小児脳腫瘍の手術後の運動麻痺|片麻痺・失調とリハビリ
小児脳腫瘍の手術後|片麻痺・失調・疲労を、部位と動作から見る
「歩けるようになったのに、すぐ転ぶ」「右手は動くのに、食事や着替えでは使わない」「午前中はできるのに、午後になると崩れる」。術後の動きは、筋力だけでは説明できません。腫瘍・手術部位、失調、麻痺、眼球運動、感覚、治療関連疲労を分けて見ることで、次に選ぶ支援が変わります。

術後の「動きにくさ」は、一つの原因ではない。
小児脳腫瘍の手術後には、片麻痺、ふらつき、手足の狙いのずれ、眼球運動の問題、嚥下・構音の問題、疲れやすさなどが現れることがあります。腫瘍そのものの影響だけでなく、手術、水頭症、放射線治療、化学療法、長期臥床、薬剤、内分泌の変化など、複数の要因が重なる可能性があります。
そのため、術後の歩行が不安定だからといって、すぐに「脚の筋力不足」と決めません。どの条件で、どの方向へ、何回目から崩れるのかを確認し、失調、麻痺、感覚、視覚・前庭、疲労の関与を整理します。
部位によって、現れやすい運動障害が異なる。
| 主な部位 | 現れ得る問題 | 動作で確認する視点 |
|---|---|---|
| 大脳半球 | 片麻痺、感覚障害、視野・注意の問題、けいれん | 左右差、片手と両手、足の振り出し、視野と空間探索 |
| 後頭蓋窩・小脳 | 体幹・四肢の失調、測定障害、構音、眼球運動 | 座位と立位、支持の有無、速度、方向転換、頭部運動 |
| 脳幹周辺 | 眼球運動、顔面、嚥下、声、姿勢制御 | 視線固定、頭と体の協調、食事、呼吸、疲労 |
| 視床下部・下垂体周辺 | 視覚・視野、内分泌、体温・睡眠・体力への影響 | 時間帯、活動耐容能、視覚条件、医学的管理との連携 |
部位から症状を予測することは大切ですが、画像だけで介入を決めることはできません。同じ後頭蓋窩腫瘍術後でも、体幹失調が中心の子、眼球運動の影響が大きい子、疲労で変動する子では、支援条件が異なります。

新しい症状・急な悪化は、リハビリで様子を見ない。
慢性期であっても、新しい症状や一度改善した機能の急な低下は、単なる運動不足と判断しません。再発・増悪、水頭症、シャントの問題、出血・梗塞、感染、晩期合併症などの医学的評価が必要になる場合があります。
- 新しい頭痛、繰り返す嘔吐、強い眠気、意識や反応の変化
- 新しいけいれん、急に強くなった麻痺やふらつき
- 視力・視野・斜視・眼球運動の変化
- それまでできていた歩行・食事・会話などの急な低下
- シャントがある場合の発熱、機嫌不良、挿入部の発赤・腫れ
「できる・できない」ではなく、崩れる条件を評価する。
歩行は、直線を数歩歩けるかだけでは評価できません。速度を変える、曲がる、止まる、頭を動かす、物を持つ、話を聞く、疲れた後に歩くといった条件で反応を比べます。
上肢では、関節が動くかだけでなく、対象を見つける、手を運ぶ、つかむ、力を調整する、両手で役割を分けるところまで評価します。座位ではできても立位で乱れる場合、手だけでなく姿勢制御の負荷が関係します。
研究でわかっていることと、限界。
小児後頭蓋窩腫瘍経験者を対象とした研究では、身体機能の低下が報告され、とくにバランスの課題が目立ちました。歩行が可能でも、走行、方向転換、片脚支持、両側協調などに困難が残る可能性があります。
限界:単施設の横断研究であり、腫瘍種・治療・年齢の違いがあります。個人の経過を予測する研究ではありません。
小児脳腫瘍の運動介入に関する系統的レビューでは、体力や一部の認知・身体指標への可能性が検討されています。一方、研究数と対象数は限られ、プログラムも多様です。疾患・治療状況に応じた医学的安全確認が前提です。
限界:失調や片麻痺に対する特定の手技の優越性を示す根拠ではありません。研究結果を個別介入へ直接当てはめず、反応を再評価します。
家庭では、安全と活動量の「波」を記録する。
家庭で大切なのは、無理に回数を増やすことではありません。時間帯、治療日、睡眠、食事、活動前後の疲れ、転倒、休憩後の回復を短く記録します。活動量の波が見えると、主治医への相談やリハビリの負荷調整に役立ちます。
ここまでは、家庭で転倒や過負荷を減らし、活動量の波を把握する工夫です。専門施設では、片麻痺・失調・眼球運動・感覚・姿勢・疲労を条件別に評価し、介入候補を比較します。診断、再発評価、投薬、手術、放射線・化学療法、シャント管理は主治医・治療病院が担います。
専門施設で、さらに期待できること。
専門施設では、症状名に同じ訓練を当てはめません。評価所見→仮説→介入→その場の反応→生活での変化という因果鎖をつくり、反応がなければ仮説や条件を更新します。
| 困りごと | 確認する評価 | 介入の選択 | 難易度・量 | 生活で再評価 |
|---|---|---|---|---|
| 歩くと左右へ寄る | 体幹失調、足運び、眼球運動、頭部運動、感覚、疲労 | 支持と視覚・触覚手がかりを調整し、直線・方向転換を課題練習 | 支持物、速度、歩幅、頭部運動、反復数を段階化 | 校内移動、曲がり角、階段の介助量 |
| 片側の手を生活で使わない | 麻痺、感覚、視野・注意、体幹、学習性不使用 | 目標物操作、両手課題、必要時の片手集中課題 | 物の大きさ、重さ、速度、反復、成功率を調整 | 食事、更衣、学用品での使用頻度 |
| 午後に歩行・注意が崩れる | 治療関連疲労、睡眠、内分泌、廃用、認知疲労 | 短い反復、ペーシング、休憩設計、重要活動の時間配置 | 時間、回数、休憩、学校予定に合わせ調整 | 登校時間、授業後の移動、帰宅後の回復 |
失調への介入では、誤差を完全に消すのではなく、子どもが修正できる範囲へ調整します。支持を増やす、速度を落とす、対象を大きくする、視覚手がかりを加えることで成功率を確保し、安定したら一つずつ支援を減らします。難しすぎる課題の反復は、恐怖や代償を強める可能性があります。
片麻痺では、筋力や関節可動域だけでなく、感覚、視野・注意、体幹、両手の役割分担を確認します。「手が動くのに使わない」場合、生活課題の意味、成功率、必要な時間、周囲の手伝い方まで見直します。

一回の歩行距離やバランス得点が改善しても、登校、授業、給食、階段、体育、下校を通して使えるとは限りません。STROKE LABでは、運動機能と治療関連疲労、自己効力感、学校参加を分けて追います。
限界:小児脳腫瘍術後の生活実装に関する直接的な介入研究は限られます。学校復帰計画は治療病院・学校・家族と連携し、個別に調整します。
学校復帰は、「登校できた」で終わらせない。
学校では、歩くだけでなく、時間に間に合う、荷物を持つ、人を避ける、授業へ注意を向ける、休み時間に移動するという複数課題が重なります。施設で安定していても、学校では疲労や情報量によって崩れることがあります。
復帰計画では、一日のどこで機能が低下するかを確認します。段階登校、休憩場所、エレベーター、移動時間、体育の参加方法、教材量、保健室との連携などを具体化します。成長や進学、治療後の晩期合併症によって新たな課題が表れる可能性があるため、節目で再評価します。
よくある質問。
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。診断・手術・投薬・画像検査などの医学的判断は主治医を尊重し、私たちは機能解剖と動作分析をもとに、生活と学習の側から併走します。医療機関でのリハビリとの併用も可能です。
育ちに寄り添う関わりへ。

脳腫瘍の治療を乗り越えたあとも、動きや疲労への不安が続くことがあります。私たちは、「歩ける」「手が動く」という一つの結果だけでなく、どの条件なら安定し、どこで崩れるかを丁寧に見ます。
部位の知識と目の前の動作を往復しながら、子どもが再び学校・遊び・家族との外出へ参加できる条件を設計します。研究が限られる領域だからこそ、効果を断定せず、反応を測りながら仮説を更新します。
医療機関での治療とあわせて、家庭・学校での関わりを整理したい方はご相談ください。お子さんが大切にしている生活場面から、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動を「筋力だけ」で終わらせず、姿勢・感覚・認知・環境との連鎖として見る視点は、小児リハビリの土台にもなります。
- 子どもの脳梗塞・脳出血|小児脳卒中とリハビリ
- 脳性麻痺・脳損傷の子どもの認知・視知覚
- 麻痺のある子どもの感覚の問題
- 小児の脊髄腫瘍・骨腫瘍と運動麻痺
本記事は、国内外の公的情報・査読研究と、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ず主治医・関係する専門職へご相談ください(最終確認日:2026年7月12日)。
- 日本小児がん研究グループ:小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン.中枢神経腫瘍の神経学的合併症・水頭症管理を含む。
- Piscione PJ, Bouffet E, Mabbott DJ, Shams I, Kulkarni AV. Physical functioning in pediatric survivors of childhood posterior fossa brain tumors. Neuro Oncol. 2014;16(1):147-155.
- Sharma B, Allison D, Tucker P, Mabbott D, Timmons BW. Exercise Trials in Pediatric Brain Tumor: A Systematic Review of Randomized Studies. J Pediatr Hematol Oncol. 2021;43(2):59-67.
- Kohler BE, et al. Therapeutic exercise interventions in pediatric survivors of brain cancer and other solid tumors: a scoping review. 2022.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)