マット運動が苦手な子|前転・横転と体の丸め方の発達
頭を入れることだけでなく、自分の体軸と回転方向を感じ取る力が必要です
「前転になると止まってしまう」「横転すると曲がってしまう」。マット運動が苦手な子は、体が硬い、体幹が弱い、怖がり、だけで説明できるわけではありません。手で支える、重心を送る、頭から背中へ順番に回る、回転のあとに姿勢を作り直すという流れを分けて見ると、つまずきの場所が見えてきます。この記事では、前転・横転を単一の運動課題として整理し、家庭での見方と相談の目安を解説します。

マット運動が苦手でも、体幹が弱いとは限らない
前転や横転が苦手なお子さんを見ると、「体を丸める力が弱いのかな」「体幹が弱いのかな」と考えたくなります。ただ、実際にはそれだけではありません。マット運動では、回る前に両手で体を支える、重心を進行方向へ送る、頭を入れながらも頭へ体重を集めすぎない、回転のあとにもう一度姿勢を作り直す、といった流れが必要です。
つまり、前転や横転は、一つの姿勢を保つ課題ではなく、支えながら形を変え続ける連続課題です。苦手さを見るときは、「できるかできないか」だけでなく、「どこで止まるのか」「どこで崩れるのか」を分けて考えることが大切です。
お子さんが背中を丸めようとしているのに前転できないときは、形だけの問題ではないかもしれません。両手の位置が近すぎる、肩を前へ送れない、怖くて途中で止まる、足を引き寄せられない、などいくつかの理由が重なることがあります。
医療・健診が先になる場面は別として、運動の苦手さは、つまずき方を観察に翻訳すると見えてくることがあります。私たちは、その整理をお手伝いします。
前転と横転を分けて見る
マット運動と一言でいっても、横転と前転では必要な回転軸が少し違います。横転は体の長い軸に沿って転がり続ける課題で、前転は前方向へ重心を送り、肩から背中へ順に接触を移していく課題です。どちらも「丸くなる」ことは大切ですが、丸くなる前の準備が異なります。
| 動作 | 主な流れ | よくあるつまずき |
|---|---|---|
| 横転 | 進む方向を見る → 腕と脚をまとめる → 肩または骨盤から回転を始める → 体の軸を保ったまま転がる → 回転後に向きを整える | 横へ曲がる、体がほどける、途中で止まる、回転後にふらつく |
| 前転 | 手を着く位置を見る → しゃがむ → 手で支えながら肩を前へ送る → あごを引いて肩から背中へ回る → 足を引き寄せて起き上がる | 手を着いたまま止まる、頭から落ちる、横へ曲がる、回った後に寝てしまう |

どこで止まるかを観察する
保護者の方が見やすい観察点は、「回る前」「回っている途中」「回った後」の3つに分ける方法です。これだけでも、何が難しいのかが整理しやすくなります。
| 観察する場面 | 見えやすい様子 | 考えられること |
|---|---|---|
| 回る前 | 手を着いたまま止まる、頭を下げるのを嫌がる | 怖さ、手で支える準備不足、重心を前へ送ることの難しさ |
| 回っている途中 | 頭から落ちる、横へ曲がる、背中が平らなまま落ちる | 接触の順序、左右の荷重差、肩と骨盤のタイミング差 |
| 回った後 | 仰向けで止まる、起き上がれない、ふらつく | 丸い形の保持不足、足の引き寄せ、姿勢の再構成の難しさ |
前転でまっすぐ進めず横へ曲がるときは、単純に「左右差がある」と考えず、両手の位置、片足だけで蹴っていないか、肩と骨盤が同じ向きで回っているか、視線が横へ逃げていないかを見ると参考になります。

STROKE LABの視点
1. 丸まれないのではなく、支えながら丸まれないことがあります
前転で大切なのは、静止した姿勢として丸くなることではありません。両手で体重を受けながら、肩を前へ送り、頭から背中へ接触を移していく中で丸い形を保つことが必要です。見た目では「背中が硬い」に見えても、実際には手で支えるタイミングがボトルネックになっていることがあります。
2. 途中で止まる子には、怖さと運動の順序の両方を見ます
頭を下げることへの不安があると、回転の準備そのものが止まってしまいます。一方で、怖さが少なくても、手を着く位置、肩を前へ送る量、足で蹴るタイミングがばらばらだと回転は始まりません。気持ちの面だけ、身体の面だけ、と分けずに見ることが大切です。
3. 体育で困るかどうかは、集団場面まで見て判断します
個別ではできるのに、体育ではできないお子さんもいます。そのときは、見られている緊張、待ち時間、複数の指示、順番のプレッシャーなど、環境の違いが影響することがあります。運動の課題そのものに加えて、どんな場面で再現しにくいかを確認することが、支援のヒントになります。
研究でわかっていること
1. 発達的な体操プログラムは、未就学児の粗大運動能力の改善に役立つ可能性があります。前転だけを直接評価した研究ではありませんが、回転や移動を含む運動経験を積むことに意味があると考えられます。
2. 運動が苦手な子どもへの支援では、筋力だけを単独で鍛えるより、実際の課題そのものを、成功しやすい条件に調整して練習する方法が有力です。つまり、前転が苦手なら、前転を構成する部分課題を整理して練習する考え方が合いやすいといえます。
3. 一方で、運動テストの点数が上がっても、体育への参加や自信が自動的に大きく変わるとは限りません。生活や学校の場面で実際にどう変わったかを別に確認する必要があります。
この研究から言える範囲は、課題を分けて練習する考え方や運動経験の大切さです。特定の練習法がすべての子に同じように効くと断定することはできません。
出典:Lima RF, et al. Children. 2025;12(3):341. / Smits-Engelsman BCM, et al. Dev Med Child Neurol. 2025. / Blank R, et al. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
家庭でできること
家庭で大切なのは、前転を何回させるかではなく、回転の準備となる経験を安全に積むことです。無理に完成を目指すと、怖さや失敗の記憶が強くなりやすいため、成功しやすいところから始めます。
| 家庭で取り組みやすいこと | ねらい |
|---|---|
| 丸太転がり | 回転方向へ体をまとめる感覚をつかみやすくします |
| 小さなゆりかご | 丸い形を保ったまま前後に揺れる感覚を経験します |
| しゃがんで両手を着く遊び | 手で支える準備や重心移動の入口になります |
| 床の線に沿った横転 | まっすぐ転がる軸を意識しやすくします |
| 動画を短く撮る | 直す点を一度に一つに絞りやすくなります |

避けたい関わり
| 避けたいこと | 理由 |
|---|---|
| 首や後頭部を押して回す | 怖さや痛みを強め、安全な回転の学習になりにくいためです |
| 失敗が続くまま回数だけ増やす | 苦手意識が強まりやすく、動きの質も整いにくくなります |
| 兄弟や友達と比べる | 怖さや自信の低下につながることがあります |
| 硬い床や家具の近くで練習する | けがの危険があります |
相談の目安
| 様子を見ながら関わりやすい場合 | 相談を考えたい場合 |
|---|---|
| ほかの遊びは楽しめていて、マット運動だけ少し苦手 | マット運動以外にも、階段、ボール、遊具、着替えなど複数の困りごとがある |
| 少しの工夫で取り組める場面がある | 強い左右差や、いつも同じ側に大きく曲がる様子がある |
| 怖さがあっても準備遊びには参加できる | 頭を下げることを極端に嫌がり、園や学校の参加にも影響している |
| 短期間で少しずつ慣れてきている | 痛みがある、けがが多い、以前できていたことができなくなった |
急な手足の動かしにくさ、頭を打った後の繰り返す嘔吐や強い頭痛、意識の変化、けいれん、強い首や背中の痛みがあるときは、運動の相談より先に医療機関へ相談してください。
専門施設では、困りごとを一つの原因にまとめず、手で支えること、回転の順序、怖さ、左右差、学校での再現性などに分けて評価し、生活参加につながる介入を設計します。診断、投薬、手術などの医学的判断は主治医が担い、リハビリは動きと参加の側から併走します。
専門施設で、さらに期待できること
専門施設で目指すのは、単に前転を一回できるようにすることではありません。どの場面が止めているのかを評価し、その子に合う課題設定で、園や学校のマット運動へつなげていくことです。回復的なアプローチ、発達的なアプローチ、環境調整を組み合わせながら、訓練室でできることを、生活で使えることへ変えていくのが専門施設の役割です。
困りごとを分ける評価
| 評価領域 | 何を見るか | 介入選択にどうつながるか |
|---|---|---|
| 身体・運動 | 手支持、肩の前方移動、背中の丸まり、足の引き寄せ | 部分課題の切り出し方、傾斜の利用、手の位置の調整に結びつきます |
| 感覚・知覚 | 逆さ姿勢への反応、回転後のふらつき、接触感覚のとらえ方 | 怖さを減らす順序や、感覚入力の量の調整に関わります |
| 認知・注意 | 手順理解、見本への反応、一度に何個の指示が入るか | 言葉がけ、見本、床の目印、手順カードの選択に影響します |
| 環境・参加 | 個別と集団の差、待ち時間、見られる緊張、体育での再現性 | 園や学校へどう般化するか、どこを環境調整するかに関わります |
介入体系
| 介入系統 | 主な対象 | 生活で期待する変化 |
|---|---|---|
| 回転準備の課題練習 | 手支持、重心移動、しゃがみ姿勢の不安定さ | 前転の入りで止まりにくくなり、体育の導入に参加しやすくなります |
| 部分回転から全体回転への段階づけ | 頭から落ちる、途中で止まる、起き上がれない | 安全に回る経験が増え、回転の成功率が上がりやすくなります |
| 感覚・怖さへの段階的な慣れ | 逆さ姿勢や回転感覚への不安 | 頭を下げることへの抵抗が減り、活動に入りやすくなります |
| 園・学校への般化設計 | 個別ではできるが集団で難しい | 体育の参加、声かけの減少、本人の自信につながります |
前転が苦手な子を「体幹が弱い」で終わらせることはしません。手を着いたときにどこまで肩が前へ出るか、最初にどこがマットへ触れるか、足を引き寄せる前に体がほどけていないかを確認します。
たとえば、手を着けるのに回れない子なら、問題は丸まりそのものより、重心を前へ送る準備にあるかもしれません。逆に、回れるけれど起き上がれない子では、終末の姿勢再構成がボトルネックになっていることがあります。
また、個別ではできるのに体育ではできないときは、見られる緊張、待ち時間、複数指示、順番のプレッシャーなど環境差を見ます。訓練室の成功だけで終わらせず、園や学校で再現できる条件まで整理します。
一定期間後は、同じ目標動作をもう一度確認し、成功率、必要な声かけ、曲がり方、回転後の安定性などを見直します。家庭では生活を守る工夫を、専門施設では評価にもとづく設計を、という役割分担が大切です。
疾患・困難像に近い根拠:発達的な体操や運動プログラムは、粗大運動能力の改善と関連が示されています。ただし、前転だけの効果を直接断定する研究ではありません。
介入原理の根拠:課題そのものを、子どもに合う難易度で繰り返すことが重要です。練習量だけでなく、成功率、分かりやすいフィードバック、本人の意欲も大切です。
生活実装の根拠:機能の改善と、学校で実際に使えることは同じではありません。園や学校での参加、必要な声かけ、自信の変化を別に確認する必要があります。
限界として、対象年齢や困難の程度には幅があり、研究で使われた介入量も一様ではありません。医学的治療の代替ではなく、個別評価にもとづいて組み合わせることが前提です。

よくある質問
STROKE LABの小児リハ
STROKE LABでは、前転や横転の苦手さを、単純に「筋力」や「やる気」の問題にしません。どの場面で止まるのか、どの条件なら成功しやすいのか、園や学校では何が難しいのかを整理し、家庭と専門施設が役割を分けながら支援を組み立てます。
家庭では生活を守る工夫を。専門施設では、評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、できる力を生活で使える力へつなぎます。マット運動の苦手さが続くときは、一人で抱え込まずにご相談ください。

金子唯史
医学書院『脳の機能解剖とリハビリテーション』著者。小児から成人まで、動作分析と機能解剖をもとに、生活につながるリハビリテーションを実践しています。
[書籍画像:既存固定画像を使用]

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- Lima RF, Nunes C, Valentini NC, et al. Effects of a Developmental Gymnastics Program on Motor Competence in Preschool Children. Children. 2025;12(3):341.
- Smits-Engelsman BCM, Vinçon S, Blank R. The Effects of Motor Skill Interventions in Children With Developmental Coordination Disorder: A Meta-analysis. Dev Med Child Neurol. 2025.
- Blank R, Barnett AL, Cairney J, et al. International Clinical Practice Recommendations on the Definition, Diagnosis, Assessment, Intervention, and Psychosocial Aspects of Developmental Coordination Disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.
- 文部科学省. 小学校学習指導要領解説 体育編.
- 文部科学省. 体育指導の手引き マットを使った運動遊び・マット運動.
- Centers for Disease Control and Prevention. Signs and Symptoms of Concussion and When to Seek Care.
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院. 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)