歩くとすぐ疲れる子|体力だけではない姿勢と運動効率の視点
同じ距離でも、力みや揺れが大きい歩き方では必要以上にエネルギーを使います
「少し歩くと抱っこになる」「遠足や買い物の途中ですぐ座りたがる」──そんなとき、体力不足だけで片づけてよいとは限りません。子どもの歩行は、足だけでなく、骨盤・体幹・膝・足部・呼吸・周囲の環境が重なって成り立っています。この記事では、歩くと疲れやすい理由を、姿勢と運動効率の視点から整理し、家庭で見たいポイントと相談の目安、専門施設でできる評価の考え方をお伝えします。

最初に確認したいこと|「体力不足」で済ませないために
子どもが歩くとすぐ疲れるとき、まず思い浮かぶのは「体力がないのかな」ということかもしれません。もちろん、活動量、睡眠、食事、季節、体調などの影響はあります。ただ、歩いているときの疲れやすさは、どう歩いているかによっても大きく変わります。
同じ距離でも、歩幅が極端に小さい、左右に大きく揺れる、膝を固める、足先が引っかかる、呼吸が浅くなるなどがあると、余分なエネルギーを使いやすくなります。逆に、急な体力低下、痛み、息切れ、顔色不良、以前できていたことができなくなったなどがあるときは、歩き方の工夫を考える前に、まず医療機関での確認が安心です。
- 急に歩ける距離が短くなった
- 痛み、跛行、強い左右差がある
- 息切れ、胸痛、動悸、失神、顔色不良がある
- 転びやすさが増えている
- 以前できていた階段や走行が難しくなった
- 片側だけ使いにくい、力が入りにくい
- 発熱、体重減少、発達の後退がある
疲れやすさを「歩行効率」で見る
ここで大切なのは、歩けた・歩けなかったの二択で終わらないことです。私たちは、同じ距離を歩くために、どれだけ余分な力を使っているかという歩行効率の視点で見ます。
このような変化があると、子どもは「歩けない」のではなく、「歩くために頑張りすぎている」状態かもしれません。だからこそ、ただ歩かせて体力をつけるのではなく、どこで効率が落ちているかを見つけることが重要です。

STROKE LABの視点|疲れた後ではなく、「変わり始める瞬間」を見る
私たちが特に重視するのは、歩けなくなった後だけでなく、歩き方が崩れ始める変曲点です。たとえば、歩き始めの30秒は安定していても、2分後から歩幅が小さくなる、3分後に体幹が揺れ始める、5分後に足が引っかかり始める、といった変化があります。
同じ10分歩けたとしても、5分目から崩れて残り5分を無理して歩いたのか、最後まで安定して歩けたのかでは意味が違います。歩行距離だけでなく、疲労が出始めるタイミング、代償の種類、休憩後の戻り方まで見て、はじめて生活の困りごとと結びつきます。
保護者にとっても、「歩けない子」ではなく、「どの条件で崩れやすいかが見えてきた子」になると、家庭での関わり方がぐっと具体的になります。
もう一つ大切なのは、施設内では歩けても、園や学校、駅、買い物、人混み、坂道では崩れることがある点です。歩行は筋力だけの課題ではなく、周囲を見ながら進む、曲がる、止まる、人を避ける、話しながら歩くなど、環境と課題の影響を強く受けます。だから、評価も生活場面へつなげて考える必要があります。
家庭で見たいポイントと相談の目安
家庭で全部を分析する必要はありません。大事なのは、「毎回なんとなく疲れる」で終わらせず、少しだけ観察の言葉に置き換えることです。
| 家庭で様子を見ながら記録したいこと | 早めの相談が安心なサイン |
|---|---|
| どのくらいで歩き方が変わるか | 以前より急に距離が短くなった |
| 平地・坂道・人混みで差があるか | 痛みや跛行が続く |
| 休憩でどのくらい戻るか | 転倒やつまずきが増えている |
| 歩幅、左右差、体幹の揺れ | 片側だけ使いにくい |
| 靴、荷物、時間帯で差があるか | 息切れ、顔色不良、全身症状がある |
- 歩き始めの10〜15秒
- 疲れてきた後の10〜15秒
- 正面・後ろ・横のいずれか1〜2方向
- 平地と、できれば坂道や長い通路などの場面差
- どのくらい歩いてから崩れたか
- 休憩後にどのくらい戻ったか
- 靴、時間帯、荷物の有無など条件のメモ
家庭での対応としては、疲れ切るまで歩かせるより、歩く場面と休む場面を分けることが大切です。抱っこやベビーカーを使うこと自体が悪いのではなく、外出全体を成功させるための調整になることもあります。大切なのは、歩く経験をゼロにしないことと、毎回失敗体験にしないことです。
研究でわかっていること
専門施設では、困りごとの仕組みを分け、育てたい機能と生活参加の両方へ働きかけます。診断、投薬、手術、装具処方などの医学的判断は主治医の領域であり、私たちは生活機能の側から併走します。
専門施設で、さらに期待できること
専門施設で目指すのは、「もっと歩かせる」ことではありません。家庭で見えてきた困りごとを、身体・感覚・課題・環境に分けて評価し、どこを変えると歩きやすさが増し、どの生活場面に結びつくのかを整理します。
- 同じ距離を、より少ない代償で歩けるようにする
- 疲れた後も次の活動へ戻りやすくする
- 通園、遠足、買い物など実際の場面で移動しやすくする
- 必要な休憩や移動手段を、自分と家族が選びやすくする
- 家族全体の外出負担を減らす
1.困りごとを分ける評価
たとえば、「長く歩けない」という一つの訴えでも、その背景はさまざまです。片脚で支える時間が短いのか、足部の接地が不安定なのか、骨盤や体幹が揺れやすいのか、呼吸が浅くなりやすいのか、環境変化に弱いのかで、選ぶ介入は変わります。評価では、歩行距離だけでなく、歩き始め、疲労時、休憩後、施設と生活場面の差まで見ます。
| 見る領域 | 何を見るか | 介入選択にどうつながるか |
|---|---|---|
| 身体・運動 | 歩幅、片脚支持、骨盤・体幹の揺れ、膝、足部接地 | 歩行課題、立脚期の安定、推進力づくりの優先順位を決める |
| 疲労・呼吸 | 何分で崩れるか、休憩後の戻り方、呼吸の変化 | 量、速度、休憩の入れ方を調整する |
| 感覚・課題 | 人混み、会話しながら歩く、荷物を持つ、方向転換 | 実生活に近い課題の組み立て方を変える |
| 環境・家族 | 靴、園や学校の移動距離、外出の流れ、休憩の取り方 | 家庭・学校で続けやすい実装へつなげる |
2.回復・発達支援の介入体系
介入は固定の一つではなく、評価結果に応じて組み合わせます。
歩くと疲れる子を「筋力が弱い」「体幹が弱い」と一言でまとめると、支援は浅くなります。たとえば、疲れると歩幅が小さくなる子でも、その背景が片脚支持の不安定さなのか、足関節の使いにくさなのか、周囲情報が増えたときの注意の崩れなのかで、次の一手は変わります。
その場では、どの条件で歩き方が安定しやすいかを確かめます。速度を少し落とすと保てるのか、視覚目標があると変わるのか、休憩を短く早めに入れると崩れにくいのか、靴を変えると変化するのか。観察された所見と介入を一対一で対応させることが、生活で再現できる支援につながります。
最後は、訓練室でできたことをそのまま終わらせず、通園路や買い物、遠足などの目標場面に落とし込みます。一定期間後には、同じ目標動作をもう一度見て、歩ける距離だけでなく、崩れ始めるタイミングや回復の速さがどう変わったかを再評価します。
3.量・難易度・学習設計
歩行練習は、たくさんやればよいわけではありません。疲労が出る前に成功体験を積める距離から始め、速度、方向転換、荷物、人混みなどの条件を一つずつ増やします。子どもが自分で選べる要素や、楽しく繰り返せる工夫を入れながら、失敗が続きすぎない難易度に調整することが大切です。
4.生活・学校への般化
訓練室で5分歩けることと、園や学校で友だちと移動できることは同じではありません。だから、最終的には「通園で立ち止まる回数」「遠足後半の歩き方」「買い物の途中で抱っこになるまでの時間」「休憩後に再開できるか」など、生活の指標で見ます。保護者コーチングも、親が療法士になることではなく、短く続けやすく、親子関係を壊さない形で行うことが大切です。

家庭では生活を守る工夫を。専門施設では、評価にもとづいて複数の方法を組み合わせ、できる力を生活で使える力へつなぎます。両者は対立するものではなく、連続しています。
よくある質問

STROKE LABの小児リハでは、歩行の見た目だけでなく、疲労前後の変化、家庭や学校との違い、生活で困る場面まで含めて評価します。まずは医療的に確認すべきことを整理し、そのうえで、今育てたい力と実生活で必要な移動を結びつけます。

STROKE LABの視点の土台にある一冊です。歩行を足元だけでなく、姿勢制御、感覚、運動学習、生活参加までつなげて考える視点を、日々の臨床に生かしています。
- Jackman M, Sakzewski L, Morgan C, et al. Interventions to improve physical function for children and young people with cerebral palsy: international clinical practice guideline. Dev Med Child Neurol. 2022;64(5):536-549.
- Novak I, Honan I. Effectiveness of paediatric occupational therapy for children with disabilities: A systematic review. Occup Ther Int. 2019;2019:7057084.
- World Health Organization. Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age. WHO; 2019.
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023.
- 金子唯史. 脳の機能解剖とリハビリテーション. 医学書院; 2024.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)