低酸素性虚血性脳症(HIE)の子どものリハビリ|運動発達を支える関わり
HIE後の運動発達を、見通し・家庭支援・運動の変化から整理する
「HIEと言われたけれど、これから発達はどうなるのだろう」。退院後の保護者が抱く不安は、とても自然です。低酸素性虚血性脳症は、出生前後の脳への酸素や血流の問題から起こり、運動・筋緊張・哺乳・発達の見え方が成長とともに変わることがあります。だからこそ、低緊張か緊張亢進かで単純に分けず、「今どこで支えようとしているか」を動作から見続けることが大切です。

HIEと言われたあと、何を見ればよいのか。
NICUでの治療を終えて家に帰っても、保護者の不安がすぐに消えるわけではありません。首すわりはどうなるのか、手足の動きは育つのか、反り返りや突っ張りは大丈夫なのか。検索しても、急性期治療の説明は見つかる一方で、家庭で何を見ればよいかは見えにくいことがあります。
HIE後の発達は、ひとつの時点だけでは判断できません。体が育つ途中で、症状の見え方も変わるからです。だからこそ、医療フォローと並行して、毎日の姿勢・手足の使い方・遊びの中の動きを見続けることが大切です。
HIEのあるお子さんでは、最初はぐにゃっと支えにくい低緊張が目立つことがあります。その後、頭や体を起こそうとして反り返る、足を突っ張る、片方の手だけ使いやすい、といった形で見えることもあります。ここで大切なのは、それを「良い・悪い」で決めることではなく、今どこで支えようとしているのか、どの動きが育ち始めているのかを丁寧に見ることです。
STROKE LABでは、診断や薬の判断ではなく、退院後の運動発達と生活の側から併走します。医療・健診が先、私たちは併走です。主治医や地域の療育・訪問リハとつながりながら、家庭で続けられる関わりを一緒に整理します。
低酸素性虚血性脳症(HIE)とは。
低酸素性虚血性脳症(HIE)は、出生前後に赤ちゃんの脳へ酸素や血流が十分届きにくくなり、脳の働きに影響が出る状態です。新生児仮死、周産期仮死、低酸素性脳障害と説明されることもあります。脳だけでなく、呼吸、循環、哺乳、けいれん、反応性など全身の状態と関わるため、急性期は小児科・新生児科などの医療管理が最優先です。
中等症〜重症のHIEでは、出生後早期に低体温療法が行われることがあります。これは脳を守るための急性期医療であり、適応や方法は医療機関が判断します。リハビリの役割は、その治療の代わりではありません。退院後に、発達する身体をどう支えるか、姿勢・運動・生活の経験をどう積み重ねるかを考えることです。
HIEの影響は、出生直後の検査だけでなく、首すわり、寝返り、座位、手の使い方、足の接地、食事や遊びなど、発達の節目で見えてくることがあります。だから「今できているか」だけでなく、「どのようにできているか」を見続けることが大切です。

原因はひとつではなく、出生前後の全身状態と関わる。
HIEは、ひとつの原因だけで説明できないことがあります。胎盤や臍帯の問題、分娩中の急な変化、出生後の呼吸や循環の問題、感染、心臓の問題などが関わることがあります。原因を特定するには、分娩経過、血液検査、画像検査、脳波、全身状態などを医療機関で総合的に見ます。
| 原因のグループ | 保護者向けの見方 |
|---|---|
| 出生前後の酸素・血流の低下 | 赤ちゃんの脳へ酸素や血流が届きにくくなる状態。HIEの中心となる考え方です |
| 胎盤・臍帯・分娩中の急な変化 | 胎盤や臍帯、分娩中の循環変化など。詳細は医療機関の説明に従います |
| 出生後の呼吸・循環の問題 | 呼吸が安定しない、循環が保てないなど、全身状態が脳の酸素供給に関わります |
| 感染・炎症・先天的な背景 | 感染や心臓の問題などが関わることもあります。原因の判断は主治医の説明が基本です |
| 窒息・溺水・心停止後など | 出生後の低酸素性脳障害として扱われることもあります。リハビリでは発達段階に合わせた支援が必要です |

見逃さないサインは、リハビリより医療優先。
HIEの診断後は、発達を支える関わりと同時に、医療優先のサインを知っておくことが大切です。顔色、呼吸、哺乳、けいれん様の動き、反応の乏しさなどは、家庭で様子を見るより医療機関へ相談すべき変化です。
| 医療優先のサイン | 対応 |
|---|---|
| 顔色が悪い、呼吸が苦しそう | すぐに医療機関へ相談します。家庭リハや運動遊びは行いません |
| けいれん様の動き、意識がぼんやりする | 主治医・救急相談・医療機関へ連絡します。動画が安全に撮れる場合は記録します |
| 哺乳が明らかに悪い、むせが増えた | 脱水や誤嚥の心配もあるため、医療職に相談します |
| 急に片側の手足が動かしにくい | HIE後に限らず、急な左右差は医療優先です。迷う場合も受診を検討します |

低緊張か緊張亢進かではなく、「どこで支えているか」を見る。
HIE後の赤ちゃんは、最初に体が柔らかく、抱っこで支えにくいように見えることがあります。これは、姿勢を保つ土台がまだ十分に働きにくい状態として見ます。一方で、月齢が進むにつれて、頭を上げようとして背中を反る、足を突っ張って姿勢を固める、使いやすい側の手ばかり出る、といった見え方に変わることがあります。
ここで大切なのは、「柔らかいから低緊張」「突っ張るから痙性」と短く決めることではありません。子どもの身体は、まだ発達の途中です。体幹で支えられないぶん、背中や足で固めているのか。肩甲帯が安定しないため、手の使い方に左右差が出ているのか。感覚入力が苦手で、動きが小さくなっているのか。こうした機能解剖と動作分析の視点で見ると、関わり方が変わります。
同じうつ伏せでも、腕で床を押して頭を上げているのか、背中を反らせて頭だけ持ち上げているのかで意味が違います。同じ寝返りでも、体幹を少しずつ回しているのか、反り返りで勢いをつけているのかで、次に支えたい部分が変わります。

研究でわかっていること。
HIEの経過は個人差が大きく、ひとつの研究だけで将来を決めることはできません。ただ、早い時期の自然な動きや姿勢の質が、発達を見守るうえで重要な手がかりになることは示されています。これは、保護者が家庭で「できた・できない」だけを見るのではなく、動きの質を専門職と共有する意味につながります。
HIEのある赤ちゃんは、生後3〜5か月の時点で、自然な手足の動きや姿勢の質に違いが見られることがあります。だから「首すわりが何か月か」だけでなく、動きのなめらかさ、左右差、支え方を早めに見て、必要な支援につなげることが大切です。
出典:Alkan H, Kahraman A, Mutlu A. Pediatric Physical Therapy. 2021;33(1):18-22. ただし、対象や重症度により結果は異なります。研究は治療効果を保証するものではなく、診断や治療方針の代替ではありません。発達は体調、月齢、医療的背景、環境によって変動します。
中等症〜重症HIEでは、出生後早期の全身低体温療法が死亡または障害のリスクを下げることが報告されています。これは医療機関で行う脳保護治療であり、リハビリが代替するものではありません。
出典:Shankaran S, et al. New England Journal of Medicine. 2005;353(15):1574-1584. 対象は中等症〜重症HIEの新生児であり、適応は主治医の判断です。本記事は急性期治療の選択ではなく、退院後の発達支援を説明するものです。
専門リハで取り組めること。
診断、低体温療法、抗けいれん薬、手術、画像検査、投薬などの医学的判断は主治医の役割です。STROKE LABは、医療・健診を優先したうえで、運動発達・姿勢・生活動作の側から併走します。
HIE後のリハビリでは、月齢表に合わせて動きを急がせるのではなく、体がどこで支えられているか、どの感覚入力が受け取りやすいか、どの姿勢なら手足が使いやすいかを見ます。STROKE LABでは、大きく3つの方向から関わります。
1. 姿勢を支える土台づくり。抱っこで崩れる、うつ伏せで頭を上げにくい、座ると丸まる、反り返って固めるなどを、姿勢制御の問題として整理します。首・肩甲帯・体幹・骨盤がつながるように、無理のない支え方を探します。
2. 運動発達に合わせた課題づくり。首すわり、寝返り、うつ伏せ、座位、手の使用、足の接地を、ただ達成時期で見るのではなく、動きの質から見ます。遊びの中で、少しずつ自分で支える経験を増やします。
3. 家庭で続ける遊びと保護者コーチング。通う時間だけでなく、毎日の抱っこ、床遊び、食事姿勢、動画記録が発達支援の材料になります。保護者が不安を抱え込まないよう、家庭で見やすい観察点に翻訳します。
効果や経過には個人差があり、発達段階、HIEの重症度、合併症、体調、家庭環境によって目標は変わります。私たちは、主治医や地域の療育と役割を分けながら、生活の中で使える動きへつなげることを大切にします。
脳性麻痺、またはそのリスクが高い0〜2歳の子どもでは、早い時期から、子ども自身が能動的に動く課題、家庭で続けられる環境づくり、保護者への支援を組み合わせることが重要とされています。
出典:Morgan C, et al. JAMA Pediatrics. 2021;175(8):846-858. HIEそのものだけを対象にした研究ではなく、CPまたはCPハイリスク児への早期介入ガイドラインです。個別の適応は主治医・療育チームと確認してください。

経過と見通しは、短期ではなく長期で見る。
HIE後の発達は、お子さんによって大きく異なります。退院直後に大きな課題が見えにくい子もいれば、首すわり、寝返り、座位、手の使い方、歩行、言葉、食事、学習の段階で課題が見えてくる子もいます。大切なのは、ひとつの時点で決めつけないことです。
たとえば、乳児期は「支えにくさ」や「反り返り」が主な相談でも、幼児期には「座る姿勢が崩れる」「片手が使いにくい」「足が突っ張る」「歩き方に左右差がある」といった相談へ変わることがあります。就学前には、運動だけでなく、手先、姿勢、疲れやすさ、集団生活での困りごとも関わります。
HIEの影響は個人差が大きいため、「必ず大丈夫」とも「もう決まっている」とも言えません。ただ、子どもは発達する存在です。医療フォローを受けながら、姿勢・感覚・運動の経験を積み重ねることで、できることが広がる可能性があります。

家庭でできる関わりは、「観察」と「環境づくり」から。
家庭で大切なのは、特別な訓練を増やすことだけではありません。赤ちゃんが少し楽に支えられる姿勢を探すこと、左右の手足が参加しやすい遊びを選ぶこと、疲れすぎない量にすること、変化を動画で残すことも、発達支援になります。
| 家庭で見る場面 | 観察のポイント |
|---|---|
| 抱っこ | ぐにゃっと崩れるか、反り返るか、片側へ向きやすいか。支える位置で楽さが変わるかを見ます |
| うつ伏せ・床遊び | 肘や手で床を押せるか、背中だけで反っていないか、頭を左右に向けられるかを見ます |
| 手の使い方 | 片方ばかり使う、片手が握りっぱなし、肩が引けるなどがあれば、動画で残して相談します |
| 足の接地 | 足先だけ突っ張る、左右差が強い、膝が伸びきるなどを、無理に伸ばさず観察します |
| 動画記録 | 同じ場面を短く撮ると、月ごとの変化や左右差を専門職と共有しやすくなります |
突っ張る手足を力で伸ばす、泣いているのに長時間うつ伏せを続ける、月齢だけを見てできない動きを無理に練習する、医療優先のサインを家庭リハで様子見することは避けます。安心してできる範囲を、主治医や療育チームと確認しながら進めましょう。
主治医・地域リハと役割を分けながら、抱っこ、床遊び、手足の使い方、姿勢の崩れ、反り返り、左右差を一緒に見ます。
よくある質問。
Q. 低酸素性虚血性脳症(HIE)とは何ですか?
Q. HIEの後遺症は必ず残りますか?
Q. 低緊張から反り返り・突っ張りに変わることはありますか?
Q. HIEのリハビリはいつから何をしますか?
Q. 家庭では何を見ればよいですか?
Q. どんなときに急いで受診すべきですか?
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。HIE後のお子さんに対しては、診断や急性期治療を主治医に委ねながら、退院後の姿勢、手足の使い方、抱っこ、床遊び、生活動作を動作分析で整理します。医療機関でのリハビリや地域療育との併用も歓迎です。
育ちを支える関わりへ。

HIEという診断名を聞いたあと、ご家族は「何をしてあげればよいのか」と迷いやすくなります。私たちは、その不安を否定せず、医療フォローと発達支援をつなぐ視点で関わります。
お伝えしたいのは、子どもの動きは、毎日の姿勢・遊び・支え方の中で育っていくということです。低緊張、反り返り、突っ張り、左右差を機能解剖と動作分析でほどき、今育とうとしている動きを見つけます。
医療機関での治療とあわせて、家庭での関わりを整理したい方は、どうぞ一度ご相談ください。お子さんの発達に寄り添いながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。姿勢・感覚・運動の連鎖として動きを見る視点は、お子さんの発達を支えるうえでも土台になります。
HIE後に反り返り・突っ張りが気になる場合の入口記事です。
低緊張や支えにくさが気になる保護者向けの記事です。
脳性麻痺と診断された後のリハビリ全体像へつなぎます。
小児の脳血管障害との違いや関連を知りたい場合はこちら。
- Northern Lincolnshire and Goole NHS Foundation Trust. Hypoxic-ischaemic encephalopathy (HIE). 2023.
- Baby Cooling Japan. 新生児仮死と低酸素性虚血性脳症について。
- Alkan H, Kahraman A, Mutlu A. Early Spontaneous Movements of Infants With Hypoxic-Ischemic Encephalopathy. Pediatric Physical Therapy. 2021;33(1):18-22.
- Shankaran S, Laptook AR, Ehrenkranz RA, et al. Whole-Body Hypothermia for Neonates with Hypoxic-Ischemic Encephalopathy. New England Journal of Medicine. 2005;353(15):1574-1584.
- Morgan C, Fetters L, Adde L, et al. Early Intervention for Children Aged 0 to 2 Years With or at High Risk of Cerebral Palsy. JAMA Pediatrics. 2021;175(8):846-858.
- Robertson CMT, Perlman M. Follow-up of the term infant after hypoxic-ischemic encephalopathy. Paediatrics & Child Health. 2006;11(5):278-282.
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院. 2024. 408頁.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)