【2026年版】乳頭体の役割とリハビリテーション:パペッツ回路と記憶障害を徹底解説! – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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【2026年版】乳頭体の役割とリハビリテーション:パペッツ回路と記憶障害を徹底解説!

Clinical Neuroscience — Mammillary Bodies & Papez Circuit

乳頭体とパペッツ回路を、臨床神経科学から読み解く。

「なぜこの患者さんは昨日のことを覚えていないのか」「なぜ嘘をついているように見えるのか」——その答えが、乳頭体とパペッツ回路の機能解剖に隠されています。本記事では、記憶・情動・覚醒に深く関わるこの回路を、新人セラピストが臨床で即実践できるレベルまで解説します。

UPDATED2025
READ約15分
FORPT / OT / ST
BYSTROKE LAB

— 乳頭体の解剖・パペッツ回路・コルサコフ症候群の臨床像をわかりやすく解説しています。

Wernicke’s Triad
3
ウェルニッケ脳症の古典的3徴(意識障害・眼球運動障害・運動失調)。すべて揃うのは全症例の16〜38%のみ
Papez Circuit
5構造
パペッツ回路を構成する主要5構造(海馬・脳弓・乳頭体・視床前核・帯状回)。いずれか1箇所の損傷でも記憶障害が生じる
Thiamine Deficiency Risk
80%
未治療のウェルニッケ脳症患者の約80%がコルサコフ症候群へ移行するとされる(Harper et al.)。早期チアミン投与が乳頭体保護に不可欠

Quick Reference
忙しい臨床家のための
要点5項目。
01
乳頭体は「記憶の中継駅」。海馬→脳弓→乳頭体→視床前核→帯状回のパペッツ回路を構成し、エピソード記憶の固定と情動制御に必須の構造です。
02
血液供給は後大脳動脈(PCA)の穿通枝。後交通動脈・視床穿孔動脈が損傷を受けると乳頭体に梗塞が生じ、記憶障害が急性発症します。
03
コルサコフ症候群の核心は「前向性健忘+作話」。慢性アルコール依存によるチアミン欠乏が主因。「嘘をついている」のではなく、脳が記憶の空白を埋めようとしている現象です。
04
MRI評価の鍵は矢状断T1強調像。第3脳室底部・視交叉後方・中脳水道前方の位置関係を把握し、萎縮・信号変化を確認します。
05
記憶リハビリは「情報の提供」ではなく「補助手段の内在化」。記憶ノート・見当識ボード・スタッフカードを環境に組み込み、「確認する習慣」を作ることが目標です。

01
Clinical Encounter

臨床現場でこう出会う。

Case Vignette
「昨日何を食べましたか?」「え、鮭定食です」——それは今日の病院食であり、昨日は会ったこともない人の話をしていた。

60代男性・アルコール依存症の既往。失調性歩行と眼球運動障害で入院し、緊急チアミン投与を受けた後に回復病棟へ転棟。リハビリ初日から「スタッフの名前が覚えられない」「昨日来なかったでしょう?(来ていたにもかかわらず)」という訴えが続く。

この患者さんに起きていることは「認知症」でも「嘘」でもありません。乳頭体の損傷によるパペッツ回路の断絶が、新しい記憶の形成を根本から妨げているのです。

臨床で乳頭体損傷を疑うべき場面は複数あります。慢性アルコール依存症患者のリハビリ、急性期を経た脳卒中後の記憶障害、チアミン不足が疑われる低栄養患者などが代表的です。これらの患者さんの「不思議な行動」の背景を理解することが、適切な介入の第一歩となります。

02
Definition & Epidemiology

乳頭体の定義と疫学。

乳頭体(mammillary bodies)は、視床下部(hypothalamus:脳内で体温・食欲・ホルモン分泌を制御する領域)の後下部に位置する一対の小さな球状構造です。第3脳室の底部、灰白隆起の後方かつ視交叉の後方に存在します。直径は約4〜5mmと非常に小さく、MRIでなければ十分な観察が困難です。

Anatomy Key Points
乳頭体の位置と血管支配。

乳頭体は脳弓(fornix)の両端に接続しており、海馬(hippocampus:エピソード記憶の形成に中心的役割を持つ)から送られてくる情報の主要な受け取り先です。

血液供給は主に後大脳動脈(PCA)の穿通枝から。後交通動脈(posterior communicating artery)と視床穿孔動脈(thalamoperforating arteries)が特に重要です。PCA梗塞や視床梗塞の際に乳頭体が道連れになることがあります。

乳頭体の位置と脳弓との関係を示す解剖図

乳頭体が損傷を受けやすい3つの状況。

01
チアミン(ビタミンB1)欠乏最多

慢性アルコール依存症・低栄養・過度のダイエットが主因。乳頭体はチアミン依存性の酸化的代謝が活発なため、欠乏に対して特に脆弱です。ウェルニッケ脳症から移行するコルサコフ症候群の病理像に乳頭体の壊死・萎縮が認められます。

02
脳血管障害PCA梗塞・視床梗塞

後大脳動脈やその穿通枝の梗塞により、乳頭体が虚血にさらされることがあります。視床梗塞との合併例では、乳頭視床路(MTT)も同時に断絶され、より重篤な記憶障害を呈します。

03
低酸素性虚血性脳症(新生児含む)小児・新生児でも発生

2022年の多施設研究(Parmentier et al.)では、新生児低酸素性虚血性脳症において乳頭体が低酸素に特に脆弱であり、治療的低体温療法でも完全保護が難しい可能性が示されています。小児・乳幼児でも核黄疸・脳室内出血などで乳頭体が損傷し、長期的な認知発達への影響が懸念されます(Epelman et al., 2022)。

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STROKE LABは脳神経科学に特化した自費リハビリ施設です。記憶障害・認知機能低下・コルサコフ症候群など、高次脳機能障害でお悩みのご家族の無料相談を随時受け付けています。

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03
Neural Mechanism

神経ネットワークとパペッツ回路。

Metaphor
「記憶の工場ライン」として考える。

パペッツ回路を工場のベルトコンベアにたとえてみましょう。海馬が「製品(記憶)」を作り、脳弓が「搬送路」として乳頭体へ運びます。乳頭体はその製品に「感情のラベル」を貼り付け、視床前核へ送り出します。帯状回が最終検品をして、また海馬へフィードバックします。

乳頭体が損傷を受けるということは、この工場の「中核ハブ」が機能停止することです。製品(記憶)はそこで途絶え、長期記憶として保存されません。

パペッツ回路の5構造と機能。

パペッツ回路(Papez Circuit)は1937年に神経解剖学者James Papezが提唱した神経ネットワークで、記憶と情動の相互作用を司ります。5つの主要構造が環状に連絡しています。

パペッツ回路の図解 — 海馬・脳弓・乳頭体・視床前核・帯状回の連絡

構造 主な機能 損傷時の症状
海馬(Hippocampus) エピソード記憶・空間記憶の形成 重篤な前向性健忘・迷子
脳弓(Fornix) 海馬→乳頭体への主要出力路 記憶回路の断絶・健忘
乳頭体(Mammillary Bodies) 記憶中継・感情ラベル付け・覚醒調節 前向性健忘・作話・コルサコフ症候群
視床前核(Anterior Thalamic Nucleus) 情動・記憶の中継 → 帯状回へ投射 記憶・情動の統合障害
帯状回(Cingulate Gyrus) 情動・認知の統合 → 海馬へフィードバック 注意・意思決定の障害

乳頭体から出る3つの主要投射路。

①乳頭視床路(MTT: Mammillothalamic Tract)は、乳頭体と視床前核を接続する最重要経路です。パペッツ回路の核となる構成要素であり、この経路が断絶すると記憶形成と情動調整に著しい障害が生じます。

乳頭視床路(MTT)の走行を示す図

②乳頭被蓋路(Mammillotegmental Tract)は、乳頭体から中脳被蓋核(特に網様体)へ向かう線維束です。網様体活性化系(RAS:脳を覚醒状態に保つシステム)の一部を調節するため、覚醒レベルの維持に寄与します。覚醒障害や意識変動がある患者では、この経路も念頭に置いて評価することが重要です。

乳頭被蓋路の走行と覚醒系との関係

③視床前方放射(Anterior Thalamic Radiations)は、視床前核から帯状回へ投射する経路です。乳頭体から直接伸びているわけではありませんが、乳頭体→視床前核→帯状回という情報伝達の最終区間を担い、回路の完結に不可欠です。

EVIDENCE
DBS(深部脳刺激)による乳頭視床路の機能的意義

乳頭視床路(MTT)への深部脳刺激(DBS)研究:乳頭視床路を含む乳頭体の遠心路を標的とするDBSは、特定のタイプの認知症やてんかんの治療に潜在性を持つことが報告されています。これらの研究は、乳頭視床路が記憶機能に対して独立した役割を果たすことを示唆しており(エビデンスレベル:限定的・症例シリーズ)、今後のさらなる研究が期待されます。

04
Differential Diagnosis

鑑別診断と関連疾患。

乳頭体損傷・パペッツ回路障害による記憶障害は、一般的な認知症や統合失調症と混同されやすいです。新人セラピストが陥りやすい鑑別の落とし穴を整理します。

Korsakoff Syndrome
コルサコフ症候群
— 乳頭体損傷による記憶障害の代表
前向性健忘が核心(新情報が作れない)
作話(confabulation)が特徴的
意識は比較的保たれる
アルコール・チアミン欠乏歴が背景
Alzheimer’s Disease
アルツハイマー型認知症
— 比較のための参照点
記憶障害+言語・遂行機能の低下
作話は典型的ではない
緩徐な進行が特徴
アルコール歴は必須ではない
ウェルニッケ脳症とコルサコフ症候群は「連続した一つの疾患」として理解する。ウェルニッケは急性期、コルサコフは慢性期であり、適切な急性期介入(チアミン投与)が慢性化を防ぐ最大のポイントです。

ウェルニッケ脳症(Wernicke’s Encephalopathy)は、チアミン欠乏による急性疾患で、意識障害・眼球運動障害(外眼筋麻痺・眼振)・運動失調の3徴が古典的です。ただし3徴がすべて揃う症例は16〜38%とされ、見逃されやすいので注意が必要です。乳頭体の出血・壊死が病理所見として認められる場合があり、放置するとコルサコフ症候群へ移行します。

コルサコフ症候群の主な症状と乳頭体損傷との関係

05
Assessment

評価のポイント(臨床+MRI)。

乳頭体損傷の評価は「臨床観察」と「画像読解」の2本柱で進めます。臨床では記憶・作話・行動変化に注目し、画像では矢状断MRIで乳頭体の萎縮や信号変化を確認します。

臨床観察の4ポイント。

01
記憶評価(エピソード記憶・前向性健忘)最重要

スタッフの名前・昨日の食事・最近の出来事を覚えているかを確認します。同じ質問を繰り返していないかも重要な観察ポイントです。WMS-R(ウェクスラー記憶検査)やリバーミード行動記憶検査(RBMT)を用いると客観的な評価が可能です。

02
作話(Confabulation)の有無

コルサコフ症候群では、記憶の空白を埋めるための作話が特徴的です。「嘘をついている」のではなく、脳が欠落した記憶を自動的に補おうとしている現象です。患者さんを責めず、事実関係の確認は別のスタッフと照合して行いましょう。

03
アルコール歴・栄養状態の確認

慢性アルコール依存や極度の低栄養では、チアミン欠乏→ウェルニッケ→コルサコフへの進行リスクが高まります。入院時の生活歴聴取で飲酒量・食事状況を必ず確認し、チアミン欠乏の可能性を見逃さないようにしましょう。

04
情動・行動変化のモニタリング

パペッツ回路障害は感情制御にも影響します。抑うつ・不安・突発的な怒りが見られないかを継続的に観察してください。うつ病や不安障害を併発することもあり、精神科や心理士との連携が必要になる場合があります。

MRIで乳頭体を読む6ステップ。

IMAGING PROTOCOL
乳頭体の画像読解プロトコル(矢状断T1強調MRI)

Step 1 — 撮影断面の確認:矢状断(sagittal view)が最も乳頭体を捉えやすい断面です。まず正中矢状断を選択してください。

Step 2 — 視床下部の同定:第3脳室の底面付近を探します。乳頭体は視床下部の一部なので、まず視床下部を確認します。

Step 3 — 第3脳室の特定:脳の中央にある細長い空間が第3脳室です。乳頭体はその後方下部に存在します。

Step 4 — 視交叉の確認:視神経が交差する視交叉を確認します。乳頭体は視交叉より後方に位置します。

Step 5 — 中脳水道を基準に:シルビウス水道(第3脳室と第4脳室をつなぐ管)の前方、視床下部後端付近が乳頭体の位置です。

Step 6 — T1強調像を使用:CTでは小さくコントラストが不十分です。T1強調MRIで乳頭体周囲の解剖をより明確に確認できます。萎縮・信号変化(T1低信号・T2高信号)がないかを評価してください。

T1強調MRI矢状断での乳頭体の確認ポイント

06
Intervention

介入の段階とエビデンス。

乳頭体損傷の介入は、急性期(チアミン補充・医療管理)→回復期(記憶補助手段の導入)→維持期(行動療法・社会参加)の3段階で考えます。リハビリ職が主に関わるのは回復期以降ですが、急性期の医療情報も把握しておくことが重要です。

01
急性期:チアミン補充と解毒管理医師主導

チアミン(ビタミンB1)を高用量で静注・筋注により補充します(例:ウェルニッケ脳症疑いにはチアミン200〜500mg/日の静注が推奨)。アルコール依存症の場合は、医師監督下での解毒と離脱管理(ベンゾジアゼピン等)を行います。バイタルサインと精神状態の継続モニタリングが必須です。

02
回復期:記憶補助手段の導入(OT主導)毎日15〜30分

①見当識ボード(日付・天気・スケジュールを大きく掲示)②スタッフ紹介カード(顔写真+名前+役割)③記憶ノート(「今日確認したこと」を自分で記録)を導入します。毎日15〜30分、補助手段を使って「確認→記録→確認」の習慣を形成します。スペーシング効果(間隔を空けた繰り返し)を活用した学習が有効です。

03
認知行動療法(CBT)の導入週2〜3回・心理士と連携

否定的な思考パターン(「どうせ覚えられない」)を認識し、現実的・前向きな思考へ転換するCBTを導入します。モチベーション向上療法(動機づけ面談)と組み合わせ、「どんな生活を送りたいか」という目標を明確化します。週2〜3回、各45〜60分が標準的です。

04
維持期:サポートグループ・ピアサポート・ライフスタイル修正MSW・多職種連携

アルコール依存症を背景に持つ場合、AA(アルコール匿名会)などのサポートグループやピアサポートへの参加が再発予防に有効です(David et al., 2019: SR・23研究・6,544名)。定期的な運動、マインドフルネス、栄養カウンセリング(特にチアミン含有食品の摂取)もライフスタイル修正として組み込みます。

EVIDENCE — SR
ピア回復支援サービスと回復コーチングの有効性(David, 2019)

出典:David et al. Lived Experience in New Models of Care for Substance Use Disorder: A Systematic Review of Peer Recovery Support Services and Recovery Coaching. Frontiers in Psychology. 2019. PMID: 31263434.

概要:6,544名を対象とした23件の研究(RCT含む)を分析。薬物使用障害の治療におけるピア回復支援サービス(PRSS)と回復コーチングの有効性を検討しました。

結果:ピアサポートや回復コーチングが断酒率・治療参加・精神的健康の向上に貢献し得ることを示唆。(エビデンスレベル:SR・ただし研究デザインの多様性あり)

EVIDENCE
薬剤師の再発予防への新たな役割(Dhital et al., 2022)

出典:Dhital et al. Service Users’ Views and Experiences of Alcohol Relapse Prevention Treatment and Adherence: New Role for Pharmacists? 2022. PMID: 35292814.

結果:薬剤師がアルコール依存症患者の治療に積極的に関与することで、治療継続率・服薬遵守の向上が期待されると示唆。多職種チームにおける薬剤師の新たな役割が提示されました。(エビデンスレベル:限定的)

STROKE LAB代表 金子唯史

Message from CEO
「記憶が不安定なまま退院した」そのお悩み、ひとりで抱え込まないでください。

STROKE LABでは、脳神経科学に基づいた認知リハビリテーションを提供しています。記憶障害・高次脳機能障害の専門的なリハビリが、日常生活の質を取り戻す助けになります。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。

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07
Interprofessional Collaboration

多職種連携と環境調整。

乳頭体損傷・パペッツ回路障害の患者さんには、医療チーム全体が統一した理解と戦略を持って関わることが必須です。各職種の役割を明確にし、情報を共有しましょう。

多職種連携の役割分担。

職種 主な役割・介入内容 ポイント
OT(作業療法士) 記憶補助手段の導入・ADL訓練・作業遂行評価 環境調整と代償的アプローチが主体
ST(言語聴覚士) 神経心理学的評価・記憶検査・コミュニケーション支援 作話の背景理解と患者・家族への説明も担当
PT(理学療法士) 運動失調への介入・歩行訓練・転倒予防 ウェルニッケ脳症後の運動失調に対応
看護師 服薬管理・日常的な見当識確認・睡眠モニタリング 毎日の関わりで行動変化を最初に察知できる
管理栄養士 チアミン・栄養管理・食事指導 B1含有食品(豚肉・全粒粉等)の積極摂取を支援
医師・精神科医 診断・薬物療法・精神科的合併症の管理 うつ・不安障害の併存疾患を見逃さない
MSW(社会福祉士) 退院後支援・社会資源の調整・家族支援 自助グループ(AA等)へのつなぎ役

環境調整の実践ポイント。

Clinical Insight

「病室の目立つ場所に見当識ボードを置いてください。毎朝のチェックを看護師と一緒に行うことで、自然に習慣化されます。」

「スタッフ紹介カードは、患者さんが自分で持てるサイズにラミネートして名札入れに入れると、必要なときにすぐ確認できます。」

「作話が出たとき、否定ではなく『一緒に確認しましょう』と言ってボードやノートに誘導してください。正面から否定すると不安が増します。」

08
Pitfalls & Clinical Judgment

Pitfallsと臨床判断のコツ。

乳頭体損傷患者に初めて関わる新人セラピストが陥りやすいミスがあります。事前に知っておくことで、患者さんとの信頼関係の構築がスムーズになります。

Pitfalls — Don’t make these mistakes
新人臨床家が陥りやすい3つの罠
!
「情報を提供すれば記憶が改善する」という誤解:「正しい情報を教えれば覚えられる」と考えるセラピストは多いです。しかし問題は記憶の形成プロセス自体にあります。情報提供ではなく「外的補助手段の定着」と「確認する習慣の形成」が目標です。
!
「作話=嘘・意図的な虚言」と判断する:作話(confabulation)は意図的な嘘ではありません。脳が記憶の空白を自動的に補おうとしている神経学的現象です。患者さんを咎めたり、事実を突きつけて否定したりすると、不安が増し信頼関係が壊れます。「確認しながら一緒に進める」姿勢を保ちましょう。
!
「ウェルニッケ脳症を3徴で見逃す」:古典的3徴(意識障害・眼球運動障害・運動失調)が揃うのは全体の16〜38%にすぎません。アルコール依存症の既往や低栄養があれば、1〜2症状でもウェルニッケを疑い医師に報告することが乳頭体保護の第一歩です。

臨床判断の分岐点。

Mentor’s Voice

「記憶補助手段の導入後、患者さんが全く使おうとしない場合は、手段の使いやすさの問題か、モチベーションの問題かを切り分けてください。道具が使いにくいなら作り直す。意欲がないなら動機づけ面談に切り替える。原因によって手は違います。」

「アルコール依存症の背景がある患者さんは、退院後の再飲酒リスクが高い。退院前にMSWと連携して自助グループへのつなぎを作っておくことが、乳頭体を守る長期的な投資になります。」

乳頭体損傷のリハビリは「できないこと」を嘆くのではなく、「今ある脳の力と環境の工夫」で生活を安定させることに全力を注ぎます。

09
Prognosis & Goal Setting

予後とゴール設定。

コルサコフ症候群の予後は、損傷の程度・チアミン欠乏の期間・断酒の継続可否によって大きく異なります。記憶そのものの完全な回復は難しいことが多いですが、適切な介入で日常生活の質(QOL)を大幅に改善できます。

Goal Setting Framework
3段階ゴール設定の考え方。

短期ゴール(2〜4週):見当識ボードの使用習慣化。スタッフ3〜5人の名前を補助カードで確認できる。作話頻度の客観的モニタリング開始。

中期ゴール(1〜3ヶ月):記憶ノートの自発的記録。日課のADLを手順書なしで遂行。CBTによる自己効力感の向上。断酒継続。

長期ゴール(退院後):補助手段を使った安全な在宅生活の維持。サポートグループへの継続参加。再飲酒・再入院の防止。

ゴールは「記憶力の回復」ではなく「補助手段を使いこなした上での自立した日常生活」。その視点のズレを直すことが、乳頭体損傷のリハビリの第一歩です。

10
FAQ

よくある質問(新人の疑問)。

Q.乳頭体はどこにあり、何をしているのですか?
A.

乳頭体は視床下部の後下部に位置する小さな球状構造です。第3脳室底部付近にあり、海馬からの情報を脳弓経由で受け取り、視床前核へ中継するパペッツ回路の重要なハブとして機能します。

記憶の固定と情動制御に中心的役割を果たしており、直径約4〜5mmと非常に小さいため、MRI(特にT1強調矢状断)での確認が必要です。

Q.パペッツ回路が損傷するとどのような症状が出ますか?
A.

前向性健忘(新しい記憶が作れない)、逆行性健忘(過去の記憶想起困難)、作話、見当識障害が代表的な症状です。

さらに情動調節障害(うつ・不安・情動不安定)、空間ナビゲーション障害、高次認知機能の低下、睡眠障害なども生じます。代表的な疾患はコルサコフ症候群です。

Q.コルサコフ症候群とウェルニッケ脳症の違いは何ですか?
A.

ウェルニッケ脳症はチアミン欠乏による急性期の状態で、意識障害・眼球運動障害・運動失調の3徴が特徴です。ただし3徴が揃うのは16〜38%のみで見逃されやすいです。

適切な治療が行われないとコルサコフ症候群(慢性期)へ移行します。コルサコフでは乳頭体の損傷を伴う重篤な前向性健忘と作話が主症状です。両者は同一疾患の急性・慢性として理解してください。

Q.乳頭体損傷患者の記憶リハビリでは何が有効ですか?
A.

記憶補助手段(メモ帳・見当識ボード・スタッフ紹介カード)の活用、スペーシング効果を利用した繰り返し練習が基本です。毎日15〜30分の定期的な補助手段確認を習慣化します。

認知行動療法(CBT)によるメタ認知の強化と、モチベーション向上療法も有効です。単なる情報提供では不十分で、外的補助手段の内在化と環境調整を組み合わせることが重要です。

Q.MRIで乳頭体を確認するコツを教えてください。
A.

矢状断でT1強調像を使用するのが最も確認しやすい方法です。第3脳室の底部を確認し、視交叉より後方かつ中脳水道(シルビウス水道)の前方に位置する小球状構造として同定します。

CTでは小さくコントラストが低いため、乳頭体病変が疑われる場合はMRIが必須です。萎縮や信号変化(T1低信号)がないかを確認してください。

Q.乳頭体損傷患者に多職種はどう関わるべきですか?
A.

OTは記憶補助手段の導入・ADL訓練・作業遂行評価、STは神経心理学的評価・言語・コミュニケーション支援、PTは運動失調への介入と転倒予防を担います。

看護師は服薬管理と日常的な見当識確認、管理栄養士はチアミン・栄養管理、MSWは退院後の社会資源調整と自助グループへの橋渡しを担います。全職種が「作話は神経学的現象である」という共通理解を持つことが必須です。

11
Our Program

STROKE LABのプログラム。

STROKE LABは脳神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。記憶障害・高次脳機能障害・コルサコフ症候群をはじめ、脳卒中後の様々な後遺症に対して、脳神経科学に基づいた専門的なリハビリテーションを提供しています。

Our Strengths
STROKE LABの強み
— 脳神経科学に特化した専門施設
脳神経科学・臨床神経学の専門知識を持つセラピスト
個別の評価に基づいたオーダーメイドプログラム
最新のエビデンスに基づく介入手法
ご家族への丁寧なフィードバックと指導
What We Can Do
取り組める内容
— 高次脳機能障害・記憶障害への対応
記憶障害・前向性健忘への認知リハビリ
見当識障害・高次脳機能障害への対応
脳卒中後の運動・認知機能回復訓練
日常生活動作(ADL)の自立支援

— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。

Voice from Mentors

「乳頭体損傷の患者さんに最初に教わったことは、『補助手段を使うことを恥ずかしがらせないこと』でした。見当識ボードやメモを当たり前の道具として環境に組み込むと、患者さんも抵抗なく使えるようになります。」— 作業療法士・臨床経験12年・高次脳機能障害専門

「コルサコフ症候群の患者さんの作話を初めて経験したとき、どう対応すべきか迷いました。大切なのは否定しないことと、チームで統一した対応をすること。一人のセラピストだけが正しく対応しても意味がありません。カンファレンスで全員の認識を揃えてください。」— 言語聴覚士・臨床経験8年・神経心理学専門

Message from CEO
記憶が戻らなくても、生活は必ず取り戻せる。
諦めないでください。

STROKE LAB代表 金子唯史 ポートレート

「また同じことを聞いている」「昨日のことも覚えていない」——そんな場面を前に、ご家族が途方に暮れる気持ちはよく分かります。でも、それは患者さんの「せい」ではありません。脳の構造的な変化が引き起こしている現象です。

「正しく理解すること」が、最初の一歩です。STROKE LABでは、記憶障害・高次脳機能障害を抱える患者さんとご家族に対して、脳神経科学に基づいた専門的なリハビリと、生活を取り戻すための具体的な支援を提供しています。

まずは無料相談から。あなたのご状況を丁寧にお聞きし、最適なプログラムをご提案します。一緒に前へ進みましょう。

株式会社STROKE LAB
代表取締役 金子 唯史

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References

参考文献。

01Parmentier CEJ, et al. Mammillary body injury in neonatal encephalopathy: a multicentre, retrospective study. Brain. 2022;145(1):261–272. PMID: 33654286.
02Epelman M, et al. The Mammillary Bodies: A Review of Causes of Injury in Infants and Children. AJNR Am J Neuroradiol. 2022;43(5):660–668. PMID: 35487586.
03David DH, et al. Lived Experience in New Models of Care for Substance Use Disorder: A Systematic Review of Peer Recovery Support Services and Recovery Coaching. Psychiatr Serv. 2019;70(6):1012–1021. PMID: 31263434.
04Dhital R, et al. Service Users’ Views and Experiences of Alcohol Relapse Prevention Treatment and Adherence: New Role for Pharmacists? Alcohol Alcohol. 2022;57(4):465–472. PMID: 35292814.
05Harper CG, Giles M, Finlay-Jones R. Clinical signs in the Wernicke-Korsakoff complex: a retrospective analysis of 131 cases diagnosed at necropsy. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1986;49(4):341–345.
06Papez JW. A proposed mechanism of emotion. Arch Neurol Psychiatry. 1937;38(4):725–743.
07Kopelman MD. The Korsakoff syndrome. Br J Psychiatry. 1995;166(2):154–173.
08Aggleton JP, Brown MW. Episodic memory, amnesia, and the hippocampal-anterior thalamic axis. Behav Brain Sci. 1999;22(3):425–444.
09Wilson BA, et al. Rivermead Behavioural Memory Test (RBMT): A memory test for rehabilitation practice. Neuropsychological Rehabilitation. 2003;13(1–2):1–3.
10金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院. 2024.

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