同じ話・同じ質問を繰り返すとき|疲れない答え方と仕組み化
何度聞かれても、家族が疲れ切らない仕組みへ。
「今日は病院?」「何時に出るの?」。答えた数分後、また同じ質問が返ってくる。これは、わざと困らせているのではありません。記憶・注意・不安・状況理解の揺らぎが重なると、答えを聞いても分かった状態を保ちにくくなることがあります。説明を増やすより、短く答え、同じ場所で確認し、次の行動へつなぐ流れを作りましょう。
予定とよくある質問の答えを、本人と一緒に見える形へ整えます。
「聞いていない」のではなく、答えが残りにくい。
同じ質問に何度も答える。説明を長くしても、また聞かれる。家族は、自分の言い方が悪いのか、本人が聞く気がないのかと悩みます。
でも、必要なのは説明の量ではありません。答えが残る場所と、そこへ戻る手順です。
反復質問の背景は一つではありません。新しい情報を保持しにくい、会話の途中で注意がそれる、予定変更を理解しにくい、不安を下げるために確認を繰り返す、といった要因が重なります。本人にとっては、答えを聞いたこと自体が薄れたり、答えは覚えていても確信が持てなかったりします。
| 背景 | 生活で見えること | 支援の方向 |
|---|---|---|
| 記憶の保持 | 数分前の答えが薄れ、初めて聞くように質問する | 答えを紙・写真・予定表へ残す |
| 注意の揺らぎ | 会話の一部だけが抜け、確認が増える | 1回1情報、刺激を減らす |
| 不安 | 答えを覚えていても、安心のために再確認する | 同じ声・同じ言葉・同じ確認場所 |
| 状況理解 | 今と次の予定のつながりが分からない | 一日の流れを時間順に見える化 |

短く答え、見える場所へ案内し、次へ進む。
家族が疲れにくい返答は、三つの動きにまとめられます。大切なのは、毎回完璧に優しく説明することではなく、同じ短い流れを繰り返せることです。
「はい、病院は10時30分です」のように、必要な情報を一つだけ返します。
「予定表を一緒に見ましょう」と、確認場所へ移動します。
「今は朝ごはん、その後に準備です」と現在へ戻します。

例:「今日は病院?」→「はい、10時30分です」→「ここに書いてあります」→「今は朝ごはんを食べましょう」
外傷性脳損傷後の記憶リハビリテーションに関するINCOG 2.0ガイドラインでは、中等度から重度の記憶障害に対し、外部記憶補助とその使用訓練が推奨されています。本人に合わせた道具を選び、実際の生活課題で使い方を練習することが重要です。
限界:反復質問だけを直接検証した研究ではありません。予定表を置くだけで自動的に質問が減るのではなく、見る場所と手順を繰り返し学ぶ必要があります。
本人を変えるより、確認しやすい環境を整える。
質問のたびに家族の記憶から答えを出すのではなく、答えが置かれている場所を固定します。今日の予定、よくある質問、次の行動を一か所にまとめると、本人が自分で戻りやすくなります。
| 仕組み | 作り方 | 家族の役割 |
|---|---|---|
| 今日の予定表 | 時刻と行動を大きな文字・写真で表示 | 質問後に同じ場所へ案内 |
| Q&Aカード | 頻度の高い質問と短い答えを対にする | カードの文と同じ言葉で返す |
| 家族の共通フレーズ | 「ここを見ましょう」「次は○○です」 | 表現をそろえ、説明を増やさない |
| 安心の合図 | 言葉・手のサイン・深呼吸などを決める | 不安が強い時に同じ合図を使う |

家族の優しさを、無限の資源にしない。
家族が疲れるのは、愛情が足りないからではありません。同じ質問に答え続け、予定を管理し、感情を抑えることは、大きな認知的・心理的負担です。家族の支援も治療計画の一部として扱う必要があります。
- 答え方を紙に書き、家族内で共有する
- 一人が全て対応せず、時間帯や役割を分ける
- 疲れている時は短く答え、予定表へ案内して会話を終える
- 本人が自分で確認できた回数を記録する
- 怒りが強くなる前に、支援者や専門職へ相談する
国立障害者リハビリテーションセンターも、高次脳機能障害の生活支援では家族が多くの役割を担い、家族支援が必要であることを示しています。家族が持続できる設計にすることは、本人の安心にもつながります。
専門施設では、質問を止めるより「自分で確認する力」を育てる。
ここからは少し専門的な話です。専門施設では、質問の回数だけを数えません。朝、予定変更、外出前、疲労時など、どの場面で繰り返しが起こるかを観察し、記憶・注意・不安・遂行機能・環境の影響を整理します。
| 名前のついた介入 | 何を行うか |
|---|---|
| 機能的行動評価 | 質問の直前、質問後の反応、安心までの流れを観察し、役割を分析する |
| 誤りなし学習 | 迷いが強くなる前に正しい確認場所へ導き、成功した流れを反復する |
| 間隔反復 | 予定や確認ルールを、少しずつ間隔を広げて思い出す |
| 外部記憶補助訓練 | Q&Aカード、予定表、スマホなどを本人が実生活で使えるよう練習する |
| 家族コーチング | 声かけ、待ち方、支援を減らすタイミングを家庭場面に合わせて整える |

私たちは、質問したことを失敗とみなしません。質問の後に予定表へ視線を移せたか、手がかりを減らしても確認できたか、不安が落ち着いたか、家族の負担が下がったかを追います。目標は、聞かない人になることではなく、分からない時に戻れる人になることです。
中等度から重度の認知障害がある後天性脳損傷者を対象とした研究では、支援機器の使用を系統的に教えた群は、試行錯誤で学んだ群より、学習した技能の保持と別の場面への般化で良好な成績を示しました。家庭でも、道具を置くだけでなく、同じ手順で使う練習が重要です。
限界:特定の反復質問を対象にした試験ではなく、支援技術の技能学習に関する研究です。本人の症状と生活場面に合わせた個別化が必要です。
- 質問の回数や混乱が急に増えた
- 眠気、発熱、脱水、意識の変化を伴う
- 新しい麻痺、言葉の障害、強い頭痛などがある
- 不安・怒り・夜間の混乱が強い
- 家族が疲れ切り、対応の継続が難しい
よくある質問
何度も同じ質問をされたら、毎回答えたほうがよいですか?
『さっき言ったでしょう』と伝えるのはよくないですか?
予定表を作っても、本人が見てくれません。
同じ話を繰り返すのは、認知症だからですか?
家族の答え方は、全員そろえたほうがよいですか?
専門施設では、どのようなリハビリを行いますか?
同じ質問に疲れないためには、家族が我慢し続けるのではなく、短い返答、見える手がかり、次の行動を一つの流れにします。本人が自分で確認できる場面が増えるほど、本人の安心と家族の余力が戻ります。


安心して戻れる生活を設計します。
家族の声かけだけで支えると、いつか疲れ切ってしまいます。本人がどこでつまずくのかを評価し、道具・環境・学習・家族支援を組み合わせて、長く続けられる仕組みを一緒に作ります。
代表取締役 金子 唯史
本記事は、高次脳機能障害の公的支援情報と、後天性脳損傷後の記憶リハビリテーション研究をもとに構成しています。反復質問への直接的な研究は限られるため、記憶補償、技能学習、家族支援の知見を生活場面へ慎重に応用しています(最終確認日:2026年7月11日)。
- 国立障害者リハビリテーションセンター:生活支援について知りたい
- 国立障害者リハビリテーションセンター:高次脳機能障害支援マニュアル
- Velikonja D, Ponsford J, Janzen S, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part V: Memory. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):83-102.
- Powell LE, Glang A, Ettel D, et al. Systematic instruction for individuals with acquired brain injury: results of a randomised controlled trial. Neuropsychol Rehabil. 2012;22(1):85-112.
- Wilson BA, Emslie H, Quirk K, Evans J, Watson P. A randomized control trial to evaluate a paging system for people with traumatic brain injury. Brain Inj. 2005;19(11):891-894.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院.2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)