性格が変わった?社会的行動障害|感情と行動の変化のしくみ
性格が変わったのではなく、ブレーキが利きにくい。
些細なことで怒る、我慢がきかない、別人のようになった。脳卒中やケガのあとのその変化は、社会的行動障害かもしれません。これは性格の問題ではなく、感情にブレーキをかける脳の働きが弱くなっている状態です。怒りと意欲低下のしくみ、そして家庭での関わり方を整理します。

別人みたいに、なってしまった。
ほんの些細なことで、火がついたように怒り出す。少し前まで優しかった人が、まるで別人のよう。かと思えば、一日中ぼんやりして、何を勧めても動こうとしない。どう接すればいいのか分からず、家族はいつも緊張し、心をすり減らしていきます。高次脳機能障害のご家族が抱える精神的な負担として、この性格の変化が最も多く挙げられています。
でも、本人が変わってしまったのではありません。感情や行動を調整する脳の働きが、うまく利かなくなっているのです。名前は、社会的行動障害といいます。
社会的行動障害は、高次脳機能障害の中核となる症状の一つです。厚生労働省の調査では、社会的行動障害のある方のおよそ85パーセントに、怒りやすさ(易怒性)がみられたと報告されています。決してまれな症状ではありません。全体像は高次脳機能障害の完全ガイドにまとめています。この記事では、怒りと意欲低下のしくみと、家庭での関わり方に絞って解説します。
STROKE LABの視点:ブレーキとエンジンで捉える。
社会的行動障害は、正反対に見える2つの方向で現れます。すぐ怒る・我慢がきかないという方向と、意欲が出ない・自分から動けないという方向です。一見バラバラですが、STROKE LABではブレーキとエンジンという1枚のフレームで捉えます。感情を止めるブレーキが利きにくいのが怒り、行動を起こすエンジンがかかりにくいのが意欲低下です。
| 2つの方向 | 家庭で気づきやすいサイン |
|---|---|
| ブレーキが利きにくい(怒り側) | 些細なことで怒る、我慢がきかない、こだわりが強い、思ったことをすぐ口にする |
| エンジンがかからない(意欲側) | 意欲が出ない、自分から動けない、一日中ぼんやりする、促されないと始められない |
どちらか一方のこともあれば、両方が入りまじることもあります。大切なのは、どちらも本人の性格やわがままではなく、脳の調整機能の問題だと捉えることです。この見方に立てると、責めるのではなく支える、という関わりに切り替えられます。

怒りには、引き金がある。
怒りへの対応で、いちばん大切な発想の転換がこれです。突然キレるように見えても、多くの怒りには引き金があります。疲れているとき、うるさい場所、急かされたとき、一度に多くを求められたとき。脳の処理できる容量を超えると、あふれて爆発する。これは破局反応とも呼ばれます。だから、怒りを鎮める技術より、怒りが起きる前に引き金を減らすほうが効果的です。
おすすめは、怒りが起きたら何が引き金だったかを1行だけメモしておくことです。数日分たまると、その人特有のパターンが見えてきます。うるさい環境が引き金なら静かにする、急かすと怒るなら時間に余裕をもたせる、というように、引き金ごとに環境を整えます。怒っている最中は、説得や言い返しをせず、まず安全を確保し、刺激を減らして少し一人になれる時間をつくる。怒った後はケロッとしていることも多く、これも症状の特徴です。
易怒性への対応は、まず環境調整や関わり方の工夫といった薬を使わない対応を土台にし、引き金を減らすことから始めるのが基本とされています。引き金の言語化や、本人が自分の対処法を身につける取り組み、怒りに焦点を当てた認知行動療法のプログラムなども研究・開発されています。睡眠不足が怒りやすさを高めることも知られており、生活リズムを整えることも支えになります。
限界:社会的行動障害は客観的に測りにくく、効果には個人差があります。薬物療法が用いられることもありますが、それは主治医が判断する領域です。この記事は診断や治療の代わりにはなりません。危険がある場合や対応に困るときは、必ず主治医に相談してください。

怒りへの具体的な向き合い方や、引き金の見つけ方は怒りへの対処の記事で、こだわりが強いときの工夫は固執への関わりの記事で、それぞれ詳しく扱います。
エンジンが、かからないとき。
怒りとは逆に、意欲が出ない側も、社会的行動障害の大切な一面です。一日中ぼんやりして、何を勧めても動かない。周りからはやる気がないように見えますが、これもなまけではなく症状です。行動を起こすエンジンがかかりにくくなっている状態で、意欲・発動性の低下やアパシーと呼ばれます。
責めても、エンジンはかかりません。助けになるのは、最初のひと押しを外から与えることです。やることを小さく分け、決まった時間に一緒に始める。動き出せたら、できたことに目を向ける。ハードルを下げて、始めるきっかけを用意するのがコツです。詳しい関わり方は意欲が出ないときの記事で解説します。

専門リハと、受診の目安。
専門のリハビリでは、どんな場面で怒りや意欲低下が出るかを一緒に整理し、引き金を減らす環境調整や、本人が自分の対処を身につける関わりを組み立てます。ご家族への接し方の助言も行います。ただしSTROKE LABでは、環境を整えるだけでは終わりません。なぜその怒りが起きるのかを脳のしくみまで降りて見立て、身体からアプローチするのが、私たちの特徴です。次の項で、その考え方をご紹介します。感情にかかわる扁桃体のしくみを解説した動画も、背景の理解に役立ちます。
感情に関わる扁桃体のしくみを解説(脳リハ.com)。効果には個人差があります。
受診の目安は、脳卒中やケガのあとで、怒りや意欲低下によって家庭や仕事の関係に支障が出てきたときです。とくに、暴力やご本人・周囲の安全にかかわる心配があるときは、早めに主治医に相談してください。薬物療法が必要かどうかも含め、判断は主治医の領域です。家族の負担が大きいときの支えや制度については家族のセルフケアの記事を、より専門的な評価を知りたい医療者の方は医療者向けの解説記事もご覧ください。
専門施設で、さらに期待できること。
ここからは、少し専門的な話になります。ご家族はざっと読み飛ばしてもかまいませんが、リハビリに関わる方や、もっと深く知りたい方に向けて、社会的行動障害へのアプローチの全体像をお伝えします。自宅での工夫が引き金を減らして怒りを避ける工夫だとすれば、専門施設では、その怒りが起きるしくみそのものに、多方面から働きかけます。
社会的行動障害へのアプローチは、大きく環境・行動への働きかけ、本人の対処スキル、生物学的側面の3系統に整理できます。どれか一つではなく、その人の状態に応じて組み合わせます。
| 3つの系統 | 代表的なアプローチ(一例) |
|---|---|
| 環境・行動への働きかけ 引き金を減らす |
トリガー分析と環境調整、生活の構造化、望ましい行動を引き出す先行子への配慮(ポジティブ行動支援) |
| 本人の対処スキル 自分で扱えるように |
認知行動療法、社会技能訓練、怒りの前兆に気づくセルフモニタリング、アンガーマネジメント |
| 生物学的側面 主治医の領域 |
睡眠や生活リズムの安定、主治医の判断による薬物療法(攻撃性・意欲低下などの症状を和らげる) |
対応の比重は、本人の気づき(病識)のレベルによっても変わります。自覚が乏しい段階では環境・行動への働きかけが中心になり、気づきが育つにつれて本人の対処スキルの比重が高まります。薬物療法は主治医が判断する領域で、効果の出方には個人差があります。
STROKE LABが重視するのは、怒りを、単独の感情問題として見ないことです。突然の怒り(破局反応)は、多くの場合、注意や情報処理の速度が落ち、入ってくる情報をさばききれず、容量を超えてあふれた結果として現れます。うるさい場所で怒るのは、短気だからではなく、雑音を選り分ける注意の力が落ちて処理が飽和するからです。だから私たちは、背景で注意や段取りのどこがボトルネックになっているかを評価し、あふれる手前の負荷を下げます。怒りへの介入が、注意や遂行機能へのアプローチと一体になるわけです。
さらに、怒りやすさの背景にある過覚醒の状態を、姿勢・呼吸・身体からの感覚入力を通じて整えることも大切にします。感情を言葉での説得だけで扱わず、身体の状態から下支えする視点です。そして怒りの前兆に本人が気づく力は、失敗させずに成功体験の中で育てます。運動と神経のしくみに立脚したこの関わりが、STROKE LABの臨床の軸です。一般的な向き合い方は注意障害の記事とあわせて読むと、つながりが見えてきます。より専門的な評価とアプローチの詳細は、医療者向けの解説記事で扱います。

よくある質問。
Q. すぐ怒るようになったのは、性格が変わったからですか?
Q. 社会的行動障害には、どんな症状がありますか?
Q. 怒りが爆発したとき、どう対応すればよいですか?
Q. 意欲が出ず、一日中ぼんやりしています。なまけですか?
Q. 薬で怒りを抑えることはできますか?
Q. 本人に自覚がなく、家族ばかりが疲れてしまいます。
社会的行動障害の相談は、STROKE LABへ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。どんな場面で怒りや意欲低下が出るかを一緒に整理し、引き金を減らす環境の工夫や、本人が自分の対処を身につける関わりを、その人と家族の生活に合わせて組み立てます。ご家族の負担や接し方のご相談も歓迎です。診断や薬は主治医を尊重し、私たちは生活と動作の側から支えます。保険リハとの併用もできます。

感情にかかわる扁桃体や前頭葉をはじめ、脳の部位ごとの働きと症状のつながりを、豊富なイラストで解説。本文と連動するYouTube講義動画で、脳のしくみを目と耳から学べます。
引き金を一緒に減らす。

穏やかだった人が別人のように怒る。あるいは、何も手につかず一日を過ごす。そのどちらにも戸惑い、時に自分の関わり方を責めてしまうご家族に、私は現場で何度も出会ってきました。
お伝えしたいのは、これは性格の変化ではなく、脳のブレーキとエンジンの問題だということです。怒りを鎮めようとするより、引き金を一緒に減らす。意欲を叱るより、始めるひと押しを添える。見方が変わると、関わり方が変わります。
怒りや意欲のことでお困りなら、どうぞ一度ご相談ください。困っている場面そのものを題材に、その方とご家族に合う関わりを一緒に見つけます。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、国内外の公的情報・診療ガイドラインと、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。症状の現れ方や回復には個人差があります。気になるときは、必ず主治医・専門機関にご相談ください(最終確認日:2026年7月6日)。
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害情報・支援センター
- 厚生労働科学研究:高次脳機能障害者の社会的行動障害による社会参加困難への対応に関する研究(社会的行動障害で易怒性が最多の約85パーセント。エビデンスボックスの出典)
- 高次脳機能障害の易怒性に対するアンガーマネジメント・認知行動療法に関する報告(環境調整・トリガー分析を土台とする非薬物的対応の整理)
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)