vol.333:パーキンソン病の立ち上がり時の座面からの床反力とは?
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カテゴリー
バイオメカニクス
タイトル
健常被験者とパーキンソン病患者における立ち上がり時の関節トルク Joint torques during sit-to-stand in healthy subjects and people with Parkinson’s disease. ?PubMed Mak MK Clin Biomech (Bristol, Avon). 2003 Mar;18(3):197-206.
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・立ち上がり時の床反力は座面からも生じていると思われるが、床反力計の上に椅子を置き、座面からの床反力を計測した論文を今まで見たことがなかった。本論文は上記床反力を計測しているため、読みたいと思った。
内 容
背景・目的
・椅子からの立ち上がりは安定した座位から比較的不安定な立位への移行であり、下肢体幹の協調した筋収縮が必要である。 ・パーキンソン病患者は連続的・協調的な動きをコントロールすることが難しく、立ち上がりに困難さを訴えることが多い。また、動作開始時にも症状が多いことが知られている。 ・これらの原因として筋力低下と筋の速い収縮ができないことが挙げられている。 ・これとは別に、立ち上がり時の関節モーメントの計測では大腿と椅子の間に発生する床反力を考慮できていないという問題点がある。そのため、現状の論文では離殿後の床反力のみ信頼性のあるデータとなっている。 ・そのほかの関節モーメント計算方法の問題点として、肢節計測方法の不明確さや体幹運動の逸脱、床反力計と動作解析装置の時間的不一致や関節位置を数値化した際のずれなどが挙げられる。 ・本論文の目的は健常成人とパーキンソン病患者の離殿前後の立ち上がり動作における下肢関節モーメントの比較である
方法
・13名の高齢者(健常成人6名、突発性パーキンソン病患者7名 Hoehn and Yahr 2.5–3) ・床反力計の上に肘掛けなしの椅子を置いた。椅子は高さ調節可能で被験者ごとに膝屈曲90°の高さとした。足部はもう一枚の床反力計の上に置いた。 図:実験環境 Mak MK (2003)より引用 ・立ち上がりは自由速度、上肢は胸の前で交差した。被験者は計8回実施した。
結果
図:各床反力計からの垂直、前後方向の床反力 Mak MK (2003)より引用 表:床反力最大値 Mak MK (2003)より引用 健常成人 ・床反力計ABともに動作開始から後方への床反力が見られている。重心の前方移動に関するものと思われる。特にBにおいて大きな後方床反力が得られており、重心前方移動は椅子からの反力が主であることを示唆している。 ・急激な後方成分の床反力が見られた直後、床反力計Aでは下方への床反力が見られ、床反力計Bではわずかな上方成分のあと、離殿とともに消失している。 ・離殿後、床反力計Aでは前方への床反力を記録している。離殿前に前方へ重心が加速した分のブレーキであると思われる。 パーキンソン病患者 ・動作開始前から重心が前後に揺らいでおり、離殿までの時間も健常成人より長い。 ・Bからの床反力後方成分が健常に比べて少なく、どちらかというとAから反力を得て重心前方移動を図っていることがわかる。 ・離殿後の垂直成分を見ると、グラフの形は健常成人とある程度同じと言えるが、下方成分が健常成人より少ないことがわかる。 関節運動 図:関節運動 Mak MK (2003)より引用 表:関節角度・トルク最大値 Mak MK (2003)より引用 ・健常成人では動作開始から頸部と股関節の屈曲が見られ、次いで足関節背屈が生じる。離殿直前から膝関節は大きく伸展し始める。パーキンソン病患者でも同様のグラフの形が得られるが、動作スピードが遅いのがわかる。 関節トルク 図:関節トルク Mak MK (2003)より引用 健常成人 ・動作開始から股関節屈曲と足関節背屈トルク、加えてごくわずかに頸部の屈曲トルクが得られた。 ・股関節伸展、膝関節伸展トルクが屈曲相中間から見られ、離殿とほぼ同時期に伸展トルクのピークに達した。 ・伸展相の終盤、足関節底屈トルクが生じた。 パーキンソン病 ・ある程度健常成人と同様のグラフを呈した。健常成人より遅い動作であることがわかる。 ・股関節屈曲トルク最大値は健常成人に比してパーキンソン病患者で有意に低かった。
私見・明日への臨床アイデア
・座面からの床反力を調べるために本論文を読んだ。今回はパーキンソン病患者のデータについて言及しない。 ・健常成人では屈曲相にて大腿を中心とした点から後方への床反力が確認された。同時に股関節屈曲モーメントが生じているが、後方への床反力は股関節屈筋が担っているのだろうか?離殿前の筋電位を次に調べたい。
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)