麻痺のある子どもの感覚障害|触覚・位置覚と運動をつなげて見る
感覚の入りにくさを、運動のぎこちなさと結びつけて見る
「手は動くのに生活では使わない」「見ていないと物を落とす」「力を入れすぎる」。麻痺のある子どもの動きにくさは、筋力だけでは説明できないことがあります。感覚は、体の状態を脳へ知らせ、動かした結果のずれを見つけて、力・方向・速度を修正するための情報です。感覚と運動を別々にせず、生活動作の中で整理します。

感覚は、動きを始める情報であり、修正する情報でもある。
手を伸ばしてコップを持つとき、脳は「手がどこにあるか」「指が物に触れたか」「滑り始めていないか」「どのくらい力を入れたか」を連続して受け取ります。その情報と、目標とする動きを比べ、必要なら握る力や手首の角度を修正します。
感覚障害があると、筋力が残っていても、動作の誤差を自分で見つけにくくなります。そのため、強く握りすぎる、物を落とす、手元を見続ける、動きが遅くなる、麻痺側を使わないといった現象が生じます。

触覚・位置覚・物体認知を、一つの「感覚」にまとめない。
| 感覚の段階 | 保護者の言葉にすると | 生活で起こり得ること | 評価で分ける意味 |
|---|---|---|---|
| 刺激の検出 | 触られたことに気づく | 物を落としても気づきにくい、痛みや温度への反応が左右で違う | 安全管理と、刺激を提示する方法が変わる |
| 触覚の場所・質の識別 | どこを、何で触られたか分かる | ボタンや小物の位置を手だけで探しにくい | 見ないで探す課題を使うか、視覚補助を残すかが変わる |
| 固有感覚・位置覚 | 手足がどこにあり、どう動いたか分かる | 手元や足元を見ないと不安定、関節位置を合わせにくい | 視覚依存を減らす順序と姿勢条件が変わる |
| 立体認知・物体認知 | 手の中の形や向きを区別する | ポケット内の物、鉛筆や消しゴムを触って選べない | 触覚識別と認知・言語の影響を分ける |
| 感覚運動統合 | 感じた情報を動きの修正に使う | つかめても力加減を変えられない、滑りに合わせて握り直せない | 刺激練習で終えず、実課題で修正する練習へつなぐ |
同じ子どもでも、触られたことには気づくが、場所や形の区別が難しい場合があります。また、感覚検査では答えられても、速い動作や二重課題では感覚情報を運動に使えないことがあります。感覚の「有無」だけではなく、どの段階で情報が生活動作から外れているかを見ます。
生活に現れる「感覚かもしれない」サイン。
| 生活場面 | 見えるサイン | 感覚以外に確認する要因 |
|---|---|---|
| 着替え | 袖口を探せない、麻痺側の手が服の下に残る、ボタン位置を見続ける | 関節可動域、視知覚、注意、両手役割の理解 |
| 食事 | コップを強く握る、箸の力が一定しない、こぼしても気づきにくい | 筋力、手指分離、姿勢、道具の形 |
| 書字・工作 | 鉛筆圧が極端、紙を押さえる手がずれる、物を頻繁に落とす | 微細運動、視線、課題速度、疲労 |
| 歩行・体育 | 足元を見続ける、床面が変わると不安定、着地の強さが一定しない | 視覚、前庭機能、筋力、装具、恐怖 |
| 遊び | 麻痺側を役割に使わない、両手課題を避ける | 発達性不使用、成功経験、課題の難しさ、周囲の介助 |
「見ればできる」は、大切な臨床情報
手元を見ればできるが、視線を外すと急に不正確になる場合、視覚で触覚や位置覚を補っている可能性があります。ただし、視線を外すことで注意が分散しただけかもしれません。視覚あり・一部遮蔽・短時間だけ見ないという段階を作り、変化の仕方を見ます。
「持てた」より、持った後に修正できるか
柔らかい物をつぶさず持つ、重さが変わった時に力を変える、滑り始めた時に握り直す。これらは、運動の途中で感覚フィードバックを使う課題です。成功したかだけでなく、失敗に気づき、自分で修正できたかを評価します。

一般的な感覚統合、感覚過敏、視知覚と混同しない。
「感覚」という言葉は広く使われます。発達特性に伴う音や触覚への過敏、感覚を求める行動、姿勢や覚醒の調整を扱う感覚処理の問題と、麻痺に伴う触覚識別・位置覚・立体認知の障害は、重なることがあっても同じではありません。
また、手元を見続ける理由が、位置覚の弱さではなく、視野、視知覚、空間認知、注意の切り替えにある場合もあります。No.89では体性感覚を中心に扱い、認知・視知覚の詳細はNo.90へ分けます。感覚刺激への反応だけで、原因を一つに決めないことが安全です。
研究でわかっていることと、臨床へ移すときの注意。
- Brunらのスコーピングレビューでは、脳性麻痺を対象とした多くの研究で触覚・固有感覚の低下が報告されました。一方、対象者や検査方法のばらつきが大きく、代表性や比較可能性に限界があります。
- Poitrasらの系統的レビューでは、触覚、固有感覚、視覚の障害と、片手・両手の運動機能との関連が検討されました。関連は示されるものの、研究デザインの違いがあり、感覚障害が運動制限をどの程度直接説明するかは一律ではありません。
- 小児脳性麻痺の身体機能介入レビューでは、本人・家族が選んだ目標と、その目標動作全体を練習することが重視されています。感覚訓練も、生活課題から切り離した受動刺激ではなく、目標動作の中で使える情報へ変換する必要があります。
主な研究は脳性麻痺を対象としており、小児脳卒中や外傷性脳損傷へ同じ効果をそのまま当てはめることはできません。感覚単独の介入効果、最適な量、生活への般化については研究が十分ではなく、臨床では評価結果と目標課題に応じて組み合わせます。
家庭では、刺激を増やすより「どの条件で崩れるか」を見つける。
家庭で目隠しをしたり、強い刺激を繰り返したりする必要はありません。まず一つの生活動作を選びます。たとえばコップなら、手元を見ている時間、落とす回数、握る強さ、麻痺側で支える回数を観察します。
| 調整する条件 | 家庭での例 | 観察すること |
|---|---|---|
| 大きさ・形 | 太いコップ、滑りにくい持ち手 | 握る力と持ち直しが変わるか |
| 視覚 | 最初は見てよい、慣れたら短時間だけ視線を外す | 見ない時間を増やすと急に崩れるか |
| 速度 | 急がせず、動作の途中で止まれる速さ | 失敗に自分で気づいて修正できるか |
| 両手の役割 | 麻痺側は紙を押さえる、容器を支える | 役割が明確だと自発使用が増えるか |
| 疲労 | 宿題前後、朝夕を比べる | 感覚利用や力加減が疲労で変わるか |
保護者の役割は、感覚検査をすることではなく、成功しやすい条件と崩れやすい条件を専門職へ伝えることです。できない場面を何度も繰り返すより、少し考えれば修正できる難易度に整えます。
専門施設で、さらに期待できること。
専門施設で目指すのは、感覚検査の点数を上げることだけではありません。着替え、食事、書字、工作、歩行など、本人が大切にする課題で、感じた情報を動きの選択と修正に使えることです。回復を狙う部分、視覚や道具で補う部分、環境を変える部分を分けます。
困りごとを分ける評価
| 観察される困りごと | 考えられるボトルネック | 確認する評価・観察 | 選択する介入系統 | 生活で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|
| 見ないと手を使えない | 位置覚、触覚識別、身体認識、注意 | 視覚あり・一部遮蔽・短時間遮蔽での到達、関節位置合わせ | 段階的な視覚補助、位置合わせ、能動探索を実課題へ統合 | 着替え中に手元を見る時間、物を落とす回数 |
| 強く握りすぎる | 力覚、滑り検知、感覚運動統合 | 柔らかさ・重さの異なる物、把持後の修正、速度条件 | 壊れやすい物、重さ比較、外的フィードバックの漸減 | コップ、鉛筆、箸の力加減 |
| 手は動くが生活で使わない | 感覚低下、発達性不使用、課題難度、両手役割 | 最大能力と自発使用の差、AHA等の両手動作、家庭動画 | 目標志向両手課題、麻痺側の役割設計、成功機会の増加 | 給食、工作、着替えでの自発使用回数 |
| 足元を見続ける | 足底感覚、足関節位置覚、視覚依存、バランス | 視覚条件、床面、速度、二重課題での歩行 | 支持面変化、足部位置課題、視線移動を含む歩行課題 | 校内歩行、階段、体育での視線と安定性 |
回復・発達支援の介入体系
| 介入系統 | 対象となるボトルネック | 代表的な介入 | なぜ選ぶか | 生活で期待する変化 |
|---|---|---|---|---|
| 感覚識別と能動探索 | 場所・形・質感の識別が弱い | 触って比較する、探す、選ぶ、結果を言葉や動作で確認 | 受動刺激ではなく、感覚の違いを判断する経験を作るため | ポケット内の物、ボタン、道具を手で探せる |
| 位置覚と視覚依存の調整 | 見ないと手足の位置が不安定 | 関節位置合わせ、視覚を段階的に減らす到達・歩行課題 | 視覚を急に奪わず、身体情報を使う割合を少しずつ増やすため | 手元や足元を見続ける時間が減る |
| 目標動作内の感覚運動学習 | 力加減や誤差修正が難しい | 重さ・滑り・柔らかさを変えたコップ、鉛筆、ボタン課題 | 感覚を実際の運動修正に結びつけるため | 落とす、つぶす、筆圧過多が減る |
| 両手使用と生活機会の設計 | 麻痺側を使わない習慣、役割不明確 | 支える手から操作する手へ役割を段階化、家庭・学校で反復 | 能力があっても使わない問題へ、環境と行動の両面から対応するため | 給食、工作、着替えで麻痺側の自発使用が増える |
「感覚が悪いから刺激を入れる」という説明だけでは、介入を選べません。触れたことに気づかないのか、場所や形を区別できないのか、手の位置が分からないのか、感じた情報を動作の修正に使えないのかを分けます。
私たちは、視覚を完全に遮る前に、見る時間を短くする、一部だけ隠す、動作の途中で視線を別の場所へ移すという段階を作ります。視覚を減らした瞬間に崩れるのか、速度を上げた時だけ崩れるのか、疲労後に力加減が乱れるのかで、感覚と注意、運動制御の仮説が変わります。
介入は、触覚識別を行ってから生活課題へ移す一方向ではありません。実際のボタンやコップ課題で失敗が起きた地点を確認し、必要な感覚情報を強調し、再び同じ課題で修正を試します。訓練室で成功しても、給食や着替えで麻痺側使用が増えなければ、環境と役割の設計を見直します。
難易度・量・フィードバック
難易度は刺激の強さではなく、視覚を使える量、物体の大きさ、素材、重さ、速度、姿勢、両手課題、注意対象、疲労で調整します。子どもが失敗を繰り返す条件ではなく、試して、ずれに気づき、修正できる範囲を選びます。
最初は「少し強すぎた」「指がずれた」と具体的に伝え、徐々にフィードバックを減らします。最終的には、子ども自身が結果を見て修正できることを目指します。反復量は、質と意欲を保てる範囲で、家庭や学校の自然な場面へ分散させます。
- 疾患特異的根拠:脳性麻痺では触覚・固有感覚の障害が多く報告され、上肢運動機能との関連も検討されています。ただし検査法や対象の差が大きく、個々の生活障害を感覚だけで説明することはできません。
- 介入原理:小児脳性麻痺のレビューでは、本人が選んだ目標と、その目標動作全体を練習することが身体機能介入の中心とされています。感覚要素も、目標課題の中で能動的に使う設計が必要です。
- 生活実装:片手能力と両手活動、自発使用は同じではありません。感覚検査に加え、家庭・学校で麻痺側を使った回数、介助量、速度、疲労後の再現性を別に測ります。
研究の多くは脳性麻痺、とくに上肢を対象とし、小児脳卒中や下肢へ直接外挿できません。感覚単独介入の最適量や、生活への般化を保証する強い根拠は限られます。診断、急性変化、薬物・手術など医学的判断の代替ではありません。

訓練室で感じられることを、学校で使えることへ。
訓練室では静かで、道具が見やすく、時間にも余裕があります。学校では、周囲の音、時間制限、友人との会話、複数の道具、疲労が加わります。そのため、できる能力と実際に使う行動を分けて評価します。
たとえば「給食で麻痺側を使う」を目標にする場合、麻痺側で食器を押さえた回数、コップを落とした回数、手元を見る時間、必要な声かけを記録します。着替えなら、袖を探す時間、ボタンに必要な介助、衣服が変わった時の再現性を見ます。
保護者や先生へお願いするのは、訓練を再現することではありません。「最初の位置だけ整える」「麻痺側の役割を一つ決める」「急がせない」「成功した方法を同じ言葉で共有する」といった短い支援です。親が療法士になるのではなく、子どもが自分で修正できる機会を生活に残すことが大切です。
感覚障害の経過は、原因疾患、発達、経験、視覚補償、運動能力によって異なります。感覚を完全に正常化することだけを目標にせず、回復できる部分、補助できる部分、環境を変える部分を組み合わせ、本人が選べる動作を増やします。

よくある質問。
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LABでは、感覚を「ある・ない」だけで評価せず、触覚、位置覚、物体認知、視覚依存、力加減、両手使用を、本人の生活目標の中で確認します。一般的な感覚統合の説明にまとめず、麻痺に伴う感覚運動の問題として整理します。
観察と次の一歩へ。

手が動くことと、生活で使えることの間には、感覚、視覚、注意、経験、環境という橋が必要です。見えにくい感覚の問題を、具体的な生活動作から丁寧に見つけます。
刺激を与えること自体を目的にせず、子どもが触って比べ、動かして、ずれに気づき、自分で修正する課題を設計します。その変化を家庭や学校で確かめます。
医療機関での診断・治療を尊重しながら、家庭や学校で困っている動作を評価し、今必要な支援を一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動を「動く・動かない」だけで終わらせず、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点は、お子さんの生活動作を支えるうえでも土台になります。
- 子どもの片麻痺の手|生活で使うための評価とリハビリ
- 脳性麻痺の子どものリハビリ|動作分析で見る運動発達の可能性
- 脳性麻痺・脳損傷の子の認知・視知覚の問題|運動との関わり
本記事は、脳性麻痺の体性感覚に関するレビューと、小児の目標志向・課題特異的介入の診療ガイドラインをもとに構成しています。小児脳卒中・後天性脳損傷では直接的根拠が限定されるため、近接領域からの推論を明示しています。最終確認日:2026年7月11日。
- Brun C, Traverse É, Granger É, Mercier C. Somatosensory deficits and neural correlates in cerebral palsy: a scoping review. Dev Med Child Neurol. 2021;63(12):1382-1393. doi:10.1111/dmcn.14963.
- Poitras I, Martinie O, Robert MT, Campeau-Lecours A, Mercier C. Impact of Sensory Deficits on Upper Limb Motor Performance in Individuals with Cerebral Palsy: A Systematic Review. Brain Sci. 2021;11(6):744. doi:10.3390/brainsci11060744.
- Santana CAS, et al. Interrelationships of Touch and Proprioception with Motor Impairments in Individuals with Cerebral Palsy: A Systematic Review. Percept Mot Skills. 2022;129(3):570-590. doi:10.1177/00315125221093904.
- Jackman M, Sakzewski L, Morgan C, et al. Interventions to improve physical function for children and young people with cerebral palsy: international clinical practice guideline. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549. doi:10.1111/dmcn.15055.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)