うつ伏せからお座りに移れない赤ちゃん|姿勢変換を育てる遊び
腕で押す、横へ重心を移す、骨盤を回すという一連の準備を遊びの中で育てます
「座らせれば座れるのに、自分ではお座りにならない」——この二つは、同じ能力ではありません。床から座位へ移るには、手で支える、片側へ体重を移す、胸と骨盤を回す、下側の腕で床を押すという動きがつながります。一つの完成形を教えるのではなく、どの姿勢から、どの方向へ、どれくらいの支えで動き始められるかを見ていきましょう。

置けば座れるのに、自分では移れない。
同じ月齢の赤ちゃんが、うつ伏せや四つ這いからすっと座る姿を見ると、「練習させた方がよいのか」「体幹が弱いのか」と心配になることがあります。
けれど、座位を保つ能力と、床から座位へ移る能力は別です。姿勢変換は、複数の姿勢と動きをつなぐ課題です。できない場面だけでなく、途中にどの準備が見えているかを確認します。
座らせたときに両手を離して遊べるなら、頭と体幹をある程度保つ力は育っています。一方、自分で座位へ移るには、うつ伏せで両手を支えるだけでなく、片側の手へ体重を預けて反対の手を自由にすること、胸郭と骨盤を少しずらして横向きへ変わること、下側の腕で床を押すことが必要です。
そのため、「置けば座れるのに移れない」という状態は、座位保持の問題とは限りません。姿勢と姿勢の間をどうつなぐかが、まだ組み立ての途中である可能性があります。
座位へ移る経路は、一つではありません。
赤ちゃんは、うつ伏せから腹筋運動のように真っすぐ起き上がるわけではありません。頭・胸郭・骨盤・脚の位置を少しずつ変え、床を支えに使いながら座位へ移ります。
うつ伏せから片側へ重心を移し、横向きに近づきます。下側の前腕や手のひらで床を押し、骨盤と脚を横へ運びながら横座りを経て座位へ移ります。
うつ伏せから四つ這いになり、片脚を横へ出して骨盤を床へ下ろします。片手で支えながら横座りへ移り、最後に体幹を起こします。
このほかにも、ずりばいの途中から横向きになる、片肘支持から手のひら支持へ変わるなど、経路には個人差があります。大切なのは、形をそろえることではなく、左右の手足を使いながら、姿勢を変える選択肢が少しずつ増えることです。

姿勢変換を、5つの局面に分けて見ます。
「体幹が弱い」「腕の力がない」という一言だけでは、家庭で何を観察すればよいか分かりません。STROKE LABでは、姿勢変換のどこまで赤ちゃん自身で行い、どこから支えが必要になるかを分けます。
| 局面 | 家庭で見ること | 止まりやすい反応 | 条件を変えて比べること |
|---|---|---|---|
| 1. 支持 | うつ伏せで前腕や手のひらを床につけ、胸を少し持ち上げられるか | 腕が後ろへ流れる、肘が外へ広がる、胸が床についたまま | 床の硬さ、袖の滑り、肘の位置 |
| 2. 重心移動 | 片手へ体重を預け、反対の手をおもちゃへ伸ばせるか | 両手を床から離せない、片側へだけ倒れる | おもちゃを右・左・斜め前へ移す |
| 3. 回旋 | 胸と骨盤が少しずれ、横向きや斜め座りへ近づくか | 全身を一枚板のように反る、脚を伸ばしたまま回る | 骨盤だけ軽く支えたときの変化 |
| 4. 押し上げ | 下側の前腕から手のひらへ支えを変え、頭と体幹を起こせるか | 肘がつぶれる、大人に引かれないと起きられない | 胸郭を少し支えた場合と骨盤を支えた場合 |
| 5. 座位安定 | 脚と骨盤を整え、座った後に両手を遊びへ使えるか | 勢いで倒れる、片側の横座りだけになる | 移った直後と数秒後の姿勢、左右差 |
両手で体を支えられても、一方の手へ十分に体重を移せなければ、反対の手を自由にできません。右手へ預けると左手を離せるか、左手へ預けると右手を離せるかを比べます。
また、「体幹が弱い」で終わらせず、骨盤と脚を横へ動かして支持面を組み替えられるかを見ます。脚を伸ばして反る、同じ側へだけ横座りになる、四つ這いから脚を抜けないという違いは、次に試す条件を変えます。

研究と月齢は、「締切」ではなく相談の地図です。
CDCは、9か月の運動発達の目安に「自分で座位になる」と「支えなしで座る」を別々に挙げています。CDCのマイルストーンは、その年齢までに75%以上の子どもが行う項目をもとにしていますが、標準化された発達検査の代わりではありません。
AAPの保護者向け情報でも、8〜12か月頃には、うつ伏せへ移ることと、再び座位へ戻ることを学んでいくと説明されています。9か月頃にひとりで座れない場合は、小児科医へ伝えることが勧められています。
乳児の姿勢・移動発達を追った研究では、姿勢の種類だけでなく、姿勢どうしを行き来するネットワークが経験とともに変化することが示されています。座位、うつ伏せ、四つ這いなどは別々に完成するだけでなく、遊びの中でつながり方が組み替わります。
健康な乳児を対象とした系統的レビューでは、覚醒中のうつ伏せ遊びは粗大運動発達などと良好な関連を示しました。ただし、特定の遊びを行えば、うつ伏せから座位への移動が必ず早まると証明したものではありません。
日本の「ひとりすわり」データと、姿勢変換を混同しない。
令和5年乳幼児身体発育調査では、「ひとりすわり」ができると回答された割合は、8〜9か月未満で84.4%、9〜10か月未満で91.7%、10〜11か月未満で98.5%でした。ただし、この調査項目は座位保持の通過率であり、うつ伏せから自分で座位へ移る割合ではありません。
| 月齢の目安 | 見られやすい準備 | 家庭で確認すること |
|---|---|---|
| 6〜7か月頃 | うつ伏せで腕を伸ばす、座位で手を前につく、左右へ寝返る | 両腕で支える、斜め前のおもちゃへ手を伸ばす |
| 7〜9か月頃 | 片手支持、横向き、方向転換、四つ這い準備、座位保持の安定 | 右・左へ重心を移し、反対の手を離せるか |
| 9〜10か月頃 | 自分で座位になる、支えなし座位、四つ這い・移動の多様化 | 置けば座れるか、自分で移れるかを分けて記録する |
| 10〜11か月頃 | 複数の姿勢間を行き来し、遊びと移動をつなげる | 新しい経路が増えるか、左右差が固定していないか |
月齢は目安です。早産で生まれた場合は、原則として修正月齢も併記して相談します。「できた月」だけでなく、動きが増えているか、左右差、全身状態、ほかの発達を合わせて判断します。
家庭では、「座らせる練習」より姿勢を変えたくなる遊びを。
遊びの目的は、完成した座位を何度も作ることではありません。赤ちゃん自身が床を支え、重心を移し、姿勢を変える試行錯誤を残すことです。機嫌がよく、起きていて、保護者が見守れる時間に安全な床で行います。
おもちゃを真正面ではなく、少し斜め前へ置きます。一方の腕へ体重を預け、反対の手を自由にする経験を待ちます。右と左を同じ回数にそろえるより、両方向を試せる機会をつくります。
完全なうつ伏せと座位の間に、横向き遊びを入れます。下側の前腕で床を支え、上側の手でおもちゃへ触れる時間をつくります。頭が落ちる場合は胸の前を少し支えます。
四つ這いがとれる場合は、おもちゃを真横より少し斜め後ろへ置きます。片手で支え、片脚を横へ動かす反応を待ちます。骨盤を強く回して座らせず、動き始めの小さな変化を見ます。
骨盤を少し支えると腕で押せるのか、胸郭を少し支えると骨盤を回せるのかを比べます。大人が動きを完成させるのではなく、赤ちゃん自身の手・頭・体幹が動く余地を残します。
数回試して疲れる前に終えます。泣く、呼吸が乱れる、顔色が変わる、強く反る、痛がる様子がある場合は中止してください。

避けたい関わりと、相談したい変化。
| 避けたい関わり | 理由 |
|---|---|
| 両腕を持って繰り返し引き起こす | 床を押す、重心を移す、回旋する経験が大人の動きに置き換わりやすくなります |
| 完成した座位へ何度も置く | 座位保持は経験できますが、床から座位へ至る過程を試す時間が減ります |
| 腰や脚を強くひねって座らせる | 痛みや抵抗がある場合に負担となり、赤ちゃん自身の回旋と支持が残りません |
| 長時間、座位保持具やクッションで固定する | 床上で姿勢を変える機会が少なくなります。育児上必要な使用を責めるのではなく、床遊びとの配分を考えます |
| 片側だけを何度も反復する | 得意側だけで動くパターンが固定し、反対方向の反応を確認しにくくなります |
| 嫌がっても回数を決めて続ける | 疲労、眠気、空腹、痛み、怖さ、体調変化を運動の問題と誤認する可能性があります |
様子を見やすい状態と、相談したい状態。
・うつ伏せで両腕を使える
・左右へ寝返りや方向転換を試す
・少しずつ新しい動きが増えている
・得意側はあるが反対側も使う
・機嫌、哺乳、体重増加に心配がない
・9〜10か月頃に支えなし座位も難しい
・1〜2か月見ても準備動作が増えない
・片側の手足をほとんど使わない
・いつも同じ方向にしか移らない
・強い反り返り、脚の突っ張り、交差が続く
・体が非常に柔らかく支えにくい
・できていた動きが失われた
けいれん様の動き、呼吸や顔色の異常、意識の変化、急に片側の手足を動かさなくなった、哺乳が著しく落ちた、繰り返す嘔吐、明らかな痛み、発達の後戻りがある場合は、予約や練習を待たず医療機関へ相談してください。
健診では、「できない」だけでなく条件差を伝えます。
診察室では、普段の姿勢変換が見られないことがあります。家庭でどんな場面なら動けるか、どこで止まるかを短く記録しておくと、発達全体と合わせて相談しやすくなります。
02 置けば座れるか、何秒ほど両手を離せるか
03 うつ伏せ・横向き・四つ這いのどこまで自分で移れるか
04 右方向と左方向で、手の支持や移り方に差があるか
05 床、衣服、おもちゃの位置、眠気や疲労で変化するか
06 強い反り返り、突っ張り、脚の交差、痛み、哺乳や全身状態の心配
07 全身が映る位置から、動き始める前から終わった後まで10〜20秒程度の動画
専門的な評価では、姿勢変換のどこで止まるかを整理します。
モードAの記事であるため、私たちは「座れるようにする治療」を先に勧めません。専門評価の役割は、「自分で座らない」という不安を、観察できる情報へ分けることです。
前腕支持と手掌支持、右方向と左方向、おもちゃが正面・斜め・横にある場合、床面や衣服、疲れる前と後、骨盤を支えた場合と胸郭を支えた場合、横向き経路と四つ這い経路を比較します。
見るのは「座れたか」だけではありません。介助を減らしたときも自分の手で床を押せるか、座った後に両手を遊びへ使えるか、家庭で同じ条件を再現できるかを確認します。医療的な確認が必要と考えられる場合は、健診・小児科を優先します。
急な変化、退行、痛み、明らかな左右差は医療・健診が先です。そのうえで、支持・重心移動・回旋のどこで止まるか、どの支えなら自分の動きが出るかを整理したい場合は、小児リハの相談も選択肢になります。
よくある質問。
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。乳児の発達相談では、月齢や一つの姿勢だけで判断せず、支持、重心移動、左右差、感覚、遊び、環境との関係から動きを整理します。
医療・健診が先という前提を守り、診断や医学的判断は主治医・小児科医が担います。私たちは、保護者の「できない」という不安を、家庭で観察できる条件と、医療へ伝えやすい情報へ翻訳する立場から併走します。
観察できる言葉へ。

赤ちゃんの姿勢変換は、体幹だけ、腕だけの問題ではありません。床を支える手、重心を預ける方向、胸郭と骨盤の回旋、遊びたい物の位置がつながって生まれます。
一つの正解動作へ当てはめるのではなく、今ある小さな動きを見つけ、必要な支えを減らしながら、家庭で見守れる形へ整理することを大切にしています。
代表取締役 金子 唯史

動きを「できる・できない」で終わらせず、支持、感覚、姿勢、運動の連鎖として見る視点は、乳児期の姿勢変換を理解する土台にもなります。
本記事は、国内外の公的情報、査読研究、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断・治療・個別の医学的判断に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、乳幼児健診、主治医、小児科医へご相談ください(最終確認日:2026年8月3日)。
- Centers for Disease Control and Prevention. Milestones by 9 Months. Updated May 15, 2026.
- American Academy of Pediatrics. Movement Milestones in Babies 8 to 12 Months Old. HealthyChildren.org. Updated April 7, 2021.
- こども家庭庁.令和5年乳幼児身体発育調査 調査結果の概要.2024.
- 国立成育医療研究センター.改訂版乳幼児健康診査 身体診察マニュアル.2021.
- Thurman SL, Corbetta D. Using network analysis to capture developmental change: An illustration from infants’ postural transitions. Infancy. 2020;25(6):927-951. doi:10.1111/infa.12368.
- Hewitt L, Kerr E, Stanley RM, Okely AD. Tummy Time and Infant Health Outcomes: A Systematic Review. Pediatrics. 2020;145(6):e20192168. doi:10.1542/peds.2019-2168.
- Adolph KE, Franchak JM. The development of motor behavior. WIREs Cogn Sci. 2017;8:e1430. doi:10.1002/wcs.1430.
- Novak I, Morgan C, Adde L, et al. Early, Accurate Diagnosis and Early Intervention in Cerebral Palsy: Advances in Diagnosis and Treatment. JAMA Pediatr. 2017;171(9):897-907. doi:10.1001/jamapediatrics.2017.1689.
- 金子唯史.脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)