「個性かも」と様子見にする前に|発達が気になる子への早めの一手
迷った時こそ、小さな違和感を早めに整理することが助けになります
「少し不器用だけど、この子の個性なのかな」「そのうち追いつくかもしれない」。そう思いながらも、心のどこかで引っかかることはありませんか。個性を大切にすることと、困りごとを見逃さないことは両立できます。大切なのは、診断を急ぐことではなく、今の生活で困っている場面に、早めに小さな一手を打つことです。

「個性かも」と思う場面。
公園では遊具を避ける。走るとよく転ぶ。階段で手すりを離せない。はさみや鉛筆を嫌がる。集団活動では、周りの子が動き始めても一人だけ固まっている。
でも、健診では大きな指摘はなかった。園でも「もう少し様子を見ましょう」と言われた。だから「慎重な性格」「マイペース」「個性かも」と考えるようにしていた——。そんな保護者の方は少なくありません。
もちろん、子どもの個性を尊重することはとても大切です。慎重な子、音に敏感な子、身体を動かすより静かな遊びが好きな子、初めての場面に時間がかかる子。どれもその子らしさの一部です。
一方で、本人が強く困っている、生活や園・学校で参加しにくい、同じ場面で何度もつまずく、失敗体験が積み重なっている場合は、「個性」として片づける前に、支援の視点を入れることが大切です。早めの一手とは、子どもを診断名で分類することではありません。困っている場面を、身体・感覚・環境から見直すことです。
個性と困りごとの違い。
「個性」と「困りごと」は、はっきり線を引けるものではありません。大切なのは、行動そのものではなく、その行動が本人の生活や参加にどのくらい影響しているかを見ることです。
たとえば、運動が苦手でも、本人が楽しめていて、生活に大きな支障がない場合は、その子らしいペースとして見守れることもあります。一方で、毎回転ぶ、怖がって参加できない、友達と同じ活動を避ける、失敗すると強く崩れる場合は、身体や感覚の土台に支援が必要かもしれません。
一回できないだけで問題とは限りません。けれど、同じ場面で繰り返し困る、本人が避ける、生活や集団参加に影響している、保護者が対応に困っている場合は、支援の入口として十分な理由になります。
| 見え方 | 個性として見守れることが多い | 支援を考えたいサイン |
|---|---|---|
| 運動が苦手 | 苦手でも本人なりに楽しめる | 怖がって参加しない、転倒が多い、失敗を強く避ける |
| 手先が不器用 | 少し時間はかかるが、練習で楽しめる | 鉛筆・はさみ・箸・着替えを強く嫌がる |
| 集団が苦手 | 初めは慎重でも少しずつ参加できる | 固まる、逃げる、泣く、活動後に強く疲れる |
| 感覚が敏感 | 苦手な刺激はあるが調整すれば過ごせる | 音・光・触覚・揺れで活動や生活が止まる |
STROKE LABの視点:「条件を変えると参加できるか」を見る。
発達が気になる子の支援では、「できるか・できないか」だけを見ると、本人の努力不足や性格の問題に見えてしまうことがあります。STROKE LABでは、同じ課題でも、姿勢、道具、時間、声かけ、介助量、刺激量を変えたときに参加しやすくなるかを見ます。
座っていられない子に「ちゃんと座って」と言い続ける前に、足が床についているか、椅子の高さが合っているか、体幹を支える力が足りているかを見ます。はさみを嫌がる子には、紙を持つ手、手首の向き、視線の使い方、道具の大きさを見ます。条件を変えると動けるなら、そこに支援の入口があります。

研究でわかっていること。
「発達が気になる」「不器用」「運動が苦手」と感じる子どもへの支援では、漠然と運動量を増やすより、生活の中で実際に困っている動きに近い課題を、成功しやすい条件で練習することが重要です。
発達性協調運動症の子どもを対象にした研究のまとめでは、運動を使った支援が、標準化された運動技能、身体機能、活動遂行を改善する可能性が報告されています。特に、実際の生活動作に近い課題を使う支援は、運動技能やバランス、活動遂行に良い影響が示されています。ただし、参加や自信まで自然に変わるとは限らないため、家庭・園・学校で「できる条件」を一緒に整えることが大切です。
この結果は、「とにかく練習を増やす」という意味ではありません。本人が失敗を重ねる課題を無理に反復するのではなく、成功しやすい難易度、姿勢、道具、声かけに調整し、できた経験を生活場面へ広げることが重要です。
様子見でよい場合、相談した方がよい場合。
様子を見ること自体が悪いわけではありません。子どもの発達には幅があり、自然に経験が増えていくこともあります。ただし、「様子見」が何もしない時間になり、本人の困りごとが続いている場合は、早めに相談や環境調整を考えることが安心です。
| 観察ポイント | 様子を見ながら関われることが多い | 相談を考えたい |
|---|---|---|
| 頻度 | たまに苦手な場面があるが、日常では大きく困っていない | 同じ場面で毎回つまずき、本人が避ける |
| 本人の反応 | 失敗しても再挑戦できる、遊びとして楽しめる | 怖がる、泣く、怒る、強く拒否する |
| 生活への影響 | 時間はかかるが、身支度や遊びに参加できる | 食事・着替え・移動・制作・集団参加に支障がある |
| 環境調整 | 道具や声かけを少し変えると取り組める | 条件を変えても難しく、家庭だけでは負担が大きい |
| 発達の変化 | 少しずつできることが増えている | できていたことができなくなる、左右差や強いこわばりがある |
発達のペースには幅がありますが、退行、明らかな左右差、強い痛み、急な歩行の変化、食事や睡眠への大きな影響がある場合は、家庭で判断せず小児科や相談窓口につなげることが安心です。
健診・相談で伝えるためのメモ。
相談の場では、「不器用です」「落ち着きません」だけでは状況が伝わりにくいことがあります。いつ、どこで、何をすると難しいのか。どんな条件ならできるのか。短く整理しておくと、専門職や園・学校と共有しやすくなります。
年齢・生活場面別に見たいこと。
この記事では幼児から小学生前後までを想定しています。乳幼児期は月齢で見ることが多く、早産のお子さんでは修正月齢で考えることがあります。年齢が上がると、単に運動発達の節目だけでなく、生活・遊び・園や学校への参加のしやすさが大切になります。

| 年齢・生活場面 | 見たいポイント | 相談時に伝えること |
|---|---|---|
| 乳幼児期 | 寝返り、座位、歩き始め、左右差、抱っこや食事での困りごと | 月齢は目安です。早産の場合は修正月齢も含めて相談 |
| 幼児期 | 公園遊び、階段、走る・跳ぶ、はさみ、着替え、食具の使い方 | 怖がる活動、避ける活動、成功しやすい遊び方 |
| 就学前後 | 鉛筆、はさみ、体育、集団活動、机上姿勢、切り替え | 姿勢が崩れる時間、道具の使いにくさ、疲れやすさ |
| 小学生以降 | 板書、制作、体育、友達との遊び、自己肯定感 | 本人が困っていること、避けている活動、学校での配慮 |
※月齢・年齢は目安です。早産の場合は修正月齢で見ることがあります。達成時期には幅があるため、気になる場合は乳幼児健診、かかりつけ医、自治体の相談窓口で確認してください。
家庭でできる小さな一手。
家庭でできることは、特別な訓練を始めることだけではありません。まずは、子どもが成功しやすい条件を作ることです。姿勢、道具、時間、声かけ、刺激量を少し変えるだけで、子どもの反応が変わることがあります。
座る課題では、足台や椅子の高さを調整します。足が浮くと体を支えるために肩や手に余計な力が入り、手先が使いにくくなることがあります。
跳ぶ、またぐ、くぐる、押す、引く、転がるなどの動きを、成功しやすい高さや距離から始めます。怖がる課題を無理に続けないことが大切です。
鉛筆やはさみに入る前に、粘土、シール、洗濯ばさみ、トングなどで、手の感覚と力加減を育てます。机と椅子の高さも合わせます。
言葉だけで長く説明するより、見本、写真、短い手順で示すと取り組みやすいことがあります。終わりが見えると安心しやすくなります。
避けたい関わり。
早めの支援は、厳しく練習させることではありません。本人が困っている背景を見ないまま反復させると、苦手意識が強くなり、活動そのものを避けるようになることがあります。

| 避けたいこと | 理由 | 代わりにできること |
|---|---|---|
| 「もっと頑張って」と反復だけを増やす | できない理由が残ったまま失敗体験が増える | 課題を小さく分け、成功しやすい条件から始める |
| 姿勢が崩れる子を注意だけで直そうとする | 足台や机の高さなど、環境要因が残る | 足が床につく座位、短時間課題、休憩を使う |
| 苦手な感覚を急に慣らそうとする | 不安や拒否が強くなりやすい | 刺激量を下げ、予告して、選べる形にする |
| 診断名だけで対応を決める | 同じ診断名でも困り方は一人ひとり違う | 生活場面と成功条件を具体的に共有する |
STROKE LABでは、姿勢・運動・感覚・手先・生活参加を総合的に評価し、お子さんに合った早めの一手をご家族と一緒に考えます。
よくある質問。
急にできていたことができなくなった、明らかな左右差がある、強いこわばりや痛みがある、食事・睡眠・移動・集団参加など生活に大きく影響している場合は、早めに小児科や相談窓口に相談してください。受診や相談は診断を急ぐためだけでなく、関わり方を整理するためにも役立ちます。
一つの行動だけで見分けることは難しいです。頻度、期間、場面の広がり、本人のつらさ、生活や園・学校への影響を見ます。苦手でも楽しめているなら個性として見守れることもありますが、本人が避ける、失敗を強く怖がる、生活に支障がある場合は支援を考える目安になります。
はい。家庭での姿勢調整、遊び方、運動課題、感覚への配慮、道具の選び方、声かけの工夫は診断の有無にかかわらず始められます。公的サービスの利用条件は自治体により異なりますが、困りごとの整理や専門職への相談は早めに行うことができます。
いつ、どこで、何をすると難しいのかを具体的に記録します。姿勢や手足の使い方、疲れ方、嫌がり方、成功しやすい条件、園や学校での様子をメモします。短い動画があると、相談時に子どもの動きや環境を共有しやすくなります。
診断名を先に伝えるより、困る場面と成功しやすい条件を具体的に共有すると伝わりやすいです。たとえば、足台があると座りやすい、手順を短くすると取り組みやすい、活動前に見通しがあると参加しやすい、という形で伝えると環境調整につながります。
姿勢、筋緊張、バランス、感覚、手先、歩行、遊び方、集団参加の背景を総合的に評価します。その子に合った課題設定、介助量、声かけ、家庭でできる練習を一緒に整理し、生活や園・学校での参加につながる支援を考えます。
STROKE LABの小児リハ。
STROKE LABでは、脳卒中をはじめとする神経リハビリで培った視点をもとに、小児の姿勢・運動・感覚・手先・生活参加を評価します。「個性かも」と様子見にしていた困りごとでも、身体と感覚の視点から見ることで、支援の方向性が見えることがあります。
困りごとを見逃さないために。

子どもの発達には個人差があります。その子らしさを尊重することは、とても大切です。一方で、生活や集団参加の中で困りごとが続いているとき、その背景には身体や感覚のつまずきが隠れていることがあります。
私たちは、診断名だけで判断するのではなく、目の前のお子さんの姿勢、動き、感覚、生活の困りごとを神経リハビリの視点から丁寧に紐解き、家庭で実践できる形に落とし込んでいきます。
「個性かもしれない。でも、少し心配」。その感覚は、支援を考える大切な入口です。お子さんに合った早めの一手を、一緒に探していきましょう。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。子どもの困りごとを「性格」や「努力」だけで判断せず、脳・感覚・姿勢・運動の連鎖として見ることで、家庭での関わり方が変わります。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、かかりつけの小児科医や専門職にご相談ください(最終確認日:2026年7月4日)。
- American Academy of Pediatrics: Developmental Surveillance and Screening Patient Care
- CDC: Developmental Milestones / Learn the Signs. Act Early.
- CDC: Developmental Monitoring and Screening
- WHO: Improving early childhood development: WHO guideline. 2020.
- 厚生労働省:DCD支援マニュアル.令和4年度障害者総合福祉推進事業.
- 発達障害ナビポータル:発達性協調運動症.
- Gao J, Yang Y, Xu X, et al. Motor-Based Interventions in Children with Developmental Coordination Disorder: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomised Controlled Trials. Sports Medicine – Open. 2025;11:59.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)