【2026年版】パーキンソン病のすくみ足 完全解説|評価・治療・リハビリ・脳科学まで
すくみ足は「意志の弱さ」でも「慣れ」の問題でもありません。
脳の歩行制御ネットワークの崩壊が引き起こす神経学的症状です。
正しい評価・治療・脳科学に基づくリハビリで、生活の質は大きく変えられます。
「玄関を出ようとしたら足が動かない」「方向転換のたびにフリーズする」「焦ると余計に体が固まる」——
パーキンソン病のすくみ足(Freezing of Gait:FOG)を経験している方・支える方へ。
このページでは、FOGの病態・評価・治療・リハビリ・脳科学的アプローチを患者目線と専門家目線の両方で徹底解説します。
こんな場面で「足が止まる」経験はありませんか?
玄関・ドア付近で突然止まる
「出かけよう」と一歩踏み出した途端、足が動かなくなる。出発するたびに恐怖を感じ、外出自体を避けるようになった。
方向転換のたびにフリーズ
廊下の曲がり角、狭い空間での回転動作で足が止まる。「回ろうとする瞬間」に体が言うことをきかなくなる。
いつ起きるか分からない恐怖
予測できないから、常に緊張しながら歩く。転倒への恐怖が重なり、気づけば家の中にこもりがちになってしまった。
これらはすべてすくみ足(Freezing of Gait:FOG)の典型的な場面です。
適切な評価・治療・リハビリにより、多くのケースで改善が期待できます。
1. すくみ足(Freezing of Gait)とは
パーキンソン病(PD)は振戦・固縮・動作緩慢・姿勢反射障害を四大症状とする慢性進行性の神経変性疾患です。しかしその影に隠れがちな症状として、すくみ足(Freezing of Gait:FOG)があります。
FOGとは、歩こうという意図があるにもかかわらず、足が前進できなくなる一時的なエピソードです。足が床に固定されたように感じ、数秒から最大1分間、足を持ち上げられなくなることがあります。
🧊 すくみ足の3つの特徴
① 発作性:常に起きているわけではなく、特定の場面で突然出現します。歩き始め・方向転換・狭い空間・目的地到達直前(”destination phenomenon”)などがトリガーになりやすいです。
② 小刻み歩行との合併:FOGエピソード中には「踏みつけ(festination)」と呼ばれる素早く短い足踏みが見られることがあり、これは前進できないが足だけが動いている状態です。
③ 認知・感情との連動:焦り・不安・二重課題(歩行中の会話など)によって著しく悪化します。純粋な運動障害ではなく、認知・情動系の問題でもあることがFOGの複雑さの本質です。
どれくらいの患者に起きるか
PDの診断直後は約7%ですが、罹患期間が延びると急増し、進行期では約50〜80%に認められます。年齢・罹患期間・疾患重症度(UPDRS)・姿勢不安定性とが強く関連します。
転倒・閉じこもりの最大要因
FOGはPDにおける転倒の主要な予測因子であり、歩行自立度・QOL・心理的健康に多大な影響を与えます。転倒恐怖から活動を制限し、廃用→さらなる機能低下という悪循環に陥りやすい点が臨床上の課題です。
2. メカニズムと運動機能への関係
PDの本態は、中脳黒質のドーパミン産生ニューロンの変性・脱落です。ドーパミン欠乏は基底核回路のバランスを崩し、運動開始・維持・切り替えに深刻な支障をきたします。
🔬 大脳基底核とすくみ足の接点
直接路の機能低下:ドーパミンが不足すると、線条体から淡蒼球内節(GPi)への直接路の抑制が弱まります。GPiが過活動となり視床を過剰に抑制→運動皮質への出力が低下し、運動の開始・維持が困難になります。
被蓋脚部核(PPN)の関与:歩行の律動生成に関わるPPNへの出力異常がFOGと強く関連することが示されています。PPNは脊髄の歩行パターン発生器(CPG)へ信号を送る中継核であり、ここの機能不全が「歩行パターンの一時的な崩壊」=すくみ足として現れると考えられています。
前頭葉・補足運動野(SMA):自発的な運動開始に関わるSMAの機能低下が、特に「動き出し」のすくみに関与します。SMAはシーケンシャルな運動プログラムを実行する役割を持ち、PDではこの機能が障害されます。
FOGエピソード中の歩行変化
- 歩幅の急激な短縮(→踏みつけ歩行へ移行)
- 歩幅変動の増加(歩行の不規則化)
- 体幹の前傾・重心前方移動による転倒リスクの増大
- 上半身と下半身の協調性崩壊(腕振りの消失)
- Cue(視覚・聴覚的手がかり)によって一時的に改善することがある
⚠ 「オフ期すくみ」と「オン期すくみ」の違い
FOGにはドーパミン薬の血中濃度が低下した「オフ期」に起きるものと、薬が効いている「オン期」にも起きるものがあります。オン期のFOGは薬物療法で改善しにくく、リハビリの役割が特に重要になります。担当患者がどちらのタイプか見極めることが治療戦略の分岐点です。
3. 評価方法と現在の限界
FOGの評価は、その発作性・環境依存性・主観性のために困難を伴います。複数の評価手段を組み合わせることが臨床的に推奨されます。
評価方法
| 評価ツール | 特徴と使用場面 |
|---|---|
| FOG-Q(Freezing of Gait Questionnaire) | FOGの重症度・頻度・日常生活への影響を測定する自己報告式質問紙(6項目)。スクリーニングと経過観察に有用。ただし想起バイアスあり。 |
| UPDRS(統一パーキンソン病評価尺度) | 歩行・バランスを含む多面的評価スケール。PDの標準評価だが、FOGの特異的評価としては感度不足。MDS-UPDRSに改訂版あり。 |
| 直接観察(臨床歩行評価) | 方向転換・狭い空間の通過・二重課題(歩行+計算)などFOGを誘発しやすい課題を実施し、直接観察する。再現性が課題。 |
| ウェアラブルセンサー | 加速度計・ジャイロを搭載したデバイスで歩行速度・歩幅・FOGエピソードを客観的かつ連続的に記録。日常生活下のデータ取得が可能。 |
| 歩行解析(モーションキャプチャー) | 三次元動作解析・床反力・EMGを組み合わせた詳細な運動学的評価。研究・専門施設向けで臨床普及は限定的。 |
現在の評価の限界
| 制限事項 | 内容 |
|---|---|
| 主観性・想起バイアス | FOG-Qは患者の自己認識に依存するため、軽症例やアウェアネスが低い患者では過小評価されやすい。 |
| 発作性・再現性の問題 | 臨床検査中にFOGが出現しない場合も多く、重症度・頻度の正確な評価が困難。 |
| 環境の影響 | 臨床室のような整然とした空間ではFOGが誘発されにくく、自宅・屋外など実生活環境との乖離が大きい。 |
| 認知・感情との交絡 | 不安・二重課題によって著しく変動するため、運動機能の評価単独では正確な重症度把握が困難。 |
💡 臨床のポイント:初診時に「どんな場面でよく止まりますか?」と具体的に聞くことが最も重要です。方向転換・狭い通路・目的地到達直前・急がされる場面——これらのどれが強く出るかを把握することが、その後の介入選択を左右します。
4. 治療方法
FOGの治療は薬物・リハビリ・補助装置・外科的介入を組み合わせた多面的アプローチが必要です。患者ごとに「オフ期FOG」か「オン期FOG」かを見極めた上で戦略を立てることが成功の鍵です。
ドーパミン補充が基本戦略
カルビドパ・レボドパ(L-DOPA)はPDの主軸薬であり、オフ期FOGの改善に有効です。投与タイミングと用量の最適化(”wearing-off”対策)がFOG軽減に直結します。MAO-B阻害薬(セレギリン・ラサギリン)やCOMT阻害薬(エンタカポン)も、ドーパミン作用の延長によってオフ期の短縮に寄与します。
注意:オン期FOGはドーパミン補充では改善しないことが多く、過剰投与による悪化例もあるため、FOGのタイプ鑑別が必須です。
外部からの手がかりでバイパスを作る
FOGの本質のひとつは「自動的な歩行プログラムの崩壊」です。外部Cueはこの崩壊した内部プログラムを迂回し、補助運動野(SMA)を外側前頭皮質経由で活性化するルートを提供します。
- 視覚Cue:床のテープ・レーザーポインター杖が投影する光の線。患者にその線を「またぐ」よう意識させることでFOGを解除できる。
- 聴覚Cue:メトロノームのビートに合わせた歩行(リズミック聴覚刺激:RAS)。歩行速度・歩幅の改善にエビデンスあり。
- 振動Cue:振動デバイスを足首などに装着し、リズム刺激を体性感覚として入力する方法。
深部脳刺激療法(DBS)
視床下核(STN)または淡蒼球内節(GPi)への電極植込みによる神経刺激療法。運動症状全般の改善に有効で、オフ期FOGにも一定の効果があります。ただしオン期FOGへの効果は限定的で、被蓋脚部核(PPN)へのDBS適応についても研究が進んでいます。適応は薬物療法が効果不十分な進行例に限られます。
治療に関するYouTube解説動画
5. リハビリテーション ― PT・OTによるアプローチ
FOGのリハビリは薬物療法と並ぶ主軸治療です。療法士はFOGの誘発因子・パターン・環境要因を丁寧に評価し、患者個別の戦略を組み立てます。
歩行制御と転倒予防の強化
- 歩行訓練:リズミック聴覚刺激(メトロノーム)や視覚Cue(床のライン)を用いた歩行練習。意識的注意戦略(”Attention strategy”)の獲得
- バランス訓練:静的・動的バランスの強化。特に方向転換時・狭い空間でのバランス制御に焦点を当てる
- 二重課題訓練:歩行+認知課題(数える・会話など)の同時遂行練習。FOGの多くが二重課題下で悪化するため、段階的な訓練が有効
- 環境調整:自宅の動線評価・カーペット除去・廊下幅の確保・手すり設置。FOG発生場所の”ホットスポット”を特定し環境側から介入
日常生活活動(ADL)への統合
- ADL中のFOG管理戦略:座→立ちの移行・狭い空間の移動・玄関での靴の着脱など、日常のトリガー場面に特化した練習
- 認知戦略の指導:「大股で歩く」「足を高く上げる」などの意識的注意戦略を日常場面に般化させるセルフマネジメント指導
- 補助具の選定:杖・レーザーCue付き歩行補助具・振動デバイスの適切な選定と使用訓練
- 介護者・家族教育:FOGエピソード時に周囲がどう対応するか(焦らせない・触れない・リズムを取る)の指導
🤝 PT・OT連携の重要性
FOGの治療で最も効果的なのは、PTとOTが独立して動くのではなく統一されたゴールと戦略を共有したチームアプローチです。PTが改善した歩行パターンをOTがADL場面に統合し、習慣化を促す——この連携サイクルが最終的なQOL改善につながります。さらに、服薬タイミングとリハビリスケジュールの調整(オン期にセッションを設定する等)には神経内科医との連携も不可欠です。
6. 最新の研究と今後の可能性
FOGの研究は急速に進化しており、神経科学・テクノロジー・人工知能の融合が新たな地平を開きつつあります。
fMRI・PETによる脳活動の解明
FOGエピソード中の脳活動をfMRIやPETで可視化することで、基底核・SMA・前頭前野・PPNのネットワーク異常が詳細に解明されつつあります。これは疾患メカニズムの理解だけでなく、「どの脳部位に刺激や訓練を向けるか」という治療ターゲットの特定につながります。
FOGの予測と個別化介入
ウェアラブルデバイスのデータに機械学習を適用し、FOGエピソードを発生前に予測して警告するシステムの開発が進んでいます。患者が事前に戦略を取れるようになれば、転倒の大幅な減少が期待されます。さらにAIを活用した個別リハビリプログラムの最適化も注目されています。
経頭蓋磁気刺激(TMS)・tDCS
SMAや前頭前野への非侵襲的脳刺激が、FOGに関連する神経回路を再調整する可能性が研究されています。DBSとは異なり外科的手技が不要であり、リハビリとの組み合わせ(プライミング効果)に期待が集まっています。
リアルタイムフィードバック
加速度計内蔵の靴・スマートウォッチ・振動デバイスが、歩行の乱れを検知して即座にCueを提供する製品が実用化段階に入りつつあります。施設外での日常生活サポートとして、今後の普及が見込まれます。
ここまでお読みいただいた方へ
ここからは「実際のリハビリ場面」に踏み込みます
Stop&Goウォーキングの具体的な展開例・脳科学的意義・
臨床で陥りやすいミスまでを解説します。
7. 患者さんからの質問 ― 停止制御の問題に答える
パーキンソン病ですが、歩行を始める際や停止する際にうまく制御できず、バランスを崩してしまいます。特に停止する際に、すぐに足が止まらず前のめりになってしまうことが多いです。何か効果的な方法やコツがあれば教えていただきたいです。
患者様より
上記の質問に対して、STROKE LAB代表・金子唯史が執筆する「脳の機能解剖とリハビリテーション」(2024年秋、医学書院)の内容をもとに、具体的なトレーニングを解説します。

💡 「止まれない」問題への理解
「止まる」という行為は、実は高度な運動制御を必要とします。歩行中の慣性を止めるには、運動の抑制指令をタイムリーに出す必要があります。PDでは基底核の直接路(運動促進)と間接路(運動抑制)のバランスが崩れているため、「動き始め」だけでなく「動き終わり」にも問題が生じます。Stop&Goウォーキングはこの「止まる」制御を繰り返し練習することで、運動制御ネットワークを再教育するアプローチです。
8. Stop&Goウォーキング ― 具体的な展開例

以下は、療法士・佐藤さんと患者・田中さん(60代男性、PD罹患3年)の実際のリハビリセッション例です。
場面:明るいリハビリテーションルーム。自宅でも応用可能。
佐藤PT:「田中さん、今日はStop&Goウォーキングをやってみましょう。まず軽いストレッチで体をほぐします。肩を回して、足も伸ばしてみましょう。」
→ 肩回し・下肢ストレッチを3〜5分。動作の準備だけでなく、注意を身体に向けさせる目的も担います。
場面:廊下。床に目立つ色のテープで目印を設置。
佐藤PT:「直線を歩いてください。私が『ストップ』と言ったら、その場で止まってください。」
田中さん:ゆっくりと歩き始める。数歩後…
佐藤PT:「ストップ!」→ 田中さんは足を止め、静止。
佐藤PT:「とても良いですね。その場で数秒キープしてみましょう。」
💡 停止後に「数秒間の静止保持」を加えることで、重心制御の練習と転倒予防の両立ができます。最初は大股で始め、慣れたら少しずつ速度を上げます。
場面:廊下にテープでマークしたターンポイント。
佐藤PT:「次のポイントで『ターン』と言ったら、90度右に曲がってください。一歩立ち止まってから曲がってもOKです。」
佐藤PT(ターンポイントで):「ターン!」→ 田中さんは一拍置いてから慎重に方向転換。
💡 方向転換は「止まる→向く→歩く」の3ステップに分解することで、すくみ足の最大トリガーを安全にコントロールできます。
佐藤PT:「今度は少し早く歩いてみましょう。ストップの後、またすぐ歩き始める練習をします。」
佐藤PT:「ストップ!」→「歩いてください。」
「再開が少し遅くなっても大丈夫。焦らず、一拍置いてから動き始めましょう。」
佐藤PT:「今日の練習はとても良かったです。特に方向転換が安定していましたね。自宅でも廊下にテープを1本貼って、毎日5分だけやってみましょう。テープは緑色がおすすめです(後述の論文参照)。」
田中さん:「分かりました。次も頑張ります。」
Stop&Goウォーキングの脳科学的意義
線条体の再活性化
尾状核・被殻(線条体)は運動開始と停止の切り替えに中心的な役割を担います。Stop&Goの反復練習により、この回路の機能的再編成(Neuroplasticity)が促進されます。
SMA・基底核ネットワークの改善
意図的な停止・再開の練習は、補足運動野(SMA)と基底核の連携を強化します。「内部Cueの欠落」を外部Cueで補いながら反復することで、自発的な歩行制御が徐々に回復します。
前頭前野の活性化
合図への反応・停止・再開という一連の処理は、前頭前野の注意制御機能を活性化させます。二重課題(歩行+指示への反応)として機能するため、認知-運動統合能力の改善が期待されます。
小脳・神経回路の再構築
急停止・方向転換の繰り返しは小脳の姿勢制御ループを鍛え、転倒リスクを軽減します。繰り返し練習によるシナプス強化は、ドーパミン作動性神経回路の代償的再編成にもつながります。
定期的な運動シリーズ ― 自宅でできるエクササイズ
9. 自宅でできる日常の実践 ― セルフマネジメントと環境の工夫
前セクションまでの治療・リハビリを最大限に活かすには、日常生活の中にセルフマネジメントの習慣を根付かせることが不可欠です。ここでは「通院・服薬以外に毎日できること」に絞って解説します。
「すくみゼロ秒」の意識的注意戦略
FOGが起きそうな場面(ドア付近・方向転換・混雑場所)の直前に、「大股で!」「足を高く!」「1・2・1・2!」と自分に声をかけましょう。外部Cueの代わりに内部言語Cueingとして機能し、SMAへの運動指令を補完します。毎日同じフレーズを使うことで自動化されていきます。
服薬タイミングと活動スケジュールの合わせ方
レボドパが効いている「オン期」(服薬後1〜2時間)に外出・運動・重要な活動を計画することで、FOGリスクを大幅に減らせます。活動日誌(時間・FOG有無・服薬タイミング)を2週間記録すると、自分の「オン期パターン」が見えてきます。主治医の処方変更の判断材料にもなります。
自宅環境の「FOGホットスポット」対策
FOGが起きやすい場所を地図に書き出し、優先的に改善します。カーペットの除去・廊下への手すり設置・扉の幅確保・玄関段差の解消が主な対策です。床に緑色(または白・黄色)テープを一定間隔で貼る「視覚Cueライン」は専門家の指導なしでも始められる即効性の高い工夫です。
転倒恐怖・不安への認知行動的アプローチ
「また止まるかも」という予期不安がFOGを悪化させます。「リラックスしてからゆっくり動く」「止まったらパニックにならず、その場で足踏み3回してからスタート」というエスケープルーティンを決めておきましょう。成功体験を積み重ねることで恐怖の強度は徐々に低下します。
家族・同行者への対応マニュアル共有
FOGエピソード中に「引っ張らない・急かさない・大声で叫ばない」ことが重要です。代わりに「1・2・1・2」とゆっくりリズムを取る、肩に軽く触れてリズムを伝える、視線の先に目印となるものを置くなどが効果的です。この対応法をあらかじめ家族と練習しておくと、外出時の安心感も高まります。
毎朝5分の「歩行の質を整える」ルーティン
起床後のFOGリスクが高い時間帯に、ベッドサイドで以下を習慣化します。①腹式呼吸3回(自律神経を整える)②立ち上がる前に足踏み10回(歩行準備)③「大股で!」と声に出してから一歩踏み出す。就寝前の軽いストレッチ(腸腰筋・ふくらはぎ)も翌朝の動き出しに効果的です。
📋 Section 4・5との役割分担について
このセクションは、セクション4(薬物・外科・Cue療法)とセクション5(PT・OTによる専門的リハビリ)を日常生活で実践するための橋渡しとして位置づけています。専門家の指導のもとで身につけた技術を、毎日の生活習慣として定着させることが長期的なFOG管理の鍵です。
10. 新人療法士が陥りやすい8つのミス
FOGのリハビリで経験の浅い療法士が見落としやすいポイントを整理します。臨床の質を上げるための自己点検リストとして活用してください。
| よくあるミス | 正しい視点・対応 |
|---|---|
| ①個別性の無視 全患者に同じプロトコルを適用 |
FOGのトリガー・重症度・認知機能・薬物反応は患者によって大きく異なります。初回評価で「その患者固有のFOGパターン」を丁寧に聞き取ることが出発点です。 |
| ②認知障害の過小評価 純粋な運動問題として捉える |
FOGには認知機能(特に実行機能・注意の分割)が深く絡みます。二重課題での著しい悪化、指示への理解の遅れがある場合は認知評価(MMSE・MoCA)を並行して実施します。 |
| ③恐怖・不安への無関心 身体機能だけに注目する |
転倒恐怖(Falls Efficacy Scale等で評価)がFOGを増悪させます。「安全にできた」という成功体験の積み重ねと、心理的サポートの提供を意識してください。 |
| ④二重課題訓練の欠如 単純歩行訓練のみ実施 |
実生活の多くはシングルタスクではありません。歩行+会話、歩行+持ち物などの二重課題訓練を段階的に導入することで、実用的な改善を引き出せます。 |
| ⑤自宅環境の未評価 院内訓練だけで終わる |
院内と自宅は環境が大きく異なります。可能であれば自宅訪問か、少なくとも間取り・動線・問題場所の写真を患者・家族から収集し、具体的な環境調整提案を行います。 |
| ⑥テクノロジーの活用不足 感覚的な評価・記録のみ |
スマートフォンの加速度計アプリやウェアラブルデバイスを活用すると、歩行速度・歩数・FOG頻度を客観的に記録・比較できます。患者へのフィードバックにも有効です。 |
| ⑦説明不足による動機低下 「とにかくやってください」型の指導 |
「なぜこの練習をするのか」を患者が理解することは、ホームプログラムの継続率に直結します。脳とリハビリの関係を平易に説明する時間を必ず取りましょう。 |
| ⑧多職種連携の軽視 療法士だけで完結しようとする |
服薬調整は神経内科医、心理的サポートは臨床心理士、栄養は管理栄養士——FOGの包括的管理には多職種の専門性が必要です。定期的なカンファレンスで情報を共有します。 |
11. 関連論文サマリー:色の違いによる影響
原著:A pilot study: influence of visual cue color on freezing of gait in persons with Parkinson’s disease. PubMed Mon Bryant, PT et al. (2010)
この論文を読むに至った経緯
パーキンソン病によるすくみ足が出現する患者で自宅での転倒が増加していた。部屋はベッドや家具で狭く、トイレへの動線上に方向転換を要する環境だったが、ご家族の協力を得られず環境変更が困難な状況だった。代償的なCueへの反応は良好だったため、床へのテープ貼付を提案。その際、何色のテープが最も効果的かを調べる必要があり本論文に至った。
赤vs緑vs無光の比較
赤色光・緑色光・光なしの3条件で杖を使用し、歩行と転倒パフォーマンスを比較。抗パーキンソン病薬の「オフ」と「オン」両状態で測定。歩行速度・歩行率・ストライド長・FOGまでの時間と回数を記録(50フィート歩行・360°旋回課題)。
緑色光が全指標で優位
- 薬「オフ」中:緑色光でストライド長が改善(赤色では改善なし)
- 50フィート歩行:赤・無色光より緑色光でFOGが減少
- 360°回転:緑色光でFOG回数・時間・ステップ数が減少
- 薬「オン」中:歩行速度・歩幅が赤色光より緑色光で多く改善
緑色光が歩行を改善し、FOGを軽減する
以前の研究では「白・黄色」が優れるエビデンスが示されており、本論文はそれ以外の色の効果を検証したものです。赤色の方が目を引き興奮性を高めるイメージがありましたが、緑色の方が結果として優れていたことは注目に値します。
臨床的には、発光色(淡い色より鮮やかな発光)が重要で、同じ色でも濃淡によって効果が変わる可能性があります。
色・形状・個別性を考慮したCue設定を
- 他論文では赤が有効との報告もあり、単一論文で結論を出さず複数のエビデンスを参照することが重要
- 緑・白・黄色など複数色を試し、患者ごとの反応性を確認する個別化アプローチが現実的
- テープの形状も「横ライン」だけでなく「足跡型」など、よりリアルなCueの方が反応しやすい患者もいる
- 実際に1週間試用した結果:意識が向いているときはスムーズに歩行できたが、注意が散漫なときは効果が薄く、常に注意を向けさせる工夫が課題として残った
おすすめ記事・参考文献
📌 おすすめ記事 → 【2023年版】パーキンソン病に有効な評価と治療・体操・エクササイズまで!エビデンスの高い運動・体操は?
📄 参考論文 → Freezing of gait: understanding the complexity of an enigmatic phenomenon.
Weiss D, Schoellmann A, Fox MD, Bohnen NI, Factor SA, Nieuwboer A, Hallett M, Lewis SJG. Brain. 2020 Jan 1;143(1):14-30.
Bryant MS, et al. Influence of visual cue color on freezing of gait in persons with Parkinson’s disease. Disabil Rehabil Assist Technol. 2010;5(6):456-461.
Nieuwboer A, et al. Cueing training in the home improves gait-related mobility in Parkinson’s disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2007;78:134-140.
Thaut MH, et al. Rhythmic auditory stimulation in gait training for Parkinson’s disease patients. Mov Disord. 1996;11(2):193-200.
Giladi N, Nieuwboer A. Understanding and treating freezing of gait in parkinsonism. Mov Disord. 2008;23(Suppl 2):S423-425.
Schlenstedt C, et al. Are Stick and Cane Beneficial in Parkinson’s Disease? J Parkinson’s Dis. 2015;5(4):999-1010.
すくみ足のリハビリ、
「なんとなく」で進めていませんか?
すくみ足はただの「歩行問題」ではありません。
基底核・SMA・前頭前野・認知機能——複数の脳領域が絡み合う複雑な現象です。
脳神経リハビリの専門施設として、FOGのタイプを見極め、脳科学に基づく個別プログラムで
一人ひとりの「動ける日常」を取り戻すサポートをしています。



1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)