【2026年版】脳の島皮質と感覚統合療法:痛み、疼痛への効果的な評価・リハビリテーションとは?
島皮質は、なぜ「隠れた第五葉」と呼ばれるのか。
感情の平坦化・痛みの言語化困難・発語失行・嚥下障害――NIHSSに映らないこれらの症状の背景には、シルビウス裂の奥に隠れた島皮質の障害が潜んでいることがあります。解剖からMRI読影、評価、臨床応用まで先輩から後輩へ引き継ぎます。
— リハビリテーションのための臨床脳科学シリーズ:島皮質の機能とリハビリ応用を動画で確認できます。

要点5項目。
臨床現場では、こう出会う。
石川さん(68歳・女性)。左MCA M1近位部閉塞による脳梗塞、発症後2週間の回復期。tPA投与後に血栓回収療法を施行。DWIでは左島前〜中部・左前頭弁蓋・左運動野下部に梗塞巣を認めた。重症度はNIHSS来院時11点→2週後6点まで改善している。
主訴は「言いたいことが出てこない」「肩が変な感じで痛みをうまく伝えられない」「気持ちが平らで嬉しくも悲しくもない」の3点。初回評価では発語の努力感・探索行動、痛みの言語化困難、表情変化の乏しさが同時に確認された。
この3つの訴えは、それぞれ別の障害に見えて、実は同じ場所――島皮質――の障害から説明できることがあります。しかしNIHSSのスコアだけを見ていると、この関連性に気づけません。新人時代の私自身も、「感情が平坦」「痛みの訴えが曖昧」という所見を性格や心理的な問題として片付けてしまいそうになった経験があります。
島皮質は解剖学的に「見えない」場所にあるだけでなく、症状としても「見えにくい」領域です。この記事では、その解剖・機序から評価・介入・多職種連携までを、臨床でそのまま使える形で整理します。
島皮質とは何か、どれくらいの頻度で障害されるのか。
島(insula)は、側頭葉・前頭葉・頭頂葉の間、外側溝(シルビウス裂)の奥深くに位置する大脳皮質です。前頭弁蓋・頭頂弁蓋・側頭弁蓋という3つの「フタ」に完全に覆われているため、通常の大脳外側面からは見えません。この特異な位置から、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉に次ぐ「第五葉(the hidden fifth lobe)」と呼ばれます(Gogolla 2017)。

島は単一機能の脳部位ではなく、体性感覚・内受容感覚(自分の体の内部状態を感じる機能)・感情・言語・自律神経調節など複数のドメインを統合する結節点です。この「統合性」ゆえに、島の障害は単一の症状ではなく複数領域にまたがる複合的な症状として現れます。
前部島皮質と後部島皮質 ― 2つの区画
細胞構築は無顆粒〜異顆粒皮質。前帯状皮質(ACC)・扁桃体・眼窩前頭皮質(OFC)と強く接続し、感情・内受容感覚の意識化・自律神経調節・味覚・言語産生(特に左半球)・意思決定を担う。
細胞構築は顆粒皮質。視床(VPLc・VMpo核)・一次/二次体性感覚野と接続し、触覚・温痛覚・固有感覚の一次処理、痛みの強度評価を担う。情報は後部→前部へ階層的に処理される(Craig 2003)。
島は主に中大脳動脈(MCA)のM2セグメント(島セグメント)の上部幹・下部幹から灌流を受ける。M1〜M2近位部の閉塞では島が梗塞域に含まれやすく、M3・M4遠位枝の閉塞では島が温存されやすい(観察研究に基づく臨床的知見)。「MCA梗塞=必ず島障害」ではなく、DWIでの分布確認が必須。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは神経科学の知見に基づき、見えにくい症状も含めて丁寧に評価・説明したうえでプログラムをご提案します。まずは無料相談で現在の状況をお聞かせください。
責任病巣を、神経ネットワークから読み解く。
前部島と背側前帯状皮質(dACC)は「顕著性ネットワーク(SN)」のコアノードを形成します。SNは注意すべき刺激を検出し、デフォルトモードネットワーク(安静時)と中央実行ネットワーク(課題実行時)の切り替えを仲介します(Menon & Uddin 2010)。この切り替えが障害されると、課題への集中困難や内的反芻からの抜け出しにくさとして現れ、うつ・注意障害の病態と関連すると考えられています。
左右差・前後差でみる責任病巣と症状の対応
島の機能は左右・前後で異なるため、梗塞巣の分布から症状を予測し、逆に症状から責任病巣を推定する視点が臨床判断に役立ちます。
| 部位・側性 | 主な症状 | 追加評価ツール |
|---|---|---|
| 左前部島 | 発語失行・ブローカ失語・構音障害・嚥下障害(口腔期〜咽頭期) | WAB失語症検査・嚥下造影(VF)・MASA |
| 右前部島 | 感情の平坦化・内受容感覚低下・痛み表現の困難・社会的認知障害 | PHQ-9・GHQ・感情認識テスト |
| 左右 後部島 | 対側半身の感覚障害(痛覚・温度覚・触覚)・痛みの感情的側面の変容 | 定量的感覚検査・NRS/VAS |
| 両側島(稀) | 重篤な感情障害・無快感症・自律神経障害・発話の著明な障害 | 総合的神経心理学的検査 |
[観察研究]: Dronkers NF. Nature. 1996;384(6605):159-161. 発語失行患者25例全例で左島前部の病変が確認され、非発語失行の失語患者ではこの部位が保たれていた(症例対照研究)。
[観察研究]: Pracar AL, et al. Front Neurol. 2023;14:1187399. 前頭島病変を有する純粋発語失行の単一症例研究(67歳男性)。発症1・3・12か月の追跡で、島を含む前頭弁蓋領域の損傷程度と重症度スコア(Motor Speech Evaluation)の関連を報告。5年以内の知見として、島の関与を再確認するものとして位置づけられる。
「発語失行」と「構音障害」を、現場でどう見分けるか。
島の障害を疑うきっかけとして最も多いのが発話の異常です。しかし発話の異常は複数の病態が重なり合って見えるため、鑑別を誤ると介入方針がずれます。以下は臨床上よく混同される3疾患の鑑別ポイントです。

| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 発語失行(左島前部) | 発話が不明瞭 | 努力感が強い・音の置換や探索行動・文が長くなるほど悪化・自動言語(数唱等)は比較的良好 | Apraxia of Speech Rating Scale |
| 構音障害(運動野・橋・小脳) | 発話が不明瞭 | 筋力・協調障害由来で不明瞭さが一貫。努力感は目立たず、自動言語も同様に不明瞭 | 口腔顔面筋力検査・DAB評価 |
| ブローカ失語(下前頭回) | 発話が非流暢 | 構音運動自体は保たれ、文法・語想起の障害が中心。発語失行と合併することが多い | WAB失語症検査 |
「見えにくい障害」を、数値で拾い上げる。
島の障害はNIHSSの11項目に直接の評価枠がないため、感情面には気分尺度、痛みには複数モダリティの併用が有効です。ここでは脳卒中後抑うつのスクリーニングによく用いられるPHQ-9を例に、採点基準を完全網羅します。

PHQ-9 採点基準の完全網羅
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 興味・喜びの喪失 他8項目 | 各項目0(全くない)〜3(ほぼ毎日)の4段階 | 合計0〜27点 | 9項目合計で重症度を段階評価 |
| 総合スコア 0〜4点 | – | – | 症状なし〜軽微 |
| 総合スコア 5〜9点 | – | – | 軽度うつ症状 |
| 総合スコア 10〜14点 | – | 10点(スクリーニング陽性) | 中等度。精神科・心理職への相談を検討 |
| 総合スコア 15点以上 | – | – | 中等度〜重度。早期の専門職紹介を優先 |
[SR/MA]: Liu L, et al. PLoS Med. 2023;20(3):e1004200. 61件のコホート研究を統合したSR/MAで、脳卒中後抑うつの有病率は約31%と報告されている。PHQ-9を含む各種尺度が評価に用いられている。
[専門家合意]: カットオフ10点はPHQ-9原著(Kroenke et al. 2001)で提唱された基準であり、日本の脳卒中診療でも広く準用されている。ただしMCID(臨床的最小変化量)は脳卒中患者集団に特化した確立値が乏しく、経時的な傾向観察と併せて解釈する必要がある。
「感じる→気づく→言葉にする」を、段階的に訓練する。
島の介入は、後部島での一次感覚処理から前部島での意識化・言語化という情報処理の流れを訓練することが軸になります。以下は臨床でそのまま使える4ステップです。

各身体部位に順に注意を向けるボディスキャン、心拍・呼吸の変化への気づきを促す呼吸観察を週3〜5回実施。温冷刺激を併用し「外部感覚→内部変化→言語化」の流れを繰り返す。
表情カード・動画フィードバックを用いた感情の同定と言語化。ST連携でコミュニケーション方略を再構築し、PHQ-9で定期的にモニタリングする。
NRS・表情スケール・痛みマッピングを毎回組み合わせて記録し、選択肢形式(「ズキズキ」「押される感じ」等)から性質の言語化を段階的に促す。
短文から段階的に長さを延ばす階層的練習、速さより正確さを優先する原則を徹底。メロディーイントネーション療法が有効なケースもあり、家族への心理教育も併せて行う。
[観察研究]: Lazar SW, et al. NeuroReport. 2005;16(17):1893-1897. 長期瞑想実践者(平均9.1年・週6時間)で前頭皮質・島皮質の構造的肥厚を確認。島の肥厚は内受容感覚の鋭敏さと相関した。
[専門家合意]: 脳卒中後の島機能回復へのマインドフルネス介入を検証したRCTは限られており、現時点では低リスクな補完的アプローチとして位置づける。効果を過大に説明しないことが新人臨床家には重要。

感情・感覚・言語にまたがる症状は、ご本人もご家族も原因がわからず不安を抱えがちです。STROKE LABでは神経科学の知見をもとに、症状の背景を丁寧に説明しながらプログラムを設計します。
多職種連携と環境調整 ― 島は一職種では対応できない。
なぜチームで見る必要があるのか
島は感情・感覚・言語・嚥下・自律神経にまたがるハブです。PTが感覚と痛みを、STが言語と嚥下を、OTが日常生活動作への影響を、それぞれ別々に見ていると全体像が見えません。定期カンファレンスでの情報統合が不可欠です。
「痛みの訴えがないから問題ない、ではなく、表情・回避行動・筋緊張の変化から積極的に痛みを評価してください。」
「感情が薄い患者さんを、性格の問題だと決めつけないこと。それは前部島の機能低下かもしれません。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 感覚障害・痛み・内受容感覚 | ボディスキャン・温冷刺激・痛みマッピング | 痛み評価をST・看護師と共有 |
| OT | 感情変化のADLへの影響・社会的認知 | 感情認識訓練・段階的な課題調整 | 意欲低下をPSDの可能性として共有 |
| ST | 発語失行・嚥下(口腔期〜咽頭期) | 階層的構音訓練・嚥下訓練 | 誤嚥リスクを看護師・医師に即時共有 |
| 看護師 | 日常の気分変動・食事摂取状況 | 水分・食事摂取の行動キュー設定 | 24時間の変化をカンファで報告 |
| 医師 | 画像所見(DWI/FLAIR)・PSDの診断 | 薬物療法の要否判断・精神科紹介 | PHQ-9等の結果を定期的に提示 |
| MSW | 家族の理解度・退院後の生活環境 | 家族への心理教育・社会資源調整 | 「見えにくい障害」を家族に代弁して説明 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
島の障害は「見えにくい」がゆえに、新人臨床家が判断を誤りやすいポイントが集中しています。以下の3つは特に頻度が高いつまずきです。

臨床判断のコツ:症状を「島の言葉」に翻訳する
「性格の問題」「やる気がない」に見える所見も、いったん島の機能から説明できないか考える癖をつけてください。
評価結果は必ずカンファレンスで多職種と共有すること。1人で抱え込むと、見えにくい障害はさらに見えなくなります。
予後とゴール設定 ― 見えにくい障害こそ、目標を言語化する。
島の障害は運動麻痺に比べて回復の可視化が難しく、患者・家族もセラピストも目標を見失いがちです。石川さんの症例では、4週間で「痛い」の一言だった訴えが「左肩が押されるような重さで3点くらい」という具体的な言語化へと変化しました。
感情の平坦化・痛みの言語化困難は、多くの場合すぐには消失しません。まず「感じたことを言葉にできる」段階を短期目標とし、その後の生活場面での活用を中期目標に設定すると、患者・家族にも進捗が伝わりやすくなります。脳卒中後抑うつの合併率は約31%(Liu et al. 2023, SR/MA)であり、目標設定と並行して定期的な気分モニタリングを組み込むことが望まれます。
よくある質問。
左島(特に前部)は発語失行・失語・嚥下障害と関連し、右島(特に前部)は感情の平坦化・内受容感覚の低下・痛み表現の困難と関連します。後部島は左右とも対側半身の感覚障害・痛みの感情的側面の変容に関与します。多くはNIHSSに反映されにくいため、専門的な評価尺度での補完が必要です。
発語失行は発話の運動プログラミングの障害で、努力感・音の置換・長文での悪化が特徴です。左島前部の関与が示唆されています。構音障害は発話器官の筋力低下・協調障害による不明瞭さで、一貫して持続します。NIHSSの構音障害項目では区別されないため、言語聴覚士による評価が必要です。
島前〜中部は嚥下の口腔期〜咽頭期の皮質統合に関与し、障害されると嚥下反射の遅延や誤嚥リスクの増大が生じ得ます。食道期は主に迷走神経を介した自律神経支配であり、島の直接関与は限定的とされています。大規模MCA梗塞では嚥下ネットワーク全体の障害として捉えることが重要です。
前部島の障害による感情処理の失調、顕著性ネットワークの機能不全によるDMN過活動、内受容感覚低下による身体症状の過大解釈などが、PSDの病態生理に関与すると考えられています。PSDは脳卒中患者の約31%に生じるとされます(Liu et al. 2023, SR/MA)。
長期瞑想実践者で島皮質が構造的に肥厚するという報告があります(Lazar et al. 2005)。脳卒中後の島機能回復への効果を示すRCTは限られていますが、内受容感覚の訓練として低リスクで試みる価値のある補完的アプローチと位置づけられます。
感情面はPHQ-9やGHQ、言語面はWABや発話速度評価、嚥下面はMASAや嚥下造影、痛みはNRSと表情スケール・痛みマッピングの併用など、症状領域ごとに専門評価尺度を組み合わせて多職種で評価することが推奨されます。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中専門の自費リハビリ施設として、神経科学の知見をもとに感情・感覚・言語・認知にまたがる「見えにくい症状」にも専門的に対応しています。画一的なプログラムではなく、お一人おひとりの評価結果に基づいてプログラムを設計します。
— STROKE LABでのリハビリテーションの様子
「感情表出が乏しい利用者さんを担当したとき、最初は『会話が続かない』とだけ記録していました。しかしPHQ-9を実施すると10点台で、表情も一貫して乏しいことに気づき、島の機能低下を疑ってAffect Labelingを導入しました。8週間で表情カードを使った言語化ができるようになり、ご家族との会話も増えたと報告を受けました。この経験から、記録の『会話が続かない』という表現の裏にある機序を必ず考えるようになりました。」— 理学療法士・臨床経験6年目・脳卒中リハビリ専門
「発語失行の利用者さんに、最初は構音障害と同じ方法で速さを重視した訓練を行い、かえって発話が崩れてしまいました。Dronkersの知見を学び直し、ゆっくり・丁寧・階層的な練習に切り替えたところ、2週間で短文の正確な発話ができるようになりました。鑑別を誤ると介入方針そのものが逆効果になることを痛感した経験です。」— 言語聴覚士・臨床経験4年目・失語症/AOS専門
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諦めないでください。

脳卒中の後遺症というと、麻痺や歩行の問題がまず思い浮かびます。しかし実際には、感情がうまく表せない、痛みをどう伝えたらいいかわからない、言葉が思うように出てこないといった、目に見えにくい悩みを抱える方が数多くいらっしゃいます。
こうした症状は、周囲から理解されにくく、ご本人もご家族も「なぜこうなるのか」がわからないまま不安を抱え続けてしまいがちです。私たちはそこに脳の仕組みという言葉で光を当てたいと考えています。
STROKE LABでは、こうした見えにくい症状にも正面から向き合い、根拠に基づいた評価とプログラムで、ご本人らしい生活を取り戻すお手伝いをしています。どうか一人で抱え込まず、まずはお話をお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)