【2026年版】感覚障害によるリーチ動作の特徴とは?効果的なリハビリアプローチを徹底解説
感覚障害があっても、なぜリーチ動作は成立するのか。
固有受容感覚をほぼ完全に失った患者の研究から、リーチ動作を支える脳内メカニズムと、新人療法士が臨床で押さえるべき評価・介入のポイントを先輩目線で整理します。
— 脳卒中による上肢感覚障害がリーチ動作に与える影響の概説動画
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。

50代男性、左被殻出血、発症8週目(回復期リハビリテーション病棟)。Brunnstrom Stage上肢IV・手指IV、FIM運動項目58/91点。主訴は「コップを掴もうとすると手前で止まる」「物をよく落とす」。
初回評価では、左上肢の軽触覚は軽度低下にとどまる一方、固有受容覚(関節位置覚)は中等度低下、二点識別覚閾値は延長。視覚下でのリーチは可能だが、閉眼下では軌跡の著明な逸脱と速度プロファイルの乱れがみられた。
新人時代、こうした患者を担当して戸惑うのは「運動麻痺は軽度なのに、なぜ動作がぎこちないのか」という点だと思います。答えの多くは、感覚障害というもう一つの問題にあります。
麻痺側の皮膚感覚や深部感覚(筋紡錘からの情報)が正しく中枢に伝わらない状態を感覚障害と呼びます。この状態では、患者はリーチ動作中に自身の腕の位置・動作速度・筋活動のフィードバックを正確に得られず、運動の精度と協調性が大きく低下します。本記事では、固有受容感覚をほぼ完全に失った患者の古典的研究を軸に、リーチ動作を支える脳内メカニズムと、臨床で押さえるべき評価・介入のポイントを整理します。
感覚障害の定義と疫学。
体性感覚は、皮膚感覚(触覚・痛覚・温度覚)と深部感覚(固有受容覚:関節位置覚・運動覚)に大別されます。脳卒中後はこのどちらか、あるいは両方が障害されることがあり、リーチ動作のような到達運動では特に固有受容覚の役割が重要です。
筋紡錘・腱紡錘・関節受容器からの情報をもとに、自分の関節角度や運動方向、力加減を感じる脳の機能。視覚を使わずに自分の手の位置を把握するために不可欠であり、リーチ動作の精度に直結します。
どれくらいの頻度で生じるのか
Connellら(2008, Clin Rehabil, n=70の前向き観察研究)によれば、脳卒中後の触覚障害は7〜53%の頻度で出現します。
同研究で立体覚(stereognosis)障害は31〜89%と、検査部位・手法によって幅広く報告されています。
固有受容覚障害は34〜64%。リーチ動作の精度に直結する領域だけに、新人のうちから意識して評価したい項目です。
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STROKE LABでは、感覚障害を含む神経症状に精通したセラピストが、お一人おひとりの状態に合わせたオーダーメイドのリハビリプランをご提案します。回数・頻度も柔軟に設計可能です。
神経メカニズムと責任病巣。

視床(特に後外側腹側核)は体性感覚の中継核であり、ここでの病変は対側の感覚障害を強く呈します。頭頂葉一次体性感覚野(中心後回)や、感覚線維が密に走行する内包後脚の病変でも同様の症状が生じます。
代償動作はなぜ起きるのか
感覚障害があると、リーチ時に物に手が届く前に力を入れすぎたり、届いたときに過度な力がかかったりしやすくなります。これがリーチの精度低下や代償動作につながります。正確な感覚フィードバックが得られないために、肩や体幹の過剰な動きで腕の伸びを補おうとするのです。代償が過剰になると、疲労や関節の痛みといった二次的な問題が生じる可能性があります。
また、前腕・肘・肩の協調的な動きが必要なリーチ動作では、感覚障害により関節間の協調性が崩れ、肘を過度に曲げる、肩を上げすぎるといった不自然な動作パターンが出やすくなります。
背景[観察研究]:Sarlegnaら(Brain Res Bull, 2006)は、多発性神経炎により運動覚・位置覚・触覚のみを選択的に失った患者GLと健常対照群を比較。視覚なしでリーチ中に標的が横方向に移動する課題を用い、軌跡を測定しました。
方法[観察研究]:標的は継続点灯・短時間点灯・非点灯(ビープ音のみで変化を通知)の3条件で提示。被験者は約1秒でターゲットを通過するようリーチし、運動方向のみを制御しました。
結果[観察研究]:GLは視覚情報の有無に関わらず、対照群と定量的に同様の補正(平均でターゲット変位の77%)と反応時間(平均516ミリ秒)を示しました。一方で軌跡の形は異なり、対照群が2分節の滑らかな軌道を描くのに対し、GLは矢状面・横方向・矢状面の3分節からなる階段状の軌道となりました。固有受容感覚がない場合、関節間の協調性に影響が及ぶことが示唆されます。
この結果が示すのは、感覚が失われても「記憶された目標位置の内部表現」だけでリーチ方向の修正がある程度可能だということです。臨床的には、感覚再教育と並行して、この内部モデルを活用する反復練習が運動学習の手がかりになります。
鑑別診断。
「リーチ動作の不器用さ」は感覚障害だけでなく、他の病態でも生じます。原因を取り違えると介入の方向性がずれるため、まず鑑別の視点を持つことが大切です。
| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 視床ラクナ梗塞(純粋感覚性脳卒中) | 片側上肢の感覚低下・リーチ精度低下 | 運動麻痺をほぼ伴わず感覚のみ障害される。後に視床痛(Dejerine-Roussy症候群)を合併しうる | 頭部MRI、NIHSS、感覚モダリティ別評価 |
| 半側空間無視・感覚消去(Extinction) | 麻痺側への反応低下・リーチの不正確さ | 単独刺激には反応するが両側同時刺激で麻痺側を見落とす。感覚自体は保たれていることが多い | 両側同時刺激検査、BIT行動性無視検査 |
| 小脳性運動失調 | リーチ軌跡の乱れ・測定異常 | 感覚は保たれるが、企図振戦・測定過大/過小が出現。閉眼でも開眼でも症状が同様に出る点が感覚障害と異なる | 指鼻指試験、SARA、小脳性運動失調評価 |
| 末梢性感覚障害(糖尿病性ニューロパチー等) | 手指の感覚低下 | 左右対称・遠位優位(手袋靴下型)の分布。脳卒中の病巣分布(片側性)とは異なる | 神経伝導検査、既往歴(糖尿病等)の確認 |
評価尺度と採点基準。
代表的な標準化尺度がNottingham Sensory Assessment(NSA)です。皮膚感覚・固有受容覚・立体覚をモダリティごとに採点でき、信頼性の検証も行われています。
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 軽触覚 | 0=消失/1=低下/2=正常 | 2点未満で異常 | 綿球による接触の有無・左右差を確認 |
| 痛覚(pin prick) | 0=消失/1=低下/2=正常 | 2点未満で異常 | 鋭/鈍の識別を確認、感覚過敏の有無も記録 |
| 温度覚 | 0=消失/1=低下/2=正常 | 2点未満で異常 | 温/冷刺激の識別、ADLでの熱傷リスクに直結 |
| 固有受容覚(関節位置覚) | 0=消失/1=低下/2=正常 | 2点未満で異常 | 健側肢位の他動的模倣による再現精度を確認 |
| 運動覚(Kinesthesia) | 0=消失/1=低下/2=正常 | 2点未満で異常 | 他動運動の方向(上/下等)の識別精度を確認 |
| 立体覚(Stereognosis) | 複数物品で0〜2点を合算 | 合計点の低下で異常 | 視覚遮断下で物品の形状・素材を識別させる |
信頼性[観察研究]:Lincolnら(Physiotherapy, 1998)の検証で、NSAの評価者間信頼性はκ=0.62〜1.0と概ね良好と報告されています。
妥当性[専門家合意]:各modalityを個別に評価する構成が、感覚障害の多様性(modality間の独立性)と整合的であるとされています。
MCID[専門家合意]:NSAについて確立されたMCID(臨床的最小変化量)は現時点で報告されていません。臨床では点数の変化に加え、実動作(リーチ精度・代償動作)の変化を併せて評価することが推奨されます。
介入のエビデンス。

感覚障害によるリーチ動作低下に対しては、感覚再教育・協調性向上・視覚的フィードバック・反復的な運動学習を組み合わせた包括的アプローチが基本になります。
異なるテクスチャー・形状の物品を用いた識別課題を実施。SENSe療法は1回60分・計10回(計10時間)のプロトコルで実施され、テクスチャー識別・関節位置覚・物品認識のRCTで効果が確認されています。
近距離から開始し、徐々に距離・高さを変える。肩・肘・手首が協調して動くよう促し、1セッション15〜20分・週3〜5回を目安に反復します。
健側動作を鏡で視覚的に補完し、麻痺側の運動イメージを促す。視覚代償が強い症例で導入しやすい一方、長期的には感覚そのものの再教育と並走させる必要があります。
コップを取る、スイッチを押すなど日常生活動作に即した課題で反復練習を行う。健側の使用を制限し麻痺側使用を促すCI療法は、感覚障害が軽度〜中等度の症例で上肢機能の向上が複数のRCTで報告されています。
Doyleら[SR/MA]:Doyle S, Bennett S, Fasoli SE, McKenna KT. Interventions for sensory impairment in the upper limb after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(6):CD006331. 抽出されたRCTは限られた数にとどまり、現時点で全体としての効果を断定するエビデンスは不十分とされています。一方で、個々のRCT(SENSe療法等)では有意な改善が報告されており、適切に選択された個別介入は有効である可能性が示唆されています。
Careyら[単独RCT]:Carey LM, Macdonell R, Matyas TA. SENSe: Study of the Effectiveness of Neurorehabilitation on Sensation. Neurorehabil Neural Repair. 2011;25(4):304-313. n=50(発症6週超、平均48週)、60分×10回(計10時間)の感覚識別訓練群は対照(感覚刺激曝露群)に比べ複合感覚指標(SSD index)が有意に改善しました。

最新のエビデンスに基づき、利用者様一人ひとりの状態や生活背景に合わせた最適なプログラムを構築しています。感覚再教育・課題指向型訓練を組み合わせ、「今いま必要としている」アプローチを常にアップデートしていきます。
多職種連携と環境調整。
感覚障害がもたらす生活上のリスク
- 温度覚障害による熱傷・低温熱傷のリスク
- 触覚障害による外傷・褥瘡の発見遅延
- 固有受容覚障害による物の取り落とし・つまずき
「感覚障害は単独で評価して終わりにせず、必ず病棟・自宅での生活場面と紐づけて多職種に共有してください。」
「特に温度覚・痛覚の障害は、本人が気づかないまま外傷につながるため、看護師との情報共有が安全管理の要になります。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 下肢の固有受容覚・バランス能力 | 感覚再教育+課題指向型立位・歩行練習 | OTと上肢/下肢の評価結果を共有し代償戦略を統一 |
| OT | 上肢の触覚・立体覚・ADL関連感覚 | 感覚再教育・CI療法・ミラーセラピー | STと注意機能・無視の有無を確認し評価精度を担保 |
| ST | 高次脳機能・半側空間無視・失語 | 注意機能訓練・代償手段の指導 | PT・OTへ注意/見落としに関する所見を共有 |
| 看護師 | ADL場面での外傷・熱傷リスク | 病棟での安全管理・皮膚観察 | PT・OTへ病棟生活の実態をフィードバック |
| 医師 | 責任病巣・全身状態 | 薬物療法・合併症管理 | リハチームへ予後・禁忌事項を共有 |
| MSW | 在宅復帰後の生活環境・介護力 | 福祉用具・社会資源の調整 | 退院前カンファレンスでリスク情報を統合 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
私自身、新人の頃に何度もつまずいたポイントを共有します。同じ落とし穴に陥らないための参考にしてください。
判断に迷ったときの考え方
「代償動作を一律に禁止する必要はありません。動作達成のために必要最小限か、二次的な問題(疲労・痛み)を招く過剰な代償かを見極めることが大切です。」
「迷ったら、まず患者さんに『今どこに腕があるか分かりますか』と聞いてみてください。主観的な感覚の言語化は、客観評価だけでは見えない情報を教えてくれます。」
予後とゴール設定。
Connellら(2008)の追跡調査では、感覚障害は発症後2・4・6ヶ月の時点で改善を示す症例が一定数存在し、回復のタイムコースはモダリティによって異なることが示されています。
Hatemら(Front Hum Neurosci, 2016)の上肢中心のシステマティックレビューでは、発症6ヶ月以降でもリハビリによりFMA/ARATが有意に改善する症例が報告されています。自然回復カーブの「頭打ち」を、適切な介入技術で押し上げられる可能性があるということです。
よくある質問。
感覚障害単独はCI療法の絶対的禁忌ではありません。ただし重度の固有受容覚障害がある場合、健側拘束により転倒・外傷リスクが上がるため、まず閉眼下でのリーチ精度と代償動作の有無を評価し、難易度を調整した課題指向型訓練から始めることを推奨します。
感覚フィードバックが乏しい分、記憶された目標位置などの内部表現に基づく制御の比重が高まります。Sarlegnaらの研究では、固有受容覚をほぼ完全に失った患者でも目標変位の平均77%を補正できており、内部モデルを活用した反復練習が運動学習の鍵になります。
視覚代償への依存が強く、固有受容覚のみが選択的に低下している患者で導入しやすい手法です。ただし長期的には感覚システム自体の再教育(SENSe療法など)と組み合わせ、視覚に頼りきらない訓練へ段階的に移行することが望ましいとされています。
Nottingham Sensory Assessment(NSA)などの標準化尺度で触覚・痛覚・温度覚・固有受容覚・立体覚をmodalityごとに採点することが出発点です。あわせて閉眼下でのリーチ軌跡を観察し、採点上は軽度でも実動作で代償動作が出ていないかを確認してください。
代償動作自体を即座に禁止する必要はありませんが、肩や体幹の過剰な動きが疲労・関節痛などの二次的問題につながる場合は修正が必要です。代償の程度をリーチ達成のために必要最小限にとどめ、感覚再教育と並行して段階的に自然な動作パターンへ近づけていきます。
オンラインでは触圧覚の直接評価は困難なため、ご家族の協力を得た物品を用いた立体覚・テクスチャー識別課題や、画面越しに観察できるリーチ軌跡・代償動作のチェックが中心になります。週1〜2回以上の頻度で3ヶ月程度継続することが、運動学習を効率的に進めるうえで推奨されています。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中・パーキンソン病・脊髄損傷など神経疾患のリハビリに精通したセラピストが在籍する自費リハビリ施設です。保険の枠にとらわれず、感覚障害を含む複雑な症状に対しても、お一人おひとりに合わせたオーダーメイドのプログラムをご提供しています。「御茶ノ水」駅より徒歩6分の東京本拠地に加え、2025年4月には大阪店もオープン。オンライン・訪問リハビリのハイブリッド対応で全国の方をサポートしています。

— 利用者様の変化を撮影した動画でリハビリの実際をご紹介しています
「視床出血後で固有受容覚が中等度低下した利用者様を担当した際、視覚下のリーチは問題なく見えたのですが、閉眼での関節位置覚再現テストを行うと著明な誤差がありました。そこで感覚識別訓練(テクスチャー・物品の識別課題)を週2回・1回40分のペースで12週間継続したところ、立体覚スコアの改善とともに、コップを取る際の手前での停止動作が明らかに減少しました。客観評価だけに頼らず実動作を都度確認する重要性を実感した症例です。」— 作業療法士・経験6年・脳卒中リハビリ専門
「立位バランスが不安定で感覚障害もある利用者様に対し、最初は不安定な表面を避けて平坦な床でのリーチ訓練のみを行っていました。しかし改善が頭打ちになったため、バランスボード上でのリーチ訓練を段階的に導入したところ、体幹の代償が減り、より自然な動作パターンへ近づきました。感覚障害のリハビリはリーチ単体ではなく、姿勢制御との統合が欠かせないと学んだ経験です。」— 理学療法士・経験8年・神経系リハビリ専門
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諦めないでください。

「期間が終わったから仕方ない」と、本当はまだ必要なリハビリを諦めていませんか。脳卒中後でも半年を過ぎてから回復する症例があることは、研究でも裏付けられています。
私たちSTROKE LABは、最新の医学エビデンスに基づきながら、あなたの生活背景に合わせたオーダーメイドのプログラムをご提供します。感覚障害のように見えにくい症状にも、丁寧に向き合います。
「まだ間に合うかもしれない」――その直感を、私たちが一緒に確かめます。まずは無料相談で、今の状態を聞かせてください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)