【2026年版】更衣動作の予後を左右する要因とは?身体機能・高次脳機能・精神面との関係と効果的アプローチまで解説
片手での更衣動作を左右するのは、上肢の麻痺よりも高次脳機能だった。
更衣動作が進まない患者を前に、麻痺の重症度ばかりを見ていませんか。視空間認知や遂行機能の評価を組み込むことで、予後予測と介入の精度は大きく変わります。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
70代男性、右被殻出血、発症5週(回復期)。BRS上肢Ⅳ、FIM運動項目は改善傾向だが、更衣項目のみ低得点で停滞。主訴は「一人でシャツを着たい」。
初回評価では、麻痺側から袖を通そうとして毎回途中で手順を見失う行動が観察された。線分抹消試験は正常範囲だが、キムラボックステストで模倣困難あり。
こうしたケースは、新人セラピストが最も混乱しやすい場面の一つです。上肢の運動機能は改善しているのに、更衣という複合動作だけが伸び悩む。
結論から言うと、原因は上肢機能ではなく遂行機能や観念運動の障害にあることが少なくありません。この記事では、更衣動作を「身体機能」「高次脳機能」「環境要因」の3層で分解し、評価から介入、つまずきポイントまでを整理します。
更衣動作障害の定義と疫学。
更衣動作は、上肢・下肢・体幹の協調運動に加え、遂行機能(計画能力・順序立てる力)、視空間認知、感覚機能が同時に求められる複合的なADL(日常生活活動)です。
Walker et al.(2004)の観察研究[観察研究]では、椅子座位を15分以上保持できる脳卒中患者30人のうち、20人が発症6週以内の初期評価で更衣が非自立でした。
更衣は毎日複数回発生する動作であり、自立できるかどうかが在宅復帰後の介護負担を大きく左右します。単に「できる/できない」ではなく、どのプロセスで詰まっているかを分解して評価する視点が、新人セラピストには特に求められます。
更衣動作を構成する3つの層
肩関節の屈曲・外転、肘関節の屈曲・伸展、手指の把持力と巧緻性。体幹の前屈・回旋の安定性。下肢は股関節屈曲・外転、膝関節屈曲、足関節可動域と片脚立ちの能力が関与します。
SPV(身体的垂直認知:自分の体がまっすぐかを感じる脳の機能)を含む身体図式、遂行機能(手順を計画し順序立てる力)、視空間認知、観念運動能力が更衣の一連の動作を支えます。
手すりの配置や椅子の高さといった住環境要因、うつ症状やモチベーション低下といった精神面も更衣動作の自立度に影響します。定期的な精神状態評価が予後予測に役立ちます。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、身体機能・高次脳機能・環境要因を統合した評価から、オーダーメイドのリハビリプランをご提案します。無料相談で現状の課題を整理しましょう。
神経メカニズムと責任病巣。
Walker et al.(2004)のビデオ解析[観察研究]は、更衣の失敗を4パターンに分類し、それぞれ異なる脳損傷部位と対応していることを示しました。

— 引用研究:上半身の着衣における認知機能の影響を検証したビデオ解析研究(Walker CM, et al. 2004)
4つの失敗パターンと責任病巣
①混乱した方略(非麻痺側から着衣するなど):左頭頂葉・左前頭側頭葉損傷に多く、キムラボックステスト(観念運動失行の評価)で失行を認めやすい。
②麻痺側手を正しい穴に通せない:右後頭葉損傷に多く、VOSP(物体識別と空間認知の評価)で異常を示しやすい。
③麻痺側肩まで服を引き上げることを無視:右後頭葉損傷に多いが、視覚的抹消検査では無視が検出されない例もあり、注意が必要です。
④麻痺側肘より上に袖を上げられない:特異的な部位に限局せず、広範な損傷部位で起こり得ます。
Titus MN, et al., 1991[観察研究]:Am J Occup Ther誌にて、脳卒中患者の知覚検査成績とADL(更衣を含む)の遂行能力に有意な相関があると報告。視空間認知検査の成績が、更衣動作の自立度を予測する一因子となり得ることを支持しています。
「できない理由」を鑑別する。
更衣動作の非自立は、単一の原因で起こることは稀です。Walker MF, Lincoln NB(1991)は、更衣の可否に運動機能・知覚機能・認知機能が独立して寄与すると報告しており[観察研究]、原因を切り分ける視点が欠かせません。

| 鑑別疾患・状態 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 観念運動失行 | 更衣の手順が混乱 | 口頭指示でも改善しにくい、模倣課題で顕著 | キムラボックステスト |
| 半側空間無視 | 麻痺側の袖・裾を見落とす | 口頭で指摘すると気づける例がある。ただし机上検査で陰性の潜在無視もある | 線分抹消試験 |
| 視空間認知障害 | 袖の穴を正しく通せない | 物体の向き・空間配置の認識自体が困難 | VOSP |
| 純粋な運動麻痺 | 肘より上に袖を上げられない | 認知検査は正常範囲。可動域・筋力の直接的な制限 | Motricity Index |
評価尺度と採点基準。
更衣動作の評価は、動作の可否だけでなく「どこで・なぜ」つまずくかをビデオ等で記録し、身体機能と高次脳機能検査を組み合わせて行います。
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 自立 | 2点 | — | 介助・指示なしで完遂 |
| 口頭指示下 | 1点 | — | 手順の言語化で遂行可能。遂行機能課題の疑い |
| 介助 | 0点 | 5分試行後 | 身体機能・認知機能いずれかの重度障害を疑う |
NSDA[観察研究/専門家合意]:Walker et al.(2004)の研究デザインにおいて、普段着での実動作評価として運用され、ビデオ判定との併存的な妥当性が確認されています。ただしNSDA単独のMCID(臨床的最小変化量)は確立された報告が乏しく、現時点では変化の解釈にビデオ解析や高次脳機能検査の併用が推奨されます[専門家合意]。
介入のエビデンスと実施パラメータ。
更衣訓練は「身体機能訓練」「更衣動作訓練」「高次脳機能訓練」の3領域を並行して進めます。以下は臨床で実施可能な4ステップです。

肩屈曲・外転、肘屈曲・伸展のPROM/AAROMを段階的に実施。体幹は座位での重心移動訓練を組み合わせます。目安は1セッション20〜30分、週2回以上。
前開きシャツ→プルオーバー型の順で難易度を上げ、麻痺側から袖を通す練習を実施。Walker et al.(2004)では週2回の徒手的・口頭促し下訓練で3ヶ月後の自立者数が増加しています[観察研究]。
動作を視覚的手順リストで分解し、1ステップずつ実施。遂行機能障害がある場合は手順を反復提示し、記憶の定着を図ります。1回10〜15分、更衣訓練前に併用します。
大きめのボタンから小さめのボタンへ段階的に難易度を上げます。1セッション10分程度を目安に、週2〜3回反復します。
Hatem SM, et al., 2016[SR/MA]:Front Hum Neurosci誌のシステマティックレビューで、発症6ヶ月以降でも上肢機能訓練によりFMA・ARATが有意に改善する報告を多数集約。更衣に必要な上肢機能も、時期にかかわらず改善余地があることを示唆します。

STROKE LABでは、身体機能訓練に加え、高次脳機能評価を踏まえたオーダーメイドの更衣動作訓練を提供しています。発症からの期間にかかわらず、まずは現状を評価させてください。
多職種連携と環境調整。
住環境調整のポイント
- 手すりの位置・椅子の高さを実際の更衣動作に合わせて調整
- 家庭訪問による環境評価とバリアフリー化の提案
- ボタンかけ補助具・マジックテープ化などの自助具の検討
「更衣ができないのは、その人の努力不足じゃない。評価を分業して、原因を突き止めることがチームの仕事です。」
「看護師からの生活場面の情報が、机上検査だけでは見えない“実際のつまずき方”を教えてくれます。」
日本脳卒中学会の脳卒中治療ガイドライン2021でも、ADL訓練は多職種チームで包括的に行うことが推奨されています[専門家合意]。
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 座位・立位バランス、体幹機能 | 姿勢制御訓練、下肢可動域訓練 | 更衣時の座位安定性をOTと共有 |
| OT | 更衣動作全体、高次脳機能 | 更衣分解訓練、自助具選定、環境調整 | 評価結果をチーム全体に共有 |
| ST | 言語理解、遂行機能の言語的側面 | 手順の言語化支援、口頭指示の工夫 | 失語がある場合の指示方法をOTへ助言 |
| 看護師 | 生活場面での更衣状況 | 病棟での更衣見守り・声かけ | 訓練室での結果を病棟生活へ汎化 |
| 医師 | 全身状態、精神症状 | うつ症状への薬物療法の検討 | 意欲低下時はチームで情報共有 |
| MSW | 退院後の生活環境・介護体制 | 住環境改修・福祉用具導入の調整 | セラピストの評価結果を退院支援に反映 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
新人セラピストが更衣動作訓練で陥りやすい失敗パターンを整理しました。
臨床判断のコツ
「一度に全部の失敗パターンを直そうとしないこと。まずは動画で1回の更衣を撮って、どのステップで止まるか一緒に見てみよう。」
「口頭指示で改善するかどうかを試すだけで、遂行機能の問題か身体機能の問題かの当たりがつくよ。」
予後とゴール設定。
Walker et al.(2004)の3ヶ月後評価では、27名中16名が更衣完全自立に到達した一方、11名は自立に至りませんでした[観察研究]。片手更衣から両手更衣へ移行した患者は1名のみで、運動麻痺の改善が必ずしも更衣戦略の変更に直結しないことが示されています。
Nakayama et al.(1994)のコペンハーゲン脳卒中研究[観察研究]でも、上肢機能の代償的な回復パターンが報告されており、機能回復とADL自立が必ずしも一致しない点は更衣動作にも当てはまります。

最終目標を「更衣の完全自立」に固定せず、口頭指示下自立や部分自立(一部の衣服のみ自立)など、段階的なゴールを患者・家族と共有することが現実的です。認知機能の障害が重い場合は特に、環境調整や介助方法の指導を並行したゴール設定が有効です。
よくある質問。
Nottingham Stroke Dressing Assessmentの略称で、衣服の項目ごとに自立2点・口頭指示1点・5分試行後の介助0点で採点する評価法です。Walker et al.(2004)の研究で用いられ、初期評価と3ヶ月後評価の比較で更衣動作の回復推移を追跡できます。
上肢機能評価だけでなく、視空間認知(VOSP)・観念運動失行(キムラボックステスト)・線分抹消試験による半側空間無視の評価を組み合わせることが重要です。両手で更衣できた患者は全員が認知検査で正常範囲だった一方、片手更衣が非自立だった患者の大半に認知機能低下が見られました。
着衣失行(混乱した更衣方略)は左頭頂葉・左前頭側頭葉損傷に多く、キムラボックステストで異常を示します。半側空間無視による更衣困難は右後頭葉・右頭頂葉損傷に多く、線分抹消試験や視空間認知検査(VOSP)で異常を示す点が鑑別のポイントです。
座位を15分以上保持できる段階から開始可能です。週2回の徒手的・口頭促し下での更衣訓練が実施され、3ヶ月で更衣完全自立者が10人から16人に増加しています。運動学習の定着には週2回以上を3ヶ月継続することが推奨されます。
健側での過度な代償動作は肩や腰部の痛みにつながるため、健側のオーバーユースを防ぐ指導が必要です。また視覚的な手順リストの活用や、住環境(手すり・椅子の高さ)の調整も、家族と共有すべき重要なポイントです。
保険リハビリの頻度・時間の制約にとらわれず、身体機能・高次脳機能・精神面を統合したオーダーメイドプランを提供しています。動画フィードバックで更衣動作の変化を可視化し、通院・訪問・オンラインを組み合わせて継続的にサポートします。
STROKE LABのプログラム。
保険リハビリの日数・時間には上限があり、「まだ良くなりたい」気持ちにブレーキがかかることがあります。STROKE LABは自費リハビリだからこそ、時間・内容・頻度を自由に設計できるオーダーメイドプランをご用意しています。

— 自費リハビリという新しい選択肢と、STROKE LABが叶える未来
— 利用者様の変化を撮影した動画。実際のリハビリと身体の変わり方が分かります
「更衣が進まない利用者様を担当した際、上肢機能訓練だけを続けても変化が出ませんでした。動画で更衣動作を撮影し直したところ、毎回同じステップで手順を見失っていることに気づき、視覚的な手順カードを導入。3週間で口頭指示なしでの更衣が可能になりました。原因を可視化することの大切さを実感した症例です。」— 作業療法士・臨床経験8年・神経系リハビリ専門
「半側空間無視のある利用者様が、麻痺側の袖を毎回見落としていました。抹消試験は正常範囲だったため見過ごしそうになりましたが、実動作の観察を重視し、視覚的な合図を袖口に付ける工夫を導入。ご家族にも共有し、在宅でも同じ手順を継続してもらうことで、着衣の失敗が大幅に減りました。」— 理学療法士・臨床経験6年・脳卒中リハビリ専門
諦めないでください。

「発症から半年が過ぎたから」「もう保険リハビリの期間が終わったから」と、更衣動作の改善を諦めていませんか。
最新の研究では、発症後6ヶ月以降でも上肢機能が改善することが示されています。更衣動作も同様に、原因を正しく評価すれば改善の糸口が見つかります。
STROKE LABは、身体機能・高次脳機能・環境要因を統合した評価から、あなたに合ったリハビリプランをご提案します。まずは無料相談で、今の状態をお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)