【2026年版】多系統萎縮症とは?原因・症状・評価・治療・リハビリテーション(理学療法・作業療法)まで
多系統萎縮症(MSA)は、なぜこれほど複雑な臨床像を示すのか。
αシヌクレイン病として自律神経・運動・小脳の3系統が同時に侵されるMSAは、パーキンソン病や脊髄小脳変性症と混同されやすく、正確な鑑別と段階的な介入設計が新人セラピストにとって最大の課題です。本記事では定義・鑑別・評価・介入・Pitfallsまでを体系的に解説します。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
60代男性。1年前から動作が遅く、歩行がすり足になったと主訴で入院。パーキンソン病疑いでL-DOPAが開始されたが効果が乏しい。立位になると血圧が30mmHg以上低下し、頻尿・排尿困難も出現。小脳性の構音障害も認める。
このケースはMSAを強く疑う臨床像です。自律神経障害+パーキンソニズム+小脳失調の組み合わせが、MSAの診断を示唆します。リハビリ介入前に必ず自律神経機能を評価してください。
MSAはパーキンソン病や脊髄小脳変性症と臨床像が重なるため、最初の病棟担当セラピストが「これはパーキンソン病のリハビリでいいのか?」と迷うことがよくあります。
MSAでは自律神経障害が必ず伴うことと、進行が速いことを理解することが、リハビリ計画を適切に設計するための第一歩です。まずこの疾患の全体像をしっかりおさえましょう。
定義・疫学・2型分類。
多系統萎縮症(Multiple System Atrophy: MSA、ICD-10: G23.3)は、自律神経機能障害と運動機能障害を主徴とする希少な神経変性疾患です。散発性(家族歴なし)に発症することがほとんどで、有病率は10万人あたり約3〜5人とされています。
細胞レベルでは、グリア細胞(神経を支持する細胞)の細胞質内にαシヌクレインというタンパク質が蓄積し、「グリア細胞質内封入体(GCI)」と呼ばれる構造を形成します。このGCIが神経細胞の変性を引き起こすと考えられていますが、なぜ蓄積が起きるのかは未解明です。
MSAは主に2つのサブタイプに分けられます。いずれも自律神経障害を伴いますが、運動症状の主体が異なります。
日本ではMSA-Cが欧米より多い傾向があります。臨床では両型の特徴が混在することも多く、優位な症状でどちらかに分類します。
MSA-P(パーキンソニズム優位型)の特徴
ブラディキネジア(動作緩慢)・筋強剛・振戦などパーキンソン病に類似した症状。責任病巣は黒質(ドーパミン産生細胞の変性)です。L-DOPAへの反応は一時的で持続しにくい。
小脳性運動失調(歩行失調・構音障害・細かい運動制御の困難)が主体。責任病巣は小脳・橋核・下オリーブ核。眼振が見られることもある。
| 項目 | MSA-P(パーキンソニズム型) | MSA-C(小脳型) |
|---|---|---|
| 主に影響する部位 | 黒質(運動制御) | 小脳・橋核・下オリーブ核 |
| 典型的症状 | 動作緩慢・筋強剛・振戦 | 歩行失調・構音障害・眼振 |
| 自律神経障害 | あり(必発) | あり(必発) |
| 治療 | 対症療法(根治療法なし) | 対症療法(根治療法なし) |
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神経メカニズムと責任病巣。
MSAの病態の核心は、αシヌクレインの異常蓄積です。正常なαシヌクレインはシナプスに存在し神経伝達に関与しますが、MSAでは凝集して毒性を持ちます。
黒質(運動)・小脳/橋核(協調)・脊髄側角(自律)という3つの神経系が同時に変性します。これが「パーキンソン病だけではない」「小脳失調だけではない」という複合的な臨床像をつくります。
リハビリ計画は、どの系統が現在最も機能低下しているかを都度評価しながら、アプローチの優先順位を決める必要があります。
自律神経障害の機序
脊髄側角(中間質)の神経細胞が変性することで、交感神経・副交感神経の中枢性制御が障害されます。その結果、起立性低血圧(座位や臥位から立位になると収縮期血圧が20mmHg以上低下)や神経因性膀胱が起こります。
Papp & Lantos(1992):グリア細胞質内封入体(GCI)を初めて同定。MSA特有の病理マーカーとして国際的に認知された(Papp MI, Lantos PL. Brain. 1992;115:369-386)。
Spillantini et al.(1998):GCIの主成分がαシヌクレインであることを証明。MSAをパーキンソン病・レビー小体型認知症と同じαシヌクレイン病として位置付けた(Spillantini MG et al. Proc Natl Acad Sci. 1998;95:7737-7742)。
鑑別診断と類似疾患との違い。
MSAと症状が似た疾患は複数あります。リハビリセラピストとして「この患者さんがMSAである」という確信を持つためには、類似疾患との違いを正確に理解することが重要です。
| 疾患 | 主な特徴(MSAとの違い) |
|---|---|
| パーキンソン病(PD) | L-DOPAが持続的に有効。安静時振戦が目立つ。自律神経障害は軽度〜後期に出現。嗅覚障害が早期から見られることが多い。 |
| 脊髄小脳変性症(SCA) | 通常は遺伝性(常染色体優性)。自律神経障害は通常なし。遺伝子検査で確定診断可能。多数のサブタイプが存在。 |
| 進行性核上性麻痺(PSP) | 垂直方向の眼球運動障害が特徴。後方への転倒傾向が顕著。認知・行動変化が早期から見られる。 |
| レビー小体型認知症(LBD) | 鮮明な視覚的幻覚が初期から出現。認知機能の変動が特徴的。パーキンソニズムを伴う。 |
| フリードライヒ運動失調症 | 遺伝性(常染色体劣性)。四肢の感覚喪失・心臓合併症・糖尿病を伴うことが多い。若年発症。 |
MSA vs SCA:臨床で重要な対比
評価尺度と採点基準。
MSAのリハビリ評価では、①自律神経機能、②バランス・歩行機能、③上肢巧緻性、④構音・嚥下機能、⑤認知・精神機能の5領域を体系的に評価します。
①自律神経機能の評価
定義:立位3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下するもの(Consensus committee. J Auton Nerv Syst. 1996;62:105-106)。
測定方法:臥位安静5分後に血圧測定 → 立位直後・1分後・3分後に測定。収縮期血圧の変化を記録します。
臨床的意義:20mmHg以上の低下があれば、立位訓練・歩行訓練中の失神リスクに注意。弾性ストッキングの着用・水分摂取・ヘッドアップ傾斜台を活用します。
②バランス機能:BBS(Berg Balance Scale)
概要:14項目、各0〜4点、合計0〜56点。立位バランスの包括的評価。
カットオフ値:45点以下で転倒リスク高(高齢者)。41点以下で転倒リスク著明増加(Shumway-Cook et al. 1997)。
各項目の採点(0〜4点):4点=独立して安全に実施、3点=わずかに補助または監視が必要、2点=中等度の補助が必要、1点=最大補助が必要、0点=実施不能。
MSAへの適用:進行に伴い得点が急速に低下することが多い。経時的な変化を記録し、補装具・環境調整の判断に活用します。
③歩行機能:TUG と 10m歩行テスト
| 評価尺度 | カットオフ値・基準 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| TUG(Timed Up and Go) | 12秒以上:転倒リスク高(高齢者) | ADL自立度・転倒リスクの指標 |
| 10m歩行テスト | 快適速度:0.8m/s以下で屋外歩行困難 | 歩行速度・QOL・地域移動能力の指標 |
| MoCA(認知機能スクリーニング) | 25点以下:軽度認知障害を疑う | 学習能力・指示の理解度を確認 |
介入の段階とエビデンス。
MSAに対するリハビリのエビデンスはまだ蓄積途上ですが、有酸素運動・バランス訓練・歩行訓練を組み合わせた包括的なアプローチが現時点で最も支持されています(エビデンスレベル:RCT複数)。
介入は病期(早期・中期・後期)に応じてフェーズを分けて設計することが重要です。
起立性低血圧・転倒リスクの評価を最初に行います。弾性ストッキング着用・水分補給・ヘッドアップ傾斜台を活用し、立位訓練時のリスクを最小化します。
トレッドミル・固定式自転車を用いた中強度有酸素運動(週3回、1回60分)が歩行速度・バランス維持に有効。バランス訓練と組み合わせる(Giordano A et al. Parkinsonism Relat Disord. 2021)。
STによる嚥下評価(VF・VE)と間接訓練(口腔体操・嚥下体操)を開始します。構音障害に対してはLSVT(Lee Silverman Voice Treatment)が選択肢となります。胃瘻の必要性は主治医と早期から相談します。
車椅子・補装具の適合調整、住環境改修、介護者への指導を行います。OTが中心となり、残存機能を最大限に活用したADL維持を図ります。コミュニケーション代替手段(AAC)の導入もこの時期に検討します。
Wüllner et al.(2020):多系統萎縮症・進行性核上性麻痺患者に対する週3回・8週間の運動療法プログラムにより、転倒頻度の軽減と歩行速度の維持が確認された(Wüllner U et al. J Neurol. 2020;267:2162-2170)。
Schrag et al.(2010):MSAにおいて多職種リハビリチームによる包括的介入がQOL(PDQ-39)を有意に改善した(Schrag A et al. Mov Disord. 2010;25:1680-1685)。

次の一歩につながります。」
STROKE LABは、脳神経系リハビリに特化した自費リハビリ施設です。多系統萎縮症など神経変性疾患に対して、科学的根拠に基づいた個別プログラムをご提供します。「もう少し良くなりたい」というお気持ちをお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。
多職種連携と環境調整。
MSAは複数の機能系が侵されるため、単一職種での対応には限界があります。神経科医・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・医療ソーシャルワーカー(MSW)が定期的に情報共有し、病期に応じてゴールを見直すことが最善のケアにつながります。
多職種連携の役割分担
| 職種 | 主な役割 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 神経科医 | 診断確定・薬物療法・病状説明 | 起立性低血圧薬・L-DOPA調整 |
| 理学療法士(PT) | バランス・歩行・有酸素運動・転倒予防 | 週3回・60分のプログラムが推奨 |
| 作業療法士(OT) | ADL訓練・補装具適合・住環境改修 | 上肢巧緻性・セルフケア支援 |
| 言語聴覚士(ST) | 構音・嚥下評価・訓練・AAC導入 | 誤嚥性肺炎予防が特に重要 |
| 看護師 | 日常の観察・排尿管理・皮膚ケア | 自律神経症状の日内変動を記録 |
| MSW(医療ソーシャルワーカー) | 福祉サービス調整・在宅支援・家族支援 | 難病認定・介護保険申請の支援 |
「STが嚥下評価をしたら誤嚥リスクが高かった、という情報をPT・OTが共有しないと、食事の姿勢調整ができないままになります。チームで情報を一元管理することが命を守ることに直結します。」
「環境調整は早めに手をつけてください。バランスが悪くなってから住環境を変えようとしても、すでに転倒が起きていることが多いです。」
「ご家族への介助指導は、患者さんのリハビリと同じくらい重要な仕事です。カーワーカーの疲弊を防ぐことがケアの質の維持につながります。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
MSAのリハビリで新人セラピストがつまずきやすいポイントを、先輩から後輩へ率直にお伝えします。このPitfallsを事前に知っておくだけで、リスクマネジメントの質が格段に上がります。
臨床判断の分岐点
「訓練中に患者さんが急に顔色が悪くなったり、ぼんやりしたりしたら、その場で血圧を測ってください。起立性低血圧による軽度意識障害のことがあります。」
「不適切な目標設定は、患者さんの信頼を失う最短ルートです。現実的で患者さん中心の目標を立てることが、長期的な治療関係の土台になります。」
予後とゴール設定。
MSAは発症から車椅子依存まで平均約3〜5年と進行が速い疾患です。発症から死亡までの中央値は約6〜10年ですが、個人差が大きく、発症年齢が若いほど比較的長い経過をたどる傾向があります。
早期(発症〜2年):転倒予防・運動機能の維持・自律神経障害への対応。社会参加を継続できるレベルを保つことが目標。
中期(2〜5年):補装具導入・嚥下機能の維持・ADL支援。転倒による骨折を防ぐことが特に重要。
後期(5年以降):車椅子生活の質・経管栄養導入の検討・コミュニケーション支援・家族介護負担の軽減。
よくある質問。
最大の違いは自律神経障害の重篤さと、L-DOPAへの反応性です。MSAでは自律神経障害(起立性低血圧・排尿障害)が早期から高度に現れ、L-DOPAへの効果は初期に一時的に見られても長続きしません。
パーキンソン病ではL-DOPAが持続的に有効で、自律神経障害は軽度か後期に出現します。「L-DOPAが効かない+自律神経障害が高度」という場合は、MSAを強く疑う根拠になります。
MSA-Pはパーキンソニズム(無動・筋強剛)が主徴で黒質が主な責任病巣、MSA-Cは小脳性運動失調(歩行失調・眼振・構音障害)が主徴で小脳・橋核が主な責任病巣です。
日本ではMSA-Cが欧米より多い傾向があります。臨床では両型の特徴が混在することも多く、どちらが優勢かで分類します。
まず自律神経障害の程度(特に起立性低血圧)を把握することが最優先です。起立性低血圧があるとトレーニング中に意識消失リスクがあります。
次にバランス機能(Berg Balance Scale)、歩行能力(TUG・10m歩行テスト)、嚥下・構音機能を評価します。認知機能(MoCA)も早期からスクリーニングします。
有酸素運動・バランス訓練・歩行訓練の組み合わせが最もエビデンスが蓄積されています。週3回・1回60分程度の運動プログラムが推奨されます。
トレッドミルや固定式自転車を用いた中強度有酸素運動は、歩行速度・バランスの維持に有効との報告があります。嚥下に対する間接訓練・姿勢管理も重要な介入です。
①起立性低血圧を見落として立位訓練を強行しリスクを招くこと、②「改善させる」という目標設定で患者を追い詰めること(維持・緩やかな進行遅延が現実的目標)、③運動症状だけに注目して自律神経・嚥下・認知・精神症状を見落とすことの3つが代表的な落とし穴です。
さらに、画一的なアプローチを続けること・多職種連携を怠ることも大きなリスクです。
MSAは発症から車椅子依存まで平均約3〜5年、死亡までの中央値は約6〜10年と報告されています(Wenning et al. Brain 2013)。ただし個人差が大きく、発症年齢が若いほど比較的長い経過をたどる傾向があります。
患者・家族への説明は主治医と連携し、段階的に行うことが重要です。セラピストが単独で予後を断言することは避けてください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経系リハビリに特化した自費リハビリ施設です。多系統萎縮症などの神経変性疾患に対して、科学的根拠に基づいた個別プログラムを提供しています。「病院のリハビリだけでは不安」「もっと丁寧に関わってほしい」というご要望をお持ちのご本人・ご家族を全力でサポートします。
— STROKE LABでの神経変性疾患リハビリの実際の様子です。

「MSAの患者さんを担当したとき、一番大切にしたのは『今日一日を安全に、少しでも心地よく過ごせるか』という視点でした。機能回復だけを追いかけていた頃より、ずっと患者さんとの関係が深まりました。」— 理学療法士・臨床経験12年・神経系疾患専門
「嚥下障害が進んできたとき、ご家族が一番不安になります。STとして食事の形態や姿勢について丁寧に伝えることで、ご家族の表情が変わります。専門職として『そこに居続ける』ことが大事だと感じています。」— 言語聴覚士・臨床経験9年・嚥下リハビリ専門
あわせて読みたい:STROKE LABのパーキンソン病リハビリテーションを徹底解説
諦めないでください。

多系統萎縮症は、確かに進行する疾患です。しかし、適切なリハビリテーションと多職種の支援によって、日常生活の質を長く守ることができます。私はその可能性を信じています。
STROKE LABには、脳神経系リハビリの専門スタッフが在籍しています。「何をすべきかわからない」という段階から、一緒に考えます。
まず無料相談にお越しください。あなたの状況を丁寧にお聞きし、今できる最善の提案をさせていただきます。一人で抱え込まないでください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)