鬼ごっこが苦手な子|走る・止まる・相手を見る力の発達
単純な走力ではなく、相手の動きを予測しながら速度と方向を変える力が求められます
「鬼になると、ずっと後ろを追うだけで捕まえられない」 「逃げるときは、相手を振り返った瞬間に足が止まってしまう」。 鬼ごっこが苦手だと、走るのが遅いからと思われがちです。 しかし実際には、 相手を見つける、進む先を予測する、加速する、ぶつかる前に減速する、 方向を変える、タッチ後に役割を切り替える という複数の課題が重なっています。 この記事では、鬼役と逃げる役を分けながら、家庭での見方と専門施設での評価を整理します。

鬼ごっこは、ただ速く走る遊びではない
鬼ごっこでは、目の前の相手だけを見て走ればよいわけではありません。 鬼は相手の動きを見ながら、誰を追うか、どの方向へ進むか、どこで速度を落とすかを決めます。 逃げる側は、鬼の位置を確認しながら、他の子や遊具、境界線も避ける必要があります。
さらに、タッチされた瞬間には役割が変わります。 走る方向を止め、鬼になったことを理解し、次に追う相手を選んで再び走り出します。 このため鬼ごっこは、 運動、視覚、予測、注意、ルール理解、感情の切り替えが同時に求められる遊び です。

追う側と逃げる側では、つまずく場所が違う
「鬼ごっこが苦手」と一つにまとめず、まず鬼役と逃げる役を分けてみましょう。 鬼役は、相手を選び、相手の進む先を予測し、追いつく前に減速してタッチする必要があります。 一方、逃げる側は、鬼の位置を確認しながら、逃げ道、境界、他の子との距離を調整します。
| 鬼役で必要なこと | 逃げる役で必要なこと |
|---|---|
| 追う相手を選ぶ | 鬼がどこにいるか確認する |
| 相手の進行方向を予測する | 安全な逃げ道を選ぶ |
| 接近したら速度を落とす | 鬼との距離に応じて速度を変える |
| 強く押さずにタッチする | 他児、遊具、境界を避ける |
| 捕まえたあと役割を確認する | タッチされたあと鬼役へ切り替える |
[イラスト:左側に鬼役の相手選択・進路予測・減速・タッチ、右側に逃げる役の鬼確認・逃げ道選択・方向転換・障害物回避を示した比較図]
速さより先に、減速と次の一歩を観察する
家庭で見るときは、「捕まえられたか」「逃げ切れたか」という結果だけで判断しません。 どの情報が加わったときに動きが変わるかを見ると、困りごとの仕組みが整理しやすくなります。
- 鬼役と逃げる役のどちらで困るか
鬼では困るが逃げる側なら参加できる場合と、その逆では見方が異なります。 - 一対一と集団で差があるか
大人と一対一ではできるのに、人数が増えると止まる場合は、情報量や接触への不安も考えます。 - 相手を見た瞬間に歩幅が変わるか
相手を見ると足が止まる、歩幅が急に小さくなる、体だけ直進する様子がないかを確認します。 - 相手へ近づいた最後の3歩
歩幅を小さくできるか、上体だけ反らして止まるか、相手へ衝突するかを見ます。 - 方向転換の前に減速しているか
速いまま曲がって足が交差するのか、一度速度を落として次の一歩を出せるのかを確認します。 - タッチの前後で何が起きるか
追いついても手を出せない、強く押してしまう、タッチ後に役割が分からなくなる場合があります。
- 鬼役と逃げる役のどちらで困るか
- 一対一、少人数、集団での違い
- 相手を見ると走り方が変わるか
- 停止や方向転換で転ぶか
- タッチや接近を怖がるか
- 鬼ごっこ以外の運動や園生活での様子
- 可能であれば10〜20秒程度の動画を撮影する
家庭では人数・範囲・ルールを減らして成功をつくる
家庭での目的は、足を速くすることだけではありません。 子どもが相手を見ながら動き、止まり、タッチし、もう一度遊びを始める経験を、 理解しやすい条件で作ることが大切です。
避けたい関わり
| 避けたい関わり | 代わりにできること |
|---|---|
| 大人数の鬼ごっこへ突然入れる | 一対一、少人数から人数を増やす |
| 「遅いから速く走って」と繰り返す | 「近づいたら小さな歩幅にしよう」と一つだけ伝える |
| 鬼を長時間続けさせる | 短いラウンドで役割を交代する |
| 怖さを我慢させて慣れさせる | 安全地帯、休憩、終了の選択肢を作る |
| 失敗するたびに説明を増やす | 今見る場所や動作を一つだけ示す |

鬼ごっこ以外にも困りごとが広がるときは相談を
| 家庭で条件を調整しながら見たい場面 | 発達・運動相談を考えたい場面 |
|---|---|
| 一対一では参加できる | 一対一でも追う・逃げる流れがつかみにくい |
| ルールを減らすと楽しめる | 複数の運動や生活場面にも困りごとがある |
| 慣れた相手ならタッチできる | 相手や物へぶつかる、方向転換で頻繁に転ぶ |
| 休憩後に再参加できる | 運動遊びを避け、友達との参加が減っている |
| 本人が遊び方を選べる | 本人が「入りたいのにできない」と困っている |
急に走れなくなった、片側だけ力が入りにくい、繰り返す転倒が急に増えた、 運動中の失神、胸痛、強い息苦しさ、けいれん、意識や反応の変化、 強い痛みや跛行、一度できていた動作の喪失がある場合は、 医療機関へ相談してください。
研究でわかっていること
専門施設では、追跡・停止・切り替えをどう評価するか
家庭では、一対一、短時間、分かりやすいルールを使い、参加しやすい条件を作ります。 専門施設では、走る力だけでなく、 相手の追跡、進路予測、減速開始、方向転換、接触距離、役割交代、 怖さ、疲労、集団環境 を分けて評価し、生活場面へ戻すための順序を設計します。 診断、薬、医学的検査、装具や医学的治療の判断は主治医の領域です。
鬼ごっこの困りごとを5つの領域に分ける
| 評価領域 | 確認すること | 介入選択への影響 |
|---|---|---|
| 走行・減速・方向転換 | 最初の3歩、停止までの歩数、最後の3歩、左右の切り返し | 加速練習を先にするか、減速・停止を先にするかを決めます |
| 視線・追跡・進路予測 | 相手、進行方向、境界へ視線を移したときの走行線 | 固定目標から始めるか、移動相手を使うかを変えます |
| 距離・接触調整 | タッチ前の減速、手を出す時機、触れる強さ、衝突の有無 | 大きな標的、静止標的、動く相手のどこから始めるかを決めます |
| ルール・役割切り替え | タッチ後の停止、鬼の理解、次の相手選択、再開までの時間 | 鬼マーク、停止時間、役割数、ラウンド時間を調整します |
| 集団・怖さ・疲労 | 一対一と集団、午前と午後、慣れた相手と初対面の違い | 人数、音、空間、休憩、参加時間の設定を変えます |
走力だけを高めても、相手には追いつけない
鬼になると相手の真後ろを同じ軌道で追い続ける子がいます。 この場合、最高速度だけを高めても、相手が曲がれば距離は縮まりません。 相手の現在位置だけでなく、進む可能性のある方向を読み、 自分の進路を途中で更新する必要があります。
また、追いつけても衝突する子では、 「止まれない」と一言でまとめず、 相手がどの距離にいるときに減速を始めたか、 最後の3歩で歩幅が小さくなったか、 タッチする手を出した瞬間に減速が消えなかったか を確認します。
評価所見に応じて4系統の介入を組み合わせる
鬼ごっこが苦手な子に、走る練習だけを増やしても、 友達との遊びへつながるとは限りません。 鬼ごっこでは、相手の位置を見ながら自分の進路を更新し、 近づけば減速し、逃げ道が変われば支持脚を切り替え、 タッチされた瞬間には役割を更新する必要があります。
私たちは、速さ、停止、方向転換を別々の検査で終わらせず、 実際の追跡・逃避の中で、 どの情報が加わったときに動きが崩れるか を確認します。 相手を見ると歩幅が止まるのか、 手を伸ばすと減速が遅れるのか、 人数が増えると境界が見えなくなるのか。 その違いが介入の順序を変えます。
評価結果に応じて、一本道の追跡、停止位置を決めたタッチ、 二方向の逃避、役割交代を含む少人数ゲームへ進めます。 その場で見るのは単に成功したかではありません。 衝突せずに減速できたか、視線を外したあとも進路を保てたか、 タッチ後に次の役割へ移れたかを確認します。
訓練室でできた課題は、家庭の追いかけ遊び、 園庭の少人数ゲーム、休み時間の鬼ごっこへ段階的に移し、 同じ参加場面で再評価します。
難易度は、速さだけでなく情報量で調整する
| 調整軸 | 易しい条件 | 難しい条件 |
|---|---|---|
| 人数 | 大人と一対一 | 複数の子ども |
| 相手の動き | 一本道・低速 | 自由方向・速度変化 |
| 空間 | 広く境界が明確 | 遊具や他児がある |
| 役割 | 鬼を固定 | タッチごとに交代 |
| 視覚情報 | 鬼役を帽子で示す | 複数の対象から判断 |
| 時間 | 短い1ラウンド | 継続した集団遊び |
訓練室の成功を、園庭や休み時間へ移す
専門施設で確認するのは、走行速度だけではありません。 園庭や休み時間で、 鬼ごっこへ自分から入れるか、 鬼役を交代できるか、 ぶつからずにタッチできるか、 休憩後に再参加できるかを確認します。
保護者や園の先生へは、複雑な練習メニューを渡すのではなく、 「鬼役を帽子で示す」「範囲を二つの色で示す」 「最初は三人まで」「一回ごとに停止する」など、 短く再現しやすい条件を共有します。 親や先生が療法士になるのではなく、 子どもが遊びへ参加しやすい環境を一緒に整えることが目的です。

家庭では、怖さや失敗を減らし、参加しやすい条件を作ることを大切にします。 専門施設では、評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、 走れる力を、友達との遊びの中で使える力へつなぎます。
よくある質問
STROKE LABの小児リハビリ

友達と遊べることへつなげます
STROKE LABでは、鬼ごっこを走る速さだけで評価しません。 鬼役と逃げる役を分け、相手を見る、止まる、曲がる、 タッチする、役割を切り替える過程を整理します。 医療評価が必要な場合はその線引きを大切にしながら、 家庭、園、公園、体育での参加へつなげます。

視線、姿勢制御、予測、運動の切り替えを、 機能解剖と動作分析のつながりから理解するための一冊です。 本記事でも、見た目の速さだけでなく、 動作のどの局面で情報と運動が結びつきにくいかを整理しています。
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参考文献
- Centers for Disease Control and Prevention. Developmental Milestones: 5 Years. https://www.cdc.gov/act-early/milestones-in-action/5-years.html
- World Health Organization. Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age. 2019. https://www.who.int/publications/i/item/9789241550536
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- American Physical Therapy Association. Physical Therapy Management of Children With Developmental Coordination Disorder. 2026. https://www.apta.org/patient-care/evidence-based-practice-resources/cpgs/physical-therapy-management-of-children-with-developmental-coordination-disorder
- Smits-Engelsman BCM, Vinçon S, Blank R, et al. Evaluating the evidence for motor-based interventions in developmental coordination disorder. Systematic review update. 2025. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39918921/
- Jackman M, Sakzewski L, Morgan C, et al. Interventions to improve physical function for children and young people with cerebral palsy: international clinical practice guideline. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549.
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院, 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)