【2026年版】補足運動野はどこ?障害からMRI 脳画像・損傷後の症状は?リハビリテーションまで
補足運動野(SMA)は、なぜ「動こうとしても動けない」を生むのか。
補足運動野(SMA)の損傷は、麻痺がないのに動作が始まらない・両手がバラバラに動く・手順がわからなくなるという症状を引き起こします。本記事ではSMAの機能解剖から臨床症状・評価・介入までを新人セラピスト向けに体系的に解説します。
— 補足運動野の機能解剖・臨床症状・介入戦略をSTROKE LAB代表 金子唯史が解説します。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
石川さんは前大脳動脈梗塞により右SMAを損傷しました。M1は保たれており筋力は正常ですが、左手の動作開始が極端に遅く、ナイフとフォークを同時に使う・コーヒーを入れる手順などが困難でした。
評価では右手タッピングより左手タッピングが有意に遅く、視覚フィードバックを加えると改善しました(Narges et al., 2013)。SMA−基底核の対側断絶を反映した典型例です。
前大脳動脈(ACA)梗塞は脳卒中全体の約3%と稀ですが、SMAを含む内側前頭葉が広範に障害されます。「麻痺がないのに動けない」患者に初めて出会うと戸惑うものです。まずSMA損傷を疑う習慣をつけてください。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。SMA損傷を含む複雑な運動障害にも、脳科学に基づいた個別プログラムで対応します。まずは無料相談でお気持ちをお聞かせください。
SMAの定義と機能解剖。
補足運動野(SMA:Supplementary Motor Area)は前頭葉の内側面、ブロードマン野6(前運動野)に属する領域です。一次運動野(M1)のすぐ前方・内側に位置し、随意運動の「準備・計画・実行の統括」において中心的な役割を担います。
SMA proper(後部):ブロードマン野6の後方に位置します。運動の計画と開始に直接関与し、M1へ投射して実際の運動指令を生成します。
Pre-SMA(前部):同じ野6の前方に位置します。動作に関する意思決定・不適切な動作の抑制など、より高次の認知的運動制御を担います。

SMAの主な機能:5つの役割
複雑な動作の計画を行い、順序立てた動作の開始を促します。外部刺激なしに自ら動き出す「内因性運動」に特に重要な領域です。
両手を使った協調運動(食事・着替え・書字など)の制御に関与します。右SMA損傷では対側(左)手の協調性が低下します。
動作を実行する前の精神的シミュレーション(運動イメージ)を支援します。運動学習においても重要な役割を担います。
連続した動作(コーヒーを淹れる・歯磨きなど)の開始と制御を助けます。Tanji & Shima(1994)はSMAが「数手先の動作を計画する」ことを実証しました(Nature, 371)。
不必要・不適切な動作の抑制に関与します。pre-SMAがこの機能に特に重要であり、損傷するとエイリアンハンド症候群のような制御不能な動作が生じます。
神経回路:入力と出力経路。
SMAは孤立して機能せず、広範な皮質・皮質下ネットワークの中心ノードとして動作します。入力と出力の経路を理解することで、どの損傷がどの症状を生むかを予測できます。
SMAへの入力(上流)
| 入力元 | SMAへの主な情報 | 臨床的意味 |
|---|---|---|
| 前頭前野(PFC) | 行動決定・目標設定 | 意図に基づいた動作の開始を制御 |
| 後頭頂葉(PPC) | 空間・体性感覚情報 | リーチ・把持など空間的運動計画に関与 |
| 大脳基底核(BG) | 運動の開始・タイミング調節 | ドーパミン低下(PD)でSMAへの入力低下→アキネジア |
| 小脳 | 運動タイミング・誤差補正 | フィードフォワード制御へのフィードバック |

SMAからの出力(下流)
SMAの出力は主に4つの経路をたどります。①M1への投射(運動指令の精緻化)、②皮質脊髄路(運動ニューロンの直接制御)、③脳幹の網様体・赤核経由(姿勢・粗大運動)、④大脳基底核・小脳へのフィードバックループです。

準備電位(Readiness Potential):SMAは随意運動の約1.5秒前から活動電位を生成します。これが「内因性運動開始」の神経基盤であり、SMA損傷でこの準備過程が滞ることが「動き出せない」症状につながります。
Tanji & Shima(1994):SMAニューロンが「数手先の動作」を符号化することを実証。Nature, 371(6496), 413-416.
臨床症状と鑑別診断。
SMA損傷の症状は「麻痺とは異なる運動障害」として現れます。筋力やM1機能が保たれているにもかかわらず、動作の開始や順序立てに困難を来す点が特徴です。
臨床評価と観察ポイント。
SMAの機能を正式に測る標準化尺度は少ないですが、日常動作の観察と指定タスクの評価を組み合わせることで、臨床的に十分な情報が得られます。
① 運動計画(内因性動作の開始)の評価
動作開始のためらい:ベッドからの起き上がり・立ち上がり・歩行開始などを観察します。「わかっている・動ける筋力もある・でも始まらない」という状態が内因性運動障害の典型です。
手順の観察:お茶を入れる・歯磨きなど日常的な手順動作を観察します。やかんが沸く前にお湯を注ごうとする・歯ブラシを持ったまま止まるなどの「手順の錯誤・停滞」は動作シーケンス障害のサインです。
② 両手協調運動の評価
日常作業の観察:ナイフ・フォーク使用、薬のボトルを開ける、着替え、本のページをめくるなど両手を要する日常作業を観察します。
タッピング比較(Narges法):右手と左手で交互にタッピングし、速度差を観察します。右SMA損傷では左手タッピングが有意に遅くなります(Narges et al., 2013)。視覚フィードバック追加で改善するかも確認してください。
利き手の変化:以前は右利きだった患者が左手をよく使うようになっている場合、両手協調に問題が生じているサインです。脳卒中後に特に顕著に現れます。
研究概要:右補足運動野損傷患者において、左手タッピング速度が右手より有意に遅いことを報告。SMA−大脳基底核断絶の対側への影響を示唆しています。
臨床的意義:視覚フィードバックを加えると左手タッピング速度が改善。視覚的キューに依存する代償メカニズムがSMA損傷の影響を緩和できることを示しています。
出典:Narges Radman et al. Posterior SMA Syndrome following subcortical stroke: Contralateral akinesia reversed by visual feedback. Neuropsychologia. 2013;51(13):2605-2610.
介入戦略とエビデンス。
SMA損傷の介入は「失われた内因性運動開始能力を、段階的に引き出す」ことが基本方針です。外部キューで動作を代償しながら、徐々に自発的動作へ移行させます。
介入Phase 1〜4:段階的プロセス
視覚・聴覚・触覚キューを使って動作開始を補助します。重度例ほど複数のキューを組み合わせることが有効です。タブレットに表示される視覚的手がかりを使ったタッピング練習(Narges et al., 2013)が代表例です。パラメータ:1回20〜30分、週3〜5回。
複雑な作業を小さなステップに分割し、1ステップずつ習得させます。コーヒーを入れる動作なら「①カップを取る→②豆を計る→③お湯を注ぐ」と段階的に練習します。視覚的なフローチャートも有効です。
両手を同時に動かす訓練(ボールキャッチ・両手でのプッシュ・引き動作など)。四肢間のカップリング効果を通じて回復を促進します。効果量SMD 0.68(Gnanaprakasam et al., 2023)。パラメータ:週3〜5回、1回30〜60分、4〜6週間。
動作が安定したら、外部キューを段階的に減らし、自発的な動作開始を促します。「自分で動き出せた」という成功体験が自己効力感を高め、さらなる回復を促します。
Gnanaprakasam et al. (2023):脳卒中後の両側性タスク指向腕トレーニングのSR&メタアナリシス。SMD 0.68(中程度の効果量)で上肢機能が改善。PMID:37148628。
Gerloff et al.(1997):SMA上への経頭蓋刺激が複雑動作シーケンスを妨害することを証明。逆に、外部キューはこの経路を代償できることを示唆しています。Brain. 1997;120(9):1587-1602.

SMAを含む脳神経系への深い理解を持つセラピストが、一人ひとりの状態を丁寧に評価し、科学的根拠のある訓練を提供します。退院後に「もっとよくなりたい」と感じている方は、ぜひSTROKE LABにご相談ください。
多職種連携と環境調整。
SMA損傷への支援は一職種では完結しません。運動計画障害・シーケンス障害・発語困難・ADL制限が複合するため、多職種での情報共有と役割分担が不可欠です。
各職種の役割分担
| 職種 | 主な役割・焦点 | 連携上の注意点 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 歩行・起立動作の開始支援、外部キュー(床ラインなど)の活用 | 転倒リスクあり。歩行開始のすくみ足に注意 |
| OT(作業療法士) | ADL・IADLの手順訓練、両手動作訓練、環境調整(視覚的手順表の設置) | エイリアンハンドがある場合は統合訓練を優先 |
| ST(言語聴覚士) | 一過性発語喪失の評価・経過観察、構音障害との鑑別 | SMA症候群の発語喪失は通常一過性。失語とは機序が異なる |
| 看護師 | 夜間・病棟での動作開始支援、環境整備(視覚キューの一貫した使用) | 病棟でのキュー使用方法をリハビリと統一することが重要 |
| 医師・MSW | 画像診断・薬物管理、退院先・支援体制の調整 | MRI画像でSMA損傷範囲を共有し予後予測に活用 |
「病棟でキューを使っていても、セラピーで除去しようとするなら意味がありません。看護師さんと一緒に、どの段階でどのキューを使うか統一してください。」
「発語喪失があってもパニックにならないこと。SMA症候群では一過性のことが多く、数日で戻ることがあります。STに早めに連絡して一緒に評価しましょう。」
「MRI画像を必ず確認する習慣をつけてください。SMAの損傷範囲を見ておくと、予後の見通しと介入目標が立てやすくなります。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
SMAのリハビリには、新人がはまりやすい落とし穴があります。先輩から先に教わっておくことで、同じ失敗を避けられます。
臨床判断の分岐点
「外部キューで動ける=SMAが代償されている、自発的に動けない=SMAが必要。この違いを見極めることが介入目標の決め手です。」
「麻痺がないのに動かない患者を見て『怠けている』と思わないこと。動けない理由が脳にあることを、ご本人とご家族にも丁寧に説明してください。」
MRI読影と責任病巣の同定。
SMAのMRI同定には3つのランドマークを覚えてください。ACA梗塞画像を見たときにSMA損傷の有無を素早く確認できます。
3つのMRIランドマーク
前頭葉と頭頂葉を分ける顕著な溝です。中心溝の前方に一次運動野(M1)が位置し、さらにその前内側にSMAがあります。矢状断・冠状断の両方で確認します。
SMAのすぐ後方に位置し、中心溝をまたいで前頭葉・頭頂葉両方を含みます。一次運動野・感覚野が集まる場所であり、SMAの後縁の同定に使います。後方は楔前部(Precuneus)に隣接します。
SMAの下方にあり、上前頭溝に平行して走る明確な溝です。大脳辺縁系の一部であり、SMAの下縁を認識する目印です。内側面の矢状断像で確認しやすいです。

SMA症候群の発語喪失は通常一過性(数日〜数週間で回復)です。両手協調障害や動作シーケンス障害は、早期・集中的な介入で改善する可能性が高いです。
ACA梗塞の場合、SMAだけでなく前帯状皮質(ACC)・補足眼野(SEF)なども含む広範な損傷になることがあります。MRI画像で損傷範囲を確認し、予後予測・ゴール設定に役立ててください。
よくある質問(新人臨床家の疑問)。
SMAはブロードマン野6(前運動野)に属し、前頭葉内側面に位置します。後部のSMA properが運動計画・実行に、前部のpre-SMAが意思決定などの高次認知に関与します。
血液供給は主に前大脳動脈(ACA)から受けます。MRIでは中心溝・帯状溝・中心傍小葉の3つのランドマークで同定できます。
SMA損傷では①運動開始困難(アキネジア)、②両手協調運動障害、③動作シーケンス障害、④失行、⑤エイリアンハンド症候群、⑥一過性の発語喪失などが見られます。
SMA症候群では両側動作の問題と複雑シーケンスの困難が特徴です。「麻痺がないのに動き出せない」というパターンを覚えておいてください。
M1は運動の「実行」を担うのに対し、SMAは運動の「計画・準備・シーケンス」を担います。SMAは内因性(自発的)な動作開始に特に重要です。
SMAが損傷するとM1は保たれていても動作の開始や順序立てが困難になります。「筋力はあるのに動き出せない」のがSMA損傷の特徴です。
①視覚的フィードバックを活用した訓練、②課題指向型トレーニング、③タスクセグメンテーション、④両側性腕トレーニング(BAT)が有効です。
パラメータは週3〜5回、1回30〜60分、4〜6週間が目安です(Gnanaprakasam et al., 2023 / SR&メタアナリシス)。
外部キューには①視覚キュー(タブレット・光刺激・床ラインなど)、②聴覚キュー(メトロノーム・音楽リズム・言語指示)、③触覚キュー(タッピング・振動刺激)の3種類があります。
重度例では視覚・聴覚キューの組み合わせが特に効果的です。回復に伴い段階的に除去し、内因性動作への移行を促すことが最終目標です。
①外部キューへの過度な依存(内因性運動開始の機会を奪う)、②利き手・健側への偏重(両手動作訓練が不足)、③SMA症候群と失語症の混同(発語喪失の一過性を見落とす)の3つが代表的です。
外部キューは段階的に除去し、自発的動作開始を促すことが重要です。「動けないのは怠けではなく、脳の計画回路の問題」とご本人・ご家族に説明してください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。SMAを含む高次脳機能障害・運動計画障害に対して、脳科学に基づいた個別プログラムを提供しています。退院後も「もっとよくなりたい」という思いに、専門チームで応えます。
— STROKE LABでの脳卒中リハビリの実際の様子です。

「SMAの患者さんで印象的だったのは、外部キューを入れた瞬間にすっと動き出せた場面です。その驚きを大切にしてほしい。『動けない』のではなく『始まらない』だけなんだ、と腑に落ちると、介入の視点がガラっと変わります。」— 理学療法士・経験12年・脳卒中リハビリ専門
「両手動作訓練は地味に見えますが、SMAのリハビリにとっては核心です。患者さん本人も『こんなことが効くの?』と言いますが、数週間後に日常の両手動作が改善したときの喜びは格別です。根気よく続けてください。」— 作業療法士・経験9年・高次脳機能障害専門
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諦めないでください。

「動こうとしているのに体が動かない」「両手がうまく使えなくなった」——SMA損傷が引き起こすこれらの症状は、適切なリハビリで改善できる可能性があります。
私たちSTROKE LABは、脳神経系の機能解剖と最新のエビデンスに基づき、一人ひとりの脳の状態に合わせた個別プログラムを提供しています。
退院後に「まだできることがあるはず」と感じているご本人・ご家族の方は、ぜひ一度ご相談ください。無料相談では現在の状態のヒアリングから、リハビリの方向性まで丁寧にお伝えします。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)