片麻痺の子が麻痺側を使わない|学習性不使用と家庭での関わり
使わない手を責めず、使いやすい経験を少しずつ増やす
「声をかければ使うけれど、気づくといつも反対の手だけで済ませている」。片麻痺のあるお子さんでは、このような場面がよくあります。これは本人の怠けや、保護者の声かけ不足だけではありません。使いにくい経験が重なると、子どもは自然に使いやすい手を選びやすくなります。大切なのは、麻痺側を無理に使わせることではなく、麻痺側が参加しやすい条件を整えることです。

「使わない」のは怠けではない。
片麻痺のあるお子さんは、生活の中で自然に使いやすい手を選びます。食事、着替え、遊び、勉強。早く終わらせたい場面ほど、麻痺側の手は置きっぱなしになりやすくなります。
ここで大切なのは、「どうして使わないの」と責めることではありません。使いにくい手でも参加できるように、姿勢、物の位置、課題の難しさを整えることです。
片麻痺のあるお子さんにとって、麻痺側の手を使うことは、ただ「力を入れる」だけではありません。体幹で姿勢を保ち、肩甲骨を安定させ、目で物を確認し、手の感覚を受け取りながら、タイミングよく動かす必要があります。少し難しいだけで、子どもはすぐに成功しやすい方法を選びます。
その選択は、とても自然なものです。だからこそ支援では、麻痺側の手を「使わせる」のではなく、使ってみたらうまくいったという経験を、生活の中に増やすことを目指します。
学習性不使用・発達性不使用とは。
大人の脳卒中リハビリでは、「使わないことで、さらに使いにくくなる」現象を学習性不使用と呼ぶことがあります。小児片麻痺では、発達の途中で使う経験が偏り、麻痺側の手に残っている力や感覚に気づきにくくなることがあります。研究では、このような状態を developmental disregard と呼ぶことがあります。
保護者向けに言い換えると、麻痺側の手を使う経験が少ないため、本人の中で「その手を使う選択肢」が育ちにくい状態です。だから、声かけだけで変えようとすると、本人も保護者も疲れてしまいます。

麻痺側の手を使う時間を増やすことは大切ですが、姿勢が崩れたまま、届きにくい位置で、難しすぎる課題を続けても、成功体験にはなりにくいです。まずは、届く、触れる、支える、押さえる、離すなど、小さな役割から始めます。
家庭で見えるサイン。
学習性不使用は、検査室だけで分かるものではありません。むしろ、食事、着替え、遊び、学習、外出の中にヒントがあります。以下のような様子がある場合、麻痺側の手が「能力として全く使えない」のではなく、「生活の中で使うチャンスが少ない」可能性があります。
| 生活場面 | 見られやすいサイン |
|---|---|
| 食事 | 皿や器を押さえず、片手だけで食べようとする。こぼれるとすぐ反対の手に切り替える |
| 遊び | ブロックやカードを片手だけで操作し、麻痺側の手は膝や机の上に置いたままになる |
| 着替え | 袖を通す、服を押さえる、裾を引く役割が少なく、保護者が全部介助しやすい |
| 学習 | 紙を押さえない、ノートがずれる、道具を持ち替えると姿勢が崩れる |
| 外出 | 荷物を片側だけで持つ、転びそうな場面で麻痺側を支えに使いにくい |
ただし、急に片側の手足が動かしにくくなった、顔のゆがみが出た、けいれん様の動きがある、意識や呼吸、顔色がいつもと違う場合は、家庭練習ではなく医療機関への相談を優先してください。
STROKE LABの視点:手だけを見ない。
麻痺側の手を使わないとき、手指の細かい動きだけを見てしまうと、関わりが狭くなります。STROKE LABでは、麻痺側の手が参加できるかを、姿勢、物の配置、成功体験の3つで見ます。
座位が崩れると、手は細かく動かしにくくなります。背中、骨盤、足底の支えを整えます。
麻痺側に届きやすい位置、支える役割、押さえる役割をつくると、参加しやすくなります。
「使って」より、「押さえたから切れたね」のように、結果が分かる言葉を使います。

研究でわかっていること。
一側性脳性麻痺の子どもでは、麻痺側の上肢に残っている能力への気づきが弱くなり、生活でその手を使いにくくなる developmental disregard が報告されています。これは、やる気の問題ではなく、発達の中で使う経験が少なくなることと関係します。
出典:Zielinski IM, et al. BMC Neurology. 2014;14:6. Zielinski IM, et al. BMC Neurology. 2014;14:221.
一側性脳性麻痺の上肢リハビリでは、CIMT、両手訓練、目標志向の練習などが研究されています。大切なのは、麻痺側だけを根性で動かすことではなく、子どもと家族にとって意味のある課題を選び、生活で使う経験へつなぐことです。
出典:Sakzewski L, et al. Pediatrics. 2014;133(1):e175-e204. Hoare BJ, et al. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2019;4:CD004149. Jackman M, et al. Developmental Medicine & Child Neurology. 2022;64(5):536-549.
専門リハで取り組めること。
麻痺側を使う練習は、手指だけの問題ではありません。座る姿勢、見る位置、物の大きさ、手を出す角度、成功が分かるフィードバックまで含めて設計します。
食べる、遊ぶ、書く、着替えるなど、本人の生活にある「したい」を起点にします。
麻痺側を主役にする場面と、両手で協力する場面を、年齢と能力に合わせて選びます。
練習室でできた動きを、食事・遊び・学習・学校生活へつなぐ方法を一緒に整理します。
効果や進み方には個人差があり、成長や疲労、感覚、認知、学校環境によって変動します。医療機関での治療と矛盾しないよう、主治医や地域の療育・学校支援と連携しながら進めます。

家庭でできる関わり。
家庭で大切なのは、長い練習を無理に続けることではありません。生活の中に、麻痺側が少し参加しやすい場面を作ることです。最初は「支える」「押さえる」「触る」「離す」のような小さな役割で十分です。
| 家庭での工夫 | 具体例 |
|---|---|
| 物の位置を少し変える | 玩具や食器を、麻痺側の手が届きやすい少し前方に置く。遠すぎる位置にはしない |
| 麻痺側に小さな役割を作る | 紙を押さえる、箱を支える、服の裾を持つ、コップに軽く触れるなど |
| 声かけを短くする | 「押して」「支えて」「離して」など、動きに直結する短い言葉にする |
| 結果を伝える | 「押さえたから切れたね」「両手で持てたね」のように、手を使った結果を共有する |
| 動画を残す | うまくいった場面と難しかった場面を短く撮影し、療育やリハビリで相談する |

よくある質問。
Q. 麻痺側の手を使わないのは、本人のやる気の問題ですか?
Q. 家庭では、麻痺側の手をどのくらい使わせればよいですか?
Q. 麻痺側の手を持って動かしてもよいですか?
Q. CI療法や両手練習は家庭でもできますか?
Q. 学校や園には、どのように伝えればよいですか?
Q. 急いで医療機関に相談すべきサインはありますか?
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。小児片麻痺のお子さんに対しても、機能解剖と動作分析の視点から、生活の中で麻痺側が参加しやすい条件を一緒に整理します。
「使わないから練習する」ではなく、「どんな条件なら使えるか」を見つけること。医療・健診・主治医の判断を尊重しながら、家庭・学校で続けられる形へ落とし込むこと。ここが、私たちが大切にしている関わりです。
使える条件づくりへ。

片麻痺のあるお子さんが麻痺側の手を使わないとき、保護者の方は「このままで大丈夫なのか」と不安になります。けれど、その背景には、姿勢、感覚、成功経験、課題の難しさが関係しています。
医療機関での治療とあわせて、家庭・学校での関わりを整理したい方は、一度ご相談ください。お子さんの育ちに寄り添いながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

本記事の背景には、脳の機能解剖、運動学習、生活動作分析の視点があります。専門的な知見を、保護者の方が家庭で観察しやすい言葉に翻訳してお伝えします。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)