脳性麻痺・脳損傷の子の認知・視知覚の問題|運動との関わり
脳性麻痺・脳損傷の子どもの認知・視知覚|「見えているのにできない」を運動から考える
「物は見えているはずなのに見つけられない」「階段や人混みで急に動けなくなる」「わかっているのに着替えの順番が止まる」。これらは、集中力や筋力だけでは説明できないことがあります。大切なのは、見る、選ぶ、身体を動かす、結果を確かめるという一連の流れを分けて考えることです。

「見えているのにできない」は、一つの問題ではない。
子どもが物を取り損ねたとき、手の麻痺や不器用さが原因に見えるかもしれません。しかし実際には、物へ視線を向ける、周囲から見つける、位置や距離を判断する、手を動かす計画を立てる、触れた結果を修正する、という複数の段階が関わります。
そのため、「できなかった」という結果だけでは、介入を選べません。どの段階まではでき、どの条件を加えたときに止まるのかを確認することが、認知と運動をつなぐ評価の出発点です。
認知・視知覚・運動は、どう関係するのか。
「視知覚」は、目から入った情報を脳で整理し、形、位置、方向、奥行き、動きなどを理解する働きを含みます。「認知」は、注意、記憶、言葉、計画、判断、行動の調整など、さらに広い働きを指します。
脳性麻痺では、運動障害に加えて眼球運動、視野、脳での視覚情報処理、学習などの問題を伴うことがあります。一方、脳卒中、脳炎・脳症、外傷などの後天性脳損傷では、発症前にできていた注意・記憶・空間認知・遂行機能が変化することがあります。似た行動が見えても、発達歴と発症前後の変化を分けることが重要です。

生活のどこに、サインが現れるか。
| 生活場面 | 見えやすい困りごと | 一緒に確認したい条件 |
|---|---|---|
| 学習 | 行を飛ばす、板書が遅い、図形や地図が苦手 | 近くのプリントと遠くの黒板、背景の情報量、制限時間 |
| 移動 | 段差で止まる、人や物にぶつかる、曲がり角で不安定 | 照明、コントラスト、混雑、会話をしながらの歩行 |
| 身支度 | 衣服の向きを間違える、途中で止まる、物を探せない | 手順数、物の配置、口頭指示と写真手順、疲労 |
| 遊び・体育 | 飛んでくる物に反応しにくい、仲間の動きについていけない | 速度、人数、予測可能性、視覚と身体の同時要求 |
リハビリより先に、医療評価を優先する変化。
脳性麻痺の子どもでは、診断時の眼科・視能訓練評価と、その後の継続的な確認が大切です。見え方の問題をすべて「脳の処理」と決めつけず、屈折、斜視、眼球運動、視野、眼の病気などを専門的に確認します。
- 急な視力・視野の変化、新しく現れた斜視や眼球運動の異常
- 強い頭痛、繰り返す嘔吐、けいれん、意識や反応の変化
- 突然の片麻痺、言葉の変化、これまでできていたことの急な低下
- 短時間のぼんやりや反応停止が繰り返される
STROKE LABは、条件を一つずつ変えて見る。
私たちは、正解か不正解かだけでなく、成功する条件を探します。背景を単純にすると見つけられるか、視線の先を指で示すと手が伸びるか、座位ではできても立位では乱れるか、会話を加えると歩行が崩れるかを比較します。
ここで重要なのは、代償をすべて悪いものと扱わないことです。視線を長く置く、身体を対象へ近づける、指差しで確認する、手順表を使うといった方略が生活を支えるなら、それは有効な手段です。一方で、方略が多すぎて疲労や遅さを生む場合は、課題や環境そのものを変えます。
研究からわかっていることと、まだ言えないこと。
NICEのガイドラインでは、脳性麻痺の子どもの約2人に1人に何らかの視覚障害があり、脳で視覚情報を処理する困難は約5人に1人にみられると説明されています。診断時の眼科・視能訓練評価と、脳性視覚障害の継続的な確認が勧められています。
限界:頻度は集団や重症度で異なります。数値だけで個々の子どもの見え方を判断できず、専門的な眼科評価が必要です。
小児後天性脳損傷の系統的レビューでは、メタ認知的な方略、反復練習、外的補助具などが検討されています。ただし研究の対象・介入・評価法は多様で、単一の方法を全員へ勧められる段階ではありません。
限界:訓練課題の改善が、そのまま家庭や学校の改善を意味するわけではありません。生活場面のアウトカムを別に確認します。
家庭では、失敗を減らし「できる条件」を記録する。
家庭での役割は、難しい検査や訓練を行うことではありません。物の位置を一定にする、背景を単純にする、指示を一つずつ伝える、写真や見本を使う、疲れる前に重要な課題を行うなど、成功しやすい条件を整えます。
ここまでは、家庭で失敗や負担を減らし、成功しやすい条件を見つける工夫です。専門施設では、眼・視線・注意・空間認知・運動計画・姿勢・疲労を分け、評価結果に応じて介入候補を比較します。診断、投薬、画像検査、眼科的治療は主治医・専門医が担い、私たちは生活機能の側から併走します。
専門施設で、さらに期待できること。
専門施設の価値は、特別な教材や機器を使うこと自体ではありません。同じ困りごとを生む複数の要因を分け、どの条件を変えると生活動作が改善するかを検証することにあります。
| 困りごと | 確認する評価・観察 | 介入の選択 | 難易度の調整 | 生活で再評価 |
|---|---|---|---|---|
| 階段で足が止まる | 段差の認識、視線移動、足の位置計画、体幹・バランス | 段の境界を見やすくし、視線と足運びを実際の段差で結ぶ | 段差高、手すり、照明、速度、周囲の人を段階化 | 学校階段で止まる回数と介助量 |
| プリントの行を飛ばす | 視覚探索、眼球運動、空間性注意、作業記憶 | 視覚アンカー、情報量調整、探索手順を実教材で練習 | 行数、文字数、手がかり、時間制限を調整 | 板書・宿題・見直しの自立度 |
| 着替えが途中で止まる | 順序、身体認知、注意維持、衣服操作、疲労 | 写真手順、自己確認、実際の衣服を用いた課題特異的練習 | 手順数、声かけ、時間、姿勢支持を調整 | 朝の支度時間と声かけ回数 |
介入では、正答を教え続けるのではなく、子ども自身が「どこを見ればよいか」「次に何をするか」を選べるようにします。最初は手がかりを多くして成功率を確保し、その後、指差し、見本、言葉、時間延長などの支援を一つずつ減らします。
その場で見る反応は、正解数だけではありません。視線が対象へ向くまでの時間、探索の順序、身体の傾き、誤差の修正、疲労後の変化を確認します。一定期間後には、家庭や学校で同じ方略が使えたか、支援量が減ったかを再評価します。

認知課題の成績が上がっても、騒がしい教室、立位、時間制限、友達との同時活動で使えるとは限りません。研究でも生活への般化は重要な課題とされているため、STROKE LABでは訓練室の能力と家庭・学校での実行を分けて確認します。
限界:小児高次脳機能障害は原因疾患や発達段階による違いが大きく、疾患横断の研究を個人へそのまま当てはめることはできません。
学校と成長の節目で、評価を更新する。
子どもは、進級するたびに求められる能力が変わります。低学年では目立たなかった困難が、板書量、教科数、移動、集団活動、自己管理が増えた時期に表面化することがあります。これは「急に努力しなくなった」とは限りません。
学校へは、診断名だけでなく、成功条件を共有します。たとえば、見本を手元に置く、課題を小分けにする、重要情報を囲む、移動時間に余裕を持たせる、疲労前に難しい課題を置くなどです。支援は甘やかしではなく、学習と参加へ到達するための条件調整です。
よくある質問。
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。診断・手術・投薬・画像検査などの医学的判断は主治医を尊重し、私たちは機能解剖と動作分析をもとに、生活と学習の側から併走します。医療機関でのリハビリとの併用も可能です。
育ちに寄り添う関わりへ。

「見えているのに、なぜできないのだろう」という疑問は、保護者にとってもお子さんにとっても大きな負担になります。私たちは、その行動を努力不足と決めつけず、視覚・認知・運動・環境の関係から丁寧にほどきます。
目標は、検査で正解することだけではありません。教室で見つける、階段を上る、着替える、友達と遊ぶという生活の中で使えることを、お子さんと家族の目標から設計します。
医療機関での治療とあわせて、家庭・学校での関わりを整理したい方はご相談ください。お子さんが大切にしている生活場面から、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動を「筋力だけ」で終わらせず、姿勢・感覚・認知・環境との連鎖として見る視点は、小児リハビリの土台にもなります。
本記事は、国内外の公的情報・査読研究と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ず主治医・関係する専門職へご相談ください(最終確認日:2026年7月12日)。
- National Institute for Health and Care Excellence. Cerebral palsy in under 25s: assessment and management. NICE guideline NG62. Published 2017; reviewed 2024.
- Resch C, Rosema S, Hurks P, de Kloet A, van Heugten C. Searching for effective components of cognitive rehabilitation for children and adolescents with acquired brain injury: a systematic review. Brain Inj. 2018;32(6):679-692.
- Camm S, et al. Cognitive interventions for children with acquired brain injury: a systematic review. Neuropsychol Rehabil. 2021;31(4):621-666.
- Chavez-Arana C, et al. Interventions to improve executive functions in children and adolescents with acquired brain injury: a systematic review and multilevel meta-analysis. Child Neuropsychol. 2024;30(1):164-187.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)