標準高次視知覚検査(VPTA)とは?7領域・採点の読み方と臨床での活用
でも、分からない。
Visual Perception Test for Agnosia
7領域の読み方から、暮らしを支える手がかりまで。

- 7領域を組み合わせて読む:物・顔・色・文字・空間の違いを確認する。
- 名前の不正答だけで失認としない:視覚入力、言語、注意、記憶と照合する。
- 正式採点と追加観察を分ける:使える手がかりを生活場面で確かめる。
01 VPTAとは|「見えている」の先を評価する。
標準高次視知覚検査(Visual Perception Test for Agnosia:VPTA)は、物体、顔、色、文字や記号、空間などの認知を包括的に調べる検査です。1997年に初版、2003年にマニュアル改訂第1版が刊行されました。改訂では、従来の検査内容・手順を基本とし、説明や採点基準などが整理されています。 [1]
眼鏡をかけると小さい文字は見える。それでも、目の前の道具が何なのか分からない。家族の声は分かるのに、顔だけでは誰か判断できない。VPTAは、このような「視力だけでは説明しきれない困りごと」を詳しく考えるための評価の一つです。
ここでは7領域の意味、実施前の確認、採点の読み方、生活へのつなぎ方を解説します。正式な図版・逐語的な教示・全項目の時間基準・採点票は掲載しません。実施には正規の図版とマニュアルを用いてください。
掲載イラストは理解を助ける独自の概念図です。実際のVPTA刺激を描き直したものではなく、記事の画像で検査を代用することはできません。
02 7つの領域で、困難の場所を絞る。
領域名は学会の公式構成です。右欄は、臨床で考える問いを本記事で整理したもので、正式な教示ではありません。 [1]
| 領域 | 臨床で考える問い |
|---|---|
| ① 視知覚の基本機能 | 形や長さ、位置関係を捉える基礎の段階で難しさがないか。 |
| ② 物体・画像認知 | 見た形から、何であるか・何に使うかへつながるか。 |
| ③ 相貌認知 | 顔の違いを捉えられるか。知っている人物と結び付くか。 |
| ④ 色彩認知 | 色の見分け、色と名前、物と典型的な色の関係はどうか。 |
| ⑤ シンボル認知 | 文字・数字・記号などの視覚情報を認識できるか。 |
| ⑥ 視空間の認知と操作 | 左右や位置関係を捉え、配置や構成に反映できるか。 |
| ⑦ 地誌的見当識 | 場所や風景、道順に関する情報を使えるか。 |
7領域を「7種類の失認の診断名」と一対一で対応させることはできません。たとえば文字の課題の不良には言語機能、構成課題には運動機能、複数対象の課題には注意の影響も関わります。結果は他の機能評価と合わせて読みます。
- 洗面台の道具を選べない → 形の把握、物の意味、探索のどこで止まるか。
- 人を取り違える → 顔の弁別、人物の知識、名前の想起を分ける。
- 病室へ戻れない → 景色の認識、方向、経路の記憶、注意を確かめる。
03 実施前|まず、視覚入力と言葉の条件を整える。
失認の評価では、基本的な感覚機能、意識・注意、呼称や意味記憶の問題を確認する必要があります。見て答えられないという一点だけでは、視覚性失認と判断できません。 [3]
| 確認すること | 記録例・確認の視点 |
|---|---|
| 視覚入力 | 眼鏡、視力、視野、複視、眼球運動、照明や反射。必要に応じて眼科・神経眼科所見を確認。 |
| 注意・覚醒 | 対象へ視線が向くか、反応が安定するか、片側の見落としがないか。 |
| 言語・知識 | 説明を理解できるか。名前だけ出ないのか、用途・意味も分からないのか。 |
| 運動・姿勢 | 指さし・描画・物品操作が可能か。使う手、麻痺、姿勢、痛み。 |
| 経験・生活背景 | その人物や道具、場所、文字に以前からなじみがあったか。 |
高次の視覚機能障害でも、本人の訴えは「見えにくい」「目が悪い」と表現されることがあります。眼疾患と脳の視覚処理の問題を、訴え方だけで分けないことが大切です。 [4]
「眼鏡なし」「午後は眠気が強い」「右手が使えず左手で描画」などを記録します。必要な配慮は行い、その変更が標準手順から外れる場合は明記します。失敗したから刺激を拡大する、何度も指さすといった変更を、補助なしの成績に混ぜません。
04 実施の流れ|標準条件と追加観察を分ける。
以下は臨床運用を整理する流れです。個別課題の順序、提示方法、時間、採点条件を置き換えるものではありません。実施前に正規マニュアルの該当項目を確認します。
本人・家族から具体的な場面を聞きます。「見えない」だけでなく、単独の物か、物が並ぶ場面か、顔か、文字か、道順かまで聞き取ると、検査結果との照合がしやすくなります。
教示・提示・計時をそろえます。採点中に答えを教えたり、記事のイラストに置き換えたりしません。色刺激を画面や家庭用プリンターで代用すると、色再現も変わります。
回答内容、反応までの時間、自発的な修正、どの部分を見たか、探索の片寄りを記録します。無反応についても、理解・覚醒・発動・視覚探索のどこに問題がありそうかを追加評価につなげます。
正式採点を確定した後に、触覚、言葉による説明、実生活の物などで確認します。追加条件で成功したことを、最初の標準条件で正答したことにはしません。
弱い領域だけでなく、使える手がかりを共有します。「触れると分かる」「音声なら伝わる」などを、本人に合った確認方法へつなげます。
疲労で実施が続かない場合は休憩・分割・中断を検討し、日時と実施範囲を明示します。一部のみの結果を「VPTA全体が正常」と表現しません。所要時間も本人の状態と実施範囲に左右されるため、記事では一律の終了時間を設けません。
05 見て分からないとき、何を比べるか。

視覚性失認を考える際は、視覚以外の手がかりで対象を認識できるかが重要です。同時に、言葉が出ないだけの状態や、意味そのものの障害を区別します。 [3]
| 反応の組み合わせ | 次に確かめること |
|---|---|
| 見ても名前が出ないが、用途を説明できる | 呼称の問題を検討。名前の不正答だけで失認と決めない。 |
| 見て分からないが、触ると分かる | 視覚入力から認識に至る過程を検討。感覚・理解・経験も確認。 |
| 形の違いを捉えにくく、照合や模写も難しい | 視知覚の初期段階に加え、視野・注意・運動の影響を確認。 |
| 形は捉えられるが、何かが分からない | 意味への結び付きなどを検討。模写の成功だけで処理段階を確定しない。 |
| 見ても触っても、言葉で説明しても分からない | 意味記憶、言語理解、全般的な認知などへ評価を広げる。 |
表は鑑別のための問いであり、自動診断表ではありません。「統覚型」「連合型」といった分類は考えを整理する助けになりますが、一つの課題だけでは決められません。部分を順に写して正確な模写を完成させても、全体として何を描いているか十分に理解できていないことがあります。 [5] [6]
同じ物を何度も示すと、直前の答えや説明を覚えている可能性があります。触覚を先に行ったか、視覚を先に行ったか、名前を伝えたかを残します。触覚で判断する条件も、感覚障害や手の操作の影響を受けます。
06 顔・色・文字|「分からない」の中身を分ける。

顔:名前、見覚え、人物の知識は同じではない
「名前が出ない」と「誰か分からない」は区別します。見覚えがあるか、人物に関する説明ができるか、声など別の手がかりで分かるかも参考になります。そもそも病前から知らない人物の写真で答えられなくても、その反応だけでは相貌認知の障害を示せません。
これは熟知相貌検査部分の改訂版です。若い世代で人物へのなじみが乏しくなる問題を踏まえて開発されました。学会は、ver.1の熟知相貌検査を実施し、困難と判断した場合の適用を案内しています。使用する版と適用手順を確認し、旧版と混ぜて採点しないでください。 [2]
色:見分けられないのか、名前が出ないのか
色同士の違いを判断すること、色の名前を答えること、言われた色を選ぶことは、要求が異なります。言語の影響と色の知覚を分けて考えます。生活支援でも、色の理解を確かめずに「赤い目印を付ければ分かる」と決めないようにします。
文字・記号:視覚と読みの両方をみる
文字が見えていても、読む・意味を理解する段階で難しさが生じます。文字を大きくするだけで変わるのか、音声なら理解できるのか、混み合った紙面で悪化するのかを、正式検査後の追加観察として確かめます。文字ラベルを支援に使う際は、実際に読めて理解できることを確認します。
07 採点・カットオフ|高い得点が良いとは限らない。
VPTAでは、誤反応や遅延反応に点が付くため、得点の増加を改善と読まないことが重要です。2026年の臨床報告でも、正答0点、遅延反応1点、誤答・無反応2点という採点が説明されています。 [5]
| 採点を理解する基本例 | 読み方 |
|---|---|
| 0点:正答 | その課題の規定条件で正しく反応した。 |
| 1点:遅延反応 | 正答でも、規定の時間に関する条件に該当する。 |
| 2点:誤答・無反応 | 規定に沿って誤反応として扱う。 |
これは採点の方向を理解する説明です。全項目へ独自に一律適用しないでください。項目別の時間、反応の扱い、誤りの判定は正規マニュアルで確認します。未実施を自動的に0点にすることも、無反応として2点にすることも避けます。
本記事で確認した公開資料からは、VPTA全体を一つの合計点で診断する普遍的なカットオフは提示できません。正規の項目別基準・プロフィールと照合し、対象者の年齢など、その基準の適用条件を確認します。合計点の独自基準や他検査のカットオフを流用しません。
プロフィールは、数値と反応内容を一緒に読む
- 実施範囲:未実施・中断項目がないかを先に確認する。
- 得点の方向:誤り点なのか正答数なのか、分母の意味まで書く。
- 領域間の違い:物体だけか、顔・色・空間などにも広がるか。
- 条件:理解、視野、注意、運動、疲労で説明できる部分はないか。
- 生活との対応:点数の変化と、普段の困りごとが同じ方向に変わったか。
学会はプロフィール自動作成ソフトを公開しています。これは正式採点後の集計結果を図示するためのもので、検査図版やマニュアルの代用品ではありません。利用時は公式ページの使用許諾と説明を確認してください。 [1]
08 結果の読み方|架空の3例で考える。
以下は臨床推論を説明する架空例です。正式な刺激・得点例の転載ではなく、この記述だけで診断を確定するものではありません。
目の前の道具の名前が出ない一方、用途は具体的に説明でき、同じ物も選べます。まず呼称と対象の認識を分け、他の言語課題と照合します。「物の名前が出なかった」だけを根拠に物体失認としません。
視覚では形の部分的な説明にとどまりますが、触ると対象を判断できます。視覚の基礎条件、形の処理、物体認知を詳しく調べます。生活では、安全に触って確認する方法が利用できるかを別に観察します。
物を一つずつ示すと分かるのに、洗面台で複数の物が並ぶと選べません。混み合い、注意配分、探索、視野などの影響を検討します。物体認知の一領域だけで結論を出さず、配置や提示数を変えた生活観察につなげます。
再評価では、正答・誤答の変化だけでなく「時間をかければ分かるようになった」「必要な手がかりが減った」といった過程も残します。ただし、練習した刺激の記憶による成功と、未練習の対象や生活への広がりは分けて評価します。
09 他の検査と、何を補い合うか。
スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
| 評価 | 主な役割 | VPTAと併用する視点 |
|---|---|---|
| BIT・CBS | 無視の課題成績・生活上の影響 | 片側へ注意が向かないための見落としか、対象の認識の問題か。 |
| CAT-R | 注意機能の評価 | 反応の不安定さ、持続・選択などの影響を検討。 |
| SLTAなどの言語評価 | 理解・呼称・読みなど | 見て分からないのか、言葉にできないのかを検討。 |
| 記憶・全般認知の評価 | 学習、保持、認知の全体像 | 人物・道順の知識や記憶などの影響を照合。 |
| 眼科・神経眼科的評価 | 視力、視野、眼球運動など | 高次視知覚の前提となる入力条件を確認。 |
表は目的に応じた組合せの考え方です。すべてを毎回一律に実施する提案ではありません。検査ごとに対象とする機能が異なるため、得点の換算や合否の代用はできません。全般的な認知スクリーニングが良好でも、特定の視覚認知の問題は別に確かめます。
10 生活への応用|使える手がかりを選ぶ。

以下は正式採点とは別に行う、支援を検討するための例です。本人の保たれた機能を確認し、一つずつ変更して効果をみます。
| 生活場面 | 試す支援と確認点 |
|---|---|
| 洗面・食事 | 必要な物を絞る、置き場所を一定にする。配置が変わった場合も使えるか確認。 |
| 物の識別 | 安全な物で触覚・音・用途の説明を併用。熱い物や鋭利な物で試さない。 |
| 人の識別 | 会うときに名乗る、声で確認する。名札は読字と理解が可能な場合に使う。 |
| 色の手がかり | 色だけに頼らず、位置・形・言葉など理解できる情報を組み合わせる。 |
| 道順・外出 | 本人が認識できる目印を選ぶ。実際の経路で同行して確認し、地図を渡すだけで完了としない。 |
「単独の道具は判断できますが、複数が並ぶと探索が止まります。正式検査では提示条件と反応時間を記録しました。洗面では必要な物を一つずつ置くと開始できたため、次回は配置を一定にした状態でも自分で選べるか確認します。」
評価結果だけで運転や単独外出の可否を判断しません。視野・注意・認知の全体像と実際の安全性を含め、目的に応じた評価につなげます。
11 近年の研究を、どこまで臨床に使うか。
Pelakの総説は、眼の病気に似た訴えから高次視覚機能障害を見つけること、視覚系の機能と症状を対応させて評価することを整理しています。VPTAの新しいカットオフを検証した論文ではありません。 [4]
Behrmannは、長期間検討された一症例を通して、行動検査と構造・機能画像を組み合わせる意義を論じています。標準検査の成績に、処理過程を確かめる追加課題を重ねる考え方が参考になります。単一症例からすべての失認の病態を決めることはできません。 [6]
畑添らは顔の特徴を手がかりにする訓練後、顔認知課題とVPTA相貌認知項目で改善を報告しました。個別の支援を考える材料になりますが、一症例の結果であり、自然経過や反復の影響を分離した大規模試験ではありません。VPTA全体の診断精度を示した研究でもありません。 [5]
Gobboらの系統的レビューには17論文が含まれています。認知過程に応じた訓練の可能性が示される一方、研究数や出版バイアスなどの課題があり、すべての患者に共通する一つの訓練法を確立したものではありません。 [7]
本記事では、公開資料で確認できなかったVPTAの感度・特異度、合計点の普遍的カットオフ、最小臨床的重要差を補って作成していません。研究の新しさと、標準検査の採点規則の更新は別に確認します。
12 PDF|検査結果を、生活の支援へ整理する。
独自の「臨床整理・共有メモ」を用意しました。実施条件、観察した反応、他の手がかりでの変化、生活上の支援を記入できます。正式な評価用紙の代替ではなく、採点欄や基準値の再現はしていません。
正式な検査材料・プロフィール作成は日本高次脳機能学会のVPTA案内をご確認ください。本記事・イラスト・メモは独自制作で、学会・検査開発者の監修や承認を意味しません。
参考文献・正規資料
- 日本高次脳機能学会.標準高次視知覚検査(VPTA).公式案内・出版経過・プロフィール自動作成ソフトウェア.
資料を読む - 日本高次脳機能学会.標準高次視知覚検査 熟知相貌検査第2版(VPTA-FFT ver.2).公式案内.
資料を読む - 鈴木匡子.失認.神経心理学.2025;41(2):54–61. doi:10.20584/neuropsychology.17245.
資料を読む - Pelak VS. Disorders of Higher-order Visual Function. Continuum (Minneap Minn). 2025;31(2):543–565. doi:10.1212/CONT.0000000000001555.
PubMedで読む - 畑添涼,田尻裕理,水本豪,佐藤達矢.相貌失認1症例に対する知覚的訓練の効果―顔の特徴を手がかりにした訓練の有効性―.高次脳機能研究.2026;46(1):1–23. doi:10.2496/hbfr.46.1.
資料を読む - Behrmann M. Visual agnosia in the era of behavioral and neural investigations. Neuropsychologia. 221:109299(オンライン公開2025年11月5日/巻号発行2026年1月). doi:10.1016/j.neuropsychologia.2025.109299.
資料を読む - Gobbo S, Calati R, Silveri MC, Pini E, Daini R. The rehabilitation of object agnosia and prosopagnosia: A systematic review. Restor Neurol Neurosci. 2022;40(4–6):217–240. doi:10.3233/RNN-211234.
PubMedで読む - 日本高次脳機能障害学会 編.標準高次視知覚検査マニュアル 改訂第1版.新興医学出版社,2003.実施・採点・基準資料は正規マニュアルを参照.
資料を読む
文献7の抄録は著者所属機関の公開ページでも確認できます。マニュアル全文の確認を前提とする具体的な教示・時間基準は、本記事では再構成していません。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)