スプーンに興味がない赤ちゃん|食具への移行と姿勢の整え方
緩急を急がせず、見る、まねる、触れる経験と食事中の体の安定を積み重ねます
「手づかみでは食べるのに、スプーンを持とうとしない」「渡してもすぐ落とす」——スプーンへの興味は、手先の器用さだけで決まりません。姿勢が安定して片手が自由になること、手元を見ること、食べ物をすくって口へ運ぶ流れがつながることが必要です。月齢だけで急がず、今どこまでできているかを一緒に整理します。

「興味がない」の中身を分けてみる。
保護者が「スプーンに興味がない」と感じる場面には、いくつか違う状態が含まれています。スプーンを口へ近づけると顔を背ける場合は、材質、温度、食形態、口の中での受け入れなどが関係することがあります。一方、食べさせてもらうことはできるのに、自分では持とうとしない場合は、姿勢、視線、手の自由度、模倣、道具の意味づけを見ます。
前者では食べる安全性や口腔機能を優先し、後者では食具を操作するまでの動作を分けます。同じ「スプーンを嫌がる」でも、見る場所が異なります。
自分で持たないことを、意欲や性格のせいにしないことが最初のポイントです。
スプーンだけでなく、食事全体を見ます
手づかみ食べをするか、家族の手元を見るか、玩具や食べ物を口へ運ぶか、片手で机を支えていないか、食事の後半で姿勢が崩れないかを確認します。スプーンへの反応が少なくても、準備となる行動が増えていれば、食具への移行過程にいる可能性があります。
スプーンを使うまでには、7つの流れがある。
スプーン食べは、「握る」だけの手先課題ではありません。姿勢を保ち、道具へ注意を向け、届く距離へ手を伸ばし、柄を持ち、器の中で食べ物をすくい、こぼさないよう口へ運び、口唇で取り込む一連の生活動作です。

興味ではなく、「どこで流れが止まるか」を見る。
スプーンへ手を伸ばさなくても、姿勢を少し支えると伸ばせるなら、手先より先に体を支える負担が大きかった可能性があります。食べ物をのせたスプーンなら口へ運べるのに、空のスプーンでは動かないなら、道具への興味がないのではなく「すくう工程」がまだ難しいのかもしれません。
食事の最初は持つのに、後半になると机へ手をつく場合は、疲労に伴う姿勢の変化も見ます。回数を増やす前に、成功が変わる条件を一つだけ探すことが、家庭で続けやすい関わりにつながります。
スプーンを使い始めた幼児の食事場面を観察した研究では、養育者の手の動きが、子どもの注意をスプーンと食べ物の関係へ向ける可能性が示されました。子どもは大人の顔だけでなく、食具を操作する手元からも学びます。
CDCは18か月頃の発達の目安として「スプーンを使おうとする」を挙げています。これは上手にすくって食べる完成時期ではなく、試そうとする行動を含む目安です。WHOは、子どもの空腹・満腹や拒否のサインへ応答し、食べることを支えても強制しない関わりを推奨しています。
限界:観察研究は因果関係や特定の家庭支援の効果を証明するものではありません。発達の経過、食事経験、医学的状態には個人差があります。本記事は診断や摂食嚥下評価の代わりにはなりません。
月齢は、完成期限ではなく観察の目安。
食具の使い方は、座位、手づかみ食べ、模倣、食形態、食事経験などとともに育ちます。同じ月齢でも、最初から自分で持つ子もいれば、食べさせてもらいながら少しずつ試す子もいます。
| 月齢の目安 | 見られやすい準備 | 保護者が見るポイント |
|---|---|---|
| 6〜8か月頃 | 食べさせてもらう経験が中心。物へ手を伸ばし、口へ運ぶ経験が増える | 首・体幹の安定、スプーンの受け入れ、食べ物への反応 |
| 9〜11か月頃 | 手づかみ食べを通じ、見る・つかむ・口へ運ぶ経験が増える | 手づかみの有無、左右の手、口へ運ぶ量の調整 |
| 12〜17か月頃 | 家族のまね、スプーンを持つ、食べ物をのせてもらうと口へ運ぶなどが見られる | 手元を見るか、持つ時間、食べ物あり・なしの差 |
| 18〜24か月頃 | 自分で使おうとする機会が増える。こぼしながら操作を学ぶ | 試そうとするか、どの工程で介助が必要か |
| 24〜36か月頃 | 食べ物や器に合わせて使い方が広がる。こぼすことは残りうる | 食事全体で使える時間、疲労、左右差、家と園の違い |
家庭では、「持たせる」より試しやすい条件をつくる。
1.片手を自由にできる姿勢
座面が広すぎる、机が遠い、体が横へ傾くと、片手を机や椅子へついて体を支えることがあります。骨盤や体幹を軽く支え、机を近づけると、スプーンへ伸ばす手が変わるか見ます。足が安定した面へ触れられる場合は、踏ん張りやすさも確認します。

2.二本のスプーンを用意する
大人が食べさせるスプーンと、子どもが自由に持つスプーンを分けます。取り上げ合いになりにくく、大人が食具を使う手元も見せられます。子ども用は、口に対して大きすぎず、短く太めで持ちやすいものから試します。
3.最初は「すくった後」から参加する
空のスプーンでは使わなくても、少量の食べ物をのせて渡すと口へ運べることがあります。この場合、興味よりも「すくう工程」が難しかった可能性があります。すくいやすい粘度、滑りにくい器、食べ物を一か所へ寄せる工夫も役立ちます。
4.手づかみ食べを残す
手づかみ食べは、食べ物の固さ、温度、大きさを手で確かめ、口へ運ぶ経験になります。スプーンを使わせるために禁止せず、手づかみできる食品とスプーンで食べる食品を同じ食卓に置きます。
5.正解を急がない
見る、触る、数秒持つ、器へ入れる、口へ近づけることも移行の一部です。握り方を何度も直したり、手をつかんで完成動作を反復したりするより、成功しやすい一回をつくります。

| 避けたい関わり | 代わりに試したいこと |
|---|---|
| 手をつかみ、何度も口へ運ぶ | 食べ物をのせて渡し、自分で動かす時間を待つ |
| 握り方を毎回直す | 持ちやすい柄を選び、まず口へ運ぶ経験を優先する |
| 手づかみ食べを禁止する | 手づかみと食具を併用し、選べるようにする |
| 一度に多く盛る | 少量ずつ、すくいやすい位置へ寄せる |
| 投げたことを強く叱る | 満腹・疲労・遊びを見分け、短く終える選択もする |
食事は毎日続く生活です。親子の負担を増やさず、遊び・抱っこ・食事を含む発達全体から関わりを整理したい方は、小児リハビリの案内もご確認ください。
様子を見られる状態と、相談したい状態。
| 家庭で経過を見やすい状態 | 健診・医療機関へ相談したい状態 |
|---|---|
| 手づかみ食べをする 食べ物や家族の手元を見る 玩具や食べ物を口へ運ぶ 姿勢や置く位置で反応が変わる 少しずつ持つ時間が増えている |
食事中にむせる・咳き込む 呼吸が苦しそう、顔色が変わる 食事が極端に長い 頻回に吐く、痛がる 体重が増えにくい 食形態が進まない 一度できた動作を失った 明らかな手の左右差が続く |
- 気になり始めた時期と、最近増えた動作
- 口へ近づけると嫌がるのか、自分で持とうとしないのか
- 手づかみ食べ、玩具を口へ運ぶ動作の有無
- 椅子・机・足部支持など、食事姿勢の様子
- 右手と左手で反応に差があるか
- 食べ物の固さ・粘度、スプーンの材質や形で変化するか
- 食事の開始直後と後半が分かる短い動画を撮影する
専門施設の評価でわかること。
専門的な評価の目的は、スプーンを使わせることではありません。保護者の「興味がない」という不安を、観察できる動作へ分け、どの条件なら赤ちゃん自身が試しやすくなるかを見つけることです。
| 見る領域 | 観察すること | 条件調整につなげる視点 |
|---|---|---|
| 姿勢・支持 | 骨盤、体幹、足、片手支持、食事後半の崩れ | 座面、机との距離、支える場所を変える |
| 視線・注意 | スプーン、器、食べ物、大人の手元を見るか | 置く位置、背景、見せる速さを変える |
| 手の使用 | リーチ、把持、前腕の回転、左右差 | 柄の太さ・長さ、距離、左右の配置を変える |
| 食具・食べ物 | 空と食べ物ありの差、器の動き、粘度、量 | 工程を減らし、成功しやすい組み合わせを探す |
| 口腔・安全 | 口唇での取り込み、むせ、咳、呼吸、疲労 | 疑わしい所見は小児科・歯科・言語聴覚士等へつなぐ |
観察して、一つ変えて、同じ動作で確かめる。
まず普段の食事を観察し、姿勢、距離、食具、食べ物のうち一つだけ条件を変えます。その場で「持てたか」だけでなく、手を伸ばすまでの時間、介助量、繰り返せる回数、食事後半の変化を比べます。
反応が変わった条件を、特別な訓練ではなく「朝食の最初の数分」「ヨーグルトを食べるとき」など家庭で再現できる形へ戻します。一定期間後に同じ食事動作を見直し、次に減らせる援助を考えます。医療・健診が先であり、STROKE LABは生活動作の側から併走します。

よくある質問。
試せる条件へ変えていく。

赤ちゃんがスプーンを持たないと、「練習が足りないのでは」と焦ることがあります。しかし、食事は手先だけでなく、姿勢、視線、手の動き、口の機能がつながる生活動作です。
私たちは、できない動作を繰り返させるのではなく、どの条件なら赤ちゃん自身が試せるかを、機能解剖と動作分析から整理します。その変化を、家庭で無理なく続けられる食事場面へ戻していきます。
むせや呼吸、栄養、疾患の診断は医療機関が担います。医療・健診を尊重しながら、毎日の食事姿勢や手の使い方を整理したい方はご相談ください。
代表取締役 金子 唯史

動作を一つの筋肉や関節だけで捉えず、姿勢・感覚・運動の連鎖から読み解く専門書です。食具操作を、手だけでなく全身と環境の関係から見る臨床的な土台にもつながります。
- 家でどう関わればいい?|抱っこ・遊び・声かけが変わる家庭支援
- 片手を使わない赤ちゃん|左右差に気づいたときの相談目安
- 座ると背中が丸い赤ちゃん|骨盤・体幹・足の発達から見る座位
- 手を口に持っていかない赤ちゃん|手と口の協調を育てる関わり
- 厚生労働省.授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版).2019.
- Centers for Disease Control and Prevention. Milestones by 18 Months. Updated 2026.
- World Health Organization. Guideline for complementary feeding of infants and young children 6–23 months of age. 2023.
- Nonaka T, Stoffregen TA. Social interaction in the emergence of toddler’s mealtime spoon use. Developmental Psychobiology. 2020;62(8):1124–1133. doi:10.1002/dev.21978.
- American Speech-Language-Hearing Association. Early Identification of Speech, Language, Swallowing, and Hearing Disorders.
- 金子唯史.脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院;2024.408頁.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)