動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
ぎこちなさの奥にある、感じる・考える・動くのつながりを見ます
走ると転びやすい、ボールをうまく受け取れない、縄跳びや自転車が苦手、鉛筆や箸の操作がぎこちない——。それは「運動神経が悪い」「努力不足」だけでは説明できないことがあります。この記事では、子どもの動きを脳・感覚・姿勢・運動計画という運動制御の視点から整理します。

こんな場面で、気づきます。
走ると足がもつれる。ボールを投げると体全体が固まる。縄跳びでは手と足のタイミングが合わない。字を書くと、筆圧が強すぎたり、線が震えたりする。
周りからは「運動が苦手なだけ」「もっと練習すれば大丈夫」と言われるけれど、親としては、なぜこんなにやりにくそうなのかが気になる。そんなご相談は少なくありません。
子どもの動きがぎこちなく見えるとき、私たちはつい「筋力が弱いのかな」「運動神経が悪いのかな」と考えがちです。しかし、運動は筋肉だけで生まれるものではありません。目で周囲を見て、足裏や関節から体の位置を感じ、頭の傾きやスピードを感じ、脳がそれらの情報をまとめ、次にどの順番で体を動かすかを決めています。
そのどこかに負荷があると、本人は一生懸命取り組んでいても、動きがぎこちなく見えることがあります。この記事では「できないこと」を並べるのではなく、なぜ難しくなっているのかを運動制御の視点から整理します。
運動制御とは、体を「思い通りに動かすしくみ」。
運動制御とは、脳と体が協力して、姿勢や動きを調整するしくみのことです。たとえばボールを受け取るとき、子どもはボールの位置を見て、飛んでくる速さを予測し、足の位置を調整し、体幹を安定させ、腕を出すタイミングと手の力加減を合わせます。この一連の処理がなめらかに働くと、動きは自然に見えます。
同じように転んでいても、原因は一つではありません。足元が見えていないのか、体の位置を感じにくいのか、姿勢が先に崩れるのか、動きの順番が組み立てにくいのか、力が入りすぎるのか。結果だけでなく、動きが崩れる直前と直後を見ることが大切です。

ぎこちなさを生む、5つの背景。
運動が苦手な子に共通して見られる背景は、一人ひとり異なります。ここでは保護者が理解しやすいように、運動制御の過程を5つに分けて整理します。
体幹や骨盤が安定しにくいと、手足を自由に使う前に体を支えることで精一杯になります。椅子に座るとすぐ崩れる、書字中に机にもたれる、片脚立ちが苦手、走ると上半身が大きく揺れるといった形で表れます。
運動には視覚、前庭感覚、固有感覚、触覚が関わります。足裏から床を感じにくい、体の位置が分かりにくい、速い動きで不安になる、触られることに過敏になるなどがあると、動きの調整が難しくなります。
縄跳び、自転車、着替え、箸、はさみなどは、複数の動きを順番に組み合わせる必要があります。どこから動かすか、どのタイミングで切り替えるかが分かりにくいと、動作全体がぎこちなくなります。
ボールを受ける、段差を越える、友達を避けながら走るには、少し先の状況を予測する必要があります。予測が苦手だと、反応が遅れたり、必要以上に体が固まったり、急な方向転換で転びやすくなります。
鉛筆を強く握りすぎる、ボールを強く投げすぎる、歩幅が合わない、ジャンプの着地が硬い。これらは筋力そのものではなく、必要な力を必要なタイミングで出す調整の問題として見ることができます。


— できない理由ではなく、動きやすくなる条件を一緒に探します
STROKE LABでは、動きのぎこちなさを、筋力だけでなく、感覚・姿勢・運動計画・予測・注意のつながりとして見ていきます。お子さんに合った練習の入口を一緒に整理します。
DCDとの関係。診断より先に、生活の困りごとを見る。
発達性協調運動症(DCD)は、脳性麻痺や筋疾患などの神経・筋疾患で説明されないにもかかわらず、協調運動スキルの獲得や使用が難しく、日常生活や学校生活、遊びに影響する状態です。物を落とす、ぶつかる、書字やはさみ、箸、スポーツ、自転車などが難しいという形で見られることがあります。
ただし、「運動が苦手=DCD」とすぐに決めることはできません。視力、聴覚、筋力、関節の柔らかさ、注意、経験量、環境、心理的な不安、他の発達特性なども影響します。大切なのは、名前をつけることよりも、どの場面で、どのように困っているかを整理することです。
転びやすい、ぶつかりやすい、ボールや縄跳びが苦手、着替えに時間がかかる、箸やはさみが難しい、字が疲れやすい、姿勢が崩れやすいなど。
一つの活動だけでなく、園・学校・家庭など複数場面で困りごとが続くか、本人の自信や参加に影響しているかを見ます。
年齢別に見たいサイン。
年齢によって、運動制御の困りごとは見え方が変わります。以下は診断ではなく、相談のきっかけとして見るための目安です。
| 時期 | 見られやすい困りごと | 運動制御の視点 |
|---|---|---|
| 幼児期 | 走ると転ぶ、階段が不安定、三輪車・ブランコが苦手、着替えに時間がかかる | 姿勢制御、前庭感覚、固有感覚、動きの順序づけ |
| 年長〜小学校低学年 | 縄跳び、ボール、鉄棒、自転車、はさみ、鉛筆、箸が苦手 | 運動計画、左右の協調、力加減、予測制御 |
| 小学校中学年以降 | 体育を避ける、字を書くと疲れる、道具操作が遅い、集団遊びに入りにくい | 自己効力感、注意配分、疲労、経験不足の二次的影響 |

家庭で観察するポイント。
家庭では、できる・できないだけでなく「どんな条件だとうまくいくか」を見てください。床が滑ると崩れるのか、視覚的な目印があると動けるのか、ゆっくりならできるのか、見本があると分かるのか。ここに介入のヒントがあります。
活動の始まりで止まるのか、途中で姿勢が崩れるのか、スピードが上がると崩れるのか、最後まで続かないのか。崩れる場所を見つけると、必要な支援が具体的になります。
運動アプローチは「反復」より「条件づくり」。
運動が苦手な子には、ただ同じ練習を繰り返すよりも、成功しやすい条件を整えることが重要です。できた感覚を本人が感じられると、脳はその動きを学習しやすくなります。
| 視点 | 工夫 | 狙い |
|---|---|---|
| 環境を変える | 足台、滑りにくい床、視覚的な目印、道具の大きさを調整する | 必要な感覚情報を得やすくする |
| 動きを分ける | 準備姿勢、最初の一歩、手を出すタイミングなどに分解する | 運動計画を作りやすくする |
| 予測を助ける | 合図、リズム、目標物、スタート位置を明確にする | 先読みしやすくし、不安と力みを減らす |
| フィードバックする | 「もっと頑張って」ではなく「足をここに置くと安定したね」と具体化する | 成功した条件を本人が理解しやすくする |

避けたい関わり方。
運動が苦手な子は、本人なりにすでに頑張っていることが多いです。そこに「なんでできないの」「もっと早く」「ちゃんとして」と声をかけると、緊張が高まり、動きがさらにぎこちなくなることがあります。
・苦手な活動を、失敗したまま何度も反復させる
・「運動神経が悪い」「不器用だから」と性格のように扱う
・本人の不安や疲労を見ずに、年齢相応の課題だけを求める
相談の目安。
一時的な苦手さは、経験や成長とともに変化することもあります。一方で、困りごとが複数の場面で続く、本人が強く避ける、園や学校から繰り返し指摘される、日常生活に時間がかかる、転倒やけがが多い場合は、早めに相談してよいサインです。
相談は、診断名をつけるためだけのものではありません。今の困りごとの背景を整理し、家庭や園・学校でできる関わり方を具体化するためにも役立ちます。
よくある質問。
STROKE LABの小児リハ。
STROKE LABは、脳卒中をはじめとする神経のリハビリを専門としてきた自費リハビリ施設です。子どもの運動のぎこちなさに対しても、筋力や練習量だけでなく、脳が感覚情報をどう使い、姿勢をどう安定させ、どのように運動を計画しているかを丁寧に見ていきます。
[写真:施設の落ち着いた小児リハビリ環境/運動制御を評価している場面]
姿勢制御、感覚情報、運動計画、予測制御、力加減、タイミングを見ながら、お子さんが動きにくくなる背景を整理します。
特別な練習だけでなく、遊び、姿勢、道具、声かけ、環境調整を通して、日常の中で動きやすさを育てます。
大切なのは、子どもに「もっと頑張って」と求めることではなく、その子が動きやすくなる条件を一緒に探すことです。運動制御の視点で背景を整理できると、練習はもっと具体的で、前向きなものになります。

・発達障害情報のポータルサイト「発達性協調運動症」
・NHS: Developmental co-ordination disorder (dyspraxia) in children
・CanChild: Developmental Coordination Disorder
・International clinical practice recommendations on DCD

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)