マスクを嫌がる子|触覚・呼吸・耳周りの感覚への配慮
マスクを嫌がる子|触覚・呼吸・耳周りの感覚への配慮
「つけた瞬間に外す」「耳のゴムを嫌がる」「少し経つと苦しいと言う」「家では平気なのに学校では無理」。マスクへの拒否は、ひとつの理由だけでは説明できません。顔への触れ方、耳周囲の圧、熱や湿気、呼吸の感じ、装着する手の動き、予測のしやすさ、周囲の環境まで分けると、その子に合う配慮が見つかりやすくなります。

01 「嫌がる=わがまま」でも「嫌がる=発達障害」でもありません。まず条件を分けて見ます。
02 触覚だけでなく、耳ゴムの圧、蒸れ、湿気、におい、呼吸感覚、装着動作も関係します。
03 「何分着けられるか」より、「何をしている時に外すか」が支援のヒントになります。
04 家ではできても、教室・会話・移動・暑さが加わると負担が変わることがあります。
05 目標は「外さない子」にすることではなく、必要な場面で本人が選び、困った時に調整できることです。
「イヤ!」の中身は、一つではありません。
マスクを見せただけで逃げる子もいれば、顔に触れた瞬間、耳に掛けた瞬間、数分経って湿ってきた時、歩いたり話したりした時に外す子もいます。同じ「マスク嫌い」でも、負担が最大になる瞬間は異なります。
感覚過敏が関係することはありますが、拒否だけで発達特性を判断することはできません。何をした時に、どのくらいの速さで、どんな反応が出るかを観察し、触覚・圧・熱・呼吸感覚・動作・予測・環境を分けて考えます。
どの瞬間に外したくなる? 7つの場面で見る。
| 場面 | 家庭で確認すること | 考えられる負荷 |
|---|---|---|
| ① 見せた瞬間 | 触る前から離れるか、表情が変わるか | 予測、不安、過去の経験 |
| ② 頬・鼻に触れた瞬間 | 素材や縁が触れるとすぐ外すか | 触覚、縫い目、毛羽立ち、圧 |
| ③ 耳へ掛ける瞬間 | 片側だけ嫌がるか、自分で掛ける時だけ崩れるか | 耳周囲の圧、痛み、装着動作 |
| ④ 鼻・口を覆った瞬間 | 呼吸を始める前から外したくなるか | 閉塞感、圧迫感、におい、視野の変化 |
| ⑤ 数分経過後 | 最初は平気でも後から触り始めるか | 蒸れ、湿気、熱、唾液、におい |
| ⑥ 話す・歩く・遊ぶ時 | 安静時との差、会話や運動での変化 | 呼吸感覚、熱、活動負荷 |
| ⑦ 園・学校だけ | 家庭や静かな部屋ではどうか | 音、人の多さ、ルール、緊張、長時間 |

触れる・蒸れる・引っぱられる――顔まわりの負荷を分ける。
「顔に何かが触れるのが苦手」という一言でも、頬と鼻では感じ方が違うことがあります。耳の後ろだけ痛がる、ワイヤー部分だけ嫌がる、乾いた新品は平気なのに湿ると急に外す、特定の素材だけにおいを嫌がるなど、部位と時間の違いを見ます。
| 場所・条件 | 起こりやすい負担 | 観察のポイント |
|---|---|---|
| 頬・鼻 | 接触、毛羽立ち、圧 | 触れた直後の表情・手の動き・逃避 |
| 耳の後ろ | ゴムの張力、局所的な痛み | 片側だけ触る、耳を赤くする、サイズで変わる |
| 鼻・口の前 | 呼吸感覚、閉塞感、におい | 覆った瞬間と数分後を分ける |
| 時間経過 | 熱、湿気、唾液、ずれ | 何分後に触り始めるか、交換後に戻るか |

「息苦しい」を、酸素だけの問題にしない。
2026年に8〜14歳の健康な子ども39名を対象に行われた90分の授業中のランダム化クロスオーバー研究では、サージカルマスク・FFP2ともに、心拍数、呼吸数、酸素飽和度、深部体温に臨床的に問題となる変化は認められませんでした。
一方で、マスク内の温度や湿度は上昇し、主観的な負担感も変化します。健康な学童では、「息苦しい」という本人の訴えを、酸素不足か思い込みかの二択にしないことが重要です。熱、湿気、圧迫感、呼吸への注意、活動量などを分けて見ます。なお、この研究は幼児を対象にしていません。
明らかな呼吸困難、顔色の変化、意識の変化、喘鳴などがある時や、呼吸器疾患・循環器疾患があり装着について迷う時は、家庭で「慣らす」ことを優先せず医療機関へご相談ください。医学的な適否の判断は主治医の領域です。
家庭では、「長く着ける」より嫌な条件を減らす。
現在、マスク着用は個人の主体的な判断が基本です。まず「その場面で本当に必要か」を確認します。そのうえで必要な場面がある場合は、一日中着ける練習から始めるのではなく、本人が許容できる条件を探します。
| 試すこと | 目的 | 見る反応 |
|---|---|---|
| 本人に素材を触って選んでもらう | 触覚・においの負担を減らす | 触るだけなら可能か |
| 顔に当てるだけで終える | 装着前の段階を作る | 接触位置で反応が変わるか |
| 短い必要場面だけ使う | 成功しやすい経験を作る | 何分ではなく、どの活動なら可能か |
| 外したいサインを決める | 本人が調整を選べるようにする | 拒否が強くなる前に伝えられるか |
必要性、体調、本人の意思を確認したうえで負担を調整します。強い拒否が続く状態で装着時間だけを伸ばすと、「マスクを見ること」そのものが嫌な予告刺激になることがあります。成功しやすい段階へ戻れる設計が大切です。
園・学校では、着用時間より「参加できる条件」を共有する。
園や学校へ「マスクが苦手です」だけを伝えても、先生はどの場面で何を変えればよいか判断しにくくなります。生活参加を守るためには、できる条件・崩れる条件・本人のサインを具体的に共有します。
| 共有する情報 | 伝え方の例 |
|---|---|
| 可能な場面 | 「診察待ちや朝の会など、短い静かな場面なら可能です」 |
| 苦手な条件 | 「湿ると触り始め、外したくなります」 |
| 活動による差 | 「移動や運動では負担が強くなります」 |
| 限界が近いサイン | 「耳を何度も触り始めたら一度確認してください」 |
| 調整方法 | 「一度外して落ち着き、必要性を確認してから本人に再装着を選ばせます」 |
厚生労働省は、マスク着用は個人の主体的な選択を尊重すること、本人の意思に反して着脱を強いることがないよう配慮すること、子どもの発育・発達の妨げにならないよう配慮することを示しています。感染対策上必要な場面がある場合も、感覚過敏など個別の事情への配慮が前提です。
研究は、「一律に慣らす」より個別条件を見る方向を示しています。
東京の2つの外来から集めた自閉スペクトラム症の子ども・青年102名を対象とした調査では、低次の反復行動・感覚に関係する特徴が強いほど、外出時のマスク着用やマスクそのものに困難を示す傾向が報告されました。
この研究から言える範囲:ASDの子ども・青年を対象とした関連研究です。「マスクを嫌がる=ASD」や「感覚過敏が原因」と診断する根拠にはなりません。
自閉スペクトラム症の人のマスク着用を高める行動分析的介入をまとめた2024年の系統的レビュー・メタ分析では、段階的曝露、プロンプト、強化などを組み合わせた介入でマスク着用が改善した研究が整理されています。
この研究から言える範囲:研究の多くは少人数の単一事例デザインでASDを対象としています。本人が許容できる段階と必要性を確認しながら個別に設計することが前提です。
ASD児3名を対象とした研究では、段階的曝露でマスク着用を学んだ後、家庭や模擬診察室など別の環境でも着用できるかを確認しています。生活場面への般化を評価した点が重要です。
限界:3名のみの単一事例研究です。長時間着用を全ての子の目標にする根拠ではありません。本記事では「獲得した能力が別環境でも使えるかを見る」という介入原理として扱います。
専門施設では、拒否を消すのではなく「負荷の正体」を探す。
素材を変えるだけでなく、耳ゴムの張力、装着者が本人か大人か、顔へ触れる順番、湿った後か乾いた状態か、会話中か安静時か、静かな部屋か教室かを変えて反応を比較します。
観察点1:大人が着けると維持できるのに、自分で耳へ掛けると拒否が強いなら、触覚耐性だけでなく装着動作の運動計画や両手操作がボトルネックかもしれません。
観察点2:座っている時は平気でも、話し始める、階段を上がる、教室が暑くなる、マスクが湿ると外すなら、「何分耐えられるか」より活動や熱・湿気で負荷が閾値を超えているかを見ます。
介入後は、最大装着時間だけで判定しません。本人が「外したい」と伝えられるか、自分で着脱できるか、必要な場面を選べるか、家庭ではできても園で崩れないかを同じ生活目標で再評価します。能力の獲得と、生活での実行を分けて評価することが重要です。
| 観察される困りごと | 考えるボトルネック | 確認する評価・観察 | 選択する支援 | 難易度の調整 | 生活で見る変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 頬に触れた瞬間に外す | 顔面の触覚・素材負荷 | 素材、縁、接触位置を1つずつ変更 | 本人が選べる素材、短い接触 | 手で触る→頬へ当てる→短時間装着 | 必要場面で短時間使用できる |
| 耳ゴムで拒否する | 耳周囲の圧+装着操作 | 大人装着/自己装着、片側/両側比較 | サイズ調整+装着動作の分解 | 片耳→両耳→位置調整 | 自分で着脱しやすくなる |
| 数分後に外す | 熱・湿気・ずれ・におい | 時間経過、交換前後、室温を比較 | 休憩・交換・必要時間を設計 | 短時間→目的場面の長さへ | 自分から交換・休憩を選べる |
| 運動・会話で外す | 呼吸感覚+活動負荷 | 座位→会話→歩行→遊びを比較 | 活動ごとの必要性と許容条件を決める | 活動強度を一段ずつ上げる | 必要場面と休憩場面を使い分ける |
| 学校だけ拒否する | 環境負荷・予測・長時間 | 家庭/個室/教室、午前/午後を比較 | 視覚予告、休憩場所、先生との共有 | 人数・時間・活動を調整 | 学校参加を保ちながら調整できる |
1. 感覚負荷を減らす:素材、縁、耳周囲、湿気、においなどを本人の反応に合わせて変えます。
2. 装着動作を学ぶ:見る→持つ→広げる→片耳→両耳→位置調整→自分で外す、を必要に応じて分解します。
3. 必要場面を段階化する:長時間ではなく、本人・家族が必要と考える短い生活場面から始めます。
4. 園・学校環境を設計する:予告、休憩、交換、本人の意思表示、先生の声かけを含め、環境で負担を下げます。

「外さない」ではなく、必要な場面で自分で選べる力へ。
生活のゴールは、マスクを長く着け続けることだけではありません。「今は必要」「ここでは外せる」「湿ったから交換したい」「耳が痛い」「少し休みたい」と本人が感じ、伝え、選択できることも大切な生活技能です。
自分で耳へ掛けられた回数、声かけなしで外したいサインを出せた回数、必要な診察場面で使えたか、湿った時に交換を選べたか、園や学校の活動を途中離脱せず参加できたかなど、本人の参加と自己調整を成果として確認します。
STROKE LABでは、感覚だけでなく、装着の手順、両手の操作、姿勢、呼吸感覚、予測、園や学校との環境差まで含めて生活動作を確認します。診断や医学的な呼吸評価が必要な場合は医療機関を優先し、私たちは生活と参加の側から併走します。
保護者からよくいただく質問。
Q. マスクをすぐ外すのは、感覚過敏があるからですか?
Q. 嫌がっていても、少しずつ我慢させれば慣れますか?
Q. 「息苦しい」と言います。酸素が足りなくなっているのでしょうか?
Q. 家では着けられるのに、園や学校ではすぐ外します。なぜですか?
Q. 園や学校には、どのように伝えるとよいですか?
Q. 専門施設では、どんなことを確認しますか?
生活の困りごとを、感覚と動作の両側からほどく。
STROKE LAB(東京・大阪)は、神経疾患や発達上の困りごとを含む生活動作を、機能解剖と動作分析の視点から整理する自費セラピー施設です。マスクのような生活課題も、単に「慣れていない」で終わらせず、感覚、呼吸感覚、装着操作、予測、活動負荷、環境まで分け、家庭・園・学校で使える方法へつなげます。医学的な診断や呼吸・皮膚などの治療判断は主治医を尊重し、私たちは生活と参加の側から併走します。
育ちに寄り添う関わりへ。

子どもが生活の中で見せる「イヤ」には、その子なりの理由があります。言葉で十分に説明できなくても、どの瞬間に表情や手の動きが変わるかを丁寧に見ると、支援の入口が見えてきます。
私たちが大切にしているのは、拒否を消すことではなく、本人が過ごしやすい条件と、自分で調整できる方法を一緒に探すことです。できる環境を見つけ、生活の参加へつなげます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。生活動作を単独の行為ではなく、感覚・姿勢・運動・認知の連鎖として見る視点は、お子さんの日常の困りごとを考えるうえでも土台になります。
- STROKE LABの小児セラピー
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- 初めての相談から評価・プログラムまで|小児セラピーの流れ
- 服のタグや靴下を嫌がる子|触覚と衣服の感覚への配慮
本記事は、厚生労働省のマスク着用方針、発達障害・感覚過敏への配慮に関する公的情報、マスク着用と自閉スペクトラム症児の感覚・行動に関する研究をもとに構成しています。研究対象の多くはASD児や学童であり、幼児一般へ効果をそのまま外挿できるものではありません。診断や医学的判断の代わりにはなりません。
- 厚生労働省「マスクの着用について」
- 厚生労働省「マスク等の着用が困難な状態にある方への理解について」
- Tamon H, et al. BMC Psychiatry. 2022;22(1):608. doi:10.1186/s12888-022-04249-8.
- Cowell R, Vostanis A, Langdon PE. J Autism Dev Disord. 2024;54(11):4061-4080. doi:10.1007/s10803-023-06128-x.
- Halbur M, et al. J Appl Behav Anal. 2021;54(2):600-617. doi:10.1002/jaba.833.
- Ertel HM, Wilder DA, Hodges AC. Behav Modif. 2022;46(5):1218-1235. doi:10.1177/01454455211049546.
- More than a feeling? Impact of face masks on cardiorespiratory parameters and microclimate under the mask in school-aged children. Building and Environment. 2026;299:114635. doi:10.1016/j.buildenv.2026.114635.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)