階段で荷物を持つと不安定な子|片手支持とバランスの支援
荷物を持つと階段が急に難しくなる子|片手支持と「運びながら動く力」の育て方
「階段だけなら上れるのに、荷物を持つと急にふらつく」「園バッグを持つと手すりから手が離せない」。 これは単純な脚の力だけでは説明できません。 階段に荷物が加わると、足の運び・姿勢・視線・手の操作を同時にまとめる必要がある からです。家庭で安全にできる工夫と、専門家がどこを見分けるのかを整理します。

「階段はできる」のに、荷物を持つと難しくなる。
階段を上るだけなら、足元を見て、手すりを使い、身体を次の段へ移せばよいかもしれません。 ところが荷物を持つと、そこに「落とさない」「傾けない」「身体から離れすぎない」という上肢の仕事が加わります。 さらに両手で荷物を持てば、手すりという安定のための選択肢まで減ります。
そのため、私たちはこの場面を「脚の筋力不足」とすぐには考えません。 階段動作と荷物操作を同時に処理したとき、どこで運動の余裕がなくなるのか という視点で見ます。
荷物なしでは安定する、軽い荷物ならできる、両手になると止まる、下りだけ怖がる。 この差は、苦手さの原因を考える大切な手がかりです。1回の成功だけでなく、条件を少し変えたときの変化を見ます。
不安定さは、4つに分けて考える。
| 見ている要素 | 起こりやすい変化 | 家庭で見えるサイン |
|---|---|---|
| 支持・重心移動 | 片手が荷物でふさがると、手すりに頼れず身体が横へ揺れやすい | 荷物を持つ側へ身体が傾く/足を止める |
| 荷物操作 | 腕や手で荷物を安定させるため、歩行へ使える余裕が減る | 荷物が揺れる/身体に強く押しつける |
| 視線・足位置 | 荷物を見ることと段差を見ることが競合しやすい | 足元を何度も確認する/反対に荷物だけ見続ける |
| 注意・運動の自動化 | 複数の動作を同時に処理すると速度やリズムが崩れる | 話しかけると止まる/疲れると急に雑になる |

家庭では、「何段上れたか」より崩れる瞬間を見る。
保護者の方が専門的な検査をする必要はありません。 ただ、「いつから難しくなるのか」を少し具体的に見ておくと、相談時の大きな手がかりになります。
| 比較する条件 | 見てほしい変化 | 考え方 |
|---|---|---|
| 荷物なし → あり | 速度、足の置き場所、身体の揺れが変わるか | 「荷物追加」の影響を分ける |
| 片手 → 両手 | 手すりが使えないと急に不安定になるか | 支持の選択肢が必要かを見る |
| 上り → 下り | 下りだけ怖がる、止まる、横向きになるか | 身体をゆっくり下ろす制御の負荷をみる |
| 1段目 → 数段後 | 最初から崩れるか、反復すると崩れるか | 開始時の調整と疲労・反復後を分ける |
最初から崩れる場合と、数段進んでから崩れる場合では仮説が変わります。 前者では荷物を持った状態での開始姿勢や予測的な姿勢調整、後者では反復による疲労、注意配分、荷物位置のずれなども候補になります。 同じ「ふらつく」でも、出るタイミングを分けることで支援内容は変わります。
研究では、「歩く+持つ」で幼児の動きが変わる。
4〜6歳の子ども48名を対象とした研究では、通常歩行に加え、トレーを持ちながら歩く課題を行うと歩行パターンが変化し、難しい運搬条件ほど影響が大きくなりました。 つまり、幼児では「歩ける」ことと「物を安定させながら歩ける」ことは同じではありません。
この研究から言える範囲:平地歩行の研究であり、階段での荷物運搬を直接検証した研究ではありません。
4〜13歳を年齢群で比較した研究では、4〜6歳群は箱を水平に保ちながら歩く条件で、年長児より両手の協調が不安定で、歩幅も短くなる傾向が示されました。 4〜6歳頃は、上肢と下肢を同時に使う複合課題そのものが発達途中と考えられます。
この研究から言える範囲:定型発達児の平地歩行であり、階段での安全性や特定の診断を示すものではありません。
DCD児を対象とした階段研究では、定型発達児に比べて階段昇降に時間がかかり、手すり使用が多く、足先が段差を越える高さのばらつきが大きいことが報告されています。 ただし対象は主に学童期のDCD児で、本記事の幼児全員に当てはめることはできません。 ここでは「階段では視覚・足位置・支持の使い方も観察する」という臨床上の参考として扱います。
家庭では、「うまくやらせる」より安全な条件をつくる。
階段は転倒すると大きなけがにつながる場所です。苦手だからといって、階段で何度も重い荷物を持たせる必要はありません。 まずは安全を確保し、成功しやすい条件で「運ぶ+移動する」経験を作ります。
| 家庭での工夫 | ねらい | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 片手で持てる軽い荷物にする | 反対の手を支持に使えるようにする | 最初から両手をふさぐ |
| 平地→低い段差→階段の順にする | 一度に増える難しさを減らす | 怖がっているのに階段で反復する |
| 足元が見える大きさにする | 視界を確保する | 胸の前を覆う大きな箱を持たせる |
| 大人は近くで見守る | 失敗を経験させるより安全を守る | 「慣れればできる」と急がせる |

「荷物のときだけ」か、「生活全体でも困る」か。
| まず環境を調整しながら見られること | 専門家への相談を考えたいこと |
|---|---|
| 荷物を軽くすると安定する | 荷物なしでも頻繁に転ぶ |
| 片手を空けると手すりを使って移動できる | 手すりがあっても強い恐怖や停止が続く |
| 慣れた家庭の階段ではできる | 園・学校の移動や荷物運びに大きな支障がある |
| 日による差はあっても徐々に経験が増えている | 左右差が大きい、以前できたことが急にできなくなった |
急に片側の手足が使いにくくなった、強い痛み・腫れがある、意識がおかしい、けいれん様の動きがあるなど、いつもと明らかに違う急な変化がある場合は、まず医療機関へ相談してください。
- 荷物なしでは階段をどう上り下りするか
- 片手荷物・両手荷物で違いがあるか
- 上りと下りのどちらが難しいか
- 最初の1段から難しいか、数段後に崩れるか
- 手すりをどちらの手で使うか
- 園・学校と家庭で差があるか
- 安全な場所で撮影できる場合は、短い動画を用意する
専門施設では、「何が加わると崩れるか」を見分ける。
家庭では、安全を守りながら成功しやすい条件をつくることが中心です。 専門施設ではその先に、 困りごとを複数の要素に分け、条件を一つずつ変えながら「どこで運動の余裕が失われるのか」を見つける 作業があります。
例えば、荷物なしでは連続して上れるのに、片手でバッグを持つと一段ごとに止まる子がいたとします。 このとき脚の筋力だけを測って終わるのではなく、荷物を持つ側を変える、手すりを使える条件にする、荷物の大きさだけ変える、上りと下りを分ける、といった条件比較を行います。
荷物の重さではなく「大きくて足元が見えない」条件で崩れるなら、視覚情報の使い方が大きく影響しているかもしれません。 反対に、視界を確保しても手すりを離した瞬間に体幹が大きく傾くなら、支持の作り方や重心移動の余裕を優先して評価します。
そして、その場で変化した条件をそのまま「できた」で終わらせません。 実際の園バッグ、登園時の疲労、周囲に人がいる階段などへ少しずつ近づけ、同じ目標動作で再評価します。 訓練室でできる能力と、生活で使える能力を分けて見る ことが重要です。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 比較する評価 | 課題の組み替え | 生活で確認する変化 |
|---|---|---|---|---|
| 荷物を持つと横へふらつく | 支持の減少+荷物による身体配置の変化 | 右手/左手、手すりあり/なし | 反対手を支持に使える条件から段階化 | 園バッグで身体の傾き・停止が減るか |
| 大きな荷物で足を踏み外しそうになる | 視野遮蔽+足位置の更新 | 同じ重さで大きさだけ変更 | 足元が見える荷物から開始 | 足位置と視線の往復が安定するか |
| 下りだけ一段ごとに止まる | 身体を下ろす制御+不安 | 上り/下り、荷物なし/あり | 低い段差、軽い荷物、支持ありから調整 | 下りで必要な停止・介助が減るか |
| 数段後に急に雑になる | 反復後の疲労・注意・自動化 | 1回目/反復後、静かな環境/会話あり | 質を保てる量と休憩で成功率を調整 | 帰宅時や園活動後にも再現するか |
幼児の研究は、物を運びながら歩くと歩行と両手協調の両方が変化しうることを示しています。 一方、DCD児の階段研究では、手すり使用、歩行時間、足先クリアランスのばらつき、視線の使い方が課題になりうることが示されています。
しかし「荷物を持った幼児の階段昇降」を直接検証した研究は限られています。 そのため臨床では、これらを万能な答えとして使わず、実際のお子さんで荷物・支持・視界・方向・反復量を一つずつ操作し、仮説を確かめるための土台として使います。
限界:研究対象の年齢・診断・課題は本記事のすべてのお子さんと一致しません。個人差が大きく、ここで示す考え方は診断や医学的治療の代替ではありません。

年齢だけで決めず、「どんな条件ならできるか」を見る。
「何歳なら荷物を持って階段を上れるべきですか?」という質問に、ひとつの年齢で答えることはできません。 階段の高さ、手すり、荷物の大きさと重さ、慣れ、疲労、周囲の混雑などで課題の難しさは変わります。 4〜6歳頃は複合課題そのものが発達途中であることも踏まえ、年齢だけで「遅い」と決めないことが大切です。
| 年齢帯の目安 | 見方 | 優先すること |
|---|---|---|
| 3〜4歳頃 | 階段そのものの経験量や手すり使用も大きく影響 | 荷物運びを急がず安全確保 |
| 4〜6歳頃 | 歩く+持つ課題ではまだ調整の発達途中 | 軽い荷物・片手支持・視界を確保 |
| 学童期 | 園・学校での荷物、速度、混雑など実環境の影響が増える | 生活参加への影響を具体的に確認 |
注:年齢帯は診断基準や「できるべき年齢」を示すものではありません。個人差と環境条件を含めて見ます。
よくある質問。
Q. 階段は上れるのに、荷物を持つとふらつくのはなぜですか?
Q. 荷物は両手で持たせた方が安定しますか?
Q. 上りより下りで不安定なのは問題ですか?
Q. 家ではどんな練習をすればよいですか?
Q. 何歳なら荷物を持って階段を上れて当然ですか?
Q. どんな場合に専門家へ相談した方がよいですか?
「階段ができるか」ではなく、生活で使える動きまで見る。
STROKE LABでは、階段だけを繰り返すのではなく、荷物の有無、持つ手、手すり、視界、段差、速度、反復後の変化まで含めて、お子さんの動きを整理します。 家庭や園で「何に困っているか」を目標にし、必要に応じて課題の難しさを調整しながら、実際の生活場面へつながる方法を考えます。
階段以外にも、給食トレー、園バッグ、着替え袋など「運びながら動く」場面で困りごとがある場合は、生活場面の動画や状況をもとに評価できます。
育ちに寄り添う関わりへ。

わが子の脳卒中という現実は、言葉にできないほどの重さがあります。私たちは大学病院などで、多くの脳血管障害のお子さんとご家族に出会ってきました。
お伝えしたいのは、子どもの脳は育つ力を持ち、その力を運動の側から支えられるということです。麻痺を機能解剖と動作分析でほどき、今育とうとしている動きを見つけ、生活の「したい」につなげていきます。
医療機関での治療とあわせて、家庭・学校での関わりを整理したい方は、どうぞ一度ご相談ください。お子さんの育ちに寄り添いながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動麻痺を「動かない」で終わらせず、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点は、お子さんの回復を支えるうえでも土台になります。
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 階段の上り下りが怖い・遅い子|片脚支持と足の運びを考える
- 給食トレーを運べない子|両手保持と歩行バランスの支援
- STROKE LAB 小児セラピー
本記事は、幼児の歩行中の物品運搬、子どもの複合課題、階段昇降時の視覚運動制御に関する研究と、STROKE LABの臨床的な動作分析の枠組みをもとに構成しています。 階段+荷物を直接検証した幼児研究は限られるため、研究知見と臨床仮説を分けて記載しています。
- Cherng RJ, Liang LY, Hwang IS, Chen JY. The effect of a concurrent task on the walking performance of preschool children. Gait & Posture. 2007;26(2):231-237.
- Hung YC, Meredith GS, Gill SV. Influence of dual task constraints during walking for children. Gait & Posture. 2013;38(3):450-454.
- Parr JVV, et al. Children With Developmental Coordination Disorder Show Altered Visuomotor Control During Stair Negotiation Associated With Heightened State Anxiety. Front Hum Neurosci. 2020;14:589502.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)