走るとき腕を振らない子|肩甲帯・体幹回旋と走行の関係
腕が止まったまま走る子へ|上半身と脚のリズムを分けて考える
「走るとき、腕が体の横で固まっている」「右腕だけ振らない」「腕を振ってと言うと、かえってロボットのようになる」――腕振りは、肩だけでつくる動きではありません。脚が地面を押し、骨盤と胸郭が入れ替わる中で、左右の腕が反対方向へ切り替わります。大切なのは、腕の大きさより、どの速度・どの場面で腕と脚のリズムが外れるかを見ることです。

腕を振らないからといって、肩だけの問題とは限りません。
腕を前後へ動かすことだけに注意を向けると、肩が上がったり、胸と骨盤まで大きく左右へ回ったりして、かえって走りにくくなることがあります。
腕は単独で振るものではありません。反対側の脚が地面を押し、骨盤と胸郭の向きが切り替わる中で、結果として前後へ入れ替わります。
幼児の走りは、経験や速度によって大きく変わります。ゆっくりした走りでは腕をほとんど使わず、追いかけっこになると自然に振り始める子もいます。反対に、ゆっくりなら交互に動くのに、全力になると両腕を体側へ固定する子もいます。
腕が止まることは、原因である場合もあれば、難しい走行課題に対して身体を安定させるため、動かす場所を減らした結果である場合もあります。まずは「振っていない」という見た目を、動きが変わる条件へ置き換えて観察します。
走行中の腕は、脚と体幹に合わせて切り替わります。
| 局面 | 家庭で見るポイント |
|---|---|
| ① 構える | 走り始める前に、両腕が身体の横で自由に動ける位置にあるか。 |
| ② 動き始める | 一歩目と同時に、反対側の腕が自然に動き始めるか。 |
| ③ 後方へ切り替える | 腕が後方へ動くとき、胸郭と骨盤が同じ方向へ一塊で回っていないか。 |
| ④ 前後を入れ替える | 左右の腕が同時ではなく、脚のリズムと交互に入れ替わるか。 |
| ⑤ 速度へ適応する | ゆっくり・普通・速い走りで、腕の動きが出るか、消えるか。 |
| ⑥ 場面へ適応する | 曲がる、追う、競う、疲れる場面でも、腕と脚のリズムを調整できるか。 |

同じ「振らない」でも、見え方は5つに分かれます。
見た目には腕が動いていても、肩甲帯、胸郭、骨盤が一つの塊として左右へ揺れていることがあります。この状態で「もっと後ろへ引いて」と指示すると、進行方向のぶれが大きくなる場合があります。
腕の振幅だけでなく、上腕の前後運動、肩甲帯の移動、胸郭と骨盤の相対的な回旋、反対側の脚が後方へ伸びる時機を分けて見ることが大切です。

研究でわかっていること。
家庭では、腕の大きさより変化する条件を見ます。
- ゆっくり走る
- いつもの速さで走る
- 追いかけっこで速く走る
速度が上がると腕が出るのか、反対に固まるのかを比べます。
- 一人で直線を走る
- 大人や友だちを追いかける
- 曲がる・止まるを含む遊び
競争や注意の切り替えで、腕振りが変わるかを見ます。
| 様子を見ながら工夫しやすいこと | 相談が安心なこと |
|---|---|
| ゆっくりでは振らないが、速くすると自然に出る | 片側の腕を歩行や遊びでもほとんど使わない |
| 慣れない場所だけ腕が固まる | 痛み、肩や肘の動かしにくさ、変形がある |
| 追いかけっこでは自然な腕振りが出る | 以前は動いていた腕が急に動かなくなった |
| 走る以外の生活では左右差が目立たない | 転倒、脚の左右差、顔の動きなど他の変化もある |
| 本人が運動遊びを楽しめている | 体育や鬼ごっこへの参加を避け、本人が困っている |
- 両腕とも少ないのか、片腕だけなのか
- 歩くときには左右交互に動くか
- ゆっくり・普通・速い走りで変化するか
- 直線、方向転換、競争で変化するか
- 痛み、転倒、疲れやすさはないか
- 体育や遊び参加にどの程度影響しているか
- 正面、横、後方から10〜15秒程度の動画を撮れるか
- 10〜15mほどの短い追いかけっこ
- 合図に合わせてスタートする遊び
- 軽い坂を上る短い走り
- 手に物を持たない状態で走る
- 腕を大人が持って前後へ動かす
- 肘の角度を一つに固定する
- 複数のフォーム指示を同時に出す
- 腕振りだけを反復し、実際には走らない
専門施設では、腕が動かない現象を、肩甲帯、胸郭と骨盤の相対運動、脚との位相、速度、注意、疲労、環境へ分けます。痛み、急な変化、明らかな左右差などの医学的評価は医療機関が優先です。診断、投薬、手術などの医学的判断は主治医が担い、リハビリは生活機能の側から併走します。
専門施設では、腕振りが消える条件から介入を選びます。
専門施設の目標は、子どもの走りを大人のフォームへそろえることではありません。速度に応じて腕を使えること、腕を動かしても進行方向がぶれないこと、左右の腕と脚が交互に切り替わること、疲労や競争でも必要以上に身体を固定しないこと、そして鬼ごっこや体育へ参加できることを目標にします。
腕が止まる理由は一つではありません。そのため、腕を振る練習を先に決めず、どの条件を変えると、その場で腕・体幹・脚の連動が変化するかを確認します。その反応から仮説を立て、介入の順番を選びます。
| 観察される困りごと | 臨床仮説 | 確認する条件 | 介入と生活で見る変化 |
|---|---|---|---|
| 両腕を体側に固定する | 難しい課題に対して自由度を減らし、体幹を安定させている可能性 | 歩行、早歩き、低速走、追走で比較 | リズムと速度を段階化し、鬼ごっこで自然な腕振りが続くか確認 |
| 片腕だけ振らない | 肩甲帯だけでなく、反対側の脚の支持や骨盤回旋を含む左右差 | 歩行、片脚支持、接地、疲労前後、痛みを確認 | 左右差に応じた実走課題と医療連携を選び、体育場面で再確認 |
| 腕を振ると左右へぶれる | 腕、肩甲帯、胸郭、骨盤が一塊で回っている可能性 | 正面・後方動画、走路の逸脱、胸郭と骨盤の回旋方向 | 進行方向を保つ相対運動課題を選び、直線から外れる回数を確認 |
| 全力で腕が固まる | 高速時の位相調整が難しく、肩甲帯を固定している可能性 | 速度別動画、呼吸、表情、肩の挙上、成功率 | 質を保てる速度から段階化し、運動会に近い条件で再評価 |
| 競争すると腕が止まる | 注意配分、不安、他児との距離による環境差 | 単独、並走、追走、集団で比較 | 他児との距離と課題を段階化し、集団かけっこへの参加を確認 |
腕を振らない走りを、肩の硬さや筋力不足だけで説明すると、介入は「腕を動かす練習」で止まります。しかし走行では、接地した脚が床へ力を伝え、骨盤が回旋し、胸郭がそれに対して切り替わる中で、腕の前後運動が生まれます。
まず速度を変えます。速くすると腕が出るなら、低速では腕振りを使う必要性が小さかった可能性があります。速くすると固まるなら、難しくなった課題に対して肩甲帯と体幹を固定し、動かす場所を減らしている可能性があります。
次に、胸郭と骨盤の関係を見ます。腕を後ろへ引いた瞬間に同側の骨盤まで後ろへ回るなら、腕、肩甲帯、胸郭、骨盤が一塊になっている可能性があります。この場合、腕の振幅を増やすより、進行方向を保ったまま胸郭と骨盤が切り替わる課題を先に選びます。
その場で腕振りが大きくなったことを成果にはしません。追いかけっこ、曲線走、競争、疲労後でも腕と脚のリズムを維持できるかを確認し、家庭・園・学校で撮影した同じ課題の動画で再評価します。
研究が示していない固定的な回数や速度は設定しません。腕と脚のリズム、進行方向、表情、呼吸を保てる量を基準にし、失敗が続く前に休憩します。子どもが意識しすぎて硬くなる場合は、身体の部位を指示する言葉を減らし、追う・逃げる・合図に反応するなど、課題の目的へ注意を向けます。
保護者に療法士の役割を求めるのではなく、短く続けやすい実装へ変換します。家庭では動画を1本撮る、園では「腕を振れたか」ではなく「鬼ごっこに何分参加できたか」を共有するなど、親子関係を壊さない指標を選びます。

家庭では、走る楽しさを守りながら自然に動ける条件を探します。専門施設では、評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、腕が動くことを、遊びや体育で使える力へつなぎます。
よくある質問。
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、神経疾患や運動発達の課題を、機能解剖と動作分析の視点から整理する自費リハビリ施設です。腕振りを一つのフォームとして矯正するのではなく、速度、肩甲帯、胸郭、骨盤、脚とのタイミング、疲労、園や学校での参加まで含めて見ます。医療機関での評価やリハビリを尊重し、生活と遊びの側から併走します。
動きが生まれる条件を探す。

子どもの動きには、発達の幅と、その子なりの安定のつくり方があります。腕が止まるという一つの現象にも、速度、左右差、体幹、脚とのタイミング、注意や不安など、異なる背景があります。
私たちは、腕の形をそろえる前に、何が変わると自然な連動が生まれるかを探します。その反応を、鬼ごっこ、体育、運動会など、本人が参加したい場面へつなげます。
医療や発達相談とあわせて、家庭・園・学校での関わりを整理したい方はご相談ください。お子さんの育ちと楽しさを守りながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

動きを一つの関節だけで説明せず、脳、感覚、姿勢、運動の連鎖から考えるための専門書です。子どもの走行でも、腕だけを直すのではなく、全身の関係から仮説を立てる土台になります。
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 走り方がぎこちない子|腕振り・骨盤・足の接地をどう見るか
- 外でよく転ぶ子|視線・体幹・注意も含めて見る
- ボールを投げられない子|肩・体幹・タイミングの発達
- 地域別の小児リハビリ相談案内
- Arellano CJ, Kram R. Partitioning the metabolic cost of human running: a task-by-task approach. Integr Comp Biol. 2014;54(6):1084-1098. doi:10.1093/icb/icu033.
- Chia LC, Licari MK, Guelfi KJ, Reid SL. A comparison of running kinematics and kinetics in children with and without developmental coordination disorder. Gait Posture. 2013;38(2):264-269. doi:10.1016/j.gaitpost.2012.11.028.
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285. doi:10.1111/dmcn.14132.
- 発達障害ナビポータル. 発達性協調運動症. 2024年8月22日更新.
- 厚生労働省. DCD支援マニュアル. 令和4年度障害者総合福祉推進事業.
- Centers for Disease Control and Prevention. Developmental Milestones: 2 Years.
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院; 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)