vol.57:体性感覚欠如に伴う前庭脊髄における感受性の増大 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
目次
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カテゴリー
脳科学,姿勢制御
タイトル
体性感覚欠如に伴う前庭脊髄における感受性の増大 Somatosensory loss increases vestibulospinal sensitivity?PubMedへ Horak FB et al.:J Neurophysiol. 2001 Aug;86(2):575-85
内 容
概 要
●体性感覚の欠如は,前庭脊髄路の感覚を増大させる
●実際,前庭系と体性感覚系は独立せず,むしろ解剖学的にも機能的にも生理学的にも多くのシステムが集中している
●動物実験では,求心路遮断すると前庭系システムが過敏になることは明らかとなっている
●末梢神経系に障害を受けた糖尿病患者と年齢がマッチした正常人に4つの強烈な異なる両極電気刺激への姿勢の傾斜反応を比較
●仮説として,以前の実験から体性感覚情報の欠如による前庭系への依存の増大が生じると,COMや傾斜よりも体幹の傾斜の増大が予測され,前庭系の興奮に反応するHip Strategyをより使用すると予測される
●両側の前庭系が欠如した患者は平衡姿勢を制御するHip Strategyを使用できず,柔軟性を伴う体幹やCOMを動かすAnkle Strategyを維持しようとする結果となっていた
方 法
●両耳に両極性の電極刺激をそれぞれの患者に(0.25,0.5,0.75,1mA)のそれぞれの強さで与えていった
●実験は5つの施行から成り立つ(4段階の電極刺激と刺激なしの穏やかな1つのコントロール刺激)
●対象は,8人(男性6人と女性2人(mean age 57.9 +-11, range 38–70 yr)の糖尿病による末梢神経系の障害を呈した患者と健常人8名(男性6人と女性2人58.6 6+- 12 yr, range 38–72yr),診断未確定の足部感覚欠如の患者1名
結 果
Fig:COPと電気強度・時間経過でみた分析(Horak FB et al:2001) 電気刺激が上がれば上がるほど,COPの移動も大きく,時間も増えていくことがわかる 0.5~0.75間の差が,COPの変化はもっとも大きい
Fig:電気刺激による影響の比較(Horak FB et al:2001) 安定した面で傾斜が少なければ少ないほど,電極刺激に対するCOPの変動は少ない 健常人は前庭系の電気刺激が前方傾斜時に増大する
Fig:電気刺激に伴う体幹傾斜角とCOMの関係性(Horak FB et al:2001) 前庭への電気刺激はCoMよりも体幹の方がより影響を受ける 一般的に前方へのCOMの運動が制限されたとき,より一層遠くへの体幹の傾斜が適応するためにHipの前方に体幹が傾く
考 察
●先行研究では,AnkleのEMGの発火,COPの前方移動は動く床面での立位・座位あるいは支持面への反応の減少,随意運動時の電気刺激に反応して増大する=前庭系の発火が増大する
●この実験では,筋力はほぼ問題なかったので,姿勢コントロールの低下はmuscle weaknessによることが原因ではない
●また,体性感覚の低下による電極刺激の増大は長時間にわたって体性感覚のコネクションが前庭核に結びついていくシナプスの可塑性が原因であるとは思われない
●なぜなら,健常人で瞬時的に反応が認められるからである
●前庭系の情報は体性感覚情報が不十分になるとき立位の平衡や方向付けの制御に必須になる
●体性感覚が欠如した糖尿病患者は床面の素材だけでなく,床面の編位に対しても反応が遅れ,Swayが大きくなる
●先行研究で,完全な体性感覚の欠如した患者で前庭系が生きていた場合,目を閉じると完全に床面に対するオートマティックな反応ができなくなった
●対比的に,体性感覚欠如の患者で前庭系も損なわれていて,目を閉じると床の編位に対する姿勢コントロールは良好となる結果となっていた
●視覚は姿勢編位の電極刺激の影響を抑制できる
Fig:立位における身体定位のための前庭感覚と体性感覚の相互作用モデル(Horak FB et al:2001) 前庭系の中枢過程に加えて,頚部からの固有感覚情報を付け加えたモデルであり,頚部の情報は電気刺激に直結して反応した姿勢の編位に影響する
私見・明日への臨床アイデア
●体性感覚が低下した場合,Sensory Weightingの観点からその他も感覚モダリティーに頼らざる負えなくなることは容易に推測できる
●前庭感覚が姿勢定位のための第一選択に至った場合,前庭系をフルに使うよう体幹傾斜角を大きく取るような代償戦略の元,Ankle Strategyを用いる様子
●臨床の中でも,かなり固定的な姿勢定位にも関わらずバランス戦略はAnkle Strategyに近似したような戦略をとるptも多いような印象があるが,果たしてその戦略は適切なSensory Weightingのもとでコントロールされている戦略なのか?を評価しながらアプローチしていくことが重要だと思われる
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 4万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018)