、発達が遅れているサインですか?
Q. いつも同じ足を前にして立つのは問題ですか?
Q. 手を使わずに立つ練習をさせた方がよいですか?
Q. 何歳までに、床からスムーズに立てればよいですか?
Q. どんな立ち上がり方なら小児科へ相談した方がよいですか?
Q. 診断がなくても、リハビリ施設で立ち上がり方を見てもらえますか?
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)では、お子さんの「できる/できない」だけでなく、動作のどこで支持が変わり、どこで重心移動が止まり、どの条件なら別の方法を選べるかを観察します。診断や医学的治療は医療機関の領域です。私たちは生活と動きの側から、保護者が感じている「なんとなくぎこちない」を観察可能な情報へ整理し、必要に応じて医療・健診と連携する立場です。
その子なりの工夫を見る。

子どもの動きには、その時の身体で課題を達成するための工夫が表れます。手をつく、片膝立ちになる、勢いを使う。見た目だけを直してしまうと、その工夫が何を補っていたのかが見えなくなることがあります。
私たちは、一つの正解へそろえる前に、どの条件で動きが変わり、次にどんな選択肢を育てられるかを考えます。動作分析は、子どもの「できない」を探すためではなく、すでに使っている解決方法と、これから増やせる方法を見つけるためにあります。
立ち上がりだけでなく生活全体を見ながら、医療へつなぐべき変化と、発達の中で見守れる幅を一緒に整理していきます。
代表取締役 金子 唯史

動作を「できる・できない」の二択で終わらせず、機能解剖と運動のつながりから臨床推論を組み立てる視点をまとめています。本記事でも、立ち上がりを複数の局面へ分けて考える土台として、この考え方を用いています。
- 小児リハビリ本体ページ
- 初回相談の流れ
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 家庭で様子を見る場合と専門評価を受ける場合の違い
- 地域別の小児リハビリ相談記事
本記事は、公的機関・学術論文とSTROKE LABの臨床的な動作観察の枠組みを分けて構成しています。5局面の分け方と条件変更による臨床推論は診断尺度ではありません。診断・医学的治療に代わるものではなく、退行、進行する弱さ、痛み、急な左右差などがある場合は小児科等へご相談ください(調査確認:2026年8月14日)。
- VanSant AF. Age differences in movement patterns used by children to rise from a supine position to erect stance. Phys Ther. 1988;68(9):1330-1339.
- 桑原知佳ほか.発達に伴う健常児の背臥位からの立ち上がり動作の変遷―6年間縦断調査による動作パターンおよび動作所要時間の変化―.理学療法学.2011;38(7):505-515.
- Hsue BJ, Wang YE, Chen YJ. The movement patterns used to rise from a supine position by children with developmental delay and age-related differences in these. Res Dev Disabil. 2014;35(9):2205-2214.
- World Health Organization. Motor development milestones / WHO Child Growth Standards. Accessed 2026-08-14.
- American Physical Therapy Association Academy of Pediatric Physical Therapy. Physical Therapy Management of Children With Developmental Coordination Disorder: A 2026 Evidence-Based Clinical Practice Guideline. 2026.
- 国立精神・神経医療研究センター 神経筋疾患ポータル.新しく診断を受けた患者さん、家族へ:デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD).Accessed 2026-08-14.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)