ボタン・ひも結びができない|手先の不器用さを分解して育てる
ボタン・ひも結びができない子|手先の不器用さを姿勢・両手協調から見る
何度教えてもボタンが留められない。靴ひもになると手が止まる。急いでいる朝ほど親子で焦ってしまう——。ボタンやひも結びは、指先だけの問題ではありません。姿勢・支える手・動かす手・視線・順序立てが同時に必要な、生活の中の高度な協調運動です。

こんな場面で、困ります。
年長になっても、シャツのボタンを留めるところで手が止まる。靴ひもになると「わからない」と言って諦める。朝の支度では時間がなく、結局大人が手伝ってしまう。
このとき、子どもはやる気がないのではなく、目で見た位置、支える手、動かす手、指先の力加減、手順の記憶を同時に使おうとして、精一杯になっていることがあります。
ボタンやひも結びが苦手だと、「不器用」「練習不足」「集中していない」と見られがちです。しかし、実際には一つの動作の中にいくつもの機能が重なっています。ボタンを片手でつまみ、もう片方の手で布を支え、穴の位置を見て、指先の感覚を頼りに押し込む。ひも結びでは、左右の手で違う動きをしながら、輪を作り、交差させ、通して、引き締める必要があります。
この記事では、「できる・できない」だけでなく、どの工程で、どの機能がつまずいているのかを分解して考えます。STROKE LABらしく、手指だけでなく、姿勢・肩甲帯・手関節・両手協調・感覚・運動計画のつながりから整理します。
ボタン・ひも結びは、生活の中の高度な協調運動です。
ボタンやひも結びは、生活の中で繰り返し使う身近な動作です。一方で、子どもにとってはかなり複雑です。見て分かることと、手で実際にできることの間には差があります。説明を聞いて理解していても、いざ手を動かすと、布が逃げる、ひもが崩れる、どちらの手を動かすか分からなくなることがあります。
特に園児から小学校低学年では、着替え、給食袋、体操服、上履き、ランドセル周りの準備など、手先と両手を使う場面が急に増えます。できない場面が多いほど、本人は「自分だけ遅い」と感じやすく、挑戦する前から苦手意識が強くなることがあります。
| 動作 | 必要になる力 | 難しく見える場面 |
|---|---|---|
| ボタンを留める | 布を支える、ボタンをつまむ、穴を見る、押し込む、反対から引く | 途中まで入るが戻る、布が逃げる、つまみ直しが多い |
| ひもを結ぶ | 左右のひもを見分ける、輪を作る、通す、左右に引く | 輪がつぶれる、順番を忘れる、最後にほどける |
| 着替え全体 | 姿勢を保つ、左右を使う、手順を覚える、急ぎすぎない | 朝だけできない、園や学校で焦る、人前で嫌がる |
STROKE LABの視点:「動かす手」より先に「支える手」を見ます。
ボタンやひも結びの相談では、「指先が不器用」と表現されることが多くあります。けれど、実際の動作を見ると、目立つのは動かす手でも、土台になっているのは反対側の支える手です。布を支える手が安定しなければ、ボタンは穴に入りません。輪を押さえる手が安定しなければ、ひもはすぐ崩れてしまいます。
支える手が働くためには、さらに体幹、肩甲帯、肘、手首の安定が必要です。つまり、手先の不器用さは、指だけの問題ではなく、体全体の姿勢連鎖として見る必要があります。STROKE LABでは、動かす指先だけでなく、座り方、肩の位置、支える手、視線、左右の手の役割分担を一緒に確認します。

観察点:支える手が止まると、動かす手は迷います
家庭で見るときは、ボタンを持つ手だけでなく、反対の手が布を支えているかを見ます。ひも結びでは、輪を作る手だけでなく、輪を崩さず押さえる手を見ます。ここを見落とすと、「もっと指先を動かして」と言いたくなりますが、実際には支える土台が足りないだけかもしれません。
手先だけでなく、姿勢・肩・手首・目を分けて見ます。
手先の動作を安定させるには、指先より前に、座る姿勢、体幹、肩、肘、手首が支えになります。体がぐらついた状態では、指先に集中しにくくなります。肩や肘が浮いていると、手首が安定せず、ボタンを押し込む角度やひもの輪を保つ力が弱くなります。
また、ボタンやひも結びでは、目で位置を見ながら手を動かす視覚運動の力も必要です。穴の位置、ボタンの向き、左右のひもの位置を見て、次に動かす方向を決めます。「見ているのにできない」場合、見えていないのではなく、見た情報を手の動きへつなげる部分でつまずいていることがあります。

| 工程 | 必要な力 | つまずきやすい様子 |
|---|---|---|
| 布を持つ | 支える手の安定、手首の固定、姿勢保持 | 布が逃げる、体が前後に揺れる、途中で手を離す |
| ボタンをつまむ | 親指・人差し指・中指の分離、力加減 | 指全体で握る、ボタンを落とす、爪先だけで押す |
| 穴を探す | 視線、手元への注意、左右の位置関係 | 穴とボタンの位置が合わない、見ずに押し込もうとする |
| 押し込む | 指先の圧、手首の角度、布を引くタイミング | 力が弱くて入らない、強すぎて布が丸まる |
| 引き出す | 反対側の指で探る、つまみ直す、引く方向の調整 | 途中まで入るが最後に抜ける、引く方向が分からない |
研究でわかっていること。
手先の練習では、「指だけを鍛える」より、実際に困っている生活動作を小さく分け、成功しやすい条件で練習することが大切です。ボタンやひも結びも、つまむ、支える、通す、引く、順序を思い出すという工程に分けると、どこで支援すればよいかが見えやすくなります。
DCDの子どもを対象にしたレビューでは、意味のある具体的な活動を練習する「課題指向型」の支援が、運動技能や活動遂行を改善する可能性が検討されています。ボタンやひも結びでも、指だけを鍛えるのではなく、実際の動作を工程に分けて、できる部分から練習することが取り組みやすい支援になります。
様子を見ながら関われる場合、相談した方がよい場合。
ボタンやひも結びが苦手でも、少しずつ上達している、生活で大きな困りがない場合は、道具や練習方法を調整しながら見守れることがあります。一方で、複数の生活動作で困りが続く、本人の自信が下がっている、左右差や全身の運動の苦手さもある場合は、早めに相談すると安心です。
| 観察ポイント | 様子を見ながら関われることが多い | 相談を考えたい |
|---|---|---|
| 経験量 | 練習機会が少なく、道具を変えると少しできる | 経験しても極端に時間がかかり、改善が乏しい |
| 困る場面 | ボタンだけ、靴ひもだけなど一部に限られる | 書字・はさみ・箸・運動遊びなど複数で困る |
| 本人の反応 | ゆっくりなら挑戦できる | 強い拒否、不安、自己肯定感の低下がある |
| 体の様子 | 姿勢を整えると手元が安定する | 姿勢が崩れやすい、転びやすい、左右差が目立つ |
| 生活への影響 | 時間に余裕があれば参加できる | 園・学校生活で参加しづらさが続く |
健診・発達相談で伝えやすくなるメモ。
相談時には、「ボタンができません」だけでなく、どの工程で止まるのか、どんな条件ならできるのかを伝えると、支援方法が具体的になります。以下をメモしておくと、小児科、発達相談、作業療法士・理学療法士などへ相談するときに役立ちます。
年齢・準備段階別に、見方を変えます。
乳児記事では月齢別に整理しますが、今回の対象は園児〜小学生です。ここでは、年齢だけでなく、準備段階で見ます。できる年齢には幅があり、経験量や道具、本人の興味によっても変わります。
| 時期の目安 | 見たい準備 | 関わり方 |
|---|---|---|
| 3〜4歳頃 | 大きなボタンを外す、簡単な着脱に参加する | 大人が最後だけ残し、「できた」を作る |
| 4〜5歳頃 | 大きなボタンを留める、片手で支えもう片手で操作する | 机上の練習布、大きなボタン、ゆっくりした時間で練習する |
| 年長〜小学校低学年 | ひも結び、袋のひも、制服や体操服の着替えが課題になりやすい | 太いひも、左右で色の違うひも、工程カードを使う |
| 小学生以降 | 生活場面で速さや自立度が求められる | できる方法を増やしつつ、面ファスナー靴など代替手段も併用する |
※年齢は目安です。生活経験、服や靴の種類、手先の発達、姿勢の安定、興味によって大きく変わります。気になる場合は、園・学校・発達相談・医療機関へ相談してください。

家庭でできる支援と、避けたい関わり。
家庭での練習は、長時間の反復よりも、成功しやすい条件で短く行う方が続きやすくなります。特に朝の忙しい時間は、親子ともに焦りやすいため、練習には向きません。余裕のある時間に、遊びとして取り入れるのがおすすめです。
椅子に深く座り、足が床や足台につくようにします。体がぐらつくと、手先の操作に集中しにくくなります。
大きなボタン、太いひも、左右で色の違うひも、硬すぎない布を使います。難易度を下げることは甘やかしではなく、学習の入口です。
「つまむだけ」「穴に入れるだけ」「最後に引くところだけ」など、練習する工程を限定します。全部を一度に求めないことが大切です。
「左手で布を持てたね」「輪をつぶさずに持てたね」と具体的に伝えます。本人が何をできたのか分かると、次の練習につながります。
| 避けたい関わり | 理由 | 代わりにできること |
|---|---|---|
| 朝の忙しい時間に練習する | 焦りや叱責につながりやすい | 余裕のある時間に机上で練習する |
| 小さなボタンや細いひもから始める | 難易度が高く、失敗体験になりやすい | 大きなボタン、太いひも、色違いのひもにする |
| 「なんでできないの」と責める | 本人の不安や苦手意識を強める | できた工程を言葉にして、次の一手だけ伝える |
| 全部を一度に求める | 工程が多く、混乱しやすい | 最後の一工程だけ、支える手だけなどに分ける |
よくある質問。
ボタンができないことだけで、発達障害や発達性協調運動症(DCD)と判断することはできません。年齢、経験量、服の形、姿勢、両手の使い方、指先の感覚、注意、視覚の使い方を合わせて見る必要があります。生活全体で困りが続く場合は、小児科や発達相談、作業療法士・理学療法士などへ相談すると安心です。
ひも結びは、園の年長から小学校低学年頃に練習することが多い動作ですが、靴の種類や練習経験によって大きく差があります。年齢だけで判断せず、左右のひもを見分けられるか、輪を作れるか、通す順序が分かるか、最後に左右へ引けるかを分けて見ます。
最初から小さなボタンや細い靴ひもで練習するのではなく、大きなボタン、太いひも、左右で色の違うひもなど、成功しやすい道具から始めます。座る姿勢を安定させ、片手で支えてもう片手で操作する練習を、短時間で行うことがポイントです。
全部を大人が行うのではなく、本人ができる部分を残すことが大切です。たとえば、ボタンを穴に入れるところまでは大人が手伝い、最後に引き出すところだけ本人が行うなど、成功しやすい工程を残します。ひも結びも、最後に左右へ引くところだけから始めると取り組みやすいことがあります。
叱責や長時間の反復は、失敗体験を増やし、動作への苦手意識を強めることがあります。本人がふざけているのではなく、姿勢、両手協調、力加減、順序立てのどこかで困っている可能性があります。できない部分を責めるより、どの工程ならできるかを見つける関わりが大切です。
同年齢の子と比べて日常生活で大きく困っている、練習しても極端に時間がかかる、本人が強い苦手意識を持っている、書字・はさみ・箸・運動遊びなど複数の場面でも不器用さが目立つ場合は相談の目安です。小児科、発達相談、作業療法士・理学療法士などに相談すると安心です。
STROKE LABでは、生活動作の背景まで見ます。
STROKE LABの小児リハビリでは、ボタンやひも結びを「手先だけ」の課題として見ません。姿勢、肩甲帯、手関節、支える手、動かす手、指先の感覚、視線、順序立て、本人の不安や成功体験まで含めて確認します。
できない理由が分かると、練習方法が変わります。大きなボタンから始めるのか、支える手を育てるのか、姿勢を整えるのか、工程カードを使うのか。お子さんに合った入口を見つけることで、生活の中で「できた」を増やしていきます。
ボタン・ひも結び・書字・はさみ・箸など、生活の中で困る動作は一人ひとり違います。STROKE LABでは、動作を分解し、ご家庭で続けやすい支援方法を一緒に考えます。
育て方が変わります。

ボタンやひも結びができないとき、子ども本人も「自分だけできない」と感じ、挑戦する前から苦手意識を持ってしまうことがあります。
私たちは、できない動作を責めるのではなく、なぜ難しいのかを運動のしくみから丁寧に分解することを大切にしています。
手先の不器用さや生活動作で気になることがあれば、まずは今のお子さんに合う入口を一緒に見つけていきましょう。
代表取締役 金子 唯史

手先の不器用さを「指の問題」だけで判断せず、脳・感覚・姿勢・運動の連鎖として見ることで、生活動作への支援が具体的になります。
- 小児(脳性麻痺児/発達障害など)のリハビリ — STROKE LAB
- 書字・はさみ・箸が苦手な子|手先と姿勢から見る支援
- 子どもが不器用・よく転ぶ|DCDと協調運動の見方
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、かかりつけの小児科医や専門職にご相談ください(最終確認日:2026年7月4日)。
- CDC: Milestones by 5 Years
- American Academy of Pediatrics / HealthyChildren.org: Developmental Milestones 4 to 5 Year Olds
- NHS: Developmental co-ordination disorder (dyspraxia) in children – Symptoms
- 厚生労働省:DCD支援マニュアル
- 発達障害情報のポータルサイト:発達性協調運動症
- Miyahara M, Hillier SL, Pridham L, Nakagawa S. Task-oriented interventions for children with developmental co-ordination disorder. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2017;7:CD010914.
- Gao J, et al. Motor-Based Interventions in Children with Developmental Coordination Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine – Open. 2025;11:65.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)