集中できる部屋の作り方3ステップ|注意障害の環境調整
気が散るのは、意志の弱さではない。部屋を、変えればいい。
テレビがついていると話が入らない。机に物があると、そちらに気を取られる。あれもこれもと言われると固まってしまう。脳卒中や頭のけがのあとの注意障害では、これがよく起こります。でも、本人を変えようとするより、部屋を変えるほうが、ずっと早いのです。今日その場でできる集中できる部屋の作り方を3ステップで、さらに専門施設で深められることまで整理します。

気が散って、作業できない。
机に向かっても、周りの物や窓の外が気になって手が止まる。テレビがついていると、こちらの話が届かない。あれもこれもと頼むと、固まってしまう。片づけなさい、集中しなさいと言っても、変わらない。まじめにやろうとしているのに、気が散ってしまう本人を見て、家族もどうすればいいのか分からなくなります。
でも、これは意志の弱さではありません。注意という心の明かりが、周りのものに奪われているだけ。そして、その奪うものは、部屋から減らせます。
注意障害では、注意という心の明かり(スポットライト)が弱くなり、しかも必要なものだけに当てにくくなります。だから、目に入るもの、耳に入るものが多いほど、明かりがあちこちに奪われ、肝心のことに向けられなくなります。注意の4つのタイプやしくみは注意障害の基本の記事で解説しています。この記事では、その明かりを守る部屋づくりに踏み込みます。
STROKE LABの視点:明かりを、奪うものを減らす。
環境調整の考え方は、とてもシンプルです。弱った明かりを無理に強くしようとするより、明かりを奪うものを減らすほうが、はるかに簡単で、今日すぐにできます。本人に集中してと言うのではなく、集中を邪魔するもの、つまり余計な光(視界)、雑音(音)、複数の的(あれこれ同時)を、部屋から一つずつ取り除いていく。それだけで、同じ力でも集中がぐっと保ちやすくなります。
具体的には、視界を減らす、音を減らす、1テーブル1作業の3ステップで進めます。この順番が大切です。次の項で、一つずつ実践に落とします。

自宅でできる、3ステップ。
全部を一度にやろうとせず、まずステップ1から始めてください。一つ整えるごとに、集中の続きやすさが変わっていきます。
見えるものは、それだけで注意を奪います。まず、机の正面を壁に向け、視界に人の動きや窓の外が入らないようにします。机の上と周りから、今使わない物をしまい、見える物を最小限にします。カレンダーやポスターなど、目を引くものも一度外すと、集中が保ちやすくなります。
聞こえる音も、注意を奪います。とくにテレビやラジオは、大事なことをするときは消します。家族の会話や生活音が届きにくい、静かな時間帯や静かな部屋を選びます。どうしても音が避けられないときは、耳栓やイヤーマフも役立ちます。BGMがあったほうが集中できる人もいますが、注意障害では、まず無音を試すのがおすすめです。
最後に、机の上を整えます。今やる一つの作業に必要な物だけを机に置き、それ以外は片づけます。食事なら食器だけ、書き物なら紙とペンだけ。複数の作業の物が同時に見えていると、注意がそちらへ引かれ、混乱のもとになります。一つ終わったら片づけ、次の物を出す。この一つずつが、いちばんの近道です。

脳のけがのあとの認知リハビリの国際的な指針では、目に入る妨げや耳に入る妨げを取り除き、作業する環境を整えることが、注意の問題が生活に及ぼす影響を和らげると位置づけられています。まさに、視界を減らす、音を減らす、机を一つの作業だけにする、という工夫にあたります。
限界:環境調整は、注意の問題の影響を和らげる工夫であって、注意そのものを治すものではありません。効果には個人差があります。整えても難しいときは、訓練課題や専門職への相談と組み合わせてください。
| 困る場面 | 3ステップの応用 |
|---|---|
| 食事に集中できない | テレビを消す。机の上を食器だけにする。おかずを一品ずつ出すと、より食べやすいことも |
| 書き物・計算ができない | 静かな部屋で、机は壁向き。紙とペンだけを置き、資料は今使う1枚だけ出す |
| 会話が続かない | テレビや音楽を消し、静かな場所で一対一で。大事な話は、人の多い場所を避ける |

もう一つ、いちばん大切なコツを。作業の途中で話しかけない、二つのことを同時に頼まない。この二つを家族が意識するだけで、集中はずいぶん保ちやすくなります。注意そのものを鍛える練習は、注意の自主トレの記事で紹介します。
専門施設で、さらに期待できること。
ここからは、少し専門的な話になります。リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、全体像をお伝えします。自宅の環境調整が妨げを減らす静かな環境づくりだとすれば、専門施設で目指すのは、その一歩先です。必要なものに注意を向け続け、余計なものを抑える力は、前頭葉と頭頂葉をつなぐ注意のネットワークに支えられていると考えられています。この力に働きかけながら、静かな環境から現実の環境へ、段階的に橋渡しします。代表的な介入を整理します。
| 介入 | 中身と、自宅との違い |
|---|---|
| 妨害の段階的な調整 | どんな妨害に弱いかを評価し、まず静かな環境で成功させたうえで、生活や仕事に近い刺激を少しずつ戻していく。妨げを減らすだけでなく、妨げの中でも集中できるように育てる |
| 直接的注意訓練(APT) | 妨害のある中で、必要なものに注意を向け続ける・切り替える力を、段階的に負荷を上げて鍛える。難易度をその場で調整できるのが自宅との違い |
| メタ認知・自己管理 | ご本人が自分の気が散りやすさに気づき、自分で環境を整えたり休みを入れたりできるようになる練習。人任せでなく、自分で調整できる力を育てる |
| 家族・職場への環境の手引き | 家庭や職場の環境の作り方、声のかけ方、休みの入れ方を、その方の生活に合わせて具体的に設計し、周囲にも共有する |
これらに共通するのが、妨げを減らすだけで終わらせず、現実の環境でも集中できるところまで橋渡しするという考え方です。家をずっと無音に保つことはできませんし、職場や外はなおさらです。だから、静かな環境で成功を積んだうえで、少しずつ現実に近づけていきます。効果には個人差があり、進め方は評価にもとづく専門職の設計が前提です。

STROKE LABが重視するのは、静かな環境での成功を出発点に、現実の環境でも集中できるところまで段階的に橋渡しすることです。まず、どんな妨害に弱いかを評価し、無理のない静けさで成功を積みます。そのうえで、生活や仕事に近い刺激を少しずつ戻し、妨げの中でも集中を保てるように慣らしていきます。
さらに、ご本人が自分で環境を整えられるようになること(自己管理)を育て、ご家族や職場にも環境の作り方を手引きします。家はずっと無音ではいられません。だからこそ、自分で調整できる力と、周囲の理解が要になります。妨げを減らすだけの自宅の工夫を、評価と段階づけで一歩先へ進める。これが私たちの役割です。より専門的な評価と治療の詳細は、医療者向けの解説記事で扱います。
脳卒中後に注意の低下がみられる人を対象にした無作為化比較試験では、妨害の有無を含めて注意を段階的に鍛える直接的注意訓練を行うと、注意の検査成績が改善したと報告されています。妨げを減らすだけでなく、妨げの中でも注意を保つ力に働きかける意味を示す結果です。
限界:検査上の改善が、生活のすべての場面にそのまま広がるとは限りません。だからこそ現実の環境や生活課題と結びつけることが要で、効果には個人差があり、進め方は専門職の設計が前提です。
専門リハと、受診の目安。
どんな妨害に弱いか、どこまで刺激を戻せるかは、注意のどのタイプがどれくらい崩れているかを評価したうえで決めます。注意そのもののしくみや、注意を向ける先を定める脳のはたらきについては、注意障害の基本の記事で、脳のしくみの動画とあわせて解説しています。
受診や相談の目安は、環境を整えても集中が続かず、生活や仕事に支障が出ているときです。とくに、疲れやすさや気分の落ち込みが強いとき、進め方に迷うときは、自己流を続けず、作業療法士など専門職に相談してください。仕事や運転の再開を考えるときも、注意の評価は大切な手がかりになります。より専門的な評価を知りたい医療者の方は、医療者向けの解説記事もご覧ください。
よくある質問。
Q. 部屋を片づけるだけで、集中できるようになりますか?
Q. テレビや音楽は、消したほうがいいですか?
Q. どこから手をつければいいですか?
Q. 家族はどう声をかければいいですか?
Q. 自宅の環境調整と、専門施設の関わりは何が違うのですか?
Q. 環境を整えても集中できないときは、どうすればいいですか?
集中と環境の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。集中しにくさは、部屋の整え方だけでなく、注意のどのタイプが崩れているか、疲れやすさが重なっていないかによっても変わります。私たちは、まずどんな妨害に弱いかを評価し、静かな環境での成功を出発点に、生活や仕事の環境でも集中できるところまで段階的に橋渡しします。ご本人が自分で環境を整えられるよう育て、ご家族や職場への手引きも行います。困っている生活の場面そのものを題材にするので、練習がそのまま暮らしに活きます。保険リハとの併用もできます。

注意にかかわる前頭葉や頭頂葉のはたらきから、環境への応用まで、脳の部位ごとの働きと症状のつながりを、豊富なイラストで解説。本文と連動するYouTube講義動画で、脳のしくみを目と耳から学べます。
責めないことの、はじまり。

集中できないのを見て、つい「しっかりして」と言ってしまう。でも本人は、まじめにやろうとして、気が散ってしまう。注意障害のご家族が抱えるこのすれ違いを、私は現場で何度も見てきました。
お伝えしたいのは、本人を変えようとするより、まず部屋を整えるほうが早い、ということです。そして、部屋を整えることは、責めないことのはじまりでもあります。妨げを減らし、そのうえで、現実の中でも集中できる力を、専門職と一緒に育てていけます。
集中や環境でお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。その方の生活の場面に合わせて、環境の整え方と、その先の育て方を一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の公的情報・診療ガイドラインと、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の現れ方や回復には個人差があります。関わり方の判断は、必ず主治医・専門機関にご相談ください(最終確認日:2026年7月7日)。
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害情報・支援センター
- Ponsford J, Velikonja D, Janzen S, et al: INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part II: Attention and Information Processing Speed. Journal of Head Trauma Rehabilitation. 2023;38(1):38-51.(環境と課題の調整による注意の問題の影響の軽減。第1エビデンスボックスの出典)
- Barker-Collo SL, Feigin VL, Lawes CM, Parag V, Senior H, Rodgers A: Reducing attention deficits after stroke using attention process training: a randomized controlled trial. Stroke. 2009;40(10):3293-3298.(直接的注意訓練APTのRCT。第2エビデンスボックスの出典)
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)