発達障害の二次障害を防ぐ|自己肯定感を守る早期の関わり
叱責ループに入る前に、子どもの自信を守る関わりへ
発達障害のある子どもは、わがままだから困っているのではありません。感覚、注意、見通し、運動、対人関係の特性が周囲に理解されないまま失敗経験が重なると、不安・自己否定・登園登校しぶり・癇癪・意欲低下などの二次的な困難につながることがあります。早期支援とは、診断名を急ぐことではなく、困りごとの背景を早く理解し、できる条件を整えることです。

二次障害とは、「特性そのもの」ではなく経験の積み重ねで生じる困難です。
最初は、着替えが遅い、集団行動に入れない、椅子に座っていられない、手先の課題を嫌がる、という困りごとでした。けれど次第に、「どうせできない」「行きたくない」「僕はダメ」と言うようになってきた。
このように、発達特性そのものに加えて、失敗経験や叱責、周囲とのずれが重なり、心と行動の困難が広がっていくことがあります。
発達障害の「一次的な特性」とは、脳の働き方の違いにより、感覚の受け取り方、注意の向け方、見通しの立て方、コミュニケーション、運動の不器用さなどに特徴が出ることを指します。一方で「二次障害」は、その特性が理解されず、環境が合わない状態が続くことで、不安、自己肯定感の低下、登園・登校しぶり、癇癪、反抗、意欲低下、身体症状などが重なっていく状態を指す言葉として使われます。
ここで大切なのは、二次障害を「本人の性格の問題」と見ないことです。子どもは、困らせようとしているのではなく、困っているから反応していることがあります。早期の関わりで必要なのは、叱って抑え込むことではなく、なぜ難しくなっているのかを大人が先に理解し、安心して挑戦できる条件を整えることです。
| 分類 | 内容 | 見え方の例 |
|---|---|---|
| 一次的な特性 | 感覚過敏、注意の移りやすさ、見通しの弱さ、運動の不器用さ、言語理解の偏りなど | 音が苦手、切り替えが苦手、順番を待てない、手先課題が苦手 |
| 二次的な困難 | 失敗・叱責・孤立・無理な適応が重なり、不安や自己否定、回避、怒りとして表れる状態 | 登園しぶり、癇癪、反抗、黙り込み、身体症状、意欲低下、「どうせ無理」という言葉 |
なぜ、二次障害が起こるのか。
発達障害の特性は、外から見えにくいことがあります。音がつらい、触られるのが苦手、先生の一斉指示が入りにくい、先の見通しが立たない、手先や姿勢のコントロールが難しい。子どもの中では大きな負荷がかかっていても、周囲からは「わざとやっている」「やる気がない」「甘えている」と受け取られやすいのです。
その結果、注意される、比べられる、失敗する、また注意されるという経験が続きます。子どもは「どうしたらできるか」を学ぶ前に、「自分は怒られる存在だ」「頑張っても無理だ」と学習してしまうことがあります。これが自己肯定感を下げ、挑戦する力を奪っていきます。

感覚過敏、注意の移りやすさ、見通しの弱さ、運動の不器用さなどがあります。
大きな音、曖昧な指示、急な予定変更、長時間の着席などが負担になります。
「早くして」「ちゃんとして」「何回言ったら分かるの」が増え、自信が下がります。
登園しぶり、癇癪、反抗、黙り込み、身体症状、意欲低下として表れることがあります。
STROKE LABの視点:問題行動の直前にある「体と環境」を見る。
多くの記事では、二次障害を「心の問題」や「自己肯定感の低下」として説明します。それは大切な視点です。しかしSTROKE LABでは、さらに一歩手前にある「崩れる直前の体と環境」を見ます。癇癪や拒否が出た瞬間だけを見るのではなく、その直前に姿勢が崩れていないか、音や光で疲れていないか、手順が多すぎないか、見通しが切れていないかを観察します。
たとえば、宿題を拒否する子どもがいたとき、「やる気がない」と見る前に、椅子で姿勢を保つことに疲れていないか、鉛筆操作や書字が難しくないか、問題量が多すぎないか、終わりが見えているかを確認します。この見方に変えると、叱る以外の支援が見えてきます。
「なぜできないか」ではなく、「どこで崩れ始めるか」を見る
崩れる直前の小さな変化に気づけると、二次障害を予防する支援が早く入ります。体が前に倒れる、手元が止まる、耳をふさぐ、視線が泳ぐ、言葉が荒くなる、急にふざける。これらは「問題行動」ではなく、負荷が高くなっているサインかもしれません。
保護者や先生がこの段階で、休憩を入れる、手順を減らす、視覚的に示す、姿勢を整える、音や人混みから離れるといった調整を入れられると、叱責ループに入る前に子どもを助けやすくなります。
自己肯定感を守る関わり。
自己肯定感とは、「自分はここにいてよい」「失敗しても大丈夫」「助けを求めてもよい」と感じられる土台です。発達障害のある子どもは、日常の中で注意される場面が多くなりやすいため、意識して自己肯定感を守る関わりが必要です。
ただ褒めればよい、ということではありません。大切なのは、結果ではなく過程を見ることです。できた・できないだけで判断せず、工夫したこと、途中まで取り組めたこと、助けを求められたこと、休憩を選べたことを言葉にして返します。
| 場面 | 避けたい言葉 | 置き換えたい言葉 |
|---|---|---|
| 準備が遅い | なんでいつも遅いの? | 次は靴下だけやろう。終わったら一緒に確認しよう。 |
| 癇癪が出る | 泣かないの。わがまま言わない。 | 今は切り替えが難しかったね。落ち着いたら次を選ぼう。 |
| 字や工作が苦手 | もっと丁寧に。ちゃんと見て。 | ここまで線を見て進めたね。次は紙を押さえる手を使ってみよう。 |
| 集団に入れない | みんなできてるよ。 | 先に見るだけでも大丈夫。入るタイミングを一緒に決めよう。 |
子どもが崩れたときこそ、「あなたが悪い」ではなく「今の方法が難しかったね」と伝えます。人格ではなく行動と環境に目を向けることで、子どもは安心して次の方法を学びやすくなります。
研究でわかっていること。
ADHDの子どもへのペアレントトレーニングを調べたメタ分析では、29研究、2,345名分のデータから、保護者の関わりや親子関係に対して小〜中等度の良い影響が報告されています。なかでも、問題が起こる前の条件を整えること、望ましい行動を強化することが重要な要素として示されました。これは、叱って直すより、できる条件を先に整えるという支援方針を考えるうえで参考になります。
この研究はADHDを対象にしたものですが、二次障害予防の記事で重要な「環境と関わり方を整える」という考え方と相性があります。子どもを責める前に、指示の出し方、課題量、休憩、見通し、感覚刺激を整えることは、家庭・園・学校のどの場面でも応用できます。
様子見ではなく、相談を考えたいサイン。
二次障害は、困りごとが大きくなってから対応するよりも、早期支援によって「負担のループ」を断つことが大切です。下の表は、家庭で様子を見るだけでなく、園・学校・医療・療育・リハビリなどへ相談を考えたい目安です。
| 観察ポイント | 家庭で調整しながら見たい | 相談を考えたい |
|---|---|---|
| 気持ちの言葉 | 「嫌だった」「疲れた」と言える | 「どうせ無理」「自分はダメ」が増えている |
| 登園・登校 | 苦手な日があるが、調整すると行ける | 行きしぶり、腹痛、頭痛、涙が続いている |
| 癇癪・怒り | きっかけが分かり、落ち着く方法がある | 頻度や強さが増え、家庭だけでは対応が難しい |
| 身体症状 | 疲れた日に眠りが浅いことがある | 睡眠、食欲、体調の変化が続いている |
| 生活参加 | 苦手な課題があっても参加できる場面がある | 回避が広がり、遊び・学習・集団参加が減っている |
「まだ小さいから」「そのうち慣れる」と様子を見るだけでは、子どもと保護者の負担が増えることがあります。心配が続く場合は、小児科、発達相談、園・学校、療育機関などに早めに相談してください。
相談前メモ:家庭・園・学校で共有したい7項目。
相談の場では、「癇癪が多い」「やる気がない」だけでは背景が伝わりにくいことがあります。困りごとが出る条件と、落ち着きやすい条件をセットでメモしておくと、支援の方向性が見えやすくなります。動画は、可能であれば本人の尊厳に配慮し、短く、状況が分かる範囲で記録します。
年齢・生活場面別に見る、二次障害のサイン。
発達障害の二次障害は、年齢や生活場面によって見え方が変わります。ここでは「月齢表」ではなく、このテーマに合わせて年齢・生活場面別に整理します。年齢はあくまで目安です。早産・低出生体重などの背景がある場合は、乳幼児期には修正月齢も含めて主治医や健診で確認してください。

| 時期・場面 | 見えやすいサイン | 大人が整えたい条件 |
|---|---|---|
| 未就学期 | 切り替えで泣く、集団に入りにくい、服や音を強く嫌がる | 予定を絵で見せる、選択肢を2つにする、静かな休憩場所を作る |
| 小学校低学年 | 準備・宿題・板書でつまずく、注意される回数が増える | 手順を短く分ける、量を調整する、できた部分を具体的に返す |
| 小学校高学年 | 友達関係、失敗への敏感さ、「どうせ無理」が増える | 得意な役割を作る、相談先を複数にする、比較を減らす |
| 中学生以降 | 不登校、睡眠の乱れ、自己否定、強い回避が目立つことがある | 医療・学校・家庭で連携し、本人のペースと選択を尊重する |
避けたい関わりと、置き換えたい関わり。
二次障害を防ぐためには、子どもを傷つける言葉や関わりを減らし、できる形に置き換えることが大切です。ここでいう「避けたい関わり」は、保護者を責めるためのものではありません。毎日支える大人が、少しでも楽に関われる方法を増やすための整理です。

| 避けたい関わり | 起こりやすいこと | 置き換えたい関わり |
|---|---|---|
| 人格を否定する | 自分そのものを否定されたと感じ、自己否定が強まる | 行動を具体的に伝える。「走らない」より「ここは歩こう」 |
| みんなと比較する | 劣等感や反発が強くなり、挑戦しにくくなる | 前回の本人と比べ、小さな変化を認める |
| 長い説教をする | 言葉の量が多すぎて、次に何をすればよいか分からない | 短く、具体的に、1つずつ伝える |
| 苦手を根性で乗り越えさせる | 失敗経験が増え、回避や癇癪につながる | 課題量、姿勢、道具、環境を調整する |
| 保護者だけで抱え込む | 疲労と孤立が強まり、叱責ループに入りやすい | 園・学校・医療・療育・リハビリと共有する |
STROKE LABでは、感覚・姿勢・運動・注意・環境の視点から、お子さんの困りごとの背景を整理し、家庭や園・学校で使える関わり方につなげます。
よくある質問。
発達障害そのものの特性から直接起こる困りごとではなく、失敗経験、叱責、周囲とのずれ、無理な環境への適応などが重なることで生じる不安、自己肯定感の低下、登園・登校しぶり、癇癪、反抗、意欲低下、身体症状などの二次的な困難を指します。正式な診断名としてではなく、支援の視点として使われることが多い言葉です。
すべてを完全に防げるとは判断できません。ただし、早期に特性を理解し、環境を調整し、子どもが成功しやすい条件を増やすことで、失敗や叱責が積み重なるリスクを下げられる可能性があります。叱って直すより、できる形に整えることが基本です。
結果だけを褒めるのではなく、努力、工夫、選択、助けを求められたことなど、子どもの過程を言葉にして認める関わりです。叱る場面でも人格を否定せず、行動を具体的に伝え、次にどうすればよいかを一緒に整理することが大切です。
まずは困りごとを性格や努力不足と決めつけず、いつ、どこで、何がきっかけで難しくなるのかを観察します。そのうえで、予定を見える化する、課題を短く区切る、できた部分を言葉にする、感覚や疲労に合わせて休憩を入れるなど、子どもが成功しやすい環境を整えます。
困りごとの名前だけでなく、崩れやすい場面、落ち着きやすい方法、得意なこと、成功しやすい声かけ、避けたい刺激を具体的に伝えます。家庭と園・学校で見方をそろえると、子どもが同じ失敗を繰り返す前に支援を入れやすくなります。
登園・登校しぶりが続く、不安や癇癪が強い、眠れない、食欲や体調に変化がある、自己否定的な言葉が増えた、家庭だけでは対応が難しい場合は相談の目安です。小児科、発達相談、園・学校、療育機関、作業療法士・理学療法士などと連携して見立てを整理すると安心です。
STROKE LABの小児運動支援。
STROKE LABは、脳卒中をはじめとする神経リハビリを専門としてきた自費リハビリ施設です。小児の発達支援でも、感覚・姿勢・運動・注意・環境の視点から、子どもの「できない理由」を丁寧に整理し、生活の中で成功体験を積める関わり方を一緒に考えます。
二次障害を防ぐ支援は、子どもだけを変える支援ではありません。家庭、園、学校、支援者が同じ見方を持ち、子どもが安心して挑戦できる条件を増やしていくことです。困りごとの背景を専門的に整理したい場合は、小児リハビリの評価をご検討ください。
子どもの未来を守る支援です。

子どもの困りごとが続くと、保護者も先生も「どうしたらよいのか」と迷います。けれど、行動だけを見て叱る前に、体、感覚、環境、課題量、見通しを見直すことで、子どもが本来持っている力を発揮しやすくなることがあります。
STROKE LABでは、脳・感覚・姿勢・運動・環境を一つのつながりとして評価し、家庭や園・学校で使える支援へ落とし込みます。
「叱っても変わらない」「できない経験が積み重なっている」と感じたら、早めに相談してよい段階です。
代表取締役 金子 唯史

子どもの二次障害を考えるときも、心の問題だけでなく、脳・感覚・姿勢・運動・環境のつながりを見ます。本記事では、その臨床視点を保護者向けにやさしく整理しています。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、かかりつけの小児科医や専門職にご相談ください(最終確認日:2026年7月4日)。
- 国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト:発達障害(神経発達症)
- こども家庭庁:児童発達支援ガイドライン(令和6年7月)
- 文部科学省:第5部 保護者・本人用
- CDC: Learn the Signs. Act Early.
- CDC: Parent Training in Behavior Management
- American Academy of Pediatrics / HealthyChildren.org: Behavior Therapy for Children with ADHD
- WHO: Autism spectrum disorders
- Dekkers TJ, Hornstra R, van der Oord S, Luman M, Hoekstra PJ, Groenman AP, van den Hoofdakker BJ. Meta-analysis: Which Components of Parent Training Work for Children With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder? Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry. 2022;61(4):478-494.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)