【2026年版】脳卒中患者の上肢機能の重症度と日常生活での使用頻度、効果的なリハビリアプローチ
学習性不使用は、なぜ起こるのか。重症度別に紐解く麻痺手アプローチ。
麻痺手を「使えるのに使わない」現象には、重症度・感覚・心理という3層が絡んでいます。実生活での使用データと重症度別の臨床アプローチを、エビデンスとともに整理しました。

— 運動麻痺の重症度と実生活での麻痺手使用の関係を整理した概念図(原著論文より)
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
68歳男性。右被殻出血、発症後3ヶ月(回復期から生活期への移行期)。Brunnstrom Recovery Stage 上肢IV、FMA-UE 38/66(中等度)、NIHSS 4点。主訴は「利き手(右)が思うように使えず、家事や食事で左手ばかり使ってしまう」。
初回評価では分離運動が一部可能で、机上でのコップ把持は遂行できるものの、実際の食事場面では「できるのに、しない」状態が観察された。これは典型的な学習性不使用(Learned Non-Use)の像である。
新人のうちは「机上でできた=実生活で使える」と誤解しがちです。しかし机上動作(capacity)と実生活での使用(performance)の間には、しばしば大きなギャップがあります。このギャップを埋める視点こそが、本記事のテーマです。
麻痺手が「使われない」という現象。
実生活場面での麻痺側上肢(UL)使用に関する知見は、パフォーマンスを向上させる治療戦略を立てる上で欠かせません。麻痺手の使用頻度を左右する主要因は、次の4つに整理できます。

| 要因 | 臨床的な意味 |
|---|---|
| 運動麻痺の重症度 | 筋力低下だけでなく、選択的運動の欠如・関節可動域制限が使用頻度を下げます。 |
| 感覚障害 | 触覚・深部感覚の低下は物体操作能力を下げ、使用頻度をさらに減らします。 |
| 心理的要因 | 学習性不使用が特に問題。失敗体験の反復が健側依存の習慣を形成します。 |
| 社会・環境要因 | 麻痺手を使いにくい生活環境や、家族の過剰な介助が使用機会を奪います。 |
慢性期脳卒中片麻痺41例(軽度11・中等度20・重度10)を対象とした横断研究では、重度上肢障害群は実生活場面で麻痺側上肢を自発使用しませんでした。中等度・軽度群では、物品の安定化と操作が主な機能で、指先把持(28.8%)より手全体把持(71.2%)が優位でした(Demartino et al., 2019)。
重症度別に見る「できる課題」の違い

テーブルを支えるなど、重度麻痺患者でも比較的使われる可能性が高い動作です。
カップを持つなど、中等度麻痺患者では部分的に可能ですが、反復練習が必要です。
ボタンを留めるなど、軽度麻痺患者でも完全遂行は困難で、補助具や工夫を要します。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、神経疾患のリハビリに精通したスタッフが、重症度や生活背景に合わせたオーダーメイドプランをご提案します。回数制限のない自費リハビリだからこそ実現できる集中的なアプローチです。
なぜ「使わない」が固定化するのか。
①脳内可塑性の低下:麻痺手を使わないことで、一次運動野・運動前野の対応領域の可塑性が低下し、健側に対応する領域が過剰に活性化します。
②皮質脊髄路の損傷と代償回路:重症度が高いほど皮質脊髄路の損傷が大きく、脳幹経由の代償的運動回路が働きますが、精密な運動制御は難しく使用頻度がさらに制限されます。
③ミラー運動・協調性の欠如:健側と麻痺側が同時に動こうとするミラー運動が強いと、両手協調動作での麻痺手利用がさらに減少します。
「使わない」が神経系を変える:Use-Dependent Plasticity
動物実験レベルでは、手指の使用パターンが一次運動野の身体地図(皮質representation)を変化させることが示されています。これは裏を返せば、「使わない」こと自体が、健側優位の皮質再編成を助長し、学習性不使用を神経学的に固定化させうるということです。
Nudo et al.[観察研究]:Nudo RJ, Milliken GW, Jenkins WM, Merzenich MM. J Neurosci. 1996. サル一次運動野の身体地図が、日常的な手指の使用パターンに応じて再編成されることを示した基礎研究で、臨床における「使わせる介入」の理論的根拠となっています。
「使わない」の裏に隠れる病態。
麻痺手の不使用は学習性不使用だけが原因とは限りません。以下の病態が併存・偽装していないか、必ず確認しましょう。

| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 重度感覚障害 | 麻痺手を使わない | 随意運動は保たれるが位置覚・触覚脱失が優位 | 2点識別覚、Semmes-Weinstein モノフィラメント |
| 半側空間無視 | 患側上肢が視界から外れ不使用に見える | 視空間探索障害の有無、線分二等分課題の偏位 | BIT行動性無視検査 |
| 肩手症候群(CRPS) | 患側上肢の活動性低下 | 疼痛・浮腫・自律神経症状(発赤/発汗)を伴う | 視診・触診、NRS疼痛評価 |
| 観念運動失行 | 動作がぎこちなく不使用に見える | 道具操作・模倣課題での誤り方に特徴的パターン | 動作模倣課題、TULIA等 |
評価尺度と重症度分類。
重症度別アプローチの前提は、正確な重症度分類です。臨床では Brunnstrom Recovery Stage と Fugl-Meyer Assessment(FMA-UE)を組み合わせて用います。

FMA-UEによる重症度分類(完全網羅)
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 重度(Severe) | 上肢66点満点中の合計点 | 0〜18点 | 実生活での自発使用はほぼ期待できない |
| 重度〜中等度(Marked) | 同上 | 19〜38点 | 安定化中心の課題から開始が妥当 |
| 中等度(Moderate) | 同上 | 39〜62点 | 課題指向型訓練の主対象 |
| 軽度(Mild〜None) | 同上 | 63〜66点 | CI療法の適応検討対象 |
重症度分類[観察研究]:Woytowicz EJ et al. Arch Phys Med Rehabil. 2017. クラスター分析によりFMA-UEの5段階重症度分類(None/Mild/Moderate/Marked/Severe)を確立。
MCID[単独RCT]:Page SJ et al. Phys Ther. 2012. 慢性期軽度〜中等度患者において、FMA-UEの臨床的に意味のある最小変化量(MCID)は約4.25〜5.2点と報告されています。
重症度別の介入エビデンス。
重症度に応じた段階的な課題設定が原則です。パラメータ(時間・回数・頻度)まで具体的に押さえておきましょう。

軽擦法・振動刺激・温冷刺激を1回10〜15分、鏡療法は1日15〜20分×週5回を目安に実施。パッシブROM訓練で肩の拘縮を予防します(鏡療法のSR/MA:Thieme et al., Cochrane 2018で麻痺側運動機能改善が示唆)。
カップ把持・タオルたたみなど日常課題を1セッション30〜45分、週3〜5回反復。エラーレス学習で成功体験を優先し、両手協調課題へ段階的に移行します。
健側を1日覚醒時間の90%程度ミトン等で制限し、麻痺手のシェイピング練習を1日3時間×2週間実施。手関節伸展20°以上・手指伸展10°以上が適応条件です(EXCITE試験:Wolf et al., JAMA 2006/SR:Corbetta et al., Cochrane 2015)。
小さな成功でも積極的に称賛し、自己効力感を高めます。週2回以上×3ヶ月の継続が運動学習効果の目安(専門家合意)です。
CI療法[SR/MA]:Corbetta D et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015. 軽度〜中等度麻痺においてADLと運動機能に有意な改善を認めるが、重度麻痺への適応は推奨されない。
鏡療法[SR/MA]:Thieme H et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018. 上肢運動機能とADLの改善に中等度のエビデンスがあり、重度麻痺例への導入手段として位置づけられる。

保険リハビリの時間内で重症度別の細やかな段階設定を行うのは容易ではありません。STROKE LABでは、お一人おひとりの重症度・生活背景に合わせたプログラムを、時間の制約なくご提供しています。
多職種連携と環境調整。
家族・介助者への環境調整の要点
麻痺手を使いやすい環境(テーブルの高さ・物品配置)を整え、家族には「過保護な介助を避ける」ことを具体的に伝えます。麻痺手の使用頻度は、セラピストの介入時間外の生活環境に大きく左右されます。
「家族に『手伝わないでください』とだけ伝えると、不安にさせてしまいます。『ここまではご自分で、ここからはサポートを』と具体的な線引きを一緒に決めるのがコツです。」
「多職種カンファレンスでは、PTが観察した『使えるのに使わない場面』をSTやOTと共有すると、生活場面全体での介入方針が揃いやすくなります。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 姿勢・移乗・両手動作時の代償 | 姿勢制御・体幹安定性の改善 | 上肢課題の土台となる姿勢情報をOTへ共有 |
| OT | FMA-UE、実生活場面の使用頻度 | 課題指向型訓練・CI療法・ADL練習 | 看護師へ病棟内での使用状況を確認 |
| ST | 高次脳機能・意欲・コミュニケーション | 動機づけ支援、目標設定の言語化支援 | 心理的抵抗の兆候をOT/PTへ共有 |
| 看護師 | 病棟生活での麻痺手使用状況 | 日常生活での使用促進・声かけ | 訓練室での到達度をリアルタイムで共有 |
| 医師 | 疼痛・痙縮・全身状態 | 薬物療法(痙縮・疼痛管理)の調整 | 疼痛悪化時は速やかに情報連携 |
| MSW | 退院後の生活環境・介護体制 | 在宅サービス調整、家族支援 | 退院前カンファレンスで環境調整案を共有 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
重症度別アプローチは理屈では分かっても、実際の臨床では判断を誤りやすいポイントがあります。
先輩からのひとこと
「疼痛管理を後回しにしない。肩手症候群が疑われるうちは、どんなに”使わせたい”気持ちがあっても、無理な運動負荷は避けましょう。」
予後とゴール設定。
「発症から〇ヶ月経ったから、もう回復しない」という思い込みは禁物です。慢性期でも上肢機能は改善しうることが報告されています。
上肢機能に焦点を当てたシステマティックレビューでは、発症後6ヶ月以降でもFMA・ARATの有意な改善が報告されており(Hatem et al., 2016)、自然回復曲線の頭打ちを押し上げる技術が複数存在することが示唆されています[SR/MA]。ゴール設定は「重症度別の到達可能な課題」を軸に、定期的に見直しましょう。
よくある質問。
いいえ。実生活での使用頻度は重症度以外に感覚機能・心理的要因・生活環境が影響するため、臨床スコアのみでは十分に予測できません(Demartino et al., 2019)。
麻痺手を使おうとして失敗する経験を繰り返した結果、無意識に健側へ依存する行動パターンが固定化した状態を指します。神経学的な回復余地があっても行動として現れにくくなります。
適していません。手関節伸展20度以上・手指伸展10度以上の随意性が確保できる軽度〜中等度例が主な対象で、重度麻痺には推奨されません(Wolf et al., 2006)。
肩手症候群などの疼痛を最優先で評価します。疼痛が管理できるまで強制的な運動負荷は避け、補助具や姿勢調整で安全に使用機会を確保します。
行動マップによる直接観察や、Motor Activity Log(MAL)などの自己報告尺度を組み合わせて、実際の使用頻度と質を定量化する方法があります。
期待できます。慢性期の患者でも上肢リハビリによりFMAやARATが有意に改善したとの報告があります(Hatem et al., 2016)。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中・パーキンソン病・脊髄損傷など神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。保険リハビリの回数・時間の制約にとらわれず、重症度や生活背景に合わせたオーダーメイドのプログラムをご提供しています。

— 「本気で変わりたい」という思いに、自費リハビリという選択肢で応えます。
— 実際のリハビリで身体がどう変化するかを収めた記録動画
「担当した60代男性、Brunnstrom Stage IV、発症4ヶ月の方で、机の上でカップを支える練習から始めました。最初は非麻痺手に頼る場面が多く、麻痺手はテーブル固定の”添え手”としてしか使えていませんでした。そこで課題を『カップを支えながら健側でスプーンを使う』という両手動作に変更し、麻痺手の役割を安定化から徐々に操作へ広げました。3週間後には食事場面で自発的に麻痺手を使う頻度が明らかに増え、本人も『気づいたら使っていた』と話してくれました。」— 理学療法士・8年目・脳血管疾患専門
「学習性不使用が強い軽度麻痺の方に、いきなりCI療法を提案して健側を制限したところ、強い不安と拒否感を示されました。そこで制限時間を1日1時間からスモールステップで延長し、成功体験を優先する方針に切り替えました。結果、2週間で本人から『もっと制限時間を延ばしてほしい』という発言が出るまでに変化し、モチベーションの土台作りの重要性を痛感しました。」— 作業療法士・5年目・上肢機能リハビリ専門
あわせて読みたい:【2026年版】CI療法におけるシェーピングとトランスファーパッケージ(Transfer Package)の重要性とは?脳卒中上肢リハビリを徹底解説
諦めないでください。

「発症から半年、1年が経ったから、もう変わらない」——そう感じている方に、本当にお伝えしたいことがあります。
脳卒中後の上肢機能は、慢性期であっても改善しうることが、複数の研究で示されています。大切なのは、今の重症度に合った、やりきれる量のリハビリを続けることです。
STROKE LABは、保険の枠にとらわれず、あなたのためだけのオーダーメイドプランをご用意しています。まずは無料相談で、今のお悩みをお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)