ダウン症の子の運動発達|低緊張の「なぜ」と、神経から育てる関わり
ダウン症の子の運動発達|低緊張の「なぜ」と、神経から育てる関わり
「首すわりがゆっくり」「座ると背中が丸くなる」「立つと足がぐにゃっとする」——ダウン症候群のお子さんの運動発達は、単なる筋力不足ではなく、低緊張・関節のゆるさ・感覚入力・姿勢制御が重なってゆっくり進みます。神経の学習という視点から、家庭での関わり方を整理します。

こんな場面で、心配になります。
首すわりに時間がかかった。うつ伏せにするとすぐ疲れてしまう。座れるようになっても、背中が丸くなり、両足が大きく開いてしまう。立たせようとすると、膝が反り、足の裏がつぶれるように見える——。
ダウン症候群のお子さんの運動発達は、一般的な月齢表と比べるとゆっくり進むことが多くあります。しかし、それは「できない」のではなく、姿勢を作るための神経と体の準備に時間が必要という見方が大切です。
ダウン症候群では、筋肉の緊張が低く、関節が柔らかいことが多く、首すわり、寝返り、座位、四つ這い、立位、歩行といった運動発達がゆっくり進みやすいとされています。ただし、発達の道筋がまったく別になるわけではありません。多くのお子さんは、同じような発達の順序をたどりながら、自分のペースで少しずつ獲得していきます。
この記事では、ダウン症候群のお子さんの運動発達を「遅れているかどうか」だけでなく、低緊張がなぜ起こるのか、どのような姿勢や動きの経験が神経の学習につながるのか、家庭でどのように関われるのかという視点で整理します。
ダウン症の運動発達の特徴。
ダウン症候群は、21番染色体が通常より多いことで、体や脳の発達に影響が生じる状態です。運動面では、筋緊張の低さ、関節のゆるさ、筋力の発揮しにくさ、姿勢保持の難しさ、バランスの不安定さなどが重なりやすくなります。
そのため、同じ「座る」「立つ」「歩く」でも、体を支える土台が不安定になりやすく、手足を大きく開いて安定を取る、膝をロックして立つ、足の内側に体重が流れる、体幹を丸めて座るといった姿勢が見られることがあります。

早く立つ、早く歩くことだけを目標にすると、体がまだ準備できていない段階で代償的な動きが増えることがあります。寝返り、うつ伏せ、座位、四つ這い、立ち上がりといった経験を丁寧に重ねることが、将来の歩行や遊びの土台になります。
低緊張の「なぜ」。
低緊張とは、筋肉が常にだらんとしているという意味だけではありません。人の体には、姿勢を保つために必要な「ほどよい張り」があります。この張りがあることで、頭を支える、背中を起こす、腕で体を支える、足裏で床を押すといった動きがしやすくなります。
ダウン症候群のお子さんでは、この姿勢を作るための張りが低くなりやすいため、重力に対して頭や体を支えるのに時間がかかります。うつ伏せで頭を持ち上げる、座って体を起こす、四つ這いで腕と膝に体重を乗せるといった動きは、筋肉そのものの力だけでなく、神経が「どの筋肉を、どのタイミングで、どのくらい働かせるか」を学習していくことで育ちます。

低緊張のお子さんでは、強い運動をたくさん行うよりも、頭・体幹・骨盤がつながった姿勢で、手や足に適度に体重を乗せる経験が大切です。神経は、支えられた状態で「安定して動く感覚」を繰り返すことで、姿勢の作り方を学んでいきます。
運動発達を左右する5つの要素。
ダウン症候群のお子さんの運動発達を考えるとき、「筋肉が弱いから遅い」と単純に考えると、支援の方向性が狭くなります。実際には、いくつもの要素が重なって、姿勢や動きに影響しています。
| 要素 | 起こりやすいこと | 関わりの視点 |
|---|---|---|
| 低緊張 | 頭や体幹を起こし続けにくい | 支えた姿勢で、短時間から抗重力活動を経験する |
| 関節弛緩性 | 膝・足首・股関節が不安定になりやすい | 足部や骨盤の位置を整え、過度な開きや反張を避ける |
| 筋力発揮 | 力を入れ始めるタイミングが遅れやすい | 遊びの中で、押す・支える・届く経験を増やす |
| 感覚入力 | 体の位置や傾きが分かりにくい | 触れる・荷重する・揺れる経験を安全に取り入れる |
| 姿勢制御 | バランスを崩したときに戻りにくい | 小さな重心移動で、戻る・支える反応を育てる |
月齢より「順序」を見る。
ダウン症候群のお子さんの発達を見守るとき、月齢だけで焦る必要はありません。大切なのは、どの発達段階がどのように積み重なっているかです。首すわり、うつ伏せ、寝返り、座位、四つ這い、立位、歩行は、それぞれ次の段階の土台になります。

| 発達段階 | 見たいポイント | 次につながる力 |
|---|---|---|
| 首すわり | 頭を真ん中に保てるか、目線を合わせやすいか | 手を使う準備、視線の安定 |
| うつ伏せ | 胸や肘で支えられるか、頭を少し上げられるか | 肩甲帯の安定、体幹伸展 |
| 寝返り | 頭・体幹・骨盤がつながって回れるか | 体軸の回旋、左右の使い分け |
| 座位 | 背中を丸めすぎず、手を使う余裕があるか | 遊び、手の操作、体幹バランス |
| 四つ這い・膝立ち | 腕と膝で体重を支えられるか | 肩・骨盤の安定、交互運動 |
| 立位・歩行 | 足裏で床を感じ、膝をロックしすぎないか | 足部支持、重心移動、バランス |
※発達時期には大きな個人差があります。月齢表は参考にしつつ、医師・療育・リハビリ専門職と経過を確認することが大切です。
神経から育てる関わり。
運動発達は、筋肉だけで起こるものではありません。赤ちゃんは、触られる、支えられる、床を押す、揺れる、手を伸ばす、顔を向けるといった経験を通して、脳と体のつながりを学んでいきます。この感覚と運動のやりとりを、ここでは「神経から育てる関わり」と考えます。
頭・体幹・骨盤が真ん中でそろうと、手足を体の中央に集めやすくなります。真ん中で手を見る、手と手を合わせる、足を触る遊びは、体軸の学習につながります。
うつ伏せで肘を支える、四つ這いで手と膝に体重を乗せる、支えた立位で足裏を感じるなど、体重を受け止める経験が姿勢筋の働きを引き出します。
大きく揺らすのではなく、座位やうつ伏せで少しだけ左右に体重を移す経験を作ります。小さな重心移動が、戻る力や支える反応を育てます。
赤ちゃんは「訓練」よりも、見たい、触りたい、届きたいという目的で動きます。おもちゃ、人の顔、声かけを使い、楽しく動く経験を増やすことが大切です。

— 姿勢・筋緊張・感覚入力を、生活の中で一緒に整理します
STROKE LABでは、赤ちゃんの姿勢、筋緊張、関節の安定性、感覚への反応、運動の順序を評価し、ご家庭で無理なく続けられる関わり方をご提案します。
発達段階別のポイント。
運動発達の支援は、年齢で一律に決めるものではありません。今どの姿勢が安定していて、どの動きが次の課題になっているのかを見ながら関わることが大切です。
抱っこや仰向け遊びで、頭が真ん中に来る姿勢を作ります。手を胸の前に集める、顔を見て声をかける、短時間のうつ伏せで頭を少し上げる経験を重ねます。
おもちゃを斜め上に見せる、横向き姿勢を作る、胸の下にタオルを入れてうつ伏せを楽にするなど、頭・肩・骨盤がつながって動く経験を作ります。
床に座らせるだけでなく、骨盤を少し起こし、足を開きすぎない位置に整えます。手で支えるだけの座位から、片手を離しておもちゃを触る経験へつなげます。
膝を強く反らせて立つ、足が内側に倒れる、体を前に預けるなどの代償が出やすい時期です。足裏で床を感じ、骨盤を安定させた小さな立位経験から始めます。
避けたい代償と姿勢のくせ。
低緊張や関節のゆるさがあると、赤ちゃんは自分なりに安定しやすい姿勢を探します。その姿勢が一時的に役立つこともありますが、長く続くと次の動きに移りにくくなることがあります。
| よく見られる姿勢 | 背景 | 関わりの工夫 |
|---|---|---|
| 足を大きく開いて座る | 骨盤・体幹を安定させるために支持面を広げる | 骨盤を支え、足を少し中央に寄せて遊ぶ |
| 背中を丸めて座る | 体幹を起こし続ける力が不足しやすい | 短時間でよいので、骨盤を立てた座位を経験する |
| 膝を反らせて立つ | 膝をロックして安定を作ろうとする | 骨盤・足裏を整え、膝を少し柔らかく使う経験を作る |
| 足が内側につぶれる | 足部の支持と関節の安定が未熟 | 必要に応じて靴・インソール・装具を専門職と検討する |
医療面で確認したいこと。
運動発達を支援するときは、体を動かすことだけでなく、医療面の確認も大切です。ダウン症候群では、心疾患、摂食嚥下、視覚・聴覚、甲状腺機能、睡眠、頸椎の不安定性など、運動発達に影響する要素が関わることがあります。
特に頸椎の不安定性に関しては、家庭で首を強く引っぱる、急激に首を曲げる・回す、強い衝撃のある遊びを行うことは避けましょう。首の痛み、歩行の変化、手足の使いにくさ、脱力、排尿排便の変化などがある場合は、早めに医師に相談してください。
家庭でできる関わり。
家庭での関わりは、長時間がんばる必要はありません。機嫌がよい時間に、1回数分でも、姿勢が整った状態で「見る・触る・支える・動く」経験を増やすことが大切です。

仰向けでは、赤ちゃんの手が胸の前に集まるように支え、おもちゃや顔を真ん中で見せます。手と手、手と口、手と足が出会う経験は、体の中心を知る大切な遊びです。
うつ伏せは、胸の下に丸めたタオルを入れると楽になることがあります。最初は短時間で構いません。苦しくならないよう必ずそばで見守り、機嫌がよい時間に行います。
座位や立位は、無理に長く保たせるより、骨盤・体幹・足部を整えた短い経験を重ねます。姿勢が崩れたまま長時間行うより、よい姿勢を短く繰り返す方が学習につながります。
よくある質問と、STROKE LABの支援。
多くのお子さんは歩行を獲得しますが、時期や歩き方には個人差があります。歩くことだけを急ぐのではなく、座位、四つ這い、立ち上がり、足部の支持、バランスを丁寧に育てることが大切です。
成長に伴って姿勢や動きは変化しますが、低緊張そのものが完全になくなるというより、経験を通して体の使い方を学び、安定した動きが増えていくと考えます。早期から適切な姿勢・荷重・遊びの経験を重ねることが大切です。
足部の崩れや膝の反張が強い場合、靴・インソール・装具が役立つことがあります。ただし、年齢、足部の状態、歩行の段階によって適応が変わるため、医師や理学療法士、義肢装具士と相談して決めることが大切です。
毎日長時間行う必要はありません。機嫌のよい時間に、短時間で、楽しく成功しやすい姿勢や遊びを取り入れることが大切です。疲れているときや嫌がるときに無理に続ける必要はありません。
STROKE LABでは、神経リハビリで培った運動分析の視点をもとに、ダウン症候群のお子さんの姿勢・運動発達を評価します。低緊張、関節のゆるさ、感覚入力、体幹・骨盤・足部の支持を総合的に見ながら、ご家庭で続けやすい関わり方を一緒に考えます。
[写真:白ポロシャツの療法士が、母親に赤ちゃんの発達支援を説明している場面]
神経と体が一緒に学んでいく過程です。

ダウン症候群のお子さんの運動発達は、一般的な月齢表だけでは測れません。低緊張や関節のゆるさがあっても、適切な姿勢と経験を重ねることで、その子らしい発達の道筋が見えてきます。
私たちは、神経リハビリの視点から、なぜ今その動きになっているのかを丁寧に分析し、ご家庭での関わり方まで一緒に考えます。
発達のことで不安があるときは、ひとりで抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態、合併症、運動の可否、装具の適応については、必ずかかりつけの小児科医、専門医、理学療法士・作業療法士などの専門職にご相談ください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)