思春期の子の運動・協調の悩み|思春期だからこそできる支援
思春期の子の運動・協調の悩み|思春期だからこそできる支援
体育、部活、書字、通学、身だしなみ。思春期になると、幼少期には目立ちにくかった「運動のぎこちなさ」や「協調の苦手さ」が、生活の中で急に浮かび上がることがあります。けれど思春期は、本人が自分の体を理解し、戦略を学び直せる大切な時期でもあります。

思春期に、見えやすくなる困りごと。
体育の球技でボールをうまく捕れない。走り方がぎこちない。ノートを取るのが遅く、提出物に時間がかかる。部活では周囲の動きについていけず、「自分だけできない」と感じている。
思春期になると、運動や協調の苦手さは、単なる「不器用」では済まなくなります。友人関係、自己肯定感、進路、生活の自立に関わり、本人の心の負担として表れやすくなります。
幼少期の「少し不器用」「運動が苦手」という様子は、周囲のサポートで目立ちにくいことがあります。しかし、思春期に入ると、生活や学校で求められる動作が複雑になります。体育ではチームスポーツが増え、部活ではスピードやタイミングが求められ、学習では書く量や提出物が増えます。身だしなみ、通学、自転車、調理、荷物管理など、生活の中でも「自分で段取りよく動く力」が必要になります。
そのため、思春期の運動・協調の悩みは、運動そのものだけでなく、学校生活・友人関係・自己理解・将来の自立とつながって考える必要があります。

運動・協調とは、何を指すのか。
協調とは、複数の体の部分を、目的に合わせてタイミングよく使う力です。たとえばボールを捕るだけでも、目でボールの速さを読み、足で位置を合わせ、体幹で姿勢を保ち、腕を出し、手の形を作り、衝撃に合わせて力を調整しています。
つまり協調の苦手さは、「運動神経が悪い」という一言では説明できません。姿勢、バランス、筋力、柔軟性、目と手足の連携、感覚の受け取り方、動作の計画、注意、スピードと正確さの調整など、いくつもの要素が関係しています。

思春期に、なぜ難しくなるのか。
思春期は、身長や体重が大きく変わる時期です。手足が長くなり、重心が変わり、筋力や柔軟性のバランスも変化します。これまで何となくできていた動作でも、体のサイズが変わることで、以前と同じ感覚では動かしにくくなることがあります。
さらに、思春期の運動場面は複雑です。小学校低学年のように「走る」「投げる」「跳ぶ」を単独で行うのではなく、相手を見ながら動く、チームの中で判断する、スピードを上げる、失敗が周囲に見られるといった要素が加わります。そのため、運動・協調の苦手さが、心理的な負担と結びつきやすくなります。
| 思春期の変化 | 起こりやすい困りごと | 支援の視点 |
|---|---|---|
| 成長スパート | 手足の長さや重心が変わり、動きがぎこちなくなる | 姿勢・重心移動・ステップ幅を確認する |
| 学校課題の複雑化 | ノートが遅い、提出物に時間がかかる、荷物管理が難しい | 手作業・段取り・代替手段を整理する |
| 対人比較の増加 | 体育や部活で失敗が見られることへの不安が強い | 本人の尊厳とプライバシーを守る |
| 自立課題の増加 | 通学、自転車、調理、身だしなみ、時間管理で困る | 生活に直結する目標を本人と決める |
DCD・発達特性との関係。
思春期の運動・協調の悩みの背景として、発達性協調運動症、いわゆるDCDが関係していることがあります。DCDでは、知的な理解とは別に、年齢に応じた運動技能の獲得や、日常生活・学校生活で必要な動作の実行に困難が生じます。
ただし、運動が苦手というだけでDCDと判断することはできません。視力、前庭感覚、筋力、関節の柔らかさ、神経疾患、整形外科的な問題、不安、ADHDやASDの特性、これまでの運動経験など、似た困りごとを生む要因は複数あります。医師や専門職による評価が大切です。
本人は怠けているのではなく、動作の計画、感覚の受け取り方、姿勢の安定、力加減、周囲を見ながら動くことなど、複数の要素で困っている可能性があります。背景を整理することで、支援の方向性が見えやすくなります。

— 苦手な動作を責めず、できる条件と練習方法を一緒に整理します
STROKE LABでは、運動の得意・不得意だけでなく、姿勢、バランス、感覚、協調、学校生活、本人の希望まで含めて評価します。思春期の子に合う、納得感のある練習と生活支援を一緒に考えます。
見分け方と評価の視点。
思春期の運動・協調の悩みでは、「何ができないか」だけでなく、「どんな条件ならできるか」を見ることが重要です。体育では難しいけれど個別練習ならできるのか、スピードを落とせばできるのか、見本があればできるのか、口頭説明だけでは難しいのか。条件を分けることで、支援の方向性が見えてきます。
| 見たい視点 | 確認すること | 支援につながる見方 |
|---|---|---|
| 姿勢・体幹 | 座位・立位・片脚立ち・歩行・走行で体が崩れないか | 手足の不器用さの前に、土台の安定を確認する |
| バランス・重心移動 | 方向転換、ジャンプ、階段、自転車、球技での切り返し | 転びやすさや動きの遅れの背景を分ける |
| 目と手足の協調 | ボール、書字、楽器、調理、工作、PC操作 | 見て分かることと、体で再現することの差を見る |
| スピードと正確さ | ゆっくりならできるが、急ぐと崩れるか | 時間調整や事前練習の必要性を考える |
| 心理・参加 | 避けている活動、失敗への不安、自己評価の低下 | 運動能力だけでなく、参加しやすさを目標にする |
思春期だからこそできる支援。
思春期の支援で大切なのは、本人を子ども扱いしないことです。本人は、できないことをよく分かっています。むしろ大人が思う以上に、失敗体験や周囲との比較を気にしていることがあります。だからこそ、「頑張ればできる」ではなく、「どうすればできる条件を作れるか」を一緒に考える必要があります。
思春期には、自分の体の使い方を言葉で理解したり、練習の目的を納得したり、振り返って方法を変えたりする力が育っています。これは大きな強みです。幼児期のように大人が誘導するだけでなく、本人が「自分の動きを分析する力」を育てる支援が可能になります。

「体育で恥ずかしくないようにしたい」「自転車で通学したい」「ノートを速く取りたい」など、本人が困っている生活場面を目標にします。
姿勢、見る場所、足の位置、腕の出し方、力加減、タイミングを分けて考えます。本人が理解できる言葉で、動作のコツを整理します。
いきなり本番に近い難しい環境で行わず、スピード、距離、道具、周囲の刺激を調整します。成功しやすい条件から段階的に練習します。
「何がうまくいったか」「どこで崩れたか」「次は何を変えるか」を本人と一緒に確認します。自分で調整できる力を育てます。
家庭での関わり方。
思春期の子に対して、親が「もっと練習しなさい」「なんでできないの」と言うほど、本人は動きにくくなることがあります。思春期では、自分の苦手さを周囲に知られたくない気持ち、自分で決めたい気持ち、親に指摘されたくない気持ちが強くなります。
家庭で大切なのは、本人の困りごとを聞き、選択肢を提示し、本人が選べる形にすることです。「これをやりなさい」ではなく、「体育の準備を楽にする方法を一緒に考える?」「自転車の練習を人の少ない場所で試す?」「書字が大変ならPC入力も含めて考える?」というように、本人の主体性を残します。

まずは「できないこと」ではなく、「困っている場面」を聞きます。体育そのものが嫌なのか、球技が嫌なのか、着替えの遅さが嫌なのか、友達に見られることが嫌なのかで、支援は変わります。
家庭練習は短く、本人が選んだ目標に絞ります。たとえば「毎日30分運動」ではなく、「自転車の発進だけ5分」「ボールを捕る前の足の位置だけ」「書く前の姿勢だけ」と分けます。
本人のプライドを守ることも支援です。兄弟や友人の前で指摘しない、人前で練習を強制しない、できたことを大げさに褒めすぎないなど、思春期ならではの配慮が必要です。
学校・部活での支援。
学校生活では、本人の努力だけで解決しようとすると、失敗体験が増えてしまうことがあります。特に思春期では、周囲との比較や恥ずかしさが強く、体育や部活を避けることで二次的に体力や自己肯定感が低下することがあります。
学校や部活での支援は、「特別扱い」ではなく、参加しやすくするための環境調整です。本人が安心して挑戦できる条件を作ることで、運動や生活への参加が広がります。
| 場面 | 困りごと | 支援の例 |
|---|---|---|
| 体育 | 球技、集団競技、跳び箱、マット運動で失敗が目立つ | 事前練習、役割調整、見本動画、評価方法の配慮 |
| 書字・学習 | 板書が遅い、手が疲れる、ノートが乱れる | プリント配布、撮影許可、PC・タブレット入力、提出時間調整 |
| 部活 | 練習量についていけない、動きの習得に時間がかかる | 個別の反復、役割の選択、疲労管理、成功しやすい種目選び |
| 生活・通学 | 自転車、荷物管理、時間管理、着替え、身だしなみ | 手順化、道具の配置、チェックリスト、練習環境の安全確保 |
苦手な動作を全て避けるのではなく、本人が参加できる条件を作ることが大切です。参加できると、経験量が増え、成功体験が積み重なり、結果として運動学習につながりやすくなります。
相談の目安。
運動が苦手でも、本人が困っておらず、生活や学校への影響が少ない場合は、必ずしも専門的な支援が必要とは限りません。一方で、本人が強く悩んでいる、学校生活や自立に影響している、または体の状態に気になるサインがある場合は、相談を検討してください。
相談先としては、かかりつけの小児科、発達相談、学校の担任や養護教諭、スクールカウンセラー、作業療法士・理学療法士などが考えられます。急な悪化、痛み、しびれ、筋力低下、左右差がある場合は、まず医療機関での確認が必要です。
よくある質問。
改善の可能性はあります。思春期は、自分の体の使い方を理解し、目標を決めて練習できる時期です。単に反復するのではなく、本人が困っている動作を分解し、目標・計画・実行・振り返りを行うことで、生活で使える動作戦略を身につけやすくなります。
運動不足だけで説明できない場合があります。姿勢の安定、バランス、力加減、タイミング、目と手足の協調、周囲の動きを読む力など、複数の要素が関係します。努力しているのにうまくいかない場合は、動作を分解して見ることが大切です。
家庭だけで判断することはできません。DCDは、日常生活や学校生活への影響、発達歴、標準化された運動評価、医師による神経・筋・視覚などの確認を含めて総合的に判断されます。気になる場合は、小児科や発達相談、作業療法士・理学療法士に相談してください。
思春期では、本人の納得感とプライバシーがとても重要です。親が一方的に練習内容を決めるよりも、本人が困っている場面を一緒に整理し、本人が選べる形で小さな目標を設定することが有効です。
体育、書字、提出物、移動、着替え、部活など、どの場面で何に時間がかかるのかを具体的に伝えます。そのうえで、事前練習、見本提示、時間調整、代替手段、キーボード使用、評価方法の配慮などを相談するとよいでしょう。
STROKE LABの支援。
STROKE LABは、脳卒中をはじめとする神経リハビリで培った動作分析の視点をもとに、小児・思春期のお子さんの運動や生活動作の支援を行っています。運動が苦手という結果だけでなく、なぜその動作が難しいのか、どの条件ならできるのか、どの環境調整が必要なのかを丁寧に整理します。

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支援が遅い時期ではありません。

思春期の子どもは、自分の苦手さをよく分かっています。だからこそ、周囲の大人が「もっと頑張れば」と伝えるだけでは、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。
大切なのは、できない動作を責めることではなく、なぜ難しいのかを一緒に理解し、本人が使える戦略に変えていくことです。
思春期だからこそ、本人の理解力、目標設定力、振り返る力を活かした支援ができます。お子さんの運動や協調の悩みで気になることがあれば、どうぞご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ず小児科医、発達相談、作業療法士・理学療法士などの専門職にご相談ください。急な運動能力の低下、痛み、しびれ、筋力低下、強い左右差などがある場合は、まず医療機関での確認が必要です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)