箸がうまく使えない子|「持てない」の原因を運動発達からたどる
箸がうまく使えない子|持てない原因を姿勢・手先・運動発達から見る
箸を持たせると握り込む。箸が交差する。つまもうとすると食べ物を落としてしまう——。箸の難しさは、手先だけの問題ではありません。姿勢、肩・肘・手首の土台、親指と指先の分離、感覚、目と手の協調が重なって、はじめて箸を“使える”手が育っていきます。

食事の場面で、困ります。
スプーンなら食べられるのに、箸になると急に時間がかかる。食べ物をつまもうとしても落としてしまう。箸が交差し、結局手づかみやスプーンに戻ってしまう。
周りの子が箸を使い始めると、「うちの子だけ遅いのでは」と不安になることがあります。しかし箸は、手先の発達だけでなく、姿勢・感覚・視覚運動をまとめて使う高度な生活動作です。
箸がうまく使えないとき、「持ち方を教えればできる」と考えがちです。しかし、箸を持つ形を真似できても、食べ物をつまむ、運ぶ、口元で離すところまで安定して行うには、いくつもの運動機能が必要になります。
この記事では、「箸が持てない」「箸が使えない」を手先だけで見ず、運動発達の流れから分解して考えます。ご家庭でできる関わり、園や学校での配慮、専門家に相談する目安まで整理していきます。
箸は、発達の総合課題です。
箸は、日本の生活では身近な道具ですが、運動発達の視点で見るととても複雑です。上の箸を動かし、下の箸を安定させる。指先で食べ物の硬さや滑りやすさを感じ取り、落とさない程度に力を入れ、口まで運ぶ。さらに、食事中は姿勢を保ち、茶碗や皿の位置も見ながら動かします。
つまり箸は、「持てるかどうか」だけではなく、「つまめるか」「運べるか」「食事の流れの中で続けられるか」を見る必要があります。形だけ整っていても、食べ物を落としてしまう場合は、力加減や感覚、手首の安定がまだ育っている途中かもしれません。

箸を使うには、体幹で姿勢を保ち、肩や肘で腕を安定させ、手首をほどよい角度に保ち、親指・人差し指・中指を分けて動かす必要があります。さらに、食べ物の硬さや滑りやすさを感じ取る力も必要です。
STROKE LABの視点:下の箸が、安定して残れるか。
箸の相談では、「正しい持ち方を覚えさせたい」という声をよく伺います。もちろん形は大切ですが、STROKE LABでは、上の箸を動かす前に、まず下の箸が安定して残れるかを見ます。下の箸が毎回ずれると、上の箸をどれだけ動かそうとしても、食べ物を安定してつまむことが難しくなります。
下の箸は、親指の根元、薬指、小指側の安定によって支えられます。ここが崩れると、箸が交差する、全体を握り込む、手首が強く曲がる、肩がすくむ、食材を落とすといった代償が出やすくなります。家庭では、食べ物をつまむ前に、下の箸がずれずに残っているかを見てみるだけでも、練習の方向性が変わります。
今日、家庭で見られる観察ポイント
| 見る場所 | 家庭で見える様子 | 支援の方向性 |
|---|---|---|
| 下の箸 | 食材をつまむ前に、下の箸が毎回ずれる | 下の箸を薬指側に置き、動かさず残す経験を作る |
| 小指側 | 小指側が浮き、手全体で握り込む | 小指側を軽く丸め、親指側が動きやすい土台を作る |
| 手首 | つまむと手首が曲がりすぎる | 皿を近づけ、肘を支えやすい位置にする |
| 肩と肘 | 肩がすくみ、肘が浮いたまま食べる | 足台と机の高さを調整し、肘が落ち着く姿勢を作る |
| 食材 | 豆や麺で急に失敗が増える | 滑りにくく、大きめの食材から始める |
「持てない」を分解する。
同じ「箸が持てない」でも、つまずき方は子どもによって違います。箸を握り込む子、箸が交差する子、食べ物をつまむと手首が曲がりすぎる子、口まで運ぶ途中で落としてしまう子。どこで難しさが出ているかによって、必要な支援は変わります。
| 見られる様子 | 考えられる背景 | 支援の方向性 |
|---|---|---|
| 箸を握り込む | 親指・人差し指・中指を分けて使うことが難しい | トング、洗濯ばさみ、短い箸でつまむ経験を作る |
| 箸が交差する | 下の箸を固定し、上の箸だけを動かす制御が難しい | 下の箸を残す練習から始める |
| 食べ物を落とす | 力加減・感覚・手首の安定が難しい | 滑りにくい食材、大きめの食材から始める |
| すぐ疲れる | 姿勢保持、肩・肘の支え、手指の持久力が不足しやすい | 足台・椅子調整、短時間の練習、食事補助 |
| 見ずに口へ運んでこぼす | 視覚運動・注意の切り替えが難しい | 皿の位置を近くし、少量ずつ運ぶ練習 |
子どもに「ちゃんと持って」と言っても、本人がどこを直せばよいか分からないことがあります。下の箸、手首、肘、姿勢、食材の難しさを分けて見ると、練習が具体的になります。
姿勢・肩肘の土台。
箸を使うとき、手先だけを見てしまいがちですが、最初に整えたいのは姿勢です。足がぶらぶらしている、椅子が高すぎる、体が横に倒れる、肘が浮き続けている。このような状態では、指先を細かく動かす余裕がなくなります。
体幹が安定し、肩や肘がほどよく支えられると、手首と指が自由に動きやすくなります。反対に、姿勢が崩れていると、箸を握り込んで固定しようとしたり、手首を強く曲げて代償したりします。

| 整える場所 | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 足 | 足裏が床または足台につく | 体幹が安定し、手先の細かな動きに集中しやすい |
| 骨盤 | 椅子の奥に座り、体が左右に倒れにくい | 姿勢を支える負担が減り、肩や腕が自由になる |
| 机の高さ | 肘が高く上がりすぎない | 肩がすくみにくく、手首が操作しやすい |
| 皿の位置 | 体に近すぎず遠すぎない | 目と手の距離が合いやすく、こぼしにくい |
親指と指先の分離、下の箸の固定。
箸を使うには、親指・人差し指・中指を細かく分けて動かす力が必要です。一般的には、下の箸は薬指や親指の根元で支え、上の箸を親指・人差し指・中指で動かします。この「下は安定、上は操作」という役割分担が難しいと、箸が交差したり、全体を握り込んだりします。
また、手の小指側が安定していることも大切です。小指側がぐらぐらしていると、親指側の細かい操作がしにくくなります。専門的には、手の中で「支える部分」と「動かす部分」が分かれてくることが、箸や鉛筆などの手先の操作につながります。
研究でわかっていること。
日本の小学1年生165名を対象にした研究では、保護者の8割以上が箸の使い方を教えていると回答していても、伝統的な持ち方ができていた子どもは9.7%にとどまりました。箸は、形を教えるだけでなく、姿勢、手首、指の分離、下の箸の安定、食材の選び方を段階的に整えることが大切です。
この研究は、箸がうまく使えない子どもを診断するためのものではありません。しかし、保護者が一生懸命教えても形が整いにくい子がいること、箸の持ち方には家庭内の伝承や経験量も関わることを示しています。だからこそ、本人の努力不足と捉えず、動作を分解して支援する視点が必要です。
DCD・発達特性との関係。
箸だけでなく、鉛筆、はさみ、ボタン、ひも結び、ボール遊び、姿勢保持など複数の場面で不器用さが目立つ場合、発達性協調運動症(DCD)が関係していることがあります。DCDでは、理解力とは別に、体の動かし方を学習したり、動作をスムーズに組み立てたりすることが難しくなることがあります。
ただし、箸が苦手なことだけでDCDや発達障害と判断することはできません。視力、関節の柔らかさ、神経・筋の問題、注意の続きにくさ、感覚過敏、経験量、家庭や園での道具の違いなど、似た困りごとを生む背景は複数あります。
| 見る場面 | 気になる様子 | 相談時に伝えること |
|---|---|---|
| 食事 | 箸、スプーン、フォークでこぼしやすい | どの道具で困るか、食事時間がどのくらいか |
| 机上課題 | 鉛筆、はさみ、のり、折り紙が苦手 | 手先だけでなく姿勢が崩れるか |
| 着替え | ボタン、チャック、ひも結びに時間がかかる | 毎日どこで介助が必要か |
| 運動遊び | ボール、縄跳び、片足立ち、ジャンプが苦手 | 全身運動にも困りがあるか |
| 心理面 | 失敗を嫌がる、食事や練習を避ける | 本人の苦手意識や自信の低下 |
家庭でできる段階づけ。
家庭での箸練習は、食事中だけで頑張らせないことが大切です。食事は栄養をとる時間であり、失敗が続くと「食べること」自体が嫌になってしまうことがあります。練習は、食事とは別の時間に、遊びとして短く行う方が成功しやすくなります。

足が床や足台につき、骨盤が安定するように椅子と机を調整します。肘が高く上がりすぎない位置で練習します。
いきなり箸ではなく、開く・閉じる動きが分かりやすい道具から始めます。フェルトボールやスポンジなど、つまみやすいものを使います。
子どもの手に合った短めの箸を使うと、コントロールしやすくなります。滑り止め加工がある箸や、先が少し太い箸も練習に向いています。
食事すべてを箸で行う必要はありません。「最初の3口だけ」「つまみやすいおかずだけ」など、成功しやすい範囲から取り入れます。
健診・発達相談で伝えるためのメモ
相談の場では、「箸が苦手です」だけでなく、どの場面で、どの道具で、どのくらい困るのかが分かると支援を組み立てやすくなります。下の項目をメモしておくと、相談時に伝えやすくなります。
毎食すべてを箸で頑張らせると、食事そのものが苦手になることがあります。栄養をとる時間と、練習する時間を分け、成功しやすい条件で終えることが大切です。
STROKE LABでは、箸操作を手先だけで判断せず、体幹・肩甲帯・肘・手関節・指先感覚・視覚運動まで含めて評価します。ご家庭で続けやすい練習方法も一緒に整理します。
よくある質問。
箸の使い始めや上達時期には個人差があります。一般的には園児期から練習するご家庭が多いですが、箸は文化や経験量、姿勢、手指の発達の影響を受けます。年齢だけで判断せず、スプーン・フォーク、鉛筆、はさみ、ボタン、姿勢保持など、他の生活動作と合わせて見ることが大切です。
箸が持てないことだけで、発達障害や発達性協調運動症と判断することはできません。姿勢、肩や肘の安定、手首の角度、親指と指先の分離、感覚、視覚運動、経験量など複数の要素を見ます。箸以外の生活場面でも困りごとが続く場合は、専門家に相談すると安心です。
矯正箸は、指を置く場所や箸の開閉を学ぶ補助になります。ただし、矯正箸だけで姿勢、肩肘の安定、指の分離、力加減が育つわけではありません。トング、洗濯ばさみ、短い箸、滑りにくい食材などを組み合わせ、普通の箸への移行を見据えて段階づけることが大切です。
基本の考え方は同じです。本人が安定して使いやすい手で、無理なく練習できることを優先します。利き手を無理に変えようとすると、食事への負担や混乱が大きくなることがあります。左利き用の箸や配置を使い、皿の位置や座る場所も調整すると練習しやすくなります。
最初から小さな豆や滑りやすい麺で練習する必要はありません。まずは足台や椅子で姿勢を安定させ、トングや洗濯ばさみ、太めで短い箸、滑りにくい食材から始めます。食事中に長く練習するより、遊びの中で短時間、成功しやすい条件で行うことが続けやすい方法です。
箸だけでなく、鉛筆、はさみ、ボタン、ひも結び、運動遊び、姿勢保持など複数の場面で困っている場合、また食事への苦手意識が強くなっている場合は相談の目安です。小児科、発達相談、作業療法士・理学療法士などに相談し、家庭や園・学校で続けやすい支援を整理すると安心です。
STROKE LABの小児リハ。
STROKE LABでは、箸がうまく使えない背景を、単なる「持ち方の問題」として捉えません。座位姿勢、肩甲帯、肘、前腕、手関節、親指と指先の使い方、感覚、視覚運動、注意の向け方まで、動作を分解して評価します。
お子さんの食事動作は、ご家庭の毎日に直結します。本人が「できない」と感じ続ける前に、姿勢と道具、課題の難しさを少し調整するだけで、食事が楽になることがあります。
体と手の育ちを見ていきます。

箸がうまく使えないと、保護者の方は「教え方が悪いのかな」「本人が練習しないからかな」と悩まれることがあります。
しかし、箸操作には、姿勢、肩や肘の安定、指の分離、感覚、視覚運動など、多くの要素が関わっています。私たちは、できない動作を責めるのではなく、なぜ難しいのかを運動のしくみから丁寧に分解することを大切にしています。
お子さんの食事動作や手先の不器用さで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。箸操作を「手先だけ」で判断せず、姿勢・感覚・運動学習の連鎖として見る視点は、家庭での支援を考えるうえでも重要です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、かかりつけの小児科医や専門職にご相談ください(最終確認日:2026年7月4日)。
- CDC. Important Milestones by 5 Years.
- NHS. Developmental co-ordination disorder (dyspraxia) in children.
- 厚生労働省. DCD支援マニュアル.
- 発達障害情報のポータルサイト. 発達性協調運動症.
- Choji Y, Hirokawa N, Morimoto C, China N, Nakai A, Miyata K. Factors influencing chopstick use and an objective identification of traditional holding techniques in children. PLOS ONE. 2025;20(1):e0314113.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)