【2026年版】運動主体感と身体所有感に重要な脳部位とは?脳卒中リハビリにおける評価から治療アプローチまで
運動主体感と身体所有感は、なぜ脳卒中で失われるのか。
「上手く動けているのに、まるで他人の手のよう」——この訴えは、感覚障害だけでは説明できません。脳卒中後リハビリにおいて、運動主体感(Sense of Agency)と身体所有感(Sense of Body Ownership)の回復は、機能改善と自立の鍵を握る重要な臨床課題です。神経科学の知見を整理し、明日の臨床に活かしましょう。
— 運動主体感・身体所有感の神経基盤と、脳卒中リハビリへの応用を解説します。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
訓練でコップをつかむ動作が改善した。しかし患者は「できてはいるけど、自分がやっている感じがしない」と答えた。感覚障害は軽度、運動機能はFMA上肢20点台。この「他人事感」こそが運動主体感の障害です。
この症状は脳卒中後の「習得性不使用(learned non-use)」と密接に関連しており、早期から意図的な介入が求められます。
脳卒中後の上肢麻痺患者を治療していると、「上手くできているのに他人事のような反応」を示す方に出会うことがあります。これは、運動主体感・身体所有感の障害を示すサインかもしれません。入院中リハビリを実施しているにもかかわらず麻痺側上肢の不使用が生じている場合、感覚障害だけでなく、この2つの感覚の障害を疑ってください。
定義と基本概念。
まず2つの概念を整理しておきましょう。混同されやすい用語ですが、臨床的な意味はまったく異なります。
運動主体感(Sense of Agency:SA):自分の行動が自分自身によって生み出されたという感覚です。「自分が動かした」という意志・原因帰属を指します。運動の計画・遂行時に、脳がその動きを自己の意志によるものと認識するプロセスです。
身体所有感(Sense of Body Ownership:BO):自分の身体やその部位が、自分自身のものであると認識する感覚です。「この手は自分のもの」という帰属感覚を指します。両者は独立して障害されうるため、評価の際は分けて考えることが大切です。
この2つの感覚は、主に脳の前頭前野・補足運動野・一次運動野・頭頂葉の相互作用によって成立しています。脳卒中ではこの神経回路が損傷を受けることで、どちらか一方または両方の感覚が障害されます。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABは神経リハビリに特化した自費リハビリ施設です。脳卒中後の主体感・所有感の回復を含む、感覚・運動の統合的なリハビリを提供しています。保険リハビリとの併用も可能です。
神経メカニズムと責任病巣。
運動主体感の神経基盤は、多くの神経画像研究で調査されてきました。特定された領域の機能的接続性に注目することで、どこが障害されると主体感が失われるかを理解できます。
脳は運動を起こす前に「こう動くはず」という予測(forward model)を作ります。実際の感覚フィードバックが予測と一致したとき、「自分が動かした」という主体感が生まれます。
脳卒中で感覚路や運動野が損傷されると、この予測と結果のループが崩れます。結果として「動いているのに自分の動きではない」という感覚が生じます。
EEG研究が示した「運動主体感の鍵」
Khalighinejad らによるEEG研究(2016年)では、手の動きの主体感を仮想現実(VR)で変調し、16人の健常右利き成人の脳波を解析しました。CyberGloveを装着させ、仮想の手のコントロール量を0〜100%で変化させながら脳波を記録しています。
出典:Khalighinejad N, et al. Brain Networks Responsible for Sense of Agency: An EEG Study. PLOS ONE. 2016. DOI: 10.1371/journal.pone.0161791(PubMed: 26270552)
主要結果:前頭葉内(F7-FP2、F7-Fzチャネル)のα帯域の位相コヒーレンスが、運動主体感の変化と直接相関しました。前頭領域内のα帯域神経ネットワークが運動主体感の生成に重要である可能性が示唆されました。
臨床的含意:前頭葉(補足運動野・前頭前野)への介入が主体感回復に有効である根拠になります。運動イメージやミラーセラピーなど前頭葉を活性化する介入の重要性を支持するデータです。エビデンスレベル:神経生理学的基礎研究(健常人EEG)。

上肢と下肢の違い。
同じ「麻痺」でも、上肢と下肢では運動主体感・身体所有感の障害パターンが異なります。この違いを理解することで、より的確なリハビリアプローチが選択できます。
評価の視点と方法。
主体感・所有感の評価は、現時点で標準的な単一の評価尺度が確立されているわけではありません。複数の視点から複合的に評価することが重要です。
評価の3つの柱
「自分の手が動かしている感じはありますか?」「この手が自分のものだと感じますか?」など、直接的な問いかけで主観的な主体感・所有感を確認します。VAS(視覚的アナログスケール)を使うと変化の追跡がしやすくなります。
感覚障害がある患者では運動イメージ能力が低下していることがあります。MIQ-R(Movement Imagery Questionnaire-Revised)や動作模倣テストを用いて、介入方法を選択する際の参考にします。
FMA(Fugl-Meyer Assessment)上肢・下肢の感覚項目と運動項目を分けて解釈します。感覚スコアが低くても運動スコアが高い場合、主体感・所有感の障害が介在している可能性があります。
介入の段階とエビデンス。
運動主体感・身体所有感の改善には、段階的なアプローチが有効です。感覚から運動へ、受動から能動へという流れを意識しましょう。
Phase 1:感覚入力の整備
麻痺側の触覚感度を高めるため、軽いタッピング・ブラッシング・振動刺激を用います。深部感覚促通では関節を他動的に動かしながら「どの方向に動いているか」を答えさせます。パラメータ:1日15分・週5日。振動刺激は筋紡錘を活性化し身体所有感を強化します。刺激中は視覚的確認も組み合わせましょう。
麻痺側の手・足を患者の視界に入れ、セラピストが触れる様子を見せます。触覚刺激を与えた後、部位の感覚を患者に言語化させます。「この手に触れているのを感じますか?」という問いかけが効果的です。補助ツール:ブラシや柔らかい素材。
Phase 2:視覚フィードバックの活用
鏡を使って健側の動きを麻痺側に投影します。「麻痺側が動いている」という視覚入力により、脳の運動主体感と身体所有感の回路(頭頂葉・補足運動野)を刺激します。パラメータ:1日20〜30分・週5回。患者に「自分が動かしている」と意識させながら行うことが重要です。手順:①患者を鏡の前に座らせる、②健側で手の握り・開き動作を実施、③鏡越しに動きを観察させ「麻痺側が動いている」感覚を引き出す。
麻痺側の動きをイメージすることで、運動主体感を間接的に刺激します。ただし、感覚障害がある患者ではイメージ能力の事前評価(MIQ-R)が必要です。能力が低い場合は実施前に感覚入力を十分に行いましょう。
Phase 3:能動的な麻痺側使用
健側をスリングで制限し、麻痺側の使用を強制することで運動主体感を強化します。パラメータ:1回1〜2時間・週5日・2週間継続。動作後に「その動作を自分が行った」という確認を患者に促すことが主体感定着のポイントです。
下肢では麻痺側に体重をかける課題を反復します。荷重配分を意識させることで、足底感覚・深部感覚を通した身体所有感の強化を図ります。動作前に麻痺側の感覚を意識させる声かけが重要です。
出典:Hatem SM, et al. Rehabilitation of Motor Function after Stroke: A Multiple Systematic Review Focused on Techniques to Stimulate Upper Extremity Recovery. Front Hum Neurosci. 2016;10:442. PubMed: 27679565
主要結果:発症後6か月以降でもリハビリによりFMA/ARATが有意改善。ミラーセラピー・CIMT・運動イメージを含む多様な介入が上肢機能の回復に有効であることが示されました。エビデンスレベル:システマティックレビュー(強く推奨)。

STROKE LABでは、運動主体感・身体所有感の回復を意識した神経リハビリを提供しています。感覚と運動を統合した個別プログラムを、経験豊富なセラピストが設計します。保険リハビリとの併用も歓迎します。
多職種連携と環境調整。
運動主体感・身体所有感の回復は、セラピスト単独で実現できるものではありません。多職種が連携し、24時間の生活場面を通して麻痺側の能動的使用を支援することが求められます。
各職種の役割分担
| 職種 | 主な役割 | 具体的な関わり |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 下肢・体幹の身体所有感・主体感評価と介入 | 荷重練習・歩行練習・深部感覚促通・バランストレーニング |
| OT(作業療法士) | 上肢の主体感・所有感回復と日常生活への汎化 | ミラーセラピー・CIMT・課題指向型練習・ADL場面での麻痺側使用促進 |
| ST(言語聴覚士) | 認知・言語面からの身体認識支援 | 失語症患者への主体感報告支援、認知機能評価、半側空間無視のスクリーニング |
| 看護師 | 病棟での麻痺側使用促進と観察 | ADL場面での麻痺側使用促進、「他人事感」の変化を観察しセラピストへ共有 |
| 医師 | 神経学的評価・薬物療法の管理 | 痙縮への薬物療法判断、神経症状の変化の評価、リハビリプログラムの医学的適応確認 |
| MSW(医療ソーシャルワーカー) | 退院後のリハビリ継続支援 | 自費リハビリ・訪問リハビリへのつなぎ、経済的支援の調整 |
「ミラーセラピー後に看護師さんが『さっき自分でコップ持てましたよ』と声をかけてくれるだけで、患者さんの主体感が大きく変わることがあります。病棟スタッフとの共有が治療の一部です。」
「STが評価した認知・言語機能の結果がOTの介入の根拠になります。”この患者は運動イメージが難しい”という情報は、介入手技の選択を大きく変えます。多職種カンファレンスでの情報共有を怠らないでください。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
新人臨床家が感覚障害を伴う患者への介入で陥りやすい失敗パターンを整理します。臨床経験で気づく前に、先輩から引き継いでください。
臨床判断の分岐点:どの介入を選ぶか
「運動イメージが難しい患者には、まずミラーセラピーから始めましょう。イメージよりも視覚入力の方が前頭葉に確実にアクセスできます。評価なしに運動イメージを使っても効果は薄い。」
「主体感の改善を確認する最もシンプルな方法は、動作後に患者に聞くことです。”今の動き、自分がやれた感じしましたか?”この一言が次の介入の指針になります。」
「過剰な努力で筋緊張が上がると、感覚フィードバックが乱れ主体感も低下します。痙縮が強い患者には、介入前にストレッチやリラクゼーションを必ず挟んでください。」
予後とゴール設定。
「発症後6か月を過ぎたらもう回復しない」という誤解が根強くあります。しかし現在のエビデンスはそれを否定しています。主体感・所有感の回復も、適切な介入があれば慢性期でも変化が得られます。
Hatem らのシステマティックレビュー(2016)では、発症後6か月以降でもリハビリによりFMA/ARATが有意改善することが示されています。運動学習を効率的に進めるためには、週2回以上の頻度で3か月継続することが推奨されています。
ゴール設定の際は、主体感の回復を機能的目標(例:「コップを自分で持つ」)と結びつけてください。「動かせる」だけでなく「自分がやった」という確信を患者が持てるかどうかが、長期的な自立のカギです。
よくある質問。
運動主体感は「自分が動かした」という意志・原因帰属の感覚です。身体所有感は「その身体部位が自分のもの」という帰属感覚です。
前者は補足運動野・前頭前野、後者は頭頂葉が主に担います。脳卒中ではどちらも障害されうるため、評価の際は分けて考えることが重要です。
訓練で動作が改善しても「他人の手のよう」「自分がやった感じがしない」という反応が典型です。麻痺側上肢の不使用(learned non-use)や、リハビリへの積極性の低下につながる場合があります。
入院中から能動的な上肢介入を行わないと生じやすいとされています。早期から意識的に麻痺側を使用させる介入が予防につながります。
健側の動きを鏡で麻痺側に投影し、「麻痺側が動いている」という視覚情報を脳に入力します。頭頂葉・補足運動野への刺激を通じ、運動の予測と結果の一致(forward model)を再構築する効果が期待されています。
1日20〜30分・週5回が標準的なパラメータです。RCTでの有効性が複数確認されており、主体感回復の第一選択として推奨されます。
上肢では触覚・深部感覚の統合が重要で、感覚障害による運動主体感への影響が大きいです。補足運動野・感覚運動皮質の連携が主に関与します。
下肢ではリズミカルな歩行パターン生成や体幹安定性が主な問題となり、麻痺側の身体所有感低下が荷重配分や歩行バランスに影響します。脊髄反射・皮質下構造の役割が相対的に大きくなります。
視覚依存を防ぐため、ミラーセラピーやVRの後に視覚情報なしでも麻痺側を認識できるよう触覚・深部感覚刺激を組み合わせることが重要です。
過剰な感覚刺激は逆効果になる可能性があるため、患者の感受性をこまめに確認しながら強度調整してください。また、痙縮が強い患者には介入前にストレッチ・リラクゼーションを行いましょう。
EEG研究(Khalighinejad et al., 2016)により、前頭葉内のα帯域(F7-FP2、F7-Fzチャネル)の位相コヒーレンスが運動主体感の変化と直接関連することが示されました。
前頭前野・補足運動野・一次運動野・頭頂葉の相互作用が主体感の生成に関与しています。これらの領域を標的とした介入(ミラーセラピー・運動イメージ等)のエビデンス的根拠となっています。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは東京・御茶ノ水(徒歩6分)と大阪・梅田エリアを拠点とした、脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。保険リハビリの枠を超えた集中的なプログラムで、脳卒中後遺症のさらなる回復を支援します。オンライン・訪問リハビリにも対応しています。

— STROKE LABでの脳卒中後リハビリの実際の様子です。

「入院中に”ただ動かす”リハビリだけを続けると、患者さんが麻痺側を自分のものと感じられなくなる。早期から意識的に麻痺側を使わせ、その体験を言葉で確認することが、主体感回復の第一歩です。」— 作業療法士・臨床経験15年・神経リハビリ専門
「『他人の手みたい』と言う患者さんに、鏡を使って『今、動きましたよ』と視覚で確認させると、表情が変わる瞬間があります。その瞬間が主体感回復のサインです。地道に積み重ねることが大切です。」— 理学療法士・臨床経験12年・脳卒中回復期リハ専門
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諦めないでください。

脳卒中後の「他人事感」は、意欲の問題でも、リハビリが足りない問題でもありません。神経科学的に説明できる、介入すべき症状です。
「まだ間に合う」という直感を、エビデンスが裏付けています。発症から6か月以降でも、適切なアプローチで主体感・所有感の回復を図れることが研究で示されています。
STROKE LABでは、神経リハビリに特化した個別プログラムを提供しています。感覚と運動を統合したアプローチで、「自分の手で動かせた」という確信を取り戻すためのリハビリを一緒に設計します。まずは無料相談でお話を聞かせてください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)