vol.26 :脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー:立位時の足関節底背屈筋群における伸張反射の時間的・空間的予測の影響
目次
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カテゴリー
脳科学,姿勢制御
タイトル
立位時の足関節底背屈筋群における伸張反射の時間的・空間的予測の影響 The effects of temporal and spatial predictions on stretch reflex of ankle flexor and extensor muscles while standing?PubMedへ Fujio K et al:PLoS One.2016 Jul 6;11(7)
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・歩行中に人や物とぶつかり転倒してしまう方がいるため、外乱とバランスの関係について調べたいと思った。脳卒中後は股関節戦略に依存しやす印象がり、足関節戦略の重要性を認識しているが、どのような筋活動があり、伸張反射との関係性は知らない部分も多かったため調べることとした。
内 容
概 要
●外乱に対する姿勢反応は日常の転倒予防における重要な要素である
●一旦バランスが崩れると,40-100ms以内に伸張反射とそれに続く反応が生じることが知られている
●足関節底背屈筋の伸張反射は,動揺後の潜時によって短潜時応答(SLR),中潜時応答(MLR),長潜時応答(LLR)の3つに分類されることが知られている
●動揺の予測可能性は,反射の準備状態が影響する一つである.それは立位においてはどの情報を前もって予測できるかということに基づいている.例として,伸張されていない前脛骨筋におけるLLRの大きさは,動揺の大きさが予測できることにより調整される.予測されないときは,大きい動揺に対応するよう調整されている.
目 的
●立位中の外乱に対する時間的・空間的予測が足関節底背屈筋群の伸張反射応答に影響を及ぼすか,検討することを本研究の目的とした
方 法
●既往のない健常男性12名(平均±標準偏差:25.8±3.8歳)を対象
●簡易実験装置(セノー株式会社製)を用いた.装置は静止立位及び臥位にて足関節を軸として任意に急速な回転を誘発できるプレートであり,足関節を底背屈方向に動かすことができる.その速度は200°/秒であり,10°ずつ角度が設定できる
●実験条件は外乱に関する情報なし(No Cue),タイミング情報あり(TIM),方向情報あり(DIR),タイミングおよび方向情報あり(TIM/DIR)の4条件とした.タイミング情報は外乱の1秒前にビープ音を鳴らし,方向情報は試行から静止立位を取り直した際に口頭で与えた
●実験1:12名の被験者に壁面から2m手前で転倒防止柵の間で静止立位を保持させ,一点を注視させた.外乱が生じても,なるべく直立立位を保つよう指示した
●実験2:12名中6名は臥位でも同様の実験を行い,実験1の結果が姿勢特異性によるものか判定した
●筋電図記録:両側の前脛骨筋およびヒラメ筋に表面筋電図を装着した.伸張反射の応答について,先行研究ではSLR,MLR,LLRの3つに分類されているが,本研究では短潜時応答,長潜時応答の2つに分類した
●キネマティクス:三次元動作解析装置を用いて,外乱前の立位姿勢が適切かどうかを確認した
●統計解析:積分解析したiEMGを一元配置分散分析および多重比較法としてBonferroni法を用いて処理した.また,付随した筋活動,関節角度,角変化率,プレート速度についても一元配置分散分析にて処理し,伸張反射応答に影響があるか調べた
結 果
Fig2:立位中の時間的,空間的予測の伸張反射への影響:前脛骨筋の長潜時応答にて,TIMおよびTIM/DIR条件において有意な振幅の低下が見られた.一方,ヒラメ筋においては条件間における優位な差は見られなかった.また,短潜時応答での差は見られなかった.
Fig3:全体を通して,空間的予測は伸張反射への影響は見られなかった.
Fig3:立位と臥位における伸張反射予測の違い:先行研究では,臥位では筋の伸張反射において振幅及び発生率とも大きく減少することが報告されている.実際,前脛骨筋の長潜時応答は臥位で大きく減少したが,他の統計学的な変化はなかった.ヒラメ筋においても,立位-臥位間での変化はなかった.
Fujio K et al:2016?PDFへ
考 察
●本研究から①伸張反射応答には時間的予測が大きく影響する,②前脛骨筋とヒラメ筋では同じ予測でも異なった影響がある,③予測の影響は姿勢によるものではない,ということが明らかとなった.前脛骨筋の伸張反射は準備状態の影響を受ける.特に長潜時応答はtranscortical reflex(大脳皮質を経由した反射)とされており,運動の企画や随伴した姿勢制御の影響を受けやすいと考えられる
●一方ヒラメ筋は予測的な情報の影響は少なく,Ia線維を経由した脊髄反射性の要素が強いと考えられる.このように同じ伸張反射であっても前脛骨筋とヒラメ筋では異なる神経基盤を有していると考えられる.不安定場面でより強く活動する前脛骨筋の機能的背景を特徴として,両者の間で時間的予測の効果に相違が見られたものと思われる
明日への臨床アイデア
●中枢神経疾患など伸張反射が過剰な状態の場合,時間予測的な情報を与え,外乱に対する予測と姿勢制御の方略を十分に企画させた後に外乱刺激等を与えることで,過剰な反射の随意的な制御が可能となる可能性が示唆された
●立位姿勢の制御は足関節を支点として上方に重心を有する”逆振り子”として人間の身体をみなすinverted pendulum modelが採用されている(長谷 2006).このモデルではCOMは足関節軸の約30~50mm前方に投射し,足関節には常に背屈モーメントが作用している.この適度な緊張はCOMの変化に伴うより速い脊髄反射による姿勢制御を可能とすると考えられる
●一方,前脛骨筋は大脳皮質による予測的要素を統合したプログラムの影響を受けやすいことから,COMおよび関節モーメントによる物理的な緊張よりも,随意的な制御が効率よく作用するような状態が求められる.立位時のやや背面筋有意の適切な姿勢toneを保つことが,述べてきたような足関節底背屈筋群のそれぞれの機能的役割を発揮することにつながると考えられる
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 4万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018)