自分の障害に気づけない(病識低下)|責めずに支えるための基礎知識
認めないのではなく、気づけない。
自分は大丈夫だと言う。リハビリはいらないと拒む。何度説明しても認めない。脳卒中や頭のけがのあとのその様子は、病識低下かもしれません。これは意地でも否認でもありません。脳が、自分に障害があること自体に気づけなくなっている状態です。そのしくみと、責めずに支える関わり方を整理します。

なぜ、認めてくれないのか。
明らかにうまくいっていないのに、本人は前と同じようにできると言う。リハビリはいらないと拒む。間違いを指摘すると、かたくなに認めない。心配して言えば言うほど、口論になり、関係がぎくしゃくしていく。どうして分かってくれないのか——。戸惑いと、いらだちと、責めてしまったあとの罪悪感がまざり合います。
でも、本人は意地を張っているのではありません。脳が、自分に障害があること自体に気づけなくなっているのです。名前は、病識低下といいます。
病識低下は、脳卒中や頭のけがのあとにみられる高次脳機能障害の一つです。多くは前頭前野や右脳の損傷によって、自分の状態を捉え直す働きが弱くなることで起こります。大切なので先にお伝えします。気づけないのは症状であって、本人のせいでも、支えるご家族のせいでもありません。責めなくていいのです。全体像は高次脳機能障害の完全ガイドをご覧ください。
STROKE LABの視点:認めないのではなく、気づけない。
病識低下を理解する鍵は、よく似た別の状態との違いにあります。それが、心理的な否認です。どちらも障害を認めないように見えますが、受け入れたくないのか、気づけないのかが、まったく違います。ここを取り違えると、対応もかみ合いません。
| 見分けるポイント | 否認(受け入れたくない)と 病識低下(気づけない) |
|---|---|
| 何が起きている | 否認は事実が分かるのに受け入れたくない。病識低下はそもそも障害に気づけない |
| 本人の自覚 | 否認は心のどこかで気づいている。病識低下は自覚が乏しく、困っている感じがない |
| 助けになる関わり | 否認は気持ちに寄り添う時間。病識低下はその場での具体的な気づきの経験 |
そしてもう一つ、大切な見方があります。気づきは、あるかないかの二択ではありません。まったく気づいていない状態から、先回りして気づける状態まで、間には段があります。私たちは、この気づきを4つの段の階段として捉えています。今どの段にいるかが分かると、関わり方の見当がつきます。

自宅でできること:直面させるより、段に合わせる。
まずは、ご家族が今日から実践できる関わりからお伝えします。病識低下への向き合い方で、いちばん大切な転換がこれです。いきなり全部を分かってもらおうと説得するより、今いる段に合わせて関わるほうが、確実に前へ進みます。1段目にいる人にいきなり4段目の理解を求めても、届かず、口論になるだけです。責めることは、気づきを進めません。
段ごとの関わりの入口を、まとめます。共通するのは、言葉で分からせようとするより、本人が自分で気づける経験を、そっと用意することです。
| 気づきの段 | 家庭での関わりの入口 |
|---|---|
| 気づいていない | 説得しない。危険を先に減らし、失敗しても大事にならない安全な環境を整える |
| 知的な気づき | 責めず、事実をメモや映像などで穏やかに共有する。良し悪しの評価は加えない |
| 体験的な気づき | 失敗した直後に、責めずに一緒に「今どうだった」と振り返る |
| 予測的な気づき | やる前の計画を一緒に立て、自分で気づけたことを言葉にして認める |
脳損傷後の気づきに対しては、作業のあとにその場で結果を一緒に振り返るフィードバックが、気づきを中くらいの程度で改善しうると報告されています。言葉で説明するより、本人がずれに自分で気づく経験を積むことが、鍵とされています。
限界:研究の数は少なく質にもばらつきがあり、効果は控えめです。生活そのものへの広がりもまだはっきりしていません。また、気づきが進むにつれて気分の落ち込みが強まることもあり、感情面のケアと一緒に進める必要があります。無理に直面させないことが大切です。効果には個人差があります。

とはいえ、実際にどう声をかけ、どう会話を運ぶかは、いちばん悩むところだと思います。否定も説得もしない伝え方の具体的な型は、障害を認めない本人への伝え方の記事で、会話例つきでくわしく解説します。この記事は、その土台となるしくみと段階の見立てまでを担います。
専門施設で、さらに期待できること。
ここからは、少し専門的な話になります。リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、気づきへの関わりの全体像をお伝えします。自宅での関わりが段に合わせて安全を守り、気づきの経験を用意することだとすれば、専門施設で目指すのは気づきの段を、無理なく一段ずつ上げていく関わりです。
ここからは、少し専門的な話になります。リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、全体像をお伝えします。病識の低下は、自分の状態を一歩引いて監督する脳の働き(右半球の前頭葉や島、側頭頭頂接合部などによる、自己のモニタリング)の低下と関わると考えられています。だからこそ、言葉で説明するより、本人が自分でずれに気づく経験を設計します。代表的な介入を整理します。
| 介入 | 中身と、そのしくみ |
|---|---|
| 体験的フィードバック | 作業を映像や記録にとり、直後に一緒に見て、ずれに自分で気づく経験を積む。指摘ではなく、本人の発見を待つ |
| 自己予測と自己評価 | やる前に「どれくらいできるか」を予想し、やってみて、結果と照らし合わせる。この予想と結果のずれから、その場で気づく力(オンラインの気づき)を育てる |
| メタ認知文脈的介入 | 本人がしたい実際の生活課題の中で、気づきと対処の方略を同時に育てる。気づきの階段(知的→体験的→予測的)を、一段ずつ上げていく |
| 交流と感情のケア | 同じ経験をした人との出会いが気づきを促す。気づきに伴う落ち込みを、感情面からていねいに支える |
これらに共通するのが、説得ではなく、本人が自分で気づける場を、段階に合わせて用意するという考え方です。気づきは、まったく気づかない状態から、頭では分かる段階、その場で気づける段階、先回りして気づける段階へと、階段のように育つと整理されています。今どの段にいるかを見て、一段上を狙う。海外の研究でも、その場で振り返るフィードバックや、生活課題に沿った気づきへの働きかけが、活動や参加の広がりにつながりうると報告されています。ただし効果は控えめで研究も限られ、気づきが進むと落ち込みが出ることもあるため、感情面のケアと一緒に、無理に直面させずに進めます。
これらに加えて、忘れてはならないのが安全に関わることは本人任せにしないという原則です。気づきが乏しいと、運転・服薬・お金の管理・火の扱いなどでも、危険が本人には見えていません。ここは気づきが育つのを待たず、主治医や専門職と一緒に、本人の尊厳に配慮しながら線を引きます。効果の出方には個人差があり、どれか一つが万能というわけではありません。

STROKE LABが重視するのは、失敗を責める場ではなく、自分で気づける場を用意することです。本人がやりたいと思う作業を題材に、その場で映像や記録をとり、直後に並んで振り返る。指摘するのではなく、本人が自分でずれに気づけるように、難易度と手がかりを設計します。
そして、気づきが進むと落ち込みが出ることがあります。だからこそ、気づきと自信を、両方いっしょに育てることを大切にします。できるようになったことを言葉にして返し、次の一歩を小さく用意する。どの段にいて、何をどう組み合わせるかは一人ひとり違うため、評価にもとづいて個別に組み立てます。より専門的な評価と治療の詳細は、医療者向けの解説記事で扱います。
脳損傷後の自己認識の障害に対する介入をまとめた系統的レビューでは、作業や生活課題を用いて気づきに働きかけると、日常生活の活動や社会参加の広がりにつながりうると報告されています。気づきそのものだけを目標にせず、生活の場面での実践と結びつけることが鍵とされています。
限界:研究の方法や対象はさまざまで、質にばらつきがあります。効果には個人差があり、進め方は専門的な評価と設計が前提です。気づきに伴う気分の変化にも配慮が必要です。
専門リハと、受診の目安。
前の項でお伝えした気づきへの関わりは、今どの段にいるか、否認とどう重なっているかをていねいに見立てたうえで、その人に合わせて組み立てます。自分の状態に気づくことに関わる楔前部のしくみを解説した動画も、背景の理解に役立ちます。
自分の状態に気づくこと(自己意識)に関わる楔前部のしくみを解説(脳リハ.com)。効果には個人差があります。
受診の目安は、脳卒中や頭のけがのあとで、本人が困っている自覚に乏しく、リハビリを拒む・危ない場面が増えるなど生活に支障が出てきたときです。認知症やうつとの見分け、否認との切り分けは専門的な検査が必要なので、自己判断せず医療機関で確かめてください。とくに運転の再開は必ず主治医の判断を仰いでください。より専門的な評価や治療のアプローチを知りたい医療者の方は、医療者向けの解説記事もご覧ください。
よくある質問。
Q. 本人が「自分は大丈夫」と言って障害を認めません。わざとですか?
Q. 病識低下は、ショックで受け入れられない否認とは違うのですか?
Q. 何度説明しても認めません。どうすればいいですか?
Q. リハビリを拒否します。どう考えればよいですか?
Q. 病識低下は、リハビリで良くなりますか?
Q. 運転やお金の管理も、本人に任せて大丈夫ですか?
病識低下の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。病識低下は、その多くが脳卒中や頭のけがを背景に起こります。今どの段の気づきにいるかを見立て、責めずに気づける経験を用意する関わりと、暮らしの中の安全の線引きを、その人の生活に合わせて組み立てます。困っている場面そのものを題材にするので、押し付けにならず、本人の納得が生まれやすくなります。診断や薬は主治医を尊重し、私たちは生活と動作の側から支えます。保険リハとの併用もできます。

自分の状態に気づくことにかかわる前頭前野や頭頂葉をはじめ、脳の部位ごとの働きと症状のつながりを、豊富なイラストで解説。本文と連動するYouTube講義動画で、脳のしくみを目と耳から学べます。
気づける場を、そっと用意する。

なぜ認めてくれないのか。説得のたびに口論になり、責めてしまったあとで落ち込む。病識低下のご家族が抱えるこのつらさを、私は現場で何度も見てきました。
お伝えしたいのは、分からせようとがんばるより、本人が自分で気づける場をそっと用意するほうが、暮らしは早く落ち着くということです。責めなくていい。今いる段に合わせれば、道は開けます。
障害を認めないことでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。今どの段にいるかを一緒に見立て、その方に合う気づきの場と、守るべき安全の一線を、一緒に整えます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の公的情報・診療ガイドラインと、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の現れ方や回復には個人差があります。診断や鑑別、安全に関わる判断は、必ず主治医・専門機関にご相談ください(最終確認日:2026年7月7日)。
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害情報・支援センター
- Schmidt J, Lannin N, Fleming J, Ownsworth T: Feedback interventions for impaired self-awareness following brain injury: a systematic review. Journal of Rehabilitation Medicine. 2011;43(8):673-680.(自己認識フィードバックの効果と限界。第1エビデンスボックスの出典)
- Engel L, Chui A, Goverover Y, Dawson DR: Optimising activity and participation outcomes for people with self-awareness impairments related to acquired brain injury: an interventions systematic review. Neuropsychological Rehabilitation. 2019;29(2):163-198.(気づきへの介入と活動・参加。第2エビデンスボックスの出典)
- Crosson B, Barco PP, Velozo CA, Bolesta MM, Cooper PV, Werts D, Brobeck TC: Awareness and compensation in postacute head injury rehabilitation. Journal of Head Trauma Rehabilitation. 1989;4(3):46-54.(知的・体験的・予測的という気づきの階層モデル)
- 日本高次脳機能障害学会ほか:病識・自己認識(アウェアネス)の階層と、脳損傷後のリハビリテーションに関する整理(知的・体験的・予測的な気づきの枠組み)
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)