顔面フィードバック仮説とは?表情と感情の関係・脳卒中リハビリを解説
表情は、感情の出口か。それとも、入口でもあるのか。
顔面フィードバック仮説は、表情筋の動きが感情に影響するという考え方です。ただし追試の結果は割れており、臨床での使い方には注意が要ります。本稿では、Hennenlotterらのfmri研究を軸に、「何が言えて、何が言えないか」を、新人セラピストの目線で整理します。

要点5項目。
「笑っているのに、元気がないと言われる」患者さん。
右被殻出血の発症から8週(回復期)です。左片麻痺があり、BRSは上肢Ⅲ・手指Ⅲ・下肢Ⅳ、FIMは総合84点(運動58点・認知26点)でした。主訴は「家族の前で笑えなくなった」ことです。
初回評価では、安静時に左の鼻唇溝が浅く、前額のしわ寄せは左右とも可能でした。随意的な口角挙上は左で弱い一方、冗談に笑った瞬間は左の口角も上がる場面がありました。House-BrackmannはⅢ、PHQ-9は8点でした。
この方の表情を、あなたはどう解釈しますか。
「左の口が動かないから麻痺です」で止まると、半分しか見ていません。表情は、運動の問題であり、感情表出の問題であり、気分の問題でもあるからです。
顔面フィードバック仮説とは何か。
まず用語を整理します。表情筋とは、顔面神経(第VII脳神経)が支配し、顔の表情をつくる皮筋の総称です。
顔面フィードバック仮説(Facial Feedback Hypothesis)とは、次の考え方です。顔の筋肉の動きが、感情体験を調整するというものです。
つまり、感情から表情へ向かう流れに加えて、表情から感情へ戻る流れも想定します。これが「双方向」の意味です。
脳卒中は身近な疾患です。2019年に世界で約1,220万人が新たに発症し、約1億100万人が罹患しています(Feigin ら, Lancet Neurology 2021, GBD 2019)[観察研究]。表情の問題に出会う機会は、想像以上に多いはずです。
「意図的に笑顔を作ると幸福感が増す」と説明されることがあります。しかし、証拠は一様ではありません。Coles ら(Psychological Bulletin 2019)は138研究・286効果量をメタ分析し、効果は小さく(d=0.29)、ばらつきが大きいと報告しました[SR/MA]。
3つの流れで理解する
扁桃体や帯状回などの大脳辺縁系で処理された感情が、脳幹の顔面神経核を介して表情筋を動かします。感情が強いほど、表情筋の動きも大きくなります。ただし、扁桃体から顔面神経核への直接投射は確立しておらず、多シナプスの経路と考えるのが安全です。
表情筋の動きが感覚情報として脳へ戻り、感情に関わる回路の活動を変える、という考え方です。fMRI研究では、怒りの表情の模倣で扁桃体の活動が変わることが示されました(第03章)。ただし、主観的な感情の変化までは示せていません。
感情と表情は、双方向のフィードバックループでつながる可能性があります。うつなど情動面の治療への応用が期待されています。一方で、リハビリ場面での効果は確立していません。

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表情と感情をつなぐ神経回路。
皺眉筋(眉間に縦じわを作る筋)に、ボツリヌス毒素(BTX:筋の収縮を一時的に麻痺させる薬剤)を注射しました。これで眉を下げる動きを止めています。その状態で、怒り・悲しみの表情を模倣したときの脳活動を、fMRIで比べた研究です。
研究デザイン(Hennenlotter ら, 2009)
対象は女性38名で、2群に均等に分けました。対照群は課題とfMRIを先に行い、その後にBTXを注射しました。
BTX群は、注射の2週間後に課題を行いました。この時期は、BTXの効果が最も高まるとされます。皺眉筋には完全な麻痺を作っています。
課題では、怒りまたは悲しみの表情写真(全8種)を見せるか、写真を見せないかを、ランダムな順で行いました。被験者は、写真の表情を模倣するか、観察するだけでした。
fMRIは課題の前後に撮像しました。表情はビデオに録画し、FACS(顔面表情符号化システム:表情を筋の動きの単位で採点する方法)で評価しました。
結果:5つのポイント
①表情の変化。BTXにより、怒り・悲しみの模倣で「眉を下げる動作」が有意に障害されました。眉下げは、悲しみより怒りの模倣で有意に強く出ました(Fig1)。

— Fig1:BTXによる眉下げ動作の障害と、怒り・悲しみ模倣での動作量の違い(元論文の図)。
②扁桃体の活動。両群とも、怒り・悲しみの模倣で、写真なしの条件より両側の扁桃体が活性化しました。観察だけでは活性化しませんでした。
③怒りの模倣。BTX群では、左の扁桃体の活動が対照群より有意に低下しました。
④悲しみの模倣と観察。扁桃体に群間差はありませんでした。BTX群では、左外側眼窩前頭皮質を含む数領域で活動が低下しました。
⑤相関。怒りの表情での眉下げの強さと、左扁桃体の活動には有意な相関がありました(Fig3)。悲しみの模倣や右扁桃体では、関連は認められませんでした。

— Fig3:怒りの表情での眉下げの強さと、左扁桃体活動の相関(元論文の図)。
考察:何が言えて、何が言えないか
言えること。表情を模倣するとき、顔の筋からのフィードバックが、感情に関わる神経回路の活動を変える証拠が示されました。
言えないこと。顔からのフィードバックが減ると、感じる感情が変わる、とまでは結論できません。
臨床への示唆。この結果は、他者との触れ合いの中で相手の感情を感じる、生理学的な根拠になりうるとされています。
責任病巣の考え方:2つの経路
随意運動の経路。一次運動野から内包、脳幹を経て顔面神経核に至る経路です。障害されると、指示して動かす口角挙上が弱くなります。
感情に伴う経路。帯状回や扁桃体などが関わる、別の経路と考えられています。自然に出る笑いは、この経路の影響を受けます。
経路が別なので、「指示すると動かないが、笑うと動く」という乖離が起こりえます。第01章の症例が、この型でした[専門家合意]。

扁桃体活動と表情フィードバック[観察研究]:Hennenlotter A ら, Cerebral Cortex 2009;19:537-542。女性38名を対象にしたBTX介入+fMRI実験です。無作為化は原文から確認できないため、観察研究相当として扱いました。怒りの眉下げの強さと左扁桃体活動に相関があり、主観的な感情は結論されていません。
顔面神経核への皮質入力[観察研究]:Morecraft RJ ら, Brain 2001;124:176-208。非ヒト霊長類の解剖学的研究です。外側の運動野は主に下部顔面へ、内側の帯状皮質運動野などは上部顔面へ投射する傾向が示されました。これが、中枢性麻痺で前額が保たれやすい背景です。
表情が乏しい理由を、切り分ける。
表情が乏しい患者さんを見たら、まず原因を切り分けます。原因によって、訓練の方針が変わるからです。

| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 中枢性(核上性)顔面麻痺 | 口角下垂、鼻唇溝の平坦化(下部顔面) | 前額のしわ寄せが保たれる。随意と情動で麻痺の程度が乖離することがある。 | 前額のしわ寄せ、閉眼、口角挙上。頭部CT/MRI(医師)。 |
| 末梢性顔面神経麻痺(Bell麻痺など) | 同側の口角下垂、表情の左右差 | 前額を含む同側の顔面全体が麻痺する。閉眼不全とBell現象(閉眼時に眼球が上転)を伴う。 | House-Brackmann、Sunnybrook。耳介周囲の発疹の確認(医師)。 |
| パーキンソン病の仮面様顔貌 | 表情が乏しい | 左右対称に乏しく、瞬目が減る。随意運動は比較的保たれ、固縮・無動を伴う。 | MDS-UPDRS Part III 項目3.2(表情)、固縮・無動の診察。 |
| 脳卒中後うつ・アパシー | 表情の乏しさ、自発性の低下 | 左右差は目立たない。気分の落ち込み(うつ)や、興味・意欲の低下(アパシー)が中心。 | PHQ-9、やる気スコア(Apathy Scale)、医師の診察。 |
| 情動失禁(病的な泣き笑い) | 感情表出の異常 | 表情が過剰、または場面に不釣り合いに出る。麻痺の有無とは別に評価する。 | CNS-LS(情動不安定性スケール)、場面ごとの観察。 |
前額が保たれるのは、上部顔面が両側の皮質から入力を受けるためと説明されます(Morecraft ら, Brain 2001、非ヒト霊長類の解剖学的研究)[観察研究]。表の鑑別ポイントは、臨床での一般的な整理です[専門家合意]。
評価尺度と採点基準を使いこなす。
表情の評価は、「随意」と「情動」の2つの視点で行います。尺度は、随意運動の評価が中心です。情動側は、観察で補います。

House-Brackmann分類(全6段階)
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| Grade Ⅰ:正常 | 全領域で顔面機能が正常。 | 定められていない(研究ではⅠ-Ⅱを「良好な回復」と定義する例が多い) | 左右差なし。 |
| Grade Ⅱ:軽度機能不全 | 注意深く見ると軽度の筋力低下。安静時は対称。前額は中等度〜良好に動き、最小努力で完全閉眼。口は最大努力で軽度の非対称。 | 同上 | 日常での支障は小さい。共同運動が軽度にあることもある。 |
| Grade Ⅲ:中等度機能不全 | 明らかな左右差があるが、見た目を大きく損なわない。前額は軽度〜中等度に動く。努力で完全閉眼。口は最大努力で弱い。 | 定められていない | 訓練の対象になりやすい段階。第01章の症例はここ。 |
| Grade Ⅳ:中等度〜高度 | 明らかな筋力低下、または見た目を損なう非対称。前額は動かない。完全閉眼は不可。口は最大努力でも非対称。 | 定められていない | 閉眼不全があれば、眼の保護を医師と相談する。 |
| Grade Ⅴ:高度機能不全 | かろうじて動きがわかる程度。安静時に非対称。前額は動かない。閉眼不全。口はわずかに動く。 | 定められていない | 微細な動きの促通と、リラクゼーションが中心。 |
| Grade Ⅵ:完全麻痺 | 動きがまったくない。 | 定められていない | 医師と原因・経過を確認し、訓練の適否を判断する。 |
Sunnybrook顔面評価法(全項目)
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| ① 安静時の対称性 | 目(正常0/狭い1/広い1/眼瞼手術後1)、頬の鼻唇溝(正常0/消失2/浅い1/深い1)、口(正常0/口角下垂1/口角挙上1)。合計×5点。 | 0〜20点。定められていない | 値が大きいほど非対称。総合点からは減点する。 |
| ② 随意運動(5動作) | 額を上げる・軽い閉眼・口を開けて笑う・鼻にしわ・口をすぼめる。各1(動かない)〜5(ほぼ正常)。合計×4点。 | 20〜100点。定められていない | 高いほど良好。訓練の効果判定に使いやすい項目。 |
| ③ 共同運動(5動作) | ②の5動作ごとに、0(なし)・1(軽度)・2(中等度)・3(重度)。合計する。 | 0〜15点。定められていない | 0が最良。意図しない同時収縮の程度を表す。 |
| ④ 総合点(Composite) | ②の点数 − ①の点数 − ③の点数。 | 0〜100点(100が正常)。確立したカットオフ値はない | 個人内の経時変化で解釈する。 |
House-Brackmann[専門家合意]:House JW & Brackmann DE, Otolaryngol Head Neck Surg 1985;93:146-147。6段階の総合評価を提案した論文です。簡便な一方、区分が粗く、軽微な変化を捉えにくいと指摘されています。信頼性・妥当性の数値とMCIDは、本稿では確認できていません。
Sunnybrook[観察研究]:Ross BG ら, Otolaryngol Head Neck Surg 1996;114:380-386。安静時・随意運動・共同運動を分けて評価し、感度を高める目的で開発された尺度です(サンプル数は原著を参照)。MCIDは確立していません。
共通の限界と使い方[専門家合意]:両尺度は、主に末梢性顔面神経麻痺の文脈で作られました。脳卒中の中枢性麻痺では、前額の所見と情動性の表出を別に記録します。同じ評価者・角度・照明で動画を撮り、個人内の変化を追うのが実務的です。
表情訓練を、根拠と数値で設計する。
元記事には、多くの訓練案が並んでいました。ここでは4つのステップに整理し、時間・回数・頻度を数値で示します。
数値は元記事の臨床手順に基づく目安です。脳卒中後の顔面麻痺に特化した大規模RCTは、本稿では確認できていません。

温かいタオルを顔にのせて3分待ちます。前額・頬・口周りを、指先で円を描くように、各部位1分ずつマッサージします。続けて「あ」の口形を5秒、「い」の口形を5秒保持し、これを3回くり返します。強度は、痛みやこわばりが出ない範囲です[専門家合意]。
鏡で自分の顔を見ながら、目尻を軽く上げ、口角を引き上げます。5秒保持してゆるめ、これを10セット行います。セルフ練習は1日3回・1回3分が目安です。左右差があれば、麻痺側を意識させ、健側の代償が強すぎないか確認します[専門家合意]。
座位か仰臥位で、ゆっくり息を吸いながら口角を上げます。吐きながら「はぁー」と声を出します。次に、笑顔を保ったまま「あ・い・う・え・お」を約3分くり返します。表情・呼吸・発声を一体で動かす練習です[専門家合意]。
好きな音楽や思い出話で、自然な笑顔を引き出します。その後、感情に合う表情を意図的に作ってもらいます。他者の表情写真を見て、感情を言葉にする課題も加えます。毎日1回の感情日記と、週1回の進捗確認で、変化を見える化します[専門家合意]。
メタ分析[SR/MA]:Coles NA ら, Psychol Bull 2019;145:610-651。138研究・286効果量を統合しました。顔フィードバックが感情体験に与える効果は小さく(d=0.29)、ばらつきが大きいと報告しています。
多施設の事前登録研究[単独RCT]:Coles NA ら, Nat Hum Behav 2022;6:1731-1742。19か国・3,878名で、顔の姿勢が感情に与える小さな効果が検出されました。効果量の詳細は原著をご確認ください。
古典課題の追試[複数RCT]:Wagenmakers EJ ら, Perspect Psychol Sci 2016;11:917-928。17ラボ・1,894名で、Strack ら(1988)のペン保持課題の効果は再現されませんでした。
臨床への翻訳[専門家合意]:表情訓練は「気分を変える手段」ではなく、顔面機能とコミュニケーションの訓練として位置づけます。気分への効果は、補助的な期待にとどめましょう。

保険リハビリには、日数や時間の上限があります。STROKE LABは、時間・内容・頻度を状態に合わせて設計する自費リハビリです。初回20分の無料体験で、現在の状態と今後の見通しをお伝えします。
多職種で、表情を支える。
なぜ多職種なのか
脳卒中後うつは、約31%に認められます(Hackett & Pickles, Int J Stroke 2014、観察研究のSR/MA)[SR/MA]。表情の乏しさに最初に気づくのは、誰でもありえます。
麻痺なのか、気分なのか。1つの職種だけでは決めきれません。各職種の情報を集めて判断します。
環境調整の3つのコツ
- 鏡:洗面所やベッドサイドの、目線の高さに置きます。
- 照明:顔に強い影ができない明るさにします。
- 声かけ:家族やスタッフが「今の動き、とても良いですね」と、その場で返します。
「表情の訓練を、単独で考えないこと。STは発声、OTは生活場面、看護師は病棟での様子を持っている。情報が集まると、麻痺か気分かが見えてくる。」— 田中先生(リハビリテーション医師)
「ストレスで顔がこわばる人は、頸部や姿勢の緊張も高いことが多い。ただし、これは臨床の経験則で、強い根拠はまだない。決めつけずに、PTと情報を共有しよう。」— 田中先生 [専門家合意]
| 職種 | この症状における評価項目 | 主な介入内容 | 他職種との連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 姿勢、頸部・顎周囲の筋緊張、全身のリラックス度 | 姿勢調整、全身の緊張緩和、呼吸を含むリラクゼーション | 姿勢と緊張の所見をSTへ伝え、発声時の姿勢を揃える。 |
| OT | 整容・食事・対人場面での表情の使われ方、自主練の実施状況 | 場面を設定した表情練習、鏡セルフ訓練の導入、感情日記、グループ活動 | 生活場面の観察を共有し、練習を日常につなげる。 |
| ST | 口唇閉鎖、構音・発声、咀嚼・嚥下への影響、他者の表情の認識 | 発声と表情の統合訓練、表情写真を用いた感情の言語化 | 声・構音の変化をPT・OTへ伝え、食事場面の情報を看護師と共有する。 |
| 看護師 | 病棟での表情・気分・睡眠・意欲、食事中の口角からのこぼれ | 口腔ケア時の観察、鏡練習の声かけ | 気分や意欲の変化を、早めにセラピスト・医師へ報告する。 |
| 医師 | 中枢性・末梢性の鑑別、抑うつ・アパシーの診断、画像所見 | 診断、薬物調整、必要な追加検査の指示 | 鑑別結果と、訓練の負荷に関する注意点をチームへ共有する。 |
| MSW | 社会的孤立感、家族の負担、退院後の通所・社会資源 | 退院後の環境・サービス調整、家族への相談支援 | 継続リハの選択肢(介護保険・自費リハなど)を家族へ案内する。 |
つまずきポイントと、臨床判断のコツ。
つまずきは、たいてい「効果の説明」「鑑別」「評価」のどれかで起きます。先輩たちが通ってきた道を、先に共有します。
臨床判断のコツ:動画と場面で判断する
コツ1。同じ角度・同じ照明・同じ距離で動画を撮ります。左右差の変化を、後から見比べられます。
コツ2。随意課題と、会話や笑いの場面の両方を撮ります。乖離は、責任病巣や訓練方針を考える手がかりです。
コツ3。眉や口角のわずかな動きを見逃さず、その場で言葉にして返します。この一言が、継続の力になります[専門家合意]。
「評価は『動くか』だけでなく、『いつ動くか』を見る。会話中、笑った瞬間、鏡の前。場面で表情が変わるなら、そこに訓練のヒントがある。」— 田中先生(リハビリテーション医師)
「僕も最初は、鏡の前の課題だけで判断していました。会話の場面を見るようになってから、患者さんの見え方が変わりました。」— 石川さん(新人療法士)
予後の見立てと、ゴールの立て方。
予後を見立てるときは、機能・活動・参加を分けて考えます。口角の左右差が残っても、会話や食事に支障がなければ、ゴールは達成できます。
回復の可能性については、Hatem らのシステマティックレビュー(Front Hum Neurosci 2016)が、発症6か月以降でも、リハビリでFMA・ARATが有意に改善する報告を整理しています[SR/MA]。ただし上肢中心の知見です。顔面への外挿は慎重に行います。
機能:Sunnybrookの随意運動スコアやHouse-Brackmann分類が、開始時より改善すること。
活動:食事中の口角からのこぼれが減り、発話が明瞭になること。
参加:家族との会話や外出の場面で、笑顔が自然に出ること。目標は4〜12週ごとに見直します[専門家合意]。
元記事は、表情筋リハビリに「ポジティブな感情の促進」や「社会的自信の回復」が期待できると述べていました。これらは、現時点では仮説として扱い、ゴールの主軸にはしません。
よくある質問。
変わる可能性はありますが、効果は小さく、個人差が大きいと考えるのが安全です。Coles らのメタ分析(Psychological Bulletin 2019、138研究・286効果量)があります。顔フィードバックが感情体験に与える効果は小さく(d=0.29)、ばらつきも大きいと報告されています。臨床では「気分が変わる」と約束せず、顔面機能とコミュニケーションの訓練として位置づけます。
使えますが、説明の仕方に注意が必要です。Wagenmakers らの多施設追試(Perspect Psychol Sci 2016)は、17ラボ・1,894名が対象です。古典的なペン保持課題の効果は再現されませんでした。一方、Coles らは19か国・3,878名の多施設研究を行いました(Nat Hum Behav 2022)。小さな効果が検出されています。気分への効果は補助的な期待にとどめ、主目的は麻痺や表出の改善に置いてください。
前額のしわ寄せが保たれるかが、最初の手がかりです。額の筋は両側の大脳皮質から支配を受けるため、中枢性(核上性)では前額が保たれ、口周りの麻痺が目立ちます。末梢性では、前額を含む同側の顔面全体が麻痺します。最終的な鑑別は、医師の診察と画像所見とあわせて行ってください。
脳卒中後の顔面麻痺に特化した頻度・時間の根拠は、本稿では確認できていません。臨床の目安(専門家合意)として、鏡を使った笑顔訓練を「5秒保持×10セット」から始めます。セルフ練習は1日3回・1回3分程度、進捗は週1回確認します。疲労や共同運動(意図しない同時収縮)が出る場合は、量を減らしてください。
左右差の有無と、気分・意欲の評価を分けて確認します。麻痺では随意運動の弱さや左右差が目立ち、うつやアパシーでは左右対称に表情が乏しくなる傾向があります。脳卒中後うつは約31%と頻度が高いです(Hackett & Pickles、Int J Stroke 2014)。PHQ-9などでスクリーニングを行い、医師へ報告します。
機能によっては期待できます。Hatem らのシステマティックレビュー(Front Hum Neurosci 2016)があります。発症6か月以降でも、リハビリで上肢機能(FMA、ARAT)が有意に改善した報告が整理されています。顔面機能については同水準の根拠を確認できていないため、評価尺度で個々の変化を追い、ゴールを段階的に設定してください。
STROKE LABのプログラム。
保険リハビリには、日数や時間の上限があります。「もっと良くしたい」のに、ブレーキがかかる。そんな声を、私たちは数多く聞いてきました。
STROKE LABは、時間・内容・頻度を状態に合わせて設計できる自費リハビリ(保険外リハビリ)です。1回ごとのお支払いで、保険リハビリとの併用もできます。


「もう◯ヶ月たったから」と、あきらめていませんか。脳卒中後に半年を過ぎてから回復する症例があります。パーキンソン病でも、継続的な運動で機能を保てます。どちらも研究で裏づけられています。
Hatem ら(Front Hum Neurosci 2016)のSRでは、発症6か月以降でもFMA・ARATが有意に改善する報告が整理されました[SR/MA]。David ら(Mov Disord 2015、24か月RCT・n=48)では、運動負荷により注意力とワーキングメモリが有意に改善しました[単独RCT]。

「回復期で、左の口角が動かず、食事中にこぼしてしまう70代の方を担当しました。ご本人は『顔は気にしていない』と話す一方、家族との会話が減っていました。麻痺と意欲低下を分けるため、鏡での随意課題と、笑い話の最中の表情を動画で比べました。自然な場面では口角が動いており、意欲面は医師と共有しました。訓練は『5秒保持×10セット』に絞り、家族には動いた瞬間の声かけをお願いしました。会話が増えたと聞き、顔だけでなく場面を見る大切さを学びました。」— STROKE LAB 理学療法士・脳卒中リハ専門
「失語症のある50代の男性で、発声練習になると表情が硬く、声が出にくい場面がありました。緊張が原因と考え、発声の前に温タオルと口形の練習を入れ、笑顔を保った『あいうえお』を3分行いました。緊張が下がると声が出やすくなる場面が増え、表情・呼吸・発声を一体で見る意義を実感しました。」— STROKE LAB 言語聴覚士・神経リハ専門
諦めないでください。

STROKE LAB代表の金子唯史です。脳卒中の後、表情や体の動きが思うようにならない現実に、ご本人もご家族も深く悩まれます。
けれど、回復は「半年の壁」だけでは語れません。発症から時間がたっても、機能が変わった報告はあります。大切なのは、いまの状態を正しく評価し、次の一手を一緒に決めることです。
私たちは、エビデンスに基づく評価と、一人ひとりに合わせた個別プランで伴走します。まずは初回20分の無料体験で、お悩みをお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)